デート・ア・ライブ  ~転生者の物語~   作:息吹

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 もうすぐテストです。

 というか、既に三日切っているのにここで書いている自分って……。勉強しなさい。
 高校入って初の定期考査なんですが、こんなに余裕かましてていいんでしょうか?

 書く内容も尽きかけているので、今回でストーリーは一気に進みます。
 
 それでは、どうぞ。


第54話

 結局のところ。

 平穏なんてのは虚構で、平和というのはただの瞞しに過ぎない。

 狂三の中にあるのは、そんな思いだけだった。

 望まぬ生誕を、顕現を、罪とされ、悪とされる。

 不確かな時間を生きれば、秩序と正義の名の下に憎悪を向けられる。

 ―――――だから、今回も。

 

 猫カフェを出て、また当てもなくぶらぶらとしていた俺らを襲ったのは、街の至る所にあるスピーカーからの声だった。

『臨時避難訓練を始めます。市民の皆様は、お近くの避難場所、およびシェルターに退避して下さい。繰り返します。臨時避難訓練を始めます――――』

「おう? 何だ?」

 臨時避難訓練だって? しかも、市民全体……。

 というか、一応シェルターはあるのな。

 いや、避難場所なる所も提示されている以上、普及している訳ではないのだろうし、緊急措置、みたいな感じなのか?

 ともかく。

「あー、面倒だな……どうする? 俺らも行くべきか?」

 一応人の流れに乗った方が良いのかと、狂三に話しかける。

 しかし、返ってきたのは、悲しげな微笑だった。

「いえ、七海さんだけでも行ってくださいまし。わたくしは、やるべき事がありますので」

「ふーん……そうか」

 やるべきこと、ねえ。

「まあ、お前が行かないなら、俺も残るか」

「え?」

「どうせ〈市民〉じゃねえし、何となく、嫌な感じがするし」

 何だろうな、この胸騒ぎ。

 避難すべき否、正しくは、この場から去らないとっていう思いはあっても、ここから動くなという直感もしているわけで。

 さらに、狂三の『やるべき事』ってのも気になる。

「い、いえ、七海さんは逃げてくださいまし。この場はわたくしだけで十分ですわ」

「……そんな言葉を聞いた後じゃ、余計動けないよなあ」

 疑問の色を浮かべる瞳を正面から見返して、俺は答えを口にする。

「お前は、『逃げて』と言ったな?……じゃあ、何からだ?」

「……あ」

「さらに、『この場は十分』とも言った……随分と穏やかじゃねえ言い方だな?」

「それは……」

 狂三は押し黙る。

 彼女自身、焦っていたり、動転していたりでもしていたのだろう。

 だから、俺みたいな奴に揚げ足を取られる。

 逃げて、この場は十分……それではまるで、敵が来るみたいじゃねえか。

「言え。何がある?」

「……すぐに、分かりますわ」

 今度は俺が疑問を浮かべると同時に、

「――――ッ!?」

 俺は咄嗟に、【無・零(アイン)】を発動させた。

 それは――――狂三の真後ろだった。

 それを感知出来たのは、単に偶然に過ぎない。

 今俺は『眼』を使ってないし、霊装や天使も顕現させてない。

 場所が良かった――――ただ、それだけ。

 もし俺が、狂三の正面ではなく、横にいたら、おそらく狂三にそれは当たっただろう。

「……そういうことか」

 俺が消したのは、銃弾。

 微かに見えた飛来物を、俺は消したんだ。

「少しばかり期待していたんだがな……。やっぱり、いるのか」

 日本において、何も言わず銃を向けてくるなんて、理由は一つだろう。

「――――AST……ッ!」

 続々と集まる人影に向かって、俺は静かに、その名を叫んだ。

 

「そこの一般人、すぐにソイツから離れなさい。保護するわ」

 俺に声を掛けたのは、真っ白な髪が特徴な一人の若い女性だった。

 ってか、

「あれ?……鳶一、折紙?」

 いや、それにしては大人だし……というか、時間軸が違うんじゃ?

「? 確かに私は鳶一だけど。……折紙という名前じゃない」

 あれ、違うのか。

 ……おーっと今閃いた。

 おそらく、こいつ、あれだ。折紙の叔母さん。

 そういえば、折紙がASTに入ったのって、叔母さんが理由だったっけ。元関係者だったとかいう。

 へー、叔母という割には、すっごい似てるなあ。口調以外。

「あー、まあ、違うなら違うんで良いけど」

 というか、妙にゴテゴテしてるな。装備満載というより、重量過多?

