テストがようやく終わり、高校のテスト舐めてたぜ、って絶望したところで、本日投稿いたします。
前回出てきた鳶一さんですが、要はネタ程度のキャラです。口調はてきとーなので、もし原作で出た場合、書き直します。
あと、明確な敵として出演してくださるので、主人公の怒りの琴線にバンバン接触してきます。怒った主人公は怖い。
それでは、どうぞ。
七海を抱えた狂三がやってきたのは、自分がよく隠れ家として使う廃ビルの一つだった。
街からは大分遠く、近々取り壊されることも決定しているここならば、人目に付くことはほぼ無いと踏んだのだ。
そんな廃ビルの廊下に、蛇のような赤黒い痕が続いていた。
「とりあえず、は……ここで、どうにかしないといけませんわね……」
心臓を自ら刺した七海は、既に意識が無いので、力の抜けた体はひどく重い。一応軽く床の埃を払ってから、その身を寝かせつける。
しかし、心臓を刺した割りには、未だ呼吸をしているのは何故だろうか?
「今は、どうでもいいですわ……。生きているのなら、まだ手はありますもの……!」
そう、理由はどうあれ、生きているのには変わりないのだ。
ならば、自分に出来ることだってある。
「お出でなさい、〈刻々帝〉!」
そして、狂三の天使が顕現した。
勿論、またASTに見つかる危険はあったが、彼女らが来る前に終わらせることが出来るだろう。
そう思い狂三は、長針となっている歩兵銃の銃口を七海の傷口へ向けた。
「――――【
この時狂三は、自分が思っているより焦っていた。いつ、七海がその息を止めるのか、と。
だから、気付けなかった。
引き金を引いた狂三が感じたのは、違和だった。
「……?……【四の弾】」
再度、引き金を引く。
だが、結果は、かちりという引き金の音がしただけ。
――――銃弾が、発射されない。
「ッ!?【四の弾】、【四の弾】、【四の弾】!」
かちり、かちり、かちり、と。
ただ、空虚なまでの音が響くだけだ。
そこで狂三は気付く。
「霊力も、時間も……足りない?」
目の前が、真っ暗になったようだった。
自分の時間を限界まで使って、霊力が無くなるまで使っても、足りない。
ここにきて、今までの行いが、仇となった。
「そん、な…………」
性懲りも無く撃とうとするも、勿論弾が出るはずもなく。
ただ無為に、時間が過ぎていく。七海から、血が流れ出していく。
「まあ、方法はあるんだけどねー」
「っ!?」
突如として聞こえた声に、狂三はびくっとなる。
「あはは、幼いねー、この頃のきょうぞうちゃんは」
「あなた、は……?」
声の発生源に目を向ければ、いつからいたのか、一人の少女がそこにいた。青っぽい髪とバランスのとれた体つきの少女である。
楓だ。
「どうせ忘れさせるから気にしなくてもいいけど。まあ、〈パンドラ〉とでも呼んでね」
「〈パンドラ〉……」
「今はボクより、七海くんの方を気にするべきだね」
その言葉に、暗鬱な気持ちになる。
「今までやってきたことが、いや、やらなかったことが、全部仇となってしまったね」
その台詞は、さらに狂三の心を揺さぶる。
「でも、方法はある」
「! それは、一体なんですの!?」
「喰い尽くしなよ」
あっさりと言われたその言葉は、狂三の動きを止めるには、十分過ぎるほどの効果があった。
その理由に気付いていながら、楓は口を閉じない。
「七海くんは今、その能力のお蔭でなんとか生き永らえている。心臓を刺された時の死因って、要は出血多量なんだよ? だから、血さえ無くならなければ、まだ生きることは可能なんだよね」
「何を、言って……」
「でもこのままじゃ、いつそれが止まるか分からない。止まる前に、その傷を塞いであげる必要がある。七海くんは今、そこまで手が回らないみたいだし。なら、どうすればいいか」
それは、
「――――君が、誰かの時間を喰い尽くしてくるんだ」
「君は今まで、誰一人として殺したことが無いみたいだけどね、今はそうも言ってられないよね。だって、こんな緊急事態なんだから」
楓は、その口角を上げながら、滔々と語っていく。
「事故や事件で今にも死にそうな人から少しずつ吸っていった時間は、その殆どを、保険の為の分身体に使っちゃっているみたいだし、なら新しく補充するしかない」
狂三に話す機会を与えないまま、楓は言葉を続ける。
「霊力も、度重なるASTとの戦闘等で尽きかけているようだし、手は他に無いよね」
ボクはそう思うけど、どうするんだい―――――と。
楓はここで、ようやく狂三に話す機会を与えた。
「……どうして、そんなことを知っていますの?」
「ボクだもん」
「……他に、手は無いんですの?」
「ボクはそう思うけどね」
「…………制限時間は?」
「よくて……十五分かな」
そして、狂三は考える。
今まで怖くてやってこなかった『食事』を、行うべきか否か。
簡単だ。
「―――――勿論、是ですわ……!」
