という叫びを、鬼が出てくるゲームをしながら言ってました。鬼強い。具体的には反動無しで高火力とか止めて欲しい。(妖怪ウォッチではない)
ということで、従兄弟の家に行ったり、高校の入学式だったりで更新が遅れてしまいました息吹です。
今回で、日常編Ⅱ本編は終わりです。もしかするとエピローグ的な物を書くかもしれません。
ただ、内容を書く際、途中で間を空けてしまったからか、なんか読みにくいんですよね……。あと急展開気味。
それでは、どうぞ。
『ほらー、早く意識を戻したらどうだい? 七海くん。体は戻してあるんだし、あとはそれだけだよ?』
半覚醒状態の意識の中、そんな声が聞こえてきた。
視界は暗い。
というのも、目を閉じているからなのだが。
あー、と意味の無い言葉を吐きながら、仰向けに寝転がっているらしい身体を起こす。
「えと……楓?」
『お、やっと起きたね。どうだい? 体の調子は』
「なんか、ひどく頭が痛い……」
目を開けても尚暗い、夜と言っても差し支えないであろう時間帯の中、俺は頭の中の楓と会話する。
『まあ、それもそうだろうね』
「何でだ?」
『いやー、エレンちゃんとの戦闘時、消失の方を主体に戦ったから、その反動じゃないかな』
「エレンちゃんて」
いや、今はそれはどうでもよくて。
「お前が、あのエレンと戦ったのか?」
『まあねー。存外呆気なかったね。やっぱりボク強い! ブイ!』
楓がそう言うと、頭の中に直接、楓がブイサインしている姿が流れ込んできた。
というか、こんなことまで出来るのかよ。
『言っただろう? ボクは色んな能力を持っているからね。エレンちゃん程度なら負けないね』
「心を読むな。……で、お前はその、色んな能力を駆使して、あの人類最強に勝ったということか」
そこで、楓が不自然な返答をしてきた。
『……ん?』
「おい、何だその疑問形は」
『あーいやいや、何でも無いよ。……そういうことにしておこうか』
そういうこと?
『別に、君には関係無い……とは言えないけど、気にしなくてもいいことではあるね』
「関係あるんじゃねえか」
『気にしなくてはいいんだって』
そこまで言われると気になるんだが。
『そんなことより今は、やるべきことがあるんじゃないのかい?』
やるべきこと?
エレン撃退は、お前がやってくれたようだし、他にやることなんてあるか?
『なんでそんなに血気盛んな思考しかしないんだい。やるべきことと言うより、行くべき場所、かな?』
行くべき場所、ねえ……。
となると、戦闘系のことじゃないのか。
しかし、今日は修学旅行の二日目と言うだけで、何か特別なことなんて……。
「……あ」
『思い出したみたいだね』
そうだ、今日のイベントは確か……!
それを思い出すと同時に、俺は立ち上がった。
『うんうん。それじゃ、ボクはそろそろ消えようか』
「ああ、分かった。ありがとな、楓」
『いえいえー、言う程の事はしてないよ。それじゃ、じゃ~ね~』
じゃあな。
俺がそう心の中で返す頃には、体は駆け出していた。
途中でポケットに何故か入っていた眼帯をして、人はいないから、俺が持つ身体能力を最大限活かして、走る。
時には木を駆け上って方向確認したり、幹を蹴ってまるでアニメの忍者のように強制加速したり。
「あークソッ。楓に時間だけでも教えて貰っとけばよかったな」
『只今、七時半だね。もう行事も半ば過ぎようとしているよ』
まだ居たのかよっ!
