デート・ア・ライブ  ~転生者の物語~   作:息吹

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 狂三編本編が始まりました。

 なんか、中途半端な更新速度ですみません。
 時間と体力がある時にちょくちょく書いていくというスタイルになってきています。

 それでは、どうぞ。


第51話

 目を開ければそこは、見慣れた、だけど何かが明確に違う風景だった。周囲に人はいない。

 手を閉じたり開いたり、軽い屈伸運動等をしながら、俺は現状を把握することにする。

「さてと……一体、何年前なのやら」

 あの時、狂三が俺に撃った弾は、十中八九【十二の弾】だろう。

 つまり、俺は過去に飛ばされたという訳だな。

「あー、狂三?」

 楓との会話のように頭の中に意識を持っていく。

 もしかすると、【九の弾】でも使ってないかなあ、とか思ったんだが……、

「……反応無し」

『ボクならいるよ』

「楓?」

 やはり、といった事実を確認していたら、いきなり楓の声がした。

 そうか。楓の場合は、俺に住んでいる、と言ったらおかしいが、俺の中に意識のみがある以上、付いてくることになるのか。

『その通り。まあ、少し考えれば分かることだけどね』

 まあな。

 さてと、取り敢えずは、今が何年前かを知ることが先決か?

『んー、いや、待って七海くん』

「どうした?」

『この時代にいられる時間が不明である以上、最優先事項は別にあると、ボクは思うよ』

 む、確かにこの時代にどれくらい存在出来るのかは、狂三が【九の弾】で意識を繋いで、その時に教えてもらわないと不明だな。

 しかし、最優先事項……勿論、それは分かりきっている。

「……ん、それもそうか」

 それじゃあ、様式に則って、

「――――俺の、戦争(デート)を始めるか」

 

 とは言うが、実際のところ、何も俺は分かっちゃいない。

 精々推測出来るのは、今が夏で、休日、もしくは長期休暇であるといったところか。

 半袖の服や、子連れの親が多く見られるようになった為、俺はそう考える。

「まずは、狂三を探すか」

『確かに、それをしないことには何も始まらないし、始められないからねー』

 『視界』を使って地形や人を認識しながら、狂三の姿を探す。

 〈フラクシナス〉からの援助はまず無いから、これが結構苦労する。

 先程も言ったが、今日は休日なのか、とにかく人が多い。ただでさえ暑いのに、さらに暑くなるわ、人も多いから認識し辛いわで。

 ……あ、自販機発見。何か買おうっと。

『……呑気だね』

 そう言うな。水分補給は大事だぜ?

 俺はちびちびと某清涼飲料水を口にしながら、当ても無く歩く。

『当ても無くって……せめて方向性は決めようよ』

 いやまあ、ここが天宮市なのかさえ分からない以上、やはり歩くしかない訳だし。

 ほら、よく言うじゃん。情報は足で稼げ、って。

 ……あ、俺の場合眼だ。

 でもま、実際ここは何処なんだろうな?

『そこら辺の人に訊けば? ここは何処ですか、って』

 馬鹿か。んなこと訊いたら不審な目で見られるだろうか。

 まあ、何となく、使われてない廃ビルなり屋敷なり無いかなあ、みたいな感じではあるぞ?

 だから、都市部を離れるようにしているのだし。周りの人達とは逆方向だろ?

『そこまでは分かるけどね』

 分かってたんかい。

 そんな話を意識内でしながら、視界の情報を頼りに、どんどん街の中心部から離れていく。

 気がつけばそこは、中心の町並みとは違う、未だ自然が見受けられる場所になっていた。

 ん、あれ、普通に閑静な住宅街、みたいな場所に出たんだが。

『もう少し離れるか、いっそのこと山の方に行くかだね。ほら、あの山』

 何故か向いた意識の先には、見られる限り一番高い山があるが、流石に嫌だ。

 ……しょうがない、なるべくならやりたくなかったが、あれをやるしかないか。

『あれ?……え、ちょ、七海くん。いいのかい?』

 それしか手が無いからな。

 大体今思えば、この街に狂三がいるということ自体が希望的推測に過ぎない訳なんだし。

 もし狂三が、俺の思っているような奴なら、きっと見つけられるさ。

『まあ、ボクは止めないけどね』

 へいよ。

 じゃ、まずは人気が少ない、ではなく、人がいない場所に行かねえとな。

 周りに人がいないのを確認してから俺は、『飛んだ』。

 

「ということでー……着地!」

 行間を開けた割にはものの数秒で着いたこの場所。

 周りは開けているが、決して人は寄り付かないであろう、寧ろ、そんな妖気のようなものが溢れているかもしれない程の静寂を誇る、神社。

 楓が示した山の中腹程にあった、既に廃れた神社だ。

 山に意識を持っていった時についでに見つけておいた場所だな。

「それじゃ、いっちょやりますか」

 俺はやや焦りを覚える気持ちを抑えながら、その用意をする。

『やるなら目一杯目立たないといけないからね』

 だろうな。

 ということで……っ!