 ふむ、技術が発達していない。つまりはCR‐ユニットとかも、現代に比べて大きくなってるのかな。

 そこまで考えてから、俺は狂三に顔を向けた。

「お前が言っていたのは、このことか」

「……ええ、その通りですわ」

 狂三は、肯定を返してきた。

「オーケー。なら俺が相手をしてやる」

 ばっ、と俯いていた顔を向けてくる狂三を背にするように、俺は一歩前にでる。

 ついでに、今現在の狂三について知れたら良いけど。

「悪いが、保護されるつもりはねえよ」

「……どうして?」

「何されるか分かったもんじゃねえしなあ。とりあえずで連れてこられた場所で睡眠剤盛られて、寝ている間に記憶処理、なんてのも有り得る訳だし」

 俺がそう言うと、対峙している鳶一よりも、周りの隊員から動揺が感じ取れた。

 ふむ、感情を動かさないのも似ている、と。

 今はどうでもいいか。

「貴方、一体何者?」

「何でもいいだろ? とりあえず、お前らの敵となるだけの存在さ」

 肩を竦めて軽く笑う。

 その笑みを挑戦的なものに変えて、睨む。

 俺の言葉で、一気に戦意を昂ぶらせる周りを前に、俺と鳶一の視線は交差した。

「……どうして、ソイツに加担するの?」

「じゃあ逆に、どうしてお前らはこいつと敵対するんだ?」

「ソイツはこの世界に害なす存在だから」

「こいつが何をやった?」

「空間震と我々が呼ぶ現象で、何千人もの負傷者だが出た。我々からも、戦闘中に大怪我を負った者も出た」

「前者は望まぬ被害、後者は正当防衛じゃねえのか?」

「前者については、そんな虚言の証拠が無い。後者については、絶対の悪に対して、正当も何も無い」

「……成程な」

 今ので、大体の狂三の扱いが分かった。

「――――ふざけるな……!」

 本当に、この世界に来たばっかりの頃を思い出す。

 あの時戦ったASTも、同じようなこと言ってたっけなあ。

「証拠が無いのはお前らも一緒。一方的に悪と決め付けておいて、どの口が正義だとほざくんだ?」

「言った筈。既に被害は出ている。悪と言わずして、ソレは一体何者?」

 ブチッ。

「……俺はこうも言った筈だ。望まぬ被害、正当防衛だと。こいつが悪でないのなら、ただの人間だろ」

「同じことを言わないで。妄言も吐かないで。ソイツが、人間ですって?」

 ブチブチッ。

「ああその通りだ」

「ふざけないでちょうだい。人間が、あんな力を持っている訳無いでしょう」

「なら、人のくせして空を飛んでみせるお前らは一体?」

「科学という武器を持った、人間よ」

「……そうか」

 やばい、そろそろ限界。

 あともう一押し何かあれば、俺は間違いなく怒るぞ。

「大体」

 あ?

「まずもって()()()()()()()ソイツに、人道を説くのが間違ってるんじゃないの?」

 直後。

 白の髪を持つ女性は、地に叩きつけられていた。

 ガンッ、という鈍い音が、辺りに響く。

 それは俺が、一瞬で距離を消して、攻撃を加えた結果。

 右腕だけを覆っていた霊装と、そして翼を全て顕現させて、位置の逆転した相手を見下ろす。

 そうか。狂三はこれまで、こんな風に敵意を、殺意を、向けられていたのか。

「……お前らは、踏んではいけない地雷を踏んだ」

「くっ……総員、戦闘態勢に!」

 地面から飛び上がった鳶一が、他のメンバーに指示を出す。

 俺はそれを意識の外で聞きながら、右目の眼帯を外した。

「俺は今、猛烈に怒っている。―――――死ぬなよ、人間」

 どこからか聞こえた、あーあ、という声を後に、俺は飛び出した。

 

