登録してくださった皆さん、本当にありがとうございます!
ということで、狂三編第3話。中々話が進まない今日この頃。
どうにかして話を進めたいのに、書きたい内容はもっと後、しかも殆ど1、2話に詰め込めそうなので、それまで間をもたせないといけないという。
ど、どうにか頑張りますっ。
それでは、どうぞ。
とは言ったものの、これからどうすべきか。
気分だけで道を選びながら、俺達はまたしてもぶらぶらと歩き回っていた。
「今度はどちらに向かわれているんですの?」
「特に決めてない」
え゛、という絶句の声を聞きながら、苦笑いを返す。
「ほらさ、今から俺が何をすべきかが定まってないし、何より、この時間軸における俺の寝泊りする場所すら無い訳じゃん? だから、どうしようかなー、て」
何というか、この世界に来たばかりのことを思い出すな。シチュ的に。
やっぱ、宿泊施設を探すべきか?
「……七海さんがお泊りになられる場所なら、何とかなるかもしれませんわ」
「そうなの?」
どこだろう?
いや、普通に狂三が寝泊りしている場所か。
「わたくしの影の中ですわ」
……は?
いやいや待て。影の中だって?
「マジ?」
確かにお前の影の中は、ある種における別空間みたいになってた気がするけども。
「心配なさらずとも、取って食べたりはしませんわよ」
「いや、そういう心配は……してないと言えば嘘にはなるが」
言われて気付いたその可能性。
まあ、俺が何か言う前に狂三本人がそう言ったんだから、信じることにしよう。
あれだな。やっぱり俺は、大概甘いな。
「……その件については後で話すとして、ホント、これからのことだよなあ」
手っ取り早く事を進めたいのだけど、あまり焦っても仕方ないし。
というか、マジで現在の方の狂三から連絡が来ないと、あとどの位この時間軸にいられるのかが分からない。
「…………あ」
そんな風に話していた時、ふと見つけた看板。
急に立ち止まってそれを見上げた俺を、狂三は訝しげな目で見つめてきた。
「どうかなされましたの?」
「あー、いや……」
どうしたものか。
……ま、どうせだし、入って楽しむとするか。
「えと、ここに入ってみないか?」
そうして俺が指差す看板には、
「『キャッツ&カフェ』……? 何ですの、ここは?」
所謂、猫カフェ、って所だ。
カラン、という鈴のような音と共に、俺らは店内へと入った。
同時に、静かさと、微かな鳴き声を感じ取れるようになった。
案内に来た店の人に促されて、俺と狂三は二人がけのテーブルへと連れてこられた。
この店は、猫と触れ合えるスペースと飲食スペースを分けてはいないようで、他のお客さんを見るに、ただ猫と触れ合うだけも可能なようだ。
ソフトドリンクサービスもあったので、それを利用し、二人分のお茶を取り敢えず持ってくる。
「へー、初めてこういう店に入ったけど……良いもんだな」
早速足元にやってきた子猫(推定)を膝の上に移し、首元をうりうりと撫でてやる。
気持ち良さそうに目を細めるその姿は、何時しかの狂三を彷彿とさせる。
「……狂三?」
随分と狂三が静かなので、不思議に思って視線を移すと、
「じーーーーーーーーーー」
「うぉっ」
軽く引いた。
瞬き一つせず、俺の膝元の猫を凝視していたのだ。
いや、これはこれでおかしいか?
狂三なら、こういう動物達を見ると、真っ先に飛び付きそうなんだけど。あくまでも、俺の主観として。
「……撫でるか?」
背中から抱えるようにして、その子猫を狂三の方へ向けてみる。
「い、いいんですのっ?」
「お、おう……ここはそういう場所だし……」
何故か俺の了承を求めた狂三は、恐る恐る手を伸ばしていった。
しかし……、
――――――ぐるるる。
「「……え?」」
どちらかの腹の虫の音、では勿論無く。
それは、俺が抱いている子猫から発せられた声だった。
その声は紛れも無く、威嚇。敵対心を表す鳴き声だ。
「お、おぉ? 別に怖くないぞ?」
慌てて膝の上に戻しつつ、額の辺りを撫でてみる。
すると、さっきの声が嘘のように、先程と同じような表情になった。
それを確認して、ゆーっくり狂三の顔を見てみると……、
「…………(ずーん)」
お、落ち込んどる……!