時は遡って七時前。
その場は今、隠しきれないざわめきに満ちていた。
「ひゃー、人がいっぱいですねー」
「ふふ、美九さんなら、これよりもっと多くの人間の前に立つことも常でしょうに」
「そこにだーりんがいるかいないかで、全く違うのですよぉ」
そう零す美九の視線の先では、急遽設えさせてもらったステージの前。百は下らない人がいる。
来禅高校二年生及び教職員の人達だ。
これから執り行われるのは、美九のお忍びライブ。
しかし、教職員以外の生徒達は、これから何があるのかさえ知らない。
いや、このステージを見れば、普通ならライブのような何かがあるのは予想出来るかもしれないが、それが誰のライブかまでは分からないということだ。
『――――それでは! 長らくお待たせいたしました! 本日の隠れきれていない隠れメインイベントの開幕です!』
司会役である女子生徒の声が、マイク越しに辺りに響いた。
「あら、そろそろ出番のようでしてよ?」
「そうみたいですねー。それじゃあ狂三さん」
「どうかしましたの?」
訊く狂三は、美九の不審な行動を目にした。
つまり、不自然なまでに綺麗な笑顔で、距離を詰めてきたのだ。
思わず、一歩下がる。
相手は構わず、二歩詰める。
一歩。二歩。一歩。二歩。
「……あの、美九さん?」
「はいー?」
「どうして、にじり寄ってくるんですの?」
「うふふふふ、いえいえー、何でもありませんよぉ?」
完璧に嘘だろう。
ほら、だって、意識してないかもしれないが、手がこちらに向けられていて、心なしか表情も変わってきていてちょーっと世間には出せないような顔になっているしもうこれは危険が危ないというかあれちょっと混乱気味――――
『それでは、本日お越しのお忍びアイドルの登場です!』
「! ほ、ほら美九さん、時間ですわよ!」
「むむ、野暮ですねぇ。いっそのこと無視しましょうかー……」
「な、七海さんがいるのではありませんの?」
「はっ、そうでしたぁー! それでは狂三さん、続きはまた後で!」
断固拒否させてもらう。
そう言う前に、美九はステージへと向かっていってしまった。
ほ、と安堵の息を吐きながら、いつの間にか壁側に追いやられていた体の力を抜く。
「まったく、美九さんも困ったものですわね」
一人呟く。
だがあれも、美九なりの愛情表現だと思えば――――
「それでも、限度はありますわ」
ちょっと無理っぽかった。
ステージ裏に設えられた簡易休憩スペースの中、椅子に腰掛ける。
ここからではステージは見えないので、どうせなら、ということで、観客席へと目を向ける。
七海でも見つかるかなと思ったのだ。
「……あら?」
そこで狂三は、疑問を得た。
それを確認する為に、再度観客席を見渡す。
そして、確信した。
「七海さんが、いませんわね……」
それはおかしい。
七海ならば、この行事を逃す筈がないからだ。
心当たりは、あるにはある。
夕方頃だっただろうか。
耶倶矢や夕弦達がここに来た時の話を、狂三は思い出す。
「あのお二方にこちらに行くよう言って、自分は別の場所に行っていたのでしたわね」
確かそんな話だった気がする。
そして、それを思い出すと同時、気にしないでいた不安がぶり返してきた。
それを振り払うように、頭を振る。
大丈夫の筈だ。お手洗いにでも行っているのかもしれない。疲れて部屋にいるのかもしれない。そうだ、きっとそうだ。
だから。ならば。
「――――早く、来てくださいまし……」
その場は今、何もしなくても汗をかきそうな程の熱気と息苦しさに包まれていた。
無理もないだろう。
「うおー! やっぱ美九たんだったかー! うぁあああぁぁぁぁぁっ!」
士道の隣では、意味の分からない奇声を上げる殿町がいる。ハイテンションなのはいいが、五月蝿い。
そんな殿町に気圧されて士道は、視線の先のステージへと目を向けた。
そこには、先月顔出し解禁したことで、人気急上昇した美九の姿があった。彼女の歌に合わせて、何人もの生徒がこぶしを振り上げ合いの手を打つ。
「……ん?」
そんな中、始まって三十分程の時間が経ち、殿町から離れつつ、十香と楽しんでいた時だ。
士道は、美九の表情に、微かな違和感を感じた。
気になって彼女を見ていると、その正体に気付いた。
「どこか、悲しそう、いや……焦っている……?」
それを明確に表すことが出来る言葉が思い浮かばない。
「ぬ? 何か言ったか、シドー?」
「あ、いやさ、その」
まさかこの喧騒で今の呟きを聞かれるとは思わなかったので、しどろもどろになってしまった。
しかし、いっそのこと相談してみようか。
「あー、十香?」
「どうしたのだ?」
「今の美九、ちょっと変じゃないか?」
訊いて、視線を戻す。
釣られて十香もステージへと目を向けるが、彼女の第一声は、予想外の方向から来た。
「それは、耶倶矢や夕弦と一緒に、七海がいないことに関係しているのか?」
「……え?」
士道は、目を見開いた。
今の言葉に、純粋な驚きを覚えたからだ。
七海が、八舞姉妹を置いて別行動をしている……?
