大丈夫ですかね。大丈夫でしょう、きっと。
サブタイになったということは、ほぼ識別名に使われることもないでしょうし。
……あれ、なんだろう、白い悪魔が見える……しかも微笑んでる……。
いまいちクライマックスまでは盛り上がらないこの章ですが、どうか生暖かく見守ってやってください。
それでは、どうぞ。
『それじゃあ、ボクはそろそろ消えるから、後は頑張りなよ」
あいよ。
じゃ~ね~、という聞きなれた言葉を残して、楓は俺の意識からいなくなったようだった。
ようだった、と言わなくちゃいけないのは、それを俺は確認出来ないからだ。
さて、狂三も近付いてきたことだし、そろそろ意識をそっちに向けるか。
「お初にお目にかかりますわ。わたくし、時崎狂三と申しますの」
優雅に一礼しながら、狂三はそう挨拶してきた。
確かに、この時間軸においては、初めまして、になるのか。
「あー、おう。初めまして、狂三。俺の名前は東雲七海だ」
そんな思考をしながら、危うく『久しぶり』と言おうとした口を閉じる。
しかし、狂三は不審な目で首を傾げた。
「……初対面の相手から、呼び捨てで呼ばれる筋合いは無いと思うのですけれど」
「あ、悪い。つい、慣れで……」
そうだそうだ。俺が『狂三』と呼ぶのは今から未来の話で、今現在は初対面なんだから、それはおかしいか。
あー、たった今初対面だって認識した筈なのに、何を俺はやってるんだろうな。
「慣れ……?」
……まだ凡ミスがあったようだ。
「気にしなくていい」
一応そう言っておくが、どうやら俺への不信感は消えないようで。
あー、と頭を掻きながら、これからどうすべきか考える。
とりあえず、俺がさっきの光条の犯人だって思われるべきか……?
「えーと、お前は、先の光条を見て此処に来たのか?」
「ええ、その通りですわ。ですが、無駄足だったようですわね」
む? どういうことだ?
「どうしてだ?」
「だって、霊力の残滓は感じ取れますのに、当の精霊さんがおりませんもの」
あ、光が霊力によるもの、っつーのは分かってるんだな。
そして、その跡はあるのに、本人がいない、と。
……いるんだけどなあ。
「えと、それ、俺だ」
「……はい?」
俺が自白すると、狂三は目を丸くしたり、二回ほど瞬きをしたり。
うん、可愛い。
ともかく。
「恐らく、俺から霊力が感じ取れないから、そう判断したんだろうが」
一度そこで区切って、
「――――なら、これでどうだ?」
言って俺は、霊装、『神威霊装・統合』を顕現させた。
ふむ、……空間震警報が鳴らない?
それはそれとして、これを見た狂三は、先程から一転、俺に興味を持ったようだった。
「……少し、よろしくて?」
問いかけた割には答えを聞かずに、狂三は俺の至近距離に移動した。
何だ何だ。
俺が軽く引きながら身構えていると、狂三はそれを気にした風でもなく、さらに近付く。
「……あら、確かに霊力を感じますわね……、それに、これは……わたくし?」
緊張に身を固まらせている俺を余所に、狂三は俺の体をペタペタ触ったり、霊装の裾を持ったりしながら、何事かを確認しているようだった。
「一つ、お伺いしたいのですけれど」
「お、おう。何だ?」
努めて平静を装って、狂三からの問いかけに反応する。
何だろう。今ので疑問に思ったことでもあったのかな?
「あなたから、わたくしと同じ霊力を、微量ながら感じましたわ。……どういうことですの? わたくし達は、初対面ですわよね?」
狂三と同じ霊力?
……もしかして、【十二の弾】の痕跡じゃねえのか?
