デート・ア・ライブ  ~転生者の物語~   作:息吹

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 今度のデアラの新刊のサブタイと、このssの主人公の識別名が被っちゃいました。

 大丈夫ですかね。大丈夫でしょう、きっと。
 サブタイになったということは、ほぼ識別名に使われることもないでしょうし。
 ……あれ、なんだろう、白い悪魔が見える……しかも微笑んでる……。

 いまいちクライマックスまでは盛り上がらないこの章ですが、どうか生暖かく見守ってやってください。

 それでは、どうぞ。


第52話

『それじゃあ、ボクはそろそろ消えるから、後は頑張りなよ」

 あいよ。

 じゃ~ね~、という聞きなれた言葉を残して、楓は俺の意識からいなくなったようだった。

 ようだった、と言わなくちゃいけないのは、それを俺は確認出来ないからだ。

 さて、狂三も近付いてきたことだし、そろそろ意識をそっちに向けるか。

 

「お初にお目にかかりますわ。わたくし、時崎狂三と申しますの」

 優雅に一礼しながら、狂三はそう挨拶してきた。

 確かに、この時間軸においては、初めまして、になるのか。

「あー、おう。初めまして、狂三。俺の名前は東雲七海だ」

 そんな思考をしながら、危うく『久しぶり』と言おうとした口を閉じる。

 しかし、狂三は不審な目で首を傾げた。

「……初対面の相手から、呼び捨てで呼ばれる筋合いは無いと思うのですけれど」

「あ、悪い。つい、慣れで……」

 そうだそうだ。俺が『狂三』と呼ぶのは今から未来の話で、今現在は初対面なんだから、それはおかしいか。

 あー、たった今初対面だって認識した筈なのに、何を俺はやってるんだろうな。

「慣れ……?」

 ……まだ凡ミスがあったようだ。

「気にしなくていい」

 一応そう言っておくが、どうやら俺への不信感は消えないようで。

 あー、と頭を掻きながら、これからどうすべきか考える。

 とりあえず、俺がさっきの光条の犯人だって思われるべきか……?

「えーと、お前は、先の光条を見て此処に来たのか?」

「ええ、その通りですわ。ですが、無駄足だったようですわね」

 む? どういうことだ?

「どうしてだ?」

「だって、霊力の残滓は感じ取れますのに、当の精霊さんがおりませんもの」

 あ、光が霊力によるもの、っつーのは分かってるんだな。

 そして、その跡はあるのに、本人がいない、と。

 ……いるんだけどなあ。

「えと、それ、俺だ」

「……はい?」

 俺が自白すると、狂三は目を丸くしたり、二回ほど瞬きをしたり。

 うん、可愛い。

 ともかく。

「恐らく、俺から霊力が感じ取れないから、そう判断したんだろうが」

 一度そこで区切って、

「――――なら、これでどうだ?」

 言って俺は、霊装、『神威霊装・統合』を顕現させた。

 ふむ、……空間震警報が鳴らない?

 それはそれとして、これを見た狂三は、先程から一転、俺に興味を持ったようだった。

「……少し、よろしくて?」

 問いかけた割には答えを聞かずに、狂三は俺の至近距離に移動した。

 何だ何だ。

 俺が軽く引きながら身構えていると、狂三はそれを気にした風でもなく、さらに近付く。

「……あら、確かに霊力を感じますわね……、それに、これは……わたくし?」

 緊張に身を固まらせている俺を余所に、狂三は俺の体をペタペタ触ったり、霊装の裾を持ったりしながら、何事かを確認しているようだった。

「一つ、お伺いしたいのですけれど」

「お、おう。何だ?」

 努めて平静を装って、狂三からの問いかけに反応する。

 何だろう。今ので疑問に思ったことでもあったのかな?

「あなたから、わたくしと同じ霊力を、微量ながら感じましたわ。……どういうことですの? わたくし達は、初対面ですわよね?」

 狂三と同じ霊力?

 ……もしかして、【十二の弾】の痕跡じゃねえのか?

「えー、お前は、自分が持つ天使の霊力について、把握しているか?」

「当然ですわ」

「なら話が早い」

 まあ、もとよりそれを前提として訊いてんだけど。

「俺から感じ取ったっていうお前と同じ霊力は、間違いなくお前自身の物だ」

「ですが、わたくし達は……」

「ああ、初対面だ。ただし、」

 少なくとも、

過去(いま)のお前とは、だが」

「……まさか」

 お? 察しがついたみたいだな。ただ、表情を見るに、俄かには信じられない、ってところか。

 ま、これだけヒントが出揃えば、余程鈍くない限り気づくだろ。

「その通り」

 俺は、狂三の懐疑を肯定する。

「俺は、現在(みらい)から来た人間だ。お前の能力で、な」

 