「本当なのか、十香?」
「うむ。丁度この前の方に二人はいるのだが、七海はいないようだぞ? というより、七海の匂いが近くからはしないのだ」
「……十香、ちょっと待っててくれ」
そう言い残し、士道は人を掻き分けて前へと進んだ。
後ろから名前を呼ぶ声が聞こえたが、大人しく待っていてくれるだろう。
もうクラスも何も関係無い、無秩序な人混みの中を進みながら、士道は目立つ橙色の髪を捜した。
「!……そこか!」
程なくして、見つかった。
その頭を目印に、近寄る。
「耶倶矢! 夕弦!」
名を叫ぶ。
一応は届いたのか、きょろきょろと二人は辺りを見渡し始めた。
そこで必死な士道を見つけたのか、何歩分か向こうから近付いてきてくれた。
「お主、士道ではないか。我らに何用ぞ?」
「質問。そんなに慌てて、夕弦達に何か?」
「あ……」
そこで士道は自分の失敗に気付いた。
七海と一緒にいないことが心配で来てみたが、どう切り出すか考えていなかったのである。
もごもごと口ごもる士道を見て、二人はどうしたのだろうと首を傾げる。
「その、何だ。七海がいないみたいだけど、どうかしたのか?」
結局そのまま士道が訊くと、二人の表情が一気に暗くなった。
俯いた所為もあって、なんとか読み取れる顔は、表情的にも、物理的にも、暗かった。
マズい訊き方をしてしまったのかと不安になるも、どうやら違うようだった。
「そんなの、気付いてんに決まってんでしょ……!」
「え……」
「首肯。そしておそらく、美九も、狂三も気付いているでしょう」
何かを言うことなんて、出来なかった。
「それでも、私達は」
「引継。七海を、信じてますから」
絶対戻る、って。
そう、二人は続けた。
そして、美九の方へと向き直る。
丁度、美九も二人のことを見た瞬間だったのか、視線が交差した。
歌の途中なのでそれは一瞬だったが、彼女達だけの意思疎通は出来たようだった。
「お前ら……」
「くく、ほら、お主も早う戻らんか。その様子だと、十香は置いてきたのであろう?」
「要求。夕弦達は大丈夫ですので、戻ってあげてください」
無理矢理方向を逆転させられ、背中を押される士道。
だが、とも考えていた。
これ以上は自分が何を言っても無駄だろう、と。
そう思い、士道は十香の所へと素直に戻ることにした。
「……あれ? どっちだっけ?」
人混みの所為で、方向が全く分からなかったが。
それからさらに十五分程経った時だった。
「――――や、狂三」
「ひゃっ!……って、七海さん!?」
休憩スペースを出たり入ったりして落ち着かなかった狂三が、驚きの声を上げた。
十数回目の、外に出て七海がいないか確認しようとした時、丁度出た瞬間に声をかけられたのだ。
その声の主は、待ち望んだ一人の少年だった。
「悪い。遅くなった」
「え、ええ。ええ。全くですわ。一体どれだけ心配したと思ってるんですの」
「……すまん」
狂三はそう言うが、別にそこまで怒っている訳ではなかった。
それよりもずっと、安堵の感情が勝っていたからだ。
だから、こうする。
「!? 狂三っ!?」
「しっ。お静かにしてくださいな」
正面から抱き付く。
心配だったのだ、これぐらいはいい筈だ。
「えと、あの、その、あー……」
七海も最初は何か言いたげだったが、頭を掻いて、特に何も言わなかった。
ほんの数秒で、離れる。
「今は、これだけで我慢いたしますわ。ですから早く、耶倶矢さんや夕弦さんの所に行ってあげてくださいまし」
「あ、ああ。分かった。そうする」
驚きが大きかったのか、これといったことを言うでもなく、七海は観客席へと回っていった。
い、一体今のは、何だったんだ……?
