いやー、書き上げられて良かったです。え。急展開? 気のせいですよきっとー。
それでは、どうぞ。
「つまり士道には、この辺に、透明な球体が見えてるってことね?」
「あ、ああ」
琴里が咥えていたチュッパチャップスで、モニターの中心あたりを指す。
ランニングが終わった後、朝食の準備をしている途中で、突然琴里に呼び出された俺ら。丁度一緒にいた真那もいる。
聞いたところによると、朝士道が目を覚ましてカーテンを開けると、昨日までなかった巨大な球体が空に浮かんでいたんだと。
んで、どうやらそれは士道にしか見えないみたいで、俺や琴里、真那には見えないんだよなあ。
しかし、嘘を吐いているようにも思えないし。
という訳で、そろそろ俺が呼ばれた理由も察しがつくぞ。
「……七海」
「言われなくても分かってるよ。だが、モニター越し、観測機越しじゃ流石に直接は見えねえよ」
「でも、」
「そう結論を急かすな。『直接は』って言っただろうが」
え、という疑問の声を置いて、俺は視界に映った情報を伝える。
「確かに、士道の言う球体は見えないが、ここからでも分かることはある」
「義兄様、何が見えているのでやがりますか?」
「観測機が観測したデータは視れた」
ふむ、確かに、
「士道の言ってることは嘘じゃない。―――――誰か、モニターの映像を、霊力の観測結果に変えてください」
俺が言った数秒後、モニターの映像が変わった。
すると、そこには、
「……っ!? 霊力反応がある、ですって……!?」
俺はそれに、無言を返す。もとより、返答を望んだ訳でもないだろう。
士道の言う球体とやらは直接視えなかったが、代わりに、観測機が観測した情報を視ることは出来た。
ふむ、俺の視界に、こんな弱点があったとは。
物体越しに何かの情報を視る事は出来ても、媒体越しの何かの情報を視る事は出来ないのか。
となると、カメラとかに写った写真や映像でも、視れる情報は限られるのかな。
いや、今はそれより。
「令音さん、この霊力反応って」
「……ん、君の視た通りさ」
令音さんは、琴里に視線を向け、
「琴里、これを見たまえ」
何か手元の機器を操作する。
すると、モニターに映った球体の霊力反応が、七つに分かれた。
「? 令音、これは?」
「どうやら、この球体は、皆の霊力によって出来ているらしい」
「皆の霊力……?」
士道が疑問の声を上げる。
そうだな、俺からも説明を入れておくか。
「ああ、皆、より詳しく言うなら、耶倶矢、夕弦、美九、狂三、十香、四糸乃、琴里の七人分の霊力が、それぞれ微弱ながらも観測されている。ふむ、耶倶矢と夕弦とで別の霊力反応を示すのか」
てっきり、同一のものかと思ったが。
一度明確にすると、確かにこれで丁度七人分だもんな。
しかし、姉妹で別々だとするなら……。
「令音さん、この現象の理由って、精霊としての力がどうのこうのとかいうやつじゃなくて、もしかして」
「ああ。おそらく、彼女達自身、例えば、感情等が関係してるのかもしれない」
やはりか。
薄々そんなところじゃないかとは思っていたが、的中したな。
「……義兄様、つまり、どういうことで?」
「んー、分かりやすく言うなら、精霊達皆の何かしらの感情が集まった、ってことか。いや、これじゃ分かりやすくというより、まとめると、って感じだな。しかも、あくまで仮定だし」
ぽけーとした表情の真那を見て、やはり説明不足だったかな、と思い直す。
しかし、思えばこれ以外に分かっていることも無いしなあ。
仮に、感情が集まるとして、精霊達が同一に持ち得る感情ってことになるよな、集まっているってことは。
むむむむむ……、
「……もしかして、〈嫉妬〉?」
「へ?」
「え?」
「……ふむ」
俺がぽろりと零した一言に、琴里、士道、令音さんが反応した。
遅れて、他のクルー達も、ああ、と反応を示す。
「え、あ、いや、あくまでも、もしかして、だぞ?」
「いや、案外、的を射ているかもしれない」
あれ、まさか令音さんからの賛同?
「おそらく、シンやナナへの嫉妬心や、もしくは独占欲といったものが起因して、霊力が溢れ、それが一箇所に集まった……といったところだろう」
「え、嫉妬……、独占欲……?」
「……しかも、俺も入ってるのかよ」
嫉妬、嫉妬ねえ。独占欲……、心当たりは無いんだけどな。
ここは一つ、当事者でもある琴里に話を聞いてみるか。
「なあ琴里、お前に心当たりはあるのか?」
っと、俺が何か訊く前に士道が質問しちゃったか。
いや、別に訊くのは誰だって関係無いだろうし、別にいいか。それよりも、俺は答えを聞きたい。
「……士道」
「? どうした?」
素で返す士道に、琴里が、
「少し、黙ってなさい」
「え、いや、答え……って、痛い! え、何で蹴られてんの俺っ!? 痛いって!」
「ふん! ふん、ふん!」
お、おお、司令官はご立腹のようで……。神無月さんが羨ましそうに士道を見てる……。
しかし、何で琴里はいきなり怒り出したんだ?
不思議に思い、令音さんに訊いてみると、
「……ナナも、このことは訊かない方がいい」
令音さんにまで言われた。何故だ。
程なくして、一通り蹴って満足したらしき琴里が、席に戻ってきた。士道は足とか脛とか摩って痛そうだった。
「しかし、独占欲か……。一見そうには見えないんだけどなあ」
「確かに、表面上はそうだろうし、彼女達自身も意識はしていないのだろう」
俺はそれを聞いて、琴里に視線を移した。
「……何よ?」
「いえ、ナンデモアリマセン……」
こ、怖っ。
視線で人を殺せるレベルだな、多分。言いすぎかな。
ともかく、
「つまり、無意識下のそれらの感情が、今回の原因ってことなのか」
「ああ、だろうね」
「そ。それじゃあ話は早いわ」
お、司令官復活?