どうしよう、余程ショックだったのか、物凄い落ち込んでるんだけど!
「あー、狂三?」
「……なんですの?」
暗いわっ!
なんて言える訳も無く。
「その、ちょっと待って」
俺はそう言うと、膝上の子猫を落とさないように気をつけながら、座席を動かした。
それは丁度、真正面にいた位置から、狂三のすぐ隣へ。
近付いたことで、またしても威嚇もどきをし始めた子猫を何とか宥めながら、俺は狂三に話しかける。
「ほら、これなら俺もいるし、触れるんじゃないか?」
「あ、ありがとうございますですわ……」
俺も一緒に撫でてるから、噛み付いたり引っ掻いたりするようなことは無いと思うが、大丈夫だよな?
というか、何でこの猫はそこまで警戒するのか。疑問だ。
そう思いつつ、狂三が伸ばしてきた手の行く末を見守ることにする。
触る直前で一瞬止まったが、恐る恐る触れると……、
「ふ、ぁぁぁぁ……っ」
恍惚、という表情をしながら、狂三は俺の膝の上の子猫を撫で始めた。
最初は警戒していたこの猫も、撫でられる内に緊張を解いていく。
「な、なんて可愛らしいんですの……っ。七海さん、本当はこの子猫、人形か何かではありませんの……?」
「本物だっつーの」
苦笑いしながら、その猫を狂三の膝に移す。
「ですわよね? 嗚呼、もふもふですわ。くりくりしていますわ。もう食べてしまいたい……」
「…………」
なんですかこのかわいーせーぶつは。
一心不乱と一生懸命の間みたいな感じで猫を撫でる狂三の姿は、大変可愛らしい。
あれだな。写真撮ろうかな。
「ふふ、ここが気持ちいんですのにゃ? こっちはどうですかにゃ? にゃーにゃー?」
……●REC。
夢中になりすぎて謎の猫言語を発し始めた狂三を、俺は取り出した携帯で録画し始める。
じー。
「―――――はっ!?」
あ、戻った。
「お帰り、狂三」
「ただいまですわ……ではなく! い、今、わたくし、どんな感じになってましたの!?」
『―――――どうですかにゃ? にゃーにゃー?』
俺は録画していた分の映像を、画面を狂三に見せるようにしながら流す。
それを見た狂三は、一気に顔を紅くして、
「消してくださいなっ! こんな痴態……一生の恥ですわ!」
「しーっ。店内ではお静かに」
俺の言葉に、はっ、となった狂三だが、すぐに気を取り直して、
「か、貸してくださいなっ」
「あ」
携帯を奪われてしまった。
油断していたら、思ったよりも俊敏な動きで、狂三は俺の手から携帯を引っ手繰ってしまった。
あーあ、という感想を思いつつ、俺は大声にすっかり萎縮してしまった猫を撫でる。
まあ、奪われたと言っても、既に保存済みだし、咄嗟に電源を切ったしということなので。
ちらりと、狂三を見やる。
「う、う~……」
俺の携帯と睨めっこしながら、狂三は何か唸っていた。
いや、電源位は付けられるだろ。
「な、七海さん……」
「何だ?」
「これ、どうやって扱うんですの……?」
肩透かしというか、ずるっ、っていう感覚というか。
微妙に涙目の狂三も珍しいなと思いつつ、ああそうかと、納得する自分もいることに俺は気付いた。
そうか。携帯と言っても、スマホが普及し始めたのはそれ程前では無いから、過去の狂三が使い方を知らないのも無理は無い……のか?
単に、スマホが普及し始めた後でも、狂三はそれを持っていなかったから、操作方法を知らないだけ?