 詳しく話しを聞こうということで、場所を移動することにした。

 そろそろ野次馬がやって来そうだったし、霊力を顕現させっぱなしってのも怖かったからな。

 今俺らは、それぞれの私服に着替え(と言っても、俺は霊装を消し、狂三は霊力で普通の服になっただけ)、街を歩いていた。

 山からは、俺が狂三を抱えて飛ぶように下山し、ものの数分で下りきったぜ。

「本当に、精霊さんでしたのね、あなた」

「だからそうだって言ってるだろうが」

 それもそうでしたわね、という言葉を耳に入れながら、俺は都合の良い場所が無いか探す。

 精霊としての話をするから、むしろ多少騒々しい位で、かつ休憩としても最適な所……。

 ……適当なファミレスか、最終的にはそこらの公園のベンチって所かな。

 とまあ、そんな感じでぼちぼちやっていたので、数十分かけて、ようやく俺らの姿はファストフード店に落ち着いた。

 あれだな。ここまでこういう店が似合わない奴もなかなかいないよな。今の狂三みたいに。

「……何ですの?」

「別に」

 精霊とはいえやはり多少は暑かったのか、頼んだジュースを口にしていた狂三が、俺の視線に気付いてそれを止めた。

 んー、今の所、信頼はしていないけど、取り敢えずは話ぐらい聞いておこう、みたいな感じかな。狂三の中での俺のポジション。

 狂三が少し落ち着いた所で、俺は話しを切り出した。

「さて、俺に何か訊きたいことでもあるか?」

「……そうですわね……まず、一つ」

 狂三はいたって真面目な顔で、

「現在から来たという話、詳しく聞かせてくださいな」

 ま、一番の謎はそれだよな。

 どうせ本人だし、包み隠さず話すけどさ。

「そのまんまの意味だよ。今からの未来、俺の時間感覚では、現在にあたる時間軸から、俺は来た」

 ただし、

「その際、現在の……未来のお前が、お前自身が持つ天使の能力を使ったから、先程霊力を感じ取れたんだろう」

「【十二の弾】、ですわね?」

 ああ、と肯定する。

「ですが、それではおかしいんですのよ」

「? 何がだ?」

「わたくしは、人一人を過去に飛ばす程の時間も、霊力も、持ち合わせていませんわよ?」

 ……ん?

「いや、別におかしくはないだろ。俺がこの時間軸からいなくなった後、時間を補充した、ってことじゃねえのか?」

 俺が普通に考え付くことを言うと、何故か狂三は、目を伏せてしまった。

「……ああ、そういうことですの」

 ……何か、悲しんでる?

 いや、より正確に言うなら、苦しんでいる、っていう表現の方がしっくりくる表情だぞ?

「……どう、したんだ?」

「! い、いえ、何でもありませんわ」

 本当かなあ?

 まあ、誤魔化すってことは、触れられたくないことなんだろうし、これ以上は追求しないけどさ。

「ともかく、そんな感じで、俺は過去に、お前らに合わせるなら、現在に来たって訳」

 取りあえずの説明は、こんなものか。

 他にも質問はあるようだから、これで終わりという訳ではないのだろうけど。

「それでは、二つ目をお伺いいたしますわ」

 さて、次は何だ?

「どうして、この時間軸へ? もっと前も、後でも、よろしかったでしょうに」

 ふむ、理由か。

 ただ、今の質問にあわせて答えるなら、

「分からん」

「え」

「いや、俺だってここが現在からどん位前なのか把握してないんだぞ? それに、この時間軸に飛ばしたのは、あくまで狂三であって、俺じゃねえもん」

 確かに、飛ばされたのは俺だけど、飛ばしたのは狂三なんだ。受身と自発の違い。

 どの時間軸に飛ばすかを決めれるのは、狂三の方。俺はただ、頼まれたから来ただけ。

 そんな説明を補足すると、狂三も納得したようだった。

「んで、まだ何かあるか?」

「そうですわね……最後に、お一つ」

「何だ?」

 俺は首を傾げる。

 しかし狂三は、俺が催促したにも関わらず、なかなか話し出そうとしない。

 首を戻して待っていると、やや赤くなった顔で、狂三は口を開いた。

「その、今更ではありますが、えと」

 うん?

「――――あなたのこと、何とお呼び致せばいいんですの?」

 …………。

「何だ。そんなことか」

 わざわざ改まって訊くほどのことでも無かろうに。

「い、いえ、ただ、ずっと『あなた』呼ばわりというのも、失礼な気がいたしますし……」

「七海でいいよ」

 何故か知らんが必死な感じで言い訳をし始める狂三を無視して、俺は簡潔に言った。

「……え?」

「だから、七海でいい。代わりに、狂三、って呼ばせてもらうからな」

 何か違和感があったから、これで解決。

 俺が一人うんうん頷いていると、狂三も返事をした。

「わかり、ましたわ。――――七海さん」

 ま、取り敢えずは、目標達成。狂三と出会うこと。

 次は……、この時間軸における世界の把握か、狂三からの信頼を集めるべきか。

 こんな思考をしていたから、俺は気付かなかったのかもしれない。

 狂三が、ひどく、

 ――――不安そうな目を、していたことに。




 そういえば、主人公チートタグがある割りに、無双したのは二回ぐらいなんですよね。

 最近、八舞姉妹と真那が書けなくて悩んでいます。
 早く彼女達を重きにおいて書きたいところです。
 ま、狂三編の間は、まず無理でしょうね。残念。

 それでは、次回も読んでいただけることを願いつつ、ここらで終わりとさせていただきます。

 なんだろう、過去の狂三の口調に納得できない自分がいる……。

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