デート・ア・ライブ  ~転生者の物語~   作:息吹

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 連日投稿!

 よし、何とか連日投稿出来ました。休日中に、あと2、3話ぐらいは更新したいところです。

 今回で、狂三編本編は終わりです。あとはエピローグだけです。
 本来ならもう少し長く書きたかったんですが、他に書くことあるかなーと読み返してみても、大体回収されていました。残念。

 それではどうぞ。


第60話

 気がつけばそこは、見慣れた街並みだった。

 いや、街というより、場所、と特定した方が正しいか。

 そこは俺が、体感時間でいう今日過去に飛ばされた、名も知らない公園だった。時間帯は過去と同じ、深夜のようだ。あまりに明かりに乏しい。

「……現代に戻ってきたのか」

 確認のために呟く。

 再度、今度は注意深く、辺りを見渡す。

 俺は過去において行動した。

 となると可能性として、某アニメ風に言うならば、世界線(もしくは世界軸)が変わっているかもしれないと思ったからだ。

 一応、すぐに霊装は消しておいたが、気は張っておこう。

「ふふ、お帰りなさいませ、七海さん」

 その声は、唐突だった。

 俺の真後ろから掛けられた声は、大分嬉しそうで、ああもう、気張った俺が馬鹿みたいじゃねえか。

「……ああ、ただいま、だな。狂三」

 俺はそう、返した。

 

 聞くところに依ると、世界の改変は行われてないらしい。

 何で狂三にそんなことが分かるのかと思ったが、原作でもそうだったし、狂三だからで納得しよう。

 そこでまあ、俺なりに仮説を立ててみたんだが。

 原作における士道の行動は、『過去改変』を目的とした時間遡行だった。

 今ある現在を、起こりうる未来を変える為に、過去に遡ってその原因を取り除く、あるいは少なくともそうならないようにする、ってことだな。

 対して俺の場合は、過去を改変することを目的としていない。言うならば、『過去履行』とか『過去準拠』あたりか?

 要は、今ある現在を、起こりうる未来を、今回は『変えないようにする』ってのが行動目的だった訳だ。

 だから逆に、過去に飛ばなかったら現在が変わっていたのかもな。

 俺がその仮説を説明して、確認すると、

「……まあ、よろしいではありませんの」

 と流された。

 むう、人が折角真面目に考えてみたのに。

 別に良いけどさ。

「それで、こんな時間になってでも俺を出迎えてくれるってことは、何か用でもあるのか?」

「あら、あまり急かされるのは好く思われませんわよ?」

「……へいへい」

 くすくすと笑う狂三からは、愉しげな色しか見受けられない。

 くしゃ、と頭を掻きつつ、急かすのは良くないとのことで、俺は狂三の言葉を待つことにした。

「あらあら、女性と一緒にいながら会話をしないのも、どうかと思いますけれど」

「じゃあ用件を言ってくれないか!?」

 俺の反応が間違っていたのか。そうなのか。

 だーもう、何でこうメンドーなんだろうなあ。

「まあまあ、もう夜も大分更けてまいりましたし、そうですわねぇ……」

 狂三は人差し指を顎に当てて考える素振りを見せた後、ある一点を指差して口を開いた。

「あそこの高台で、少しの間、星を観ませんこと?」

 

 案の定というかやはりというか(意味は同じ)、星なんて見えなかった。

 昔に比べて、街は明かりに溢れている。

 確かに今のこの時間帯、生活の明かりは無いが、街灯に車にと、眼下に広がる街に意外と光源は多い。

「過去でもそうだったが、現代はもっと星が見えないな」

「ええ、過去の美化を差し引いても、今見える景色は昔に劣りますわ」

 じゃあ何で来たのか。

 いやまあ、わざわざ訊かないけどね。それなりの意味はあったんだろ。

「……少しでも、あの時と同じような場所にいたかった、とかな」

「あら、気付かれていましたの?」

「勘だよ、勘」

 別に気付いてなんかない。ただ、俺ならそんな理由で来そうだなーとか思っていただけだ。

 丁度俺らがあの時、最後に見たのも、こんな場所の似たような景色だったからな。

 しばらく、無言が流れる。

 なあ狂三、話したくても、その内容が見つからない時、言いにくい時、それでも無理矢理にでも会話を挟むべきか?