「嫉妬や独占欲が今回の原因っていうのなら、それを取り除くまで。方法は、いつものと私達と変わらないわ」
即ち、
「デートして、デレさせなさい!」
令音はごく自然を装って、一度部屋を出た。
そして、一人呟く。
「―――――〈システム・ケルブ〉、か……」
その日の夜。
五河家のリビングに、俺と令音さん、真那を含む計十人が集まった。
「ということで、近い内に皆には一人ずつデートしてもらうわ」
何が、ということで、なんだよ。
あれか。ツッコんではいけない系のやつだな? オーケー俺は何もツッコまない。
「おお! デェトか? デェトが出来るのだな!?」
「ええ、そうよ」
目を爛々と輝かせる十香。嬉しそうだなあ。
「皆にはくじを引いてもらって、くじには番号が振ってあるから、その番号順にデートしてもらうわ。ただ、この場にいる全員分を一緒にしてあるから、引いた後に、士道側と七海側に分かれてちょうだい」
「質問。夕弦と耶倶矢は、どうすればいいのでしょう?」
夕弦が手を上げて質問する。
俺にはイマイチ質問の意図は分からなかったが、琴里や令音さんには伝わったらしい。
「ん、今回は一人ずつにしてみてはどうだい? 丁度、くじも七人分ある」
「確認。どうしますか、耶倶矢」
「くく、これもまた一興だろうて。よいのではないか?」
おお、八舞姉妹を一人ずつに出来たんだ。
まあ確かに、二人同時にデートしたとして、どちらかに一切の嫉妬を抱かせないっていうのは、流石に非現実的だったからなあ。
こっちとしては、不謹慎だが、素直に助かった、って思うべきなのかな。
「それでは、一人ずつ引きたまえ」
令音さんが、くじ箱を差し出す。
「私はこれだ!」
「我はこれだ!」
直後に、十香と耶倶矢が真っ先に引く。
「それじゃあ、私はこれでー」
「わたくしも引きますわね」
次いで、美九と狂三。
「あ、あの、私……も」
「行動。残り物には福があると言いますし」
「それじゃ、最後のが私のね」
そして、四糸乃、夕弦、琴里が引いた。
結果、
「く、くく、くふふはは! 見よ! やはり我こそが始原の一を取るのに相応しい!」
「んー、二番ですねー」
「さ、三番、です……」
「確認。四番でした」
「ふふ、五番目ですわ」
「あら、私が六番なのね」
「むう……七番、最後か」
順に、耶倶矢、美九、四糸乃、夕弦、狂三、琴里、十香の順に決定した。
で、これをさらに俺と士道とで分けるんだっけ。
……んんー、何か、色々と間違ってる気がしてならん。
その間にも、話はどんどん進むし、固められていく。
「じゃあ皆、それぞれでデートプランを立てて、今回の順番通りにデートするわよ。最初は、士道が四糸乃と。七海が耶倶矢とね」
「かか、お主らも不幸よのう、我の後になるとは」
「憮然。どういう意味ですか」
「無論、我が考える究極にして至高にして完璧のデートプランの後では、七海とて、面白く感じまいて」
「あらあら、そんなに自信があるようですけれど、強がっているだけではありませんでして?」
「そうですねぇ。耶倶矢さんて、強がりなところがありますし」
「首肯。確かに、その通りですね」
「くっ、言わせておけば……!」
仲の良いことで。
「む? 今回は私達ででぇとぷらんとやらを考えるのか?」
「……一応聞いておくけど、意味分かってるの?」
「勿論!」
「ほ、ならいいわ……」
「全くだ!」
あ、こけた。
「十香さん、デートプランというのは、つまりですね……」
『要はー、士道くんとしたいことを考えれば良いと思うよー?』
「ふむ、シドーとしたいこと、か……」
ナイスアシスト、四糸乃。
……あれ? 話は進んでも、内容を話したのって、琴里の最初の言葉だけ?
いやまあ、雑談も大事だけどね?
「なあ、琴里。今回インカムは……」
「んー、外しといて良いんじゃない? 別に士道の好きにしても良いけど」
「そうだな……いや、止めておくよ」
「あら、どうして?」
「インカムとか無しで、純粋にお前らが考えるデートをしてみたいからな」
「……そ」
あら格好良いこと言ってる。琴里も微笑んでる。兄妹良い感じ?
しかし、デートプランは向こうが考える、ねえ。
実際これは、フラクシナス内で、どうすればより嫉妬等の感情を解消できるか、を話し合った結果だ。
曰く、当の彼女達が好きなことをすれば、解消できるのではないか、とのこと。
確かに、一理あるということで、こういう形になったんだな。
「さて、最初のデートは二日後からよ。一応、七海と士道とで一日ずつ日をずらすから」
つまり、俺のデートと士道のデートの日は交互になるってことか。
ま、これといった不都合がある訳じゃないし、良いんじゃねえのかな。
夜になって少し冷えたのか、軽く寒さを覚える腕を摩って、俺はそんな風に考えた。
さて、次回からデート回ッ!
といっても、七海とヒロイン精霊とのデートだけで、士道サイドのデートは書きません。
もし見たいという方がいらっしゃれば、映画を見るか、DVDやブルーレイを待ちましょう。
最後の方、耶倶矢の「究極にして~」の部分は、順番を覚えていませんでしたので、判明しだい直します。
それでは、次回も読んでいただけることを願いつつ、ここらで終わりとさせていただきます。
多少の差異には目を瞑ってください。お願いします。