 戦況は、あまりにも一方的だった。

 ASTの攻撃は全て当たらず、代わりに七海の攻撃は確実に相手を捉える。

 七海はその右手に、両剣型の天使を顕現させ、総勢二十名前後の相手を敵対していた。

 さらに、だ。

 何人かは狂三の方に攻撃を加えようとするが、その度に七海から妨害され、相手を余儀なくされる。

 狂三を守りながら、戦況を優位に進める。

 勿論、ASTの方が弱い訳じゃない。

 ちゃんと連携を取ってくるし、一人一人の質も高い。

 だが、七海には届かない。

 五人単位の隊で攻撃をするも、炎の壁に阻まれ、遠距離から狙撃するも、全て消され、逆に氷の矢が飛んでいく。

 防御体勢を取っても、構わず吹き飛ぶ。

 それだけ、七海は強い。

 目に見えて、AST側は焦燥し始める。

 が、そんな中、七海の表情は変わらなかった。

 強い怒りのあまり、表情が見受けられないのだ。

「【無限(アイン・ソフ)】!」

 またしても、幾条もの光が、AST隊員を貫く。

 これだけ一方的でも、不思議と、戦線離脱者はいなかった。

 それは、七海が先程から、急所以外を狙っているからだろう。

 怒りに染まっても、殺しはしない。

 しかし見方を変えれば、死なない程度の重症を負わせる、というものでもあったが。

「……う、――――な」

 そんな中、狂三は。

「――――もう、止めてくださいな!」

 その叫びで、七海の動きが止まった。

 その瞳に、感情の色が戻る。

「わたくしなんかの為に怒ってくださったのは嬉しいですわ。ですが、わたくしなんかの為に、その手を血で汚さないでくださいまし!」

 静かに地面に降り立った七海は、翼を消し、狂三の下に駆け寄る。

「……どうした?」

「ふふ、所詮、これはわたくしの日常。わたくしが消えるまで、この場を保たせればいいだけのお話。七海さんが出る必要なんてありませんわ」

「じゃあ、何故」

 何故、

「……泣きそうな顔で笑う?」

 言われて、咄嗟に顔を拭ってしまった。

「あ、はは……どうやらわたくしは、自分で思っていたより、七海さんのことが気に入っていたみたいですわね」

 だって、こんなに別れが辛いんですもの、と。

 狂三を一筋の涙と共に、言った。

「今日は楽しかったですわ。またお会いできたら――――」

「認めねえよ」

「……え?」

「これで終わりなんて認めねえ。俺はまだ、お前を助けてない」

「いえ、わたくしは、十分に、」

「言われたんだ」

 狂三の言葉に被せて、七海は口を開く。

「未来のお前に」

「未来の、わたくし……?」

「ああ。未来のお前は、俺に、こう言ったんだ」

 あの時、【十二の弾】を撃つ直前。

「『助けて』、って」

「――――――」

「俺はそれを請けた。なら、お前を救うまで、お別れなんてのは認めねえ」

 七海はそこで、しばし考える間を置き、

「要はお前は、自分が悪だからと、悪だからその敵意を受け入れようとしているんだな? 自分が傷つけてしまった人の償いに、と」

「それが、どうしたんですの?」

 簡単な話だ、と七海は言い残して、とある場所へと移動した。

 それは、全て突き落としたAST隊員の一人――――鳶一の下だった。

 天使、〈聖破毒蛇〉を地に突き刺し、その大きなCR‐ユニットを掴んで、倒れていたのを無理矢理起こす。

「おい、起きろ」

「……う、あ」

「武器を展開しろ」

 少しずつ覚醒状態にはなってきていたようだが、既にいつ致命傷を貰ってもおかしくない状況だというのにも気付いたのか、大人しく、やはりゴテゴテしたレーザーブレイドを展開した。