 俺は、そうは思わないんだ。

「……あの紙、見ましたわ」

「え?」

「あれ、七海さんが残しておいてくれたものですわよね?」

 紙……ああ、あれか。

 俺が影から出て行くときに残しておいた、あれ。

「ああ、だろうな。じゃないと、俺は過去に飛ばされない可能性もあったし、さらに言えば、お前と再会出来なかっただろうからな」

 あの紙片には、こう書かれていた。

『東京にある、天宮市という場所にいてくれ。そこで俺らは再会出来る。そしてその年の八月二十日、俺をこの時間軸に飛ばしてくれ』

 端的に、それだけ書いておいた。正確には、それも込みで創ったので、書いてはないのだが。

「ねえ七海さん、少し、お願いを聞いてくださいな」

「あ? 何だ」

 俺が訊き返すと、返ってきたのは、暖かな感触だった。

 抱きつかれたのだ。

 うぉ、これは、あれだ、色々ヤバい。結構大きな狂三のアレとかな? 頼むから代名詞で察して。

「修学旅行の時の分、ここで使わせていただきますわね」

「修学旅行の時……?」

「あら、言ったではありませんの。今はこれだけで我慢する、と」

 あーそう言えばそんなことを言われた記憶があるようなー無いようなー。

 というか、俺の覚えてる覚えてないに関わらず、お前は離れる気は無いように思うんだが、どうだろう?

 ……とりあえず、抱き返して返答としよう。

 そんな中、狂三が再度、俺に声をかけた。

 いや、かけたというより、その台詞を聞かせたというべきか。

「わたくしだって、寂しかったんですのよ?」

「……どうして?」

「確かに、あとどれだけ残れるのかは分かりませんでしたわ。でも、それでも、何も言わずにいなくなられてしまうことが、どんなに寂しかったか、七海さんはお分かりになりますの?」

 それは、俺が過去の狂三と分かれてから、また会うまでに溜め込んできた想いの言葉だった。

「取り残された気がして。置いてかれた気がして。でも、もう何処にもいなくて。唯一の手掛かりである天宮市に来てみても、すぐ会うことは叶わなくて」

「狂三……」

「十年」

 その独白の中、唐突に狂三はある年数を言った。

 その年数が何を指すのか、この会話の中で当てはまるものが一つしかないから、すぐに分かった。

「厳密には違いますが、約十年待ち侘びましたわ、この時を。だからせめて」

 せめて、

「今夜だけでも、今だけでも、わたくしの想いを受け止めてくださいまし。いつも他の精霊さん達に向けるものよりも深く、強く、わたくしのそれに応えてくださいな」

 潤んだ、上目遣いの目。より強く抱きしめてくる体。

 本来なら、分かりやすく言うなら男なら、今の狂三の台詞に応えてあげるべきなんだろう。

 だけど、俺は。

「―――――悪い、狂三。俺には、それに応じる資格が無い」

「っ!」

 それを、断るんだ。

 狂三の、不安と疑問とが綯い交ぜになった、なんとも形容しがたい眼差しが、俺の顔を見上げる。

 俺はその視線から目を逸らしながら、少しずつ、抱擁の腕を解く。

「どうして、ですの……?」

 今の狂三は言うならば、ずっと片思いだった相手に振られた感覚なんだろう。

 流石の俺でも、それぐらいなら分かる。

 そして俺は、断る説明をする。

「俺はな、狂三。手を間違えてしまったんだよ。その所為で、お前はさらに悪と呼ばれるようになった。真那も、その命を削られる羽目になった。その所為で、お前はさらに狙われるようになった。つまり、お前をさらに危険な目に遭わせてしまったんだ。だから、俺にその資格は無い。すまないが―――――」