そう決意し、一歩踏み出そうとする狂三。
「ん? あれあれきょうぞうちゃん、どこに行こうとしているんだい?」
を、楓が止めた。
自分の足元にまで流れてきた血を見て、狂三は焦りを覚えながら、楓の方に向き直る。
「どこって、人のいる場所にですけれど」
「あー、そんな必要は無いよ?」
「……え?」
いや、だからさ、と言う楓。
「自分の分身体を食べればいいんじゃないのかな?」
「自分の、分身体を……?」
狂三は疑問を覚えつつ、その意味を理解しようとする。
その途中で、向こうから答えがきた。
「出来ると思うけどなあ。一体一体の時間や霊力量は少なくても、君が保持している分身体全員を食べれば、七海くんの傷を治し、さらにその後ASTと戦うだけの余力は残ると思うよ」
考えもしなかった方法だった。
だが、最善手だと思う程度には、それは優しかった。
だって、それは、
「わたくしが、自殺をし尽くせ、ということですわね?」
「残酷な解釈をするねえ。まあ、あながち間違ってないけどね」
他人を殺したという事実よりも、自分を殺したという方が、まだ気が楽だ。
殺すことには変わりないのに、気が楽、と思っている時点で、自分は大分狂っていると狂三は自分を再認識する。
「さあ、時間がかかればかかるほど、七海くんの傷を治すのに必要な時間は増えてしまう。急ぎたまえ、きょうぞうちゃん」
そろそろ、その渾名に異議を申し立ててもいいと思う。
二一六人。
それが、狂三が『喰い尽くした』分身体の総数だ。
一人一人は、生きられる時間は半刻とも満たない者ばかりだったが、これだけ食べれば、そこそこの時間を補充できる。
「〈刻々帝〉――――【四の弾】」
改めて、時間を巻き戻す弾を撃つ。
その弾が七海の胸の傷に当たると同時に、流れ出ていた血が逆再生のように体に戻っていき、最終的には、
「う、あ……ぐ……」
「っ!」
その違和感に、苦悶の声を小さく上げた七海。その身を起こす。
それを見た狂三は、思わず、抱きついてしまった。
「おう!? あ、え、狂三!?」
「七海さん、七海さん、七海さん……っ」
何がなんだか分からない七海だったが、取りあえずその声が濡れていたのを理解したので、間近の頭を撫でる。
「あれ、俺は確か、ASTと戦っていた筈じゃ……。そこで、自分を刺させて、えっと、それから……」
落ち着くまで放置することに決めたのか、狂三をそのままにして、七海は今までの経緯を思い出そうとする。
しかし如何せん、丁度そのあたりから意識が途切れていた為、それ以上思い出すことが出来ない。
狂三なら知っているだろうかと思ったが、
「ぅ……、ぅ…………、ぐす……」
小さく嗚咽を漏らし始めたのが聞こえたので、七海は狂三に話を聞くのを諦めた。
* * *
「え、思い出せない?」
「はい……。何故か、ここ数分の出来事を、全く思い出せないんですの。七海さんの傷を治す直前はあるのですけれど」
あれから数分後。
やっと落ち着いた狂三を俺から離し、向かい合う形で情報を共有していく。
しかし、どういうことだ?
まずもって、ほんの数分前の出来事を、思い出せない筈がない。
かと言って、狂三が嘘を吐いているようには見えねえしなあ。
有り得るとしたら、楓の可能性だが、今楓は出てこねえし。
「じゃあ、それならそれで、俺をどうやって助けたんだ? 自分からやっといてアレだが、気になってな」
確実に【四の弾】を使ったんだろうが、その割には、随分と時間が経っているみたいだしな。
「わたくしの能力ですわ」
「〈刻々帝〉、【四の弾】だろ?」
俺がその能力の名前まで当てたのを聞いて、狂三は驚きの表情を作る。
しかし、それもすぐに引っ込め、肯きを返してきた。
「ええ、その通りですわ。よくご存知でしたわね」
「まあな」
敢えてその理由は言わない俺だが。
「じゃあ、その割には、どうしてこんなに時間が経ってるんだ? 俺の傷が治ってというか、戻しても、俺自身の時間が戻った訳じゃないだろうし」
いや、言うほど経っている訳でもないけども。精々、十分単位だろ。
だがまあ、それだけでも、疑問に思う程度には長い時間だけど。
「……いえ、単に気を失われていらしただけですわ」
……こいつ。
「お前、嘘吐くの下手だなあ……」
「な……っ!」
「目線を逸らす、若干の発汗、体を小さく揺する。全部、嘘を吐いたときの反応だぞ?」
おー、ちょっと前に暇で調べた内容覚えてて良かった。今こうして役に立った。
ま、三日後ぐらいには忘れてそうだけどな。
「言ってくれ。何があった?」
「えーと……」
俺が真正面から見詰めると、さらに体を揺すったり、あからさまに目を逸らしたり、暑いのか、顔を赤くしたりしながらも、狂三は話し始めてくれた。
「【四の弾】を使う為に、時間を補充していましたわ」
「時間を補充……?……おい、それって」
まさか、一般人を……!?
