なにか不備や疑問がありましたら、ご指摘おねがいします。
二人は、俺の前に降り立つと少し興奮気味に話しかけてきた。
「貴様、やりおるではないか。名は何と申す?」
「え?いや、東雲七海って、大分前に言ったんだけど・・・」
うん。鬼ごっこ始める前に自己紹介しましたよね?聞いてなかったんかい。
「驚愕。すごいです。さっきのは一体なんなのですか?」
今度は夕弦のほうだ。
なんなのかって訊かれたら、それはそれで答えにくいな・・・
「まあ、俺の能力だ。簡潔にいえば」
「確認。その翼もですか?」
翼?あ、まだ出したまんまだったな。両剣も。こっちは消しておこう。
・・・よし消えた。やっぱ、自分で創り出したものは簡単なんだなー。そして、二人の驚いている顔が可愛い。
・・・気にしないでくれ。
「さて、耶倶矢に、夕弦」
気を取り直して。今はチャンスだ。
「む?なんだ?七海よ」
「質問。なんですか?」
これがうまくいけば、さっきの『勝負』俺の勝ちなんだけど、成功するかな?
「ちょっと手を出してくれ」
俺がそう言うと、少し疑問符を顔に浮かべながらも、耶倶矢が右手を、夕弦が左手を差し出してきた。
「失礼」
先に断りをいれてから、俺は、彼女たちの手をそれぞれ掴む。
「おい、七海よ。一体我らに何をするつもりか?」
「いやー、ちょっと逃げられなくしてやろうかと」
「?」
耶倶矢の質問に適当に答えながら、俺はイメージする。
こんど創り出すのは、そうだな、鎖といこう。
イメージが完了すると同時に、俺の手の辺りから、掴んでいたそれぞれ二人の手へと、鎖が巻かれる。俺の手と二人の手が、鎖で繋がれた状態になったわけだ。
よし、作戦成功。これでもう逃げられない。
「懐疑。・・・なんですか、これは?」
夕弦が巻かれた腕を上げながら訊ねる。巻かれてるから、俺の手も一緒に上がる。
「よし、二人とも、今から言うことをよく聞いてくれ。なに、大した話じゃない」
俺は、それに答えず、話題の提示に試みる。乗ってきてくれるといいが。
うん、何か言われる前に話しちゃえ。
「1つ。まだ俺らの『勝負』は終わってない」
「何を今更。当たり前ではないか」
だよな、耶倶矢。まだ決着はついてないもんな。
「2つ。一時休戦と俺は言ったが、もう既に、再開している」
「疑問。しかし一度も、今から再開する、などとは言っていません」
そう。今までの会話にそんな旨を伝える言葉はなかった。なぜなら、まずタイミングが合わなかったのもあるが、俺がそんな話を持ち込まなかったからだ。
「その通り。だけど、言う必要がないなら、言わないのは普通じゃないか」
「質問。どういうことですか?」
簡単な話さ。思い返してみろよ。
「俺は、『あいつらを倒してくる』って言ったんだ。つまり、倒したら、休戦は終了って意味なんだぜ?」
「思考。・・・確かに、そうかもしれませんが」
「それは些か、暴論じみておるぞ」
耶倶矢の言うとおり、これは、正論ではない。あくまで、反論がしにくいってだけの暴論だろう。
だけどな、反論ができなければ、それは正しいってことなんだよな。
「そうかもしれないな」
「ならば・・・!」
「でも、『勝負』が再開してるのは変わらないんだよ、これが」
そう、これを暴論だと認めたところで、反論がない以上、俺の言ったこと、つまり、勝負は再開したことになんら変わりはない。
「そして、最後。4つ目。勝負内容は『鬼ごっこ』。鬼が、つまり俺が逃げているお前らを捕まえたら勝ちという内容だった。そうだろ?」
「首肯。その通りです」
「これまで俺が言ったことの結論はつまり」
俺は、そこで一旦言葉を区切り、二人の顔を改めて見回す。
「―――俺の、勝ちだ」
流石にこの結論に思うことはあるのか、すぐに二人が反論してくる。
「だが、我らは勝負の再開を認めてはおらんぞ!」
「そりゃな。認めてもらう必要ないし」
「反論。勝負はまだ、終わってません」
「お前らの手を見ても、同じことが言えるか?」
そう言うと、二人は目線を自分の手に向ける。
そこには、鎖で逃げられなく―――俺の手によって、捕まえられた自身の手があるのみだ。
「な?俺の勝ち」
うーん・・・感じ悪いな、コレ。殆ど騙したも同然だし。
「・・・致し方あるまい。ここは我らの敗北を認めてやらんでもない」
「同意。そうですね。素直に手を出した夕弦たちも夕弦たちですし」
お?意外と、すんなり引き下がったくれたな。
「しかし!」
おう?なんだ今度は?