「――――【無限(アイン・ソフ)】!」

 眼帯を外し、手を振り上げつつ、叫ぶ。

 それは、俺の霊力で創られし光条。

 白に近い色をした光が、天高く昇っていく。

 そして、ある程度の高度に達したところで、

「……ッ」

 手を握り、一気に開く。

 それに合わせて、極太のレーザーは、幾つもの光に枝分かれし、地に着く前に霊力が霧散していった。

『あーあ、やっちゃたね七海くん。一般人から見れば、一体あれは何なんだ、的な感じに思われるのは当たり前。もしかするとASTだっているかもしれないのに』

「分かってるさ」

 分かって、やったんだ。

 普通の人達については、真実を明かされることはまず無いから、適当な噂が流れ始め、その内忘れ去られるだろう。

 だが、ASTの方は、ちょっと不安。時間は短かったから、霊力が解析されることはないと思うが、確信は持てない。

 ま、なるようになるさ。

『楽観的だね』

「否定はせん」

 さて、これに狂三が気付いてくれれば、やってくると思うけど。

『そうかな。だって、元の時間軸の狂三ちゃんなら、可能性は低くなってると思うけど』

「思考は筒抜けなんだから、わざわざ訊かなくても分かってるだろうに」

『それじゃ分からない人もいるんだよ」

 誰だよ。

『要は、原作の狂三ちゃんなら来るだろう、ってことなんだよね?』

「分かってんじゃねえか!」

『まあね。ただ、それも希望的観測だよね』

 う、確かに、その通りなんだが。

 でも、人の行動原理や行動パターンって、読みにくいんだよなあ。特に狂三は。

『分かってたら、あの日、あそこまで動揺しなかっただろうしね』

 おま、知ってたのか!?

『当たり前だよ』

 うわー! 恥ずかしー! ぎゃー!

 ってことは、他の奴らのことも……?

『勿論』

 あ、あんなことーや、人にはちょっと言えないことーとかも?

『勿論』

 あ、あああ、ああああれの時も?

『……ふふふ』

 うっぎゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!

 もう駄目だ! 俺の人生はここで終わりました! 残念! 無念! また、来年……あるのかな?

 ともかく、うわー、一番……では無いのかもしれないが、それ位知られたくない奴に知られたー、まだ耶倶矢や夕弦、美九も狂三も真那も知らないのにー!

『いやーそれは仕方ないよ七海くん。大体、いくら女っぽいとはいえ、君も高校生だ。()()()()()()に対する理解はあるつもりだよ、ボクは』

 いいよ。慰めなんていいよ。もうやめてよ、お願い……。

『それはそうと、誰か来てるみたいだよ』

 それは、て……、男子高校生のアレコレが、それはそうと、で流されたよ……。

 ……で、誰か来てるだと?

『うん。あと数分でここに現れると思うけどね。一人みたいだから、好奇心に駆られた野次馬か、狂三ちゃんかのどちらかなんじゃない?』

 後者だといいなあ……。

 でもま、待ってみることにしますか。

 もし一般人だったら、『自分もさっきの光を見て来てみたけど、何も無かった』っとでも言っておこう。

 狂三だったら……その時考える。

 ―――――さて。

 そうしてやってきた人物は、俺らの願い通り、

「あらあら、やはり、どなたかいらっしゃったようですわね」

 赤と黒のドレスを纏う、時崎狂三だった。

 さあ、ここからが本番だ。

 

 

           *           *           *  

 

 

「さて、どういうことか説明してもらえるんでしょうね」

 〈フラクシナス〉艦内の、とある一室。

 そこでは、狂三からの事情聴取が執り行われていた。

 勿論議題は、

「七海に、何をやったの?」

 である。

 空間震警報が鳴ってから半刻と過ぎていないが、早速狂三を八舞姉妹に連れてこさせ、今に至る。

「やっぱり、あんたは信頼すべきじゃなかったってことね」

「敵視。……何か、言ったらどうですか?」

「落ち着きなさい、二人とも。怒りで霊力を暴走させたりしないでよ」

 琴里からの忠言も聞こえない様子で、ただただ狂三を睨む耶倶矢と夕弦。

 そこには、沸点を通り越して、逆に氷点下に至ろうかという程の、冷たい怒りが含まれていた。

 はあ、と、二人と比べれば比較的落ち着いている琴里が溜息を漏らす。

「ねえ狂三」

「なんですの?」

「正直に答えて。私たちは、余程の理由じゃ無ければ、対応はそこまで変えないつもりよ」

 ただ、と言い添える。

「他の娘達……この二人に加え、特に美九や真那から何て言われるかまでは、保障しかねないけど」

 寧ろ、そちらの方が本題に近い。

 七海の不在の原因が狂三だとすれば、彼に好意を抱いてる彼女達からの風当たりが強くなるのは必然だ。

 さらに、真那の場合、七海のお陰で大分丸くなってはきているが、もとより狂三に対する敵愾心が強い。何時刃を向けられてもおかしくないと思う。

 しかし、

「まさか、ホントにいなくなるとはね……」

 一ヶ月程前に自分が言った言葉が現実になるとは。

 ともかく。

「……まずは一つ目。単刀直入に訊くわ」

 いい?