「えー、お前は、自分が持つ天使の霊力について、把握しているか?」
「当然ですわ」
「なら話が早い」
まあ、もとよりそれを前提として訊いてんだけど。
「俺から感じ取ったっていうお前と同じ霊力は、間違いなくお前自身の物だ」
「ですが、わたくし達は……」
「ああ、初対面だ。ただし、」
少なくとも、
「
「……まさか」
お? 察しがついたみたいだな。ただ、表情を見るに、俄かには信じられない、ってところか。
ま、これだけヒントが出揃えば、余程鈍くない限り気づくだろ。
「その通り」
俺は、狂三の懐疑を肯定する。
「俺は、
詳しく話しを聞こうということで、場所を移動することにした。
そろそろ野次馬がやって来そうだったし、霊力を顕現させっぱなしってのも怖かったからな。
今俺らは、それぞれの私服に着替え(と言っても、俺は霊装を消し、狂三は霊力で普通の服になっただけ)、街を歩いていた。
山からは、俺が狂三を抱えて飛ぶように下山し、ものの数分で下りきったぜ。
「本当に、精霊さんでしたのね、あなた」
「だからそうだって言ってるだろうが」
それもそうでしたわね、という言葉を耳に入れながら、俺は都合の良い場所が無いか探す。
精霊としての話をするから、むしろ多少騒々しい位で、かつ休憩としても最適な所……。
……適当なファミレスか、最終的にはそこらの公園のベンチって所かな。
とまあ、そんな感じでぼちぼちやっていたので、数十分かけて、ようやく俺らの姿はファストフード店に落ち着いた。
あれだな。ここまでこういう店が似合わない奴もなかなかいないよな。今の狂三みたいに。
「……何ですの?」
「別に」
精霊とはいえやはり多少は暑かったのか、頼んだジュースを口にしていた狂三が、俺の視線に気付いてそれを止めた。
んー、今の所、信頼はしていないけど、取り敢えずは話ぐらい聞いておこう、みたいな感じかな。狂三の中での俺のポジション。
狂三が少し落ち着いた所で、俺は話しを切り出した。
「さて、俺に何か訊きたいことでもあるか?」
「……そうですわね……まず、一つ」
狂三はいたって真面目な顔で、
「現在から来たという話、詳しく聞かせてくださいな」
ま、一番の謎はそれだよな。
どうせ本人だし、包み隠さず話すけどさ。
「そのまんまの意味だよ。今からの未来、俺の時間感覚では、現在にあたる時間軸から、俺は来た」
ただし、
「その際、現在の……未来のお前が、お前自身が持つ天使の能力を使ったから、先程霊力を感じ取れたんだろう」
「【十二の弾】、ですわね?」
ああ、と肯定する。
「ですが、それではおかしいんですのよ」
「? 何がだ?」
「わたくしは、人一人を過去に飛ばす程の時間も、霊力も、持ち合わせていませんわよ?」
……ん?
「いや、別におかしくはないだろ。俺がこの時間軸からいなくなった後、時間を補充した、ってことじゃねえのか?」
俺が普通に考え付くことを言うと、何故か狂三は、目を伏せてしまった。
「……ああ、そういうことですの」
……何か、悲しんでる?
いや、より正確に言うなら、苦しんでいる、っていう表現の方がしっくりくる表情だぞ?
「……どう、したんだ?」
「! い、いえ、何でもありませんわ」
本当かなあ?
まあ、誤魔化すってことは、触れられたくないことなんだろうし、これ以上は追求しないけどさ。
「ともかく、そんな感じで、俺は過去に、お前らに合わせるなら、現在に来たって訳」
取りあえずの説明は、こんなものか。
他にも質問はあるようだから、これで終わりという訳ではないのだろうけど。
「それでは、二つ目をお伺いいたしますわ」
さて、次は何だ?
「どうして、この時間軸へ? もっと前も、後でも、よろしかったでしょうに」
ふむ、理由か。
ただ、今の質問にあわせて答えるなら、
「分からん」
「え」
「いや、俺だってここが現在からどん位前なのか把握してないんだぞ? それに、この時間軸に飛ばしたのは、あくまで狂三であって、俺じゃねえもん」
確かに、飛ばされたのは俺だけど、飛ばしたのは狂三なんだ。受身と自発の違い。
どの時間軸に飛ばすかを決めれるのは、狂三の方。俺はただ、頼まれたから来ただけ。
そんな説明を補足すると、狂三も納得したようだった。
「んで、まだ何かあるか?」
「そうですわね……最後に、お一つ」
「何だ?」
俺は首を傾げる。
しかし狂三は、俺が催促したにも関わらず、なかなか話し出そうとしない。
首を戻して待っていると、やや赤くなった顔で、狂三は口を開いた。
「その、今更ではありますが、えと」
うん?
「――――あなたのこと、何とお呼び致せばいいんですの?」
…………。
「何だ。そんなことか」
わざわざ改まって訊くほどのことでも無かろうに。
「い、いえ、ただ、ずっと『あなた』呼ばわりというのも、失礼な気がいたしますし……」
「七海でいいよ」
何故か知らんが必死な感じで言い訳をし始める狂三を無視して、俺は簡潔に言った。
「……え?」
「だから、七海でいい。代わりに、狂三、って呼ばせてもらうからな」
何か違和感があったから、これで解決。
俺が一人うんうん頷いていると、狂三も返事をした。
「わかり、ましたわ。――――七海さん」
ま、取り敢えずは、目標達成。狂三と出会うこと。
次は……、この時間軸における世界の把握か、狂三からの信頼を集めるべきか。
こんな思考をしていたから、俺は気付かなかったのかもしれない。
狂三が、ひどく、
――――不安そうな目を、していたことに。
そういえば、主人公チートタグがある割りに、無双したのは二回ぐらいなんですよね。
最近、八舞姉妹と真那が書けなくて悩んでいます。
早く彼女達を重きにおいて書きたいところです。
ま、狂三編の間は、まず無理でしょうね。残念。
それでは、次回も読んでいただけることを願いつつ、ここらで終わりとさせていただきます。
なんだろう、過去の狂三の口調に納得できない自分がいる……。