「それはもしかして、ASTの方々との戦闘の時の会話を言っていますの?」

 ……あれ。

「お前、何で知って―――――!?」

「だって、わたくし、起きていましたもの」

 …………。

「マジで?」

「マジですわ」

 目を瞬かせる俺に、さっきとは打って変わってくすくすと笑う狂三。俺の台詞に合わせた単語選びがツボに嵌ったようで。

「でも、あれ、それじゃ、全部聞かれていた? というか、俺が出て行く時は寝ていた筈じゃ……」

「たとえ寝ていても、自分の身に大きな違和感があれば、起きてしまうものではありませんでして?」

「―――――っ」

 そうか、そうだ。俺もあの時この可能性も考えていたじゃねえか。

 あの影は、言わば狂三本人のようなものだ、という可能性をな。

 寝ている時にいきなり枕を取られれば意外と起きてしまうように、その身に大きな違和感が生じれば、やはり目は覚めてしまうものだ。

 つまり、俺が影から抜け出た時に、狂三は目を覚ましていたということか。

「いやでも、それこそ何でだ?」

「?」

 俺の疑問を分かっていない様子の狂三。小首を傾げてくる。

「お前が俺とASTの会話を聞いていたというのなら、全ての元凶は俺にあったことをお前は理解出来た筈だ。なのに何で、分かっていて何で、俺をそこまで想い続けることが出来るんだ? それこそ、約十年もの間」

 一つの真実が明かされることで、さらなる疑問が生じる。

 しかもその疑問は、超難解な心の疑問と来た。もう俺にはお手上げだ。

「ええと、正直に言ってしまいますと」

 混乱する俺の疑問に、狂三はこんな返答をしてきた。

 それこそ、こっちが拍子抜けしてしまうような、だ。

「―――――それが何か?、といったところでございますわね」

「……え」

「だってそうでございましょう? 七海さんが何かを言われたから危険度が増した? 狙われやすくなった? 危険だったのも、狙われていたのも、そんなことは常でございますもの。今更何を言おうと、あの時の現状とは何も変わりませんでしたわ」

 それは、俺にとってあまりにも優しすぎる。

 俺には原因は無い。というよりも、そもそも原因となりうる結果がもとより無いと言う。

 だから、俺が引け目に感じる必要は無いということなんだ。

 狂三はそのまま、ですから、と続けた。

「ほら、七海さんは一体何を悔いていらっしゃいますの?」

 俺は、答えられない。

 美九の時にもあった、行動の否定を俺はまたされているのだ。

「どうして七海さんがそんなに自分を追い込みたがるかは分かりかねますが」

 狂三はまた、俺に身を寄せながら、言葉を続けた。

「今はただ、女性にここまで言わせたんですもの。ちゃんと応えてあげるのが、男性としての礼儀ではありませんでして?」

「……そう、だな」

 ほら、もういいじゃねえか、俺。

 全てを呑み込め。そして諦めろ。

 俺が護ろうとしている奴らは全員。

 ―――――俺が思っているほど、弱い奴らじゃない、ってさ。

 その、護るってのは、見方を変えれば、対象を弱者として上から目線に語っているのと同じなんだって、もう気付いているんだろう?

 自分の思考は否定された。行動は拒否された。

 全部が全部、自分が悪い訳じゃないってことだ。そう追い込まなくてもいいだろ。もっと気楽にいこうぜ?

 まあ無理だけどさ。この思考回路はもう、手遅れなまでに行き着いているかもしれねえけどさ。

 せめて、今だけでも。

 目の前の少女の想いに、少しでも応えてあげろよ。

「ああ、そうだな。俺は俺として、お前の想いに応える」

「それでは、もう一度だけ言って差し上げますわ。今度は、ちゃんと応えてくださいましね?」

「ああ」

 狂三は、頷く俺を見て、しばしの間を空けた後に、

 

「七海さん――――――――――大好き」

 

 そして、急に顔が接近してきて。

 

 

 気付けば目の前に、目を閉じた狂三の顔と、鼻腔をくすぐる甘い匂い。

 そして、やわらかな感触。

 




 シチュ的に流れ的に、美九編と被っている気が……。

 狂三が現在時間軸でようやくデレてくれました。
 途中の「今夜だけでも~」のあたりの台詞は、ちょっと重いかなぁ、とは思っているんですが。どうなんでしょう。

 最後、七海が自分の思考回路を見つめ直すくだりがありましたが、実際は今後もあまり変わりません。
 三つ子の魂百までも、ですね。(別に三才までに備わった思考回路ではありませんが)

 あとは、狂三が何で琴里達に、七海を過去に送った理由を話さなかったか、を次話で回収して、矛盾や謎は全部明かされる筈です。
 他にもあったら言ってください。

 それでは、次回も読んでいただけることを願いつつ、ここらで終わりとさせていただきます。

 エピローグ投稿時、前回出てきた、ssでよくやるアレというアンケートを実施します。

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