――――ここからは、あくまでも推測だが。
恐らく、
となると、ASTがあの時やってこなかったのは、まだ精霊についての見解、及び精霊に対抗する為の技術がまだ発達していない、ってことなんだろう。
さらに、五年以上前ならば、琴里もまだ精霊になっていない時期だ。
そして、狂三についての、原作との相違点。
――――『殺した数は数百人、多くても四桁はいかねーです』
俺の時間感覚でいう数ヶ月前の、真那のそんな台詞が思い起こされる。
俺は、未だこちらを上目遣い気味に見上げる狂三を見返す。
……関係無い。
たとえ何年前だろうが、狂三がどんなことをやっていようが、俺のやることは変わらない。
ただ、救う。それだけ。
まずは、操作方法を教えてやるか。
「えーとだな、まず電源を付けるところからか……?」
ま、言われたとおり動画を消しても、予めバックアップは取るがな!
* * *
「〈ナイトメア〉ッ!!」
一度七海達の家のリビングにやってきた琴里達一行を迎えたのは、そんな真那の怒りの声だった。
「
「あらあらあら」
「少しは落ち着きなさい、真那」
狂三も胸倉を掴んで詰め寄る真那を止めたのは、琴里だった。
身長差の所為で、胸倉を掴むという寄りは、胸元を持つと言うべき体勢だった真那が、琴里の声で正気に戻る。
「琴里さん……ですが、こいつはっ」
「それを含めて今から話すわ。美九はいるの?」
「え、はい……そこのソファで優雅に紅茶を飲んでいやがりますが……」
確かに、見れば美九の姿があった。
やけに落ち着いているなとは思ったが、真那がいるにしては変に落ち着いていたので、やっぱりそんなことは無いかもしれない。
「耶倶矢さんと夕弦さんは、〈ナイトメア〉をどうも思わないんでやがりますか?」
琴里と狂三の後ろにいた二人に、真那は問いかける。
「ふ……そう短絡的になるでない、真那よ。今は狂三がどうよりも、七海についてその思いを馳せるべきではないか?」
「む……」
「静穏。七海は大丈夫そうなので、琴里の話を聞いて上げましょう」
本来ならば一番感情を爆発させそうな二人にこう言われては、真那も素直に引き下がる。
その一方では、琴里が美九に話しかけていた。
「今、大丈夫かしら? 美九」
「あ、琴里さん、こんにちはー。大丈夫って、何がですかー?」
「……随分と、落ち着いているのね」
感心したように、琴里はそう漏らした。
それを聞いた美九は、えへへー、と笑う。
「だって、だーりんのことですし、また誰かに、おそらく狂三さんに、その手を差し伸べにいったんですよね? でしたら、私が心配することなんて、何も無いじゃないですかー」
強い、と琴里は思った。
令音に頼んで、あの場にいなかった人達に軽い事情説明のメールをしておいてとは頼んでいたが、真那はやはり激昂したし、最初は、今は大人しい八舞姉妹も怒りを露にしたというのに、だ。
美九は、信頼からか、何の曇りも無く、心配無い、と言ってのける。
「これが、愛の力、ってやつなのかしらね」
「? 何か言いましたかー?」
何でもないわ、と返しつつ、柄にも無い思考を振り払う。
「さて、取り敢えずあなた達に、今回の事情説明を始めるわね――――」
琴里はソファに座りながら、あの場にいなかった二人を見ながら口を開いた。
狂三のこんな姿を書きたかっただけです。はい。
なので、直後の微妙なシリアス化は気にしないでください。
ほんの少しだけ(言葉通り)、真那と八舞姉妹を書けました。
……真那だけでも、過去に送り飛ばそうかな。
ほら、八舞姉妹や美九、士道の霊力を使って、どうにか一人分だけでも飛ばせるようになった、的な?
……これ、書くとしたらネタバレっぽくなってますよね。
それでは、次回も読んでいただけることを願いつつ、ここらで終わりとさせていただきます。
狂三編がどれだけ続くは、神のみぞ知るというやつです。