「あ、いえ、七海さんが思われているようなことではありませんわ。ただ、言うなれば……自殺を繰り返したというだけですわね」
「自殺……」
自分を、殺し続けたってことか?
……えーと。
「つまり、分身体の時間を奪っていったってことか?」
「……どうして、こういうことには無駄に察しが良いんですの」
「え、どういうことだ?」
「何でもありませんわ」
な、何故か拗ねてしまったんだが。何だどうした何があった。
というか、拗ねられたら、話が進まなくなっちゃうんだけどな。
「えと、取り敢えず、俺の仮説は正しいんだよな?」
「ええ、合っていますわ」
「……何人だ?」
「二一六。わたくしが持っていた分身体の全てですわ。勿論、余力を含めた分も貰いましたけれど」
二一六……少ないのか多いのか分からないな。
いや、殺した数としてはあまりにも多い人数なんだけど、それが全部、自分自身となると……うーん。
「……失礼を承知で訊くぞ」
「何ですの?」
「お前は今まで、今日自分自身を殺すまで、何人殺したんだ?」
これは、あまりにも酷い質問だろう。自分が殺した回数を教えて、なんて。
ただ、どうしても気になるのも確かなわけで。
「0人ですわ」
「そうか、悪い。忘れて……え?ゼロ?」
「はい」
答えてくれないと思って、狂三の台詞を聞いた瞬間謝罪の言葉を口にしたんだが、まさか答えてくれるとは。
しかも、ゼロだとは。
「となると、お前は、自分を二一六回殺しただけ……?」
「ふふ、そろそろこの話題も止めにいたしませんこと?」
「お、おう。そうだな」
笑顔が怖いよー、狂三さん。
おほん、とわざとらしい咳払いをして、話題の転換を試みる。
「えー、それじゃあ、これからどうする?」
「あの機械を背負った方々をどうにかしないといけないと思いますわよ」
「それなら大丈夫だろ」
え?、という疑問の声を聞きつつ、俺は自分の推測を展開する。
「ほら、あいつらが来る直前、放送があっただろ?」
「ああ、臨時避難訓練とか何とかおっしゃっていましたわね」
「だからだよ」
そう言ってもまだ納得していないらしく、曖昧に狂三は頷いてくる。
はは、と苦笑いをかえして、その補足説明を俺はすることにした。
「考えてみろよ。『臨時』避難訓練だって言ったのに、そう日も経たずにもう一回出来る筈がないだろ? 短くても、三日から五日の余裕はあると思うぞ。勿論、他の手段を取ってくる可能性もあるけど」
「ああ、成程」
ぽむ、と軽く握った手を手のひらを上に向けたもう片方の手に打つ仕草をとる狂三。
なんというか、どことなくあざといな。うん。気のせいかな。
ともかく。
「とまあそういう訳で、絶賛暇になっちまったんだが」
俺は立ち上がり、ガラスの砕かれた窓から、遠く地上を見下ろす。
どうやらそこそこに高いところにあるらしく、そろそろ気温が最も高くなる時間帯だからからか、それとも避難訓練終了が終わったばかりだからか、外にいる人影は少ないのが見て取れる。
しかし、ここ付近はさらに人が少ないのか、一人も見つけれないな。
「何か見えますの?」
「いや、特に」
隣に並んできた狂三に適当な返答をしつつ、さて、と考える。
今、何やっておくべきか……。
「……なあ、狂三」
「はい?」
「デートしようぜ」
「……はいっ!?」
素っ頓狂な声を上げる狂三の手を取って、俺は窓から身を投げ出した。
「え、き、きゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!?」
「差し当たってはまず、スリル満点のスカイダイビングと行こうじゃねえか!」
楓は出しやすい。
安定の神様ちゃんの何でもあり感。何でもありすぎて、出番を規制しないといけないレベル。
楓の台詞にもありましたが、過去の狂三は、どことなく幼さをイメージしています。
なので、現在の時間軸の狂三と比べると、反応にかわいらしさが残ります。(最後の悲鳴とか)
次回はデート回。可愛く書けたらなと思います!
それでは、次回も読んでいただけることを願いつつ、ここらで終わりとさせていただきます。
あ、前回の後書きについては、時折更新される場合があります。この話投稿後とか。