デート・ア・ライブ  ~転生者の物語~   作:息吹

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 お久しぶりです皆様。
 
 またしても2週間近く開けてしまい、申し訳ありません。

 狂三編もそろそろ後半戦、といったところでしょうか。
 美九編は異常に長くなったのに、狂三編は10話で終わりそうな危うい予感。
 もう一回ぐらい戦闘回入れます。辻褄合わせとか色々ありますので。

 原作の新刊を買いました。内容については割愛させていただきますが。
 この作品においては、十二巻以降に判明した設定等は、七海は知らないということで進めていきます。
 なので、まだまだ先ですが、十二月以降は七海も知らないことになります。
 
 それではどうぞ。


第57話

 見下ろす街には光が灯り、見上げる空の星の光は届かない、そんなありふれた夜。

 街で一番高い場所、外れの高台に、俺と狂三の姿はあった。

 あれから、色んな所を見て回って、最終的に辿り着いた場所に。

「楽しかったですわね、七海さん」

「お前がそう思ってくれるなら、俺も楽しかったって言えるよ」

 落下牽制用の柵に寄り掛かりながら俺は、狂三にそう返す。

 ずっと組んだままの腕に釣られて、狂三も、俺の隣で柵に寄り掛かった。

 空を見る俺と、俯く狂三の間に、無音が流れる。

「……ねえ、七海さん」

 そんな静寂を打ち破ったのは、狂三の方からだった。

 見上げていた頭を狂三の方に向ける。

「何だ?」

「……本当に、良ろしかったんですの?」

「? 何がだ?」

 素直に疑問を覚えて、俺は首を傾げた。

「本当に、わたくしを救うなんて、思っていますの?」

 夜の静けさに感化されたのか、狂三は遂に、吐き出すように自分の思いを口にする。

 それはきっと、さっきまでずっと抱えていたであろう不安の言葉なんだろう。

「わたくしはどうしても、他人を殺さないと生きていけない存在なんですのよ? 辛うじて霊力で補っていた分も、直に限界が来ますわ。そうなると残るのは、誰かの時間を奪っていくしかない、最悪な存在だけ。ふふ、これでは、害なす存在だと言われても否定できませんわね。そんな風に殺して、奪って、喰らって、空虚な感情だけになっていって、それすらもぼろぼろになってしまって。それに目を瞑って、逸らして、見えない振りをした先には、同じような悪循環しかなくて。それでもやはり、死にたくはないから、繰り返すしかなくて。そう成り果ててしまうわたくしを、本当に救いたいと思いますの? そう壊れてしまうしかないわたくしを、本当に救えますの?

 

 ――――――あなたは本当に、望みますの?」

 

「当たり前だ」

 何かを考えることすらせずに、ただ即答する。

 そうしなくちゃいけないと思ったから。悩む必要も、迷う必要も無かったから。

 狂三の、不安そうに揺れる瞳を見返しながら、俺は返答する。

「まずもって、お前は間違ってるぞ」

「間違っている……?」

「ああ、間違ってる」

 先の台詞の、最後の三つの質問を思い返す。

 救いたいと思うか、本当に救えるか、俺がそれを望むのか。

 この全部に共通して言えることがあるんだ。

「お前は、自分が壊れてしまうからということで質問してきてたよな?」

「だって、わたくしにはもう、その道しか……っ!」

「逆だ」

 え? と聞き返す狂三の顔には、先の不安はどこへやら、意味がわからない、としか書かれてない。

 あれだな。俺もいつぞやの美九から自虐願望でもあるのか、と言われたことがあったが、今目の前にいる少女は、それと同じぐらい自分を傷つけようとするな。

 離れていた手を掴んで引き寄せて、至近距離で、俺は狂三を弁護する。

「逆なんだよ、狂三」

 いいか?