 七海はそれを持つ右腕を持って……

「――――がっ!」

 ぶすり、と。

 霊装を一部消し、その身に刃を突き刺した。

 それは、心臓。

 貫通し、背から生えたような刃が、血で濡れていく。

 人の肉を貫く感触に、鳶一も、一気に目が覚めた。

「っ! 貴方、一体何してるの!?」

 既に殆ど力の抜けた手を振り払い、急いで距離を取り、構える。

 七海はそれを見ても、天使を握ろうとはしなかった。

「これで、対等、の、はずだ……」

「は、ぁ……?」

「お前らが、狂三に、負わされたという、傷の……最高負傷率だ。……死者、とは言ってない、以上、死ぬ訳には、いかねえ、けどな……」

「貴方、まさか……」

 鳶一は、七海の真意を理解した。

 彼は即ち、狂三の分の悪を自分が請け負おうとしているのだ、と。

「代わりに、命じる……」

 弱弱しい口調でも、眼の鋭さはそのまま強く、

「――――撤退、しろ……!」

 そこでようやく、七海は傍の天使の柄を握った。

 それを見た鳶一は、狼狽を露にし、

「拒否する」

 しかし、否定した。

「ここで貴方を殺せるのなら上々。あとは後ろのソイツを敵とするだけ」

「ん、だと……?」

「策を誤ったわね、人間もどきの絶対悪。貴方はここで、死ぬわ」

 そして、展開させられていたレーザーブレイドを持ち直して、突撃する。

「くっ……!」

 何とか〈聖破毒蛇〉で防御するも、既に死に体、弾き飛ばされる。

 地面を転がり、更なる血を流していく。

 立ち上がる事すら出来ない七海に、鳶一は近付き、無言で、レーザーブレイドを掲げた。

「〈刻々帝〉――――【一の弾】!」

 それが七海の首を胴を分ける直前で、七海の姿が掻き消えた。

「……アイツ」

 続く血痕を見て鳶一はまず、周りの隊員を起こしに行った。

 一応、一時撤退すべきかと考えながら。




 七海の思考って、大分自虐的ですよね。

 最近マテリアルを読み直したので、それに感化され、ここで七海の設定確認をば。
 あれです、空間震規模だとか、霊力だとかいうやつです。
 それでは、

 名前   東雲(しののめ)七海(ななみ)
 識別名  〈ディザスター〉
 総合危険度 AAA
 空間震規模 (S)
 霊装    C→A(エレンとの初バトル後)
 天使    AA
 STR   195
 CON   110
 SPI   Error
 AGI   235
 INT   230
 霊装    神威霊装・統合(セフィロト)
 天使    聖破毒蛇(サマエル)

 能力解説・設定説明
『情報の有無を改変する能力』
 神様(楓)から借り受けた能力。七海の基本スキル。
 その物事の情報を理解さえしていれば、自由に消したり創ったり出来る。
 ただし、元々あるものを消すのには負担がかかる。

精霊としての能力。
 空間震規模、霊力が高いのは、上記の能力があるため。その能力により、ほぼ無尽蔵に創りだすことが出来る。
 敏捷性が高いのは、八舞姉妹と鬼ごっこ出来ていたことより。
 知力は、七海の基礎スペック。
 天使がAAなのは、形態変化がなにかと厄介そうだから。
 代わりに、一応人間であるため、耐久力は低め。

 霊力の性質
  十香と似ているが、効果は消失。今まで会ってきた精霊達の霊力も込められている。
  能力では、理解した物事を自由に創ったりできるが、霊力の場合、問答無用で全
 て消してしまう。

【無・零】
 霊力による防御的使い方。
 その範囲内において、ある程度の攻撃を無効化できるが、接近戦が常の七海の為、あまり使わない。

【無限】
 霊力による、攻撃的使い方。
 レーザーのように光を打ち出す。絶滅天使に似ている。

【???】
 まだ出てきていない。

〈神威霊装・統合〉
 ロングコートのような形の、七海の霊装。
 最初は防御力は低かったものの、エレンとのバトル後、琴里や令音達の協力のもと、創り直した。


 反転時
 識別名  〈???〉
 総合危険度 SSS
 空間震規模 (S)
 霊装    B
 天使    S
 STR   225
 CON   105
 SPI   Error
 AGI   Error
 INT   210
 霊装    ???(クリフォト)
 天使    死天悪竜(サマエル)

 殆ど精霊としてだけの能力しか使わない。
 作中においては、霊力の暴走による、擬似的反転現象、みたいな感じになっている。
 全体的に能力値は高くなっており、ただ、防御力がやや落ちた。
 空間震規模や霊力が高いのは先程の通りだが、天使や敏捷性まで高くなっている件についての説明を。
 天使は、単に威力が上がっただけ。
 敏捷性は、もとの能力により、擬似瞬間移動を主とした移動方法をとる為。

 通常時とほぼ見た目は変わらないものの、翼、肩辺りの装飾、左腕は目に見えて違う。

無形(ラ・トフ)
虚無(バーブラ)
 それぞれ、もとの使い方と同じ。霊力が反転しているだけ。

無極闇(カイゼーク)
 『幽幻を奏で、深淵へと誘う、闇であれ』
 十香の【最後の剣】(【終焉の剣】)とほぼ同じ。
 ただし、消失の性質を持つ霊力と、×型の斬り筋が特徴。

〈???(クリフォト)〉
 名前だけ決まっている。
 元の姿との差異は上記の通り。

 通常時と反転時で天使の名前が一緒なのは、サマエルは天使とも悪魔とも捉えられていたような覚えがあるため。
 反転時の技名は、それっぽく呼んでいるだけ。

 長くなってしまいました!

 それでは、次回も読んでいただけることを願いつつ、ここらで終わりとさせていただきます。

 主人公チートタグあるんだから、これぐらいの設定にしても良い筈!

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