「――――七海に、何をやったの?」

 最初と同じ質問。

 即ち、こちらで観測できたあの時、狂三は七海に対して何を行ったのかを訊いているのだ。

 こちらで分かっているのは、なんらかの天使の能力を使ったことだけ。

 だから、その使用した能力でも、ということだ。

「……わたくしのお願いを、少しばかり聞いてもらいましたの」

「お願い?」

 この疑問には、狂三は答えなかった。

「……使用した弾は【十二の弾(ユッド・ベート)】。弾丸が当たった相手を、過去に飛ばす能力を持っていますわ」

「は?……過去に、飛ばす?」

「驚愕。そんなことが、あるのですか」

「わたくしの〈刻々帝〉は時を司る天使ですもの。一番メジャーな能力だと思いませんでして?」

 確かに、時間を司る能力と聞いて連想するものでは、殆どの人間が思い付くであろう能力だが。

 耶倶矢と夕弦は、一時的に怒りを忘れ、その言葉に驚きを得た。

 しかしまた、同じ動きで首を振って、その表情を険しいものにする。

 やはりまだ、狂三を信じたいと思う気持ちが、あるのかもしれない。

「どうして、過去に?」

「…………」

 この質問に対しても、狂三は沈黙を貫く。

 琴里は、狂三の中で、どのラインまでが答えられる範囲で、どのラインからが答えたくないことなのかを見極めようと、さらに質問を重ねる。

「他の娘達から敵視されるとは思わなかったの?」

「覚悟の上、承知の上ですわ」

「どうして?」

「七海さんを、信じていますもの」

「……それ、関係ある?」

「ありますわ」

「どうして、今日?」

「今日だからですわ」

「いや、意味分かんないんだけど」

「……今は、分からなくても結構ですわ」

「じゃあ、七海は戻ってくるのよね?」

「それは勿論。断言できますわよ」

「確認。本当ですよね?」

「ええ」

「ちょっと、いきなり質問に割り込まないでよ、二人とも」

 途中、気が付けば八舞姉妹の二人も質問していた。

 身を乗り出していた二人を戻しつつ、琴里は考える。

 今の質問には、全部答えていた。つまり、まだここは答えられる範囲内ということ。

 それでは、

「――――七海は何で、過去に行くことを許容したの?」

 真に訊きたかったこと、二つ目。

 七海なら、今隣にいる二人や、美九、真那を置いて、もしくは何の言葉も無く、彼女達を放置するような真似はしないと思っていたからだ。

「…………」

 この質問に対する答えは、沈黙。

 どうやら、これは答えられないラインを超えるらしい。

 いまいち分からないそのラインを思いつつ、仕方ないとそれについて考えるのを止め、別の質問をする。

「七海は、過去に行ってまで、何をしようとしているの?」

「…………」

 再三の、沈黙。

 しかし、なんとなく読めた。

 どうやら狂三は、七海が過去において何をしたいのか、もしくは、狂三が七海に過去で何をして欲しいのか。そういう風な質問には、答えたくないらしかった。

 自分が質問を一旦止めたことからか、矢継早に質問を繰り返す八舞姉妹を見やる。

 そこにはやはり、狂三に対する怒りよりも、七海への心配があって。

 どうやら、他の娘達には、それっぽい理由で誤魔化すより、正直に話した方が良いかもしれない、と。

 琴里はそう判断した。




 うーん、イマイチ盛り上がらない、面白くない……。

 ということで、今回は楓との会話が殆どですね。
 まあ、ちゃんと狂三は出てきましたし、次回からは狂三をメインに据えられるでしょう。

 この章では時折、今回のような書き方をする時があるかもしれません。
 即ち、前半・過去、後半・現在、という風な形です。
 大体が、過去で七海がこんなことやっている時、現在ではこんなことが起きてるよー、といったものです。
 ただ、あくまでも、指標なので、たまにズレます。多分。
 まあ、このような書き方をするのも不定期ですし、あまり関係は無いかもしれません。

 それでは、次回も読んでいただけることを願いつつ、ここらで終わりとさせていただきます。

 七海だって、男なんだッ!

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