「その道しか残されていないのに救うのか、救えるのか、望むのか、じゃない。その道を選ばせないために、救うんだ。やってみせるんだ。望んでいるんだ」

 全部、逆。

 前提条件が間違っていたということだ。

「……なら、どうやってわたくしを救うんですの? そんな方法が、存在しますの?」

「……一応、考えはある」

 ただしこれは、成功するかも分からない、俺にとってあまりにも危険な賭けになっているだろう。

 いや、もとより、何があっても俺は救うと決めたんだから、俺への危険はこの際どうでもいい。

 となるとやはり、懸念すべきはそれを狂三がやってくれるかどうか、か。

「狂三」

「はい」

「……俺の時間を、喰ってくれ」

 

 自分の時間を喰わせる。それが俺の出した答えだった。

「な……っ。今、何を言っているか分かってますの!? 大体、わたくしは、誰かの時間を奪うなんてことはしたくないんですのよっ!?」

「分かってるッ!」

「なら……」

「だが、これしか方法が見つからねえんだよ!」

 時間というのは、消費されれば戻らず、そのくせ常に失い続けるものだ。

 勿論、狂三の〈刻々帝〉とかの例外はあるが、それでも、時間を使えばその分補充しないといけなかった。

 その点ではやはり、時間の流れは一方的だと言える。

 じゃあ狂三が言っていた、誰かの時間を奪わずに済む方法はあるか。

 ―――――答えはノーだ。

 じゃあどうするか。

「俺には、ある能力がある」

「? 確かに、七海さんは精霊ですもの。何かしらの能力はあって当然ですわ」

「違う。俺は精霊じゃない」

 眉を顰める狂三からやや距離を取って、俺は自分の説明を始める。

「俺は単に、精霊の力を擬似的に扱えるだけ。厳密には精霊じゃない」

「では、能力がある、とは?」

「俺は、生物以外の何でも創り出すことが出来る。それを使えば恐らく、時間すらも、創り出せる」

 いまいち理解していなかった様子の狂三の顔も、最後の言葉を聞いて、驚愕に染まっていく。

 先の質問の答え。方法は無いのにどうするか。

 要は、常識的に考えて皆無なら、その裏道を、例外を頼るしかないのだ。

 時間に関しては、〈刻々帝〉のような例外があった。

 なら、視点を変えよう。観点を変えよう。

 誰かの時間を奪う――――つまり、誰かの時間が()()()という風に見れば。

 そこには、『俺』という、『情報の有無を改変する能力』という例外が、存在する。

 試したことは無いが、多分、時間(もしくは寿命)という情報も、創れるのかもしれない。

「俺の能力があれば、お前を救えるんだ! 確かに、俺から時間を『奪う』ということをさせてしまう。だが、俺が許可している以上、それは『奪う』ではなく、俺からの『譲渡』だ。お前が気に病む必要はない!」

 言葉遊びだ。

 言い方を変えただけで、やっていることは何も変わらない。

 それでも、そんな建前を与えでもしないと、狂三は絶対に、引き下がってしまう。

「俺の時間を喰え、狂三」

 狂三の顔を真っ直ぐ見返しながら、俺は強く言う。

 狂三はやはり迷いや拒否感があるのか、何かを言おうとしては口を開き、そして何も言わずに黙り込んでしまうという工程を数度繰り返した後、

「……分かり、ましたわ」

 絞り出すように、そう口にした。

「……ごめん、狂三」

 俺はそう、返すことしか、出来なかった。

 

「最初に確認しておく」

「はい」

 先の場所から少し離れた、灯りがあまり届かない箇所に、俺らは移動した。

 もうこんな場所に来る奴はいないと思うが、今から精霊としての力を使う以上、一応、人目が付かなさそうな所を選んでおいた結果だ。

 そこで俺らは、今からの行為にあたっての確認をする。

「初めのうちは、俺の能力の確認の為に、微量ずつしか喰わなくていい。その後に俺が時間を創り戻せたら、一気に量を増やす」

「大体どの程度を目安にすればいいんですの?」

「八、九割方喰っていい」

 俺の言葉を聞いて、狂三は目を丸くする。

 今の台詞には、下手すれば一瞬で時間を喰い尽くされてしまう可能性があることを考慮したようなものには思えなかったのだろう。

 俺はそれを無視して、確認を続ける。

「慣れれば、そこからさらに霊力も加えるつもりさから、受け取ってくれ」

「霊力もですの?」

「ああ。俺は確かに精霊ではないが、霊力は無尽蔵に創り出せる。そっちの方が効率もいいだろう」

 狂三はまだ何か言いたそうな素振りを見せたが、特に何も言わないまま、そうですの、と引き下がった。

 何を言いたかったんだろうな?