今の俺の心の中は、その疑問で一杯だった。
なんせ、いきなり抱きつかれるとは思わなかったし。
それに……。
「……今は、って言ってたしなあ……」
そこも気になるところだ。
「っとと今は早く二人を探さないと」
最後列辺りにいるんだが、ここからじゃ、ステージ上の美九すら見えない。
俺は隠れて、視界を使う。
これだけならば、余程の事が無い限り、バレることはない。
そして、見つけた。
「まさかの最前列ぅー……」
トーンダウンする。
しょうがないんだよ。こんな人の群れの中、一番前まで行くなんて至難の業だぞ。
「ま、やるしかないか」
俺は気合を入れなおして、とりあえず目の前の男子生徒二人の間をすり抜けていった。
しかし、多いな。前に行けば行くほど、密度が高くなってやがる。
それだけ、美九を間近で見たいってことなのかな。
「うわ、っと、すみません。前に行かせてくださーい」
手をちょいちょい縦に振るという日本人特有の行為をしつつ、俺は視界を頼りに前へと行く。
男子女子関係無く、混沌としている人混みだが、俺自身が平均男子より小さいせいで、結構するすると前へと進める。
初めて自分の背の小ささに感謝……はしねえよ。まざまざと突き付けられているようで、余計傷つくわ。
ともかく。
そんなこんなで、なんとか見覚えのある頭部を見つけることが出来た。
しかしここで、思わぬアクシデント発生。
「わっ!?」
おそらく自覚は無かったのだろうが、誰とも知れない一般生徒に押され、バランスを崩してしまったのだ。
ただでさえ密度が高く、それを抜ける為に変な体勢になってしまっていたのに、そこに予想外な方向からの力で、遂に体勢をくずしてしまう。
「あ、わ、にゃ、や」
珍妙なア段の声を上げつつ、けんけんみたいにしながら、どうにかこうにか人を避けていく。
そして、結局。
「うわぁっ!」
「ぎゃっ!?」
「狼狽。一体誰ですか。夕弦達に後ろから抱き付くなんて……」
二人の言葉が聞こえる。
結局耐え切れず、目の前にいた二人に飛びつく形になってしまったんだ。
「あ、あー、いやー、これはですねー……」
弁解しようと身を離そうとするも、人混みに押され中々離れられない。
「「――――七海っ!」」
すると、器用に体を反転した耶倶矢と夕弦に、抱かれた。
本日二度目の抱擁だ。
人目を憚らないその様子に、周囲の生徒が冷やかしを入れる。
……まあ、俺とこの二人の仲の良さについては、最早公然の秘密だもんなあ。
濡れた声で、二人は言葉を発する。
「ばか、ばか、ばかぁ……、心配、したんだから……!」
「安堵。良かった、です……七海が、戻ってきて、くれて……」
「ん、悪い。遅くなった。すまない」
やや幼児退行を引き起こしている耶倶矢や、涙を堪えているらしい夕弦の背を擦りつつ、俺は謝る。
そして、美九の方を向く。
さすがのアイドル精神か、美九はちゃんと歌い続けている。
だがまあ。
――――その満面の笑みの中、目尻の涙には、気付かない振りをしてやろう。
『それじゃあ、これが最後の曲です!』
美九が、マイク越しにそう言う。
どうやら、なんとか一曲だけでも、落ち着いて聴けるらしい。
俺はポンポンと背を叩いて二人を離して、美九の方へと向き直させる。
せめて遅れた分、最高に盛り上げていかないとな。
そういえば、カラコンを怖がったり、野良猫を買収しようとする狂三可愛かったです。(ドラマガ付録)
てなわけで、なんとかⅩで終わりそうです。いやー、良かった良かった。
次はエピローグ(予定)で、その次が狂三編突入ですかね。
ただ、高校も入学しましたので、勉強、部活(文化部ですが)、バイト、あと、ここ。
全部をちゃんとこなせるようになるまでは、多々更新が遅れるかもしれませんので、ご容赦下さい。
それでは、次回も読んでいただけることを願いつつ、ここらで終わりとさせていただきます。
あ、そういや夕弦はむっつりさんなんですね。可愛いので良いですが。