「渡す時間は、普通の人間に換算して、約三万人分」

「三万人!?」

 素っ頓狂な声を上げる狂三。無理もない。

 まだ一度も他人を殺したことのない狂三からしたら、確かに万といのは文字通り桁の違う数値なんだろう。

 だが、俺はこれでも足りるか心配している。

「ああ。少なくとも、約一日過去に飛ばせることが出来る時間の、その三倍は欲しいところだからな。実際、これでも足りないかもしれないと思ってる」

 原作では、一万人以上喰い尽くしたと言われる狂三でさえ、折紙や士道を五年前に飛ばすには、本人たちの霊力で補う必要があるほど、【十二の弾】というのは消費が激しい。

 さらに言えば、今俺がいる時間軸が、現代からどれだけ前かも分かっていないから、さらに多く見積もる必要はあるだろう。

「大丈夫。俺の能力が時間という情報すら創りだせるなら、失った時間は実質ゼロだ」

「そういう問題ですの……?」

 さあな、という答えを肩をすくめるだけで返し、俺は、さて、と切り出す。

 確認作業は終わった。後は始めるだけ。

「さあ狂三――――俺の時間を喰ってくれ」

 狂三は数瞬の後に一つ頷くと、こちらに一歩踏み出した。

 そして、とん、とん、とん、と俺の周りを、踊るようなステップで一周する。

 またしても目前に戻ってきた狂三は、その名前を口にする。

「―――――〈時喰みの城〉」

 直後、俺の身に、一瞬の倦怠感のようなものが襲う。

 夜の黒すら呑み込むような影が、俺の下に蟠っていた。

「……ん」

 小さく呻き、俺は無理をせず、その場に座り込むことにした。

 声をかけようとする狂三を手で制し、俺は集中する。

 目は閉じても『眼』を開いて、俺自身を視る。

 俺という情報から、今なお失われ続けているもの。それを探し出せばいい。簡単なことだ。

 だから、すぐに見つけた。

 俺の、時間。

「――――――――」

 無言で、最初の俺の状態と、今を見比べる。

 時間を喰われる前の俺から、失った分の時間という情報を創りだせばいいのだから、手っ取り早い方法としては視比べること。

 そして、俺は。

「……オーケー。創りだせる。今から一気にいくぞ。二秒毎に九割喰え」

「え、ええ。分かりましたわ」

 端的に告げてしまった要求と事実だが、今はそれに構う暇もない。

 何も言わなければ狂三は、言われた通りに時間を喰って、四秒後には俺の時間が尽きる。

 そうならないように、二秒という短い間に、失われた九割の時間を補充する。

 二秒掛ける三万、六万秒。一千分。約一六時間と少し。

 それに霊力の分を引いて、なるべく早く終わらせる。目標一時間。

 俺は目を瞑ったまま、無言で手を伸ばす。

 狂三はその意図を察してくれたのか、少しして、握られる感触と情報が頭の中に入ってきた。

「……霊力を譲渡する。受け取れ」

 それだけ言って俺は、失われる時間に加え、俺の精霊としての霊力を創りだした。

 手を通して狂三の身に移っていき、その身に宿る霊力に合わせていく。

「な、これは……」

 狂三の、驚きという感情が込められた、声という情報が視界を通過する。

「―――――っ」

 とっとと。危ない。危うく時間の補充が止まるところだった。

 狂三の霊力に俺の霊力を合わせるというのが、これまた意外と難しい。下手すれば消してしまいそうで。

 感覚としては、狂三の精霊としての器のようなものに、俺の霊力を当てはめていくようなものだと思ってもらえればいい。

 例えるなら、完成したパズルの外側から、大きさも形も全く違うピースを無理矢理合わせているのに、何故か絵として完成している、といったところか?

 狂三の方でも、どうにかして俺の霊力を蓄えようとしているのが視てとれるので、なんとか危うい綱を渡りきれているってところか。

 もとより〈刻々帝〉には、他人の霊力を使用することも出来たのだから、本人も多少は可能なんだろう。

 しかし、こんなことなら、狂三の霊力を視せてもらっとけばよかったなあと思うが、後の祭り。流石に、今の状況から霊力の視認なんて出来ないし。

 現代に戻ったら視せてもらおうと心で決めつつ、俺は何とか二つの創造を作業化していく。

 そうして安定して創りだせるようになった頃、俺は狂三に声をかけた。

「……狂三」

「…………あ、はいっ、何でございますの?」

 余程集中していたのか、数秒後のやってきた返答。

 これは悪いことをしたかと思いつつ、どうせ声をかけたんだし、と割り切る。

「ごめんな」

「? 何を謝ってますの?」

「こんな方法しか、取れなくて」

 狂三は、絶句した。

「もしかすると、他の方法があったのかもしれない。狂三が、そこまで覚悟するほどではない最善の解決策があったのかもしれない」

 だけど、

「俺には、こんな方法しかとれなくて。お前に、負担を掛けてしまって。救うと謳っておきながら、お前の助力がなければ不可能で。だから、」

 だから、

「――――ごめん」

 時間を創り、霊力を創りながら、俺はそう口にした。

 それはただの、どうしようもない罪悪感からくる自己弁護でしかなかったけど、それでも、言わざるをえなかった。言う必要があった。

 このまま、はい万々歳。不幸なんかない大団円、では終われなかった。

 それは、逃げというものだ。

 だから、どうしても、これは言わなければならないと思ったんだ。

「ふふ、何かと思えば、そんなことでしたの」

「そんなこと、って」

「わたくしは、今の方法で十分過ぎる程ですわ」

 すると狂三は、俺の腕を引くようにして、こちらに身を寄せてきた。

 昼間の腕組みよりもさらに近い、抱いた状態。

 俺の耳元で狂三は、優しく言い聞かせるように言葉を発する。

「最初から道なんてなかったものを、七海さんが創り出してくれた活路ですもの。他の方法なんて最初から無かったのに、七海さんは何と比べていらっしゃいますの? 助力がなければ、だなんて、わたくしだって、ただ施されるだけの救済なんて嫌ですわ。だから、そう自分を追い込まないでくださいな」

「……もうすぐ終わる。もう少しで、人間三万人相当の時間と霊力をお前に渡したことになる」

 俺は照れ隠しにそんな訳ない嘘を言って、狂三の身を剥がしにかかる。

「……狂三?」

 そこで俺は、思わぬ狂三の抵抗に首を傾げた。

 どこを持てばいいか分からないから、取りあえず肩を掴んで引き剥がそうとしたんだが、力を入れた瞬間、狂三の腕にも力が篭った。

 やろうと思えば引き剥がせそうだが、強引に剥がそうとするとその分力んでしまうので、軽く押して抵抗されてを繰り返す。

「何で離れてくれないの?」

「わたくしがもう少しこのままでいたいからですわ」

「……そうかい」

 そう言われて俺は、腕を狂三の背中に回した。

 狂三は少し驚いたように小さくビクリ、としたが、すぐに、

「……ふふ」

 と、腕の力を強くした。




 七海による霊力の譲渡は、そういうことも出来るということでお願いします。

 すみません、無理矢理なご都合主義と適当設定で。
 こんなことも出来るんだぜー、程度で流してやってください。

 それでは、次回も読んでいただけることを願いつつ、ここらで終わりとさせていただきます。

 ……狂三編終わったら、何編だろう? 

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