「次はないからな、七海!」
「宣言。次は夕弦たちが勝ちます」
空いたほうの手で、ビッと俺を指差す二人。その動きはまるで間に鏡でもあるかのようにピッタリだった。
「ああ。いつでも相手になってやる」
うん?よく考えれば、その台詞はまるで、これからも俺と一緒にいるって言ってるようなものだけど?
・・・いや、考えすぎだな。あの表情でわかる。あれはまったくの無自覚で言ったものだな。
「そ、それはそうと七海よ」
「あ?なんだ?」
まだ言いたいことがあるのか?耶倶矢さんや。
「この、えーと・・・忌々しき鎖を解いてはどうだ?」
「請願。早くしてください。正直に言うと、結構痛いです」
「わ、悪い!」
マジか、ずっと我慢してたのか?流石に人の感覚は分かんないからな、うっかりしてた!
俺が鎖を消すと、二人は最初痛そうに手や手首をさすっていたが、俺が、話しかけると、それもやめて聞く体勢になってくれた。
「なあ、耶倶矢、夕弦」
「今度はなんだ、七海」
う、まあ、何回も話しかけてるけどさ。
「いやさ、ちょっとお願いがあるんだ」
「質問。なんですか?」
俺的には、ここからが一番言いたいことなんだけど、大分恥かしいな、これは・・・
いや、意を決して、覚悟を決めて、言ってやろうじゃないか。
「俺と、一緒に過ごさないか?これから先を」
「・・・は?何言ってんの、あんた?」
う!素が出るほど意味不明ですか、俺の台詞・・・
「疑問。説明を求めます」
説明、ね・・・恥ずかしいな、改めて説明してくれとなると。
「いや、だからさ、これから先、俺と一緒に過ごさないかって」
「だから、何でって訊いてんの」
耶倶矢、お前は一度もそんなことは言ってないぞ。
って、そんなことは言わないで・・・
つまり、俺がお前らを誘う理由ってことだよな?
「俺は、お前らを救いたいだけだ」
「懐疑。救う、ですか?」
「ああ。俺は、お前らを救える」
正確には、救えるかもしれないってとこだが、そんなこと言えるわけない。
「俺の力で、お前らのその悲劇を、変えられる」
「悲劇?一体、何のことやら」
耶倶矢・・・
「疑問。夕弦たちは、悲劇なんて知りませんよ?」
夕弦・・・
まあ、確かに、悲劇ではないかもしれないが・・・
「お前らは、やがて、どちらかが消えるんだろ?」
「「!!」」
二人から同時に驚いている感じが伝わる。というか、顔を見ればわかる。
「お前らは、もともと一人の精霊だったが、何度目かの現界の時に二人に分裂した」
「なんで、あんたが知ってんの・・・?」
耶倶矢の訝しげな声。もはや、あの芝居がかった口調でもない。
「その時には何故か知っていた。どちらかが主人格にならないと、両方が消えてしまうって。だから、今まで争ってきた。そうだろ?」
「驚愕。どうして知っているのですか」
夕弦の声にも、俺は答えずに続ける。
「俺なら、その定められた悲劇を!どちらかが消えるなんて馬鹿げた事実を!消して、お前らを救える!そんなふざけた世界の理なんて、俺が消してみせる!」
声を張り上げて、俺は叫ぶ。
「だから、俺と一緒に来い!耶倶矢!夕弦!」
あと一押し。
だけど、未だに驚愕と疑問から抜け出してない表情の、二人に向かってほかに何を言うべきなんだ?
「・・・それが、私たちを誘う理由?」
「ああ」
「確認。七海は、夕弦たちを救えるのですか?」
「ああ!」
俺は、大きく肯く。さっきの、多分なんてことはない。絶対に救ってみせる。
「・・・ねえ、夕弦」
「応答。なんでしょう耶倶矢」
「私たちさ、いろんな勝負をしてきたじゃない?」
「返答。そうですね」
「それが、まさかさ、途中から乱入してきた人間に二人して負けて、挙句、そのまま救われようとしてるんだよ?私たちじゃ出来なかった結末を言われてさ」
「思考。・・・それでも、夕弦は良いとおもいます」
「なんで?」
「返答。それは・・・」
「いや、やっぱいい。言わなくてもわかるから」
・・・おお?なんか置いてけぼり感がする。
いや、二人で話したいことだってあるんだろう。聞こえているが。目の前だし。
「ねえ、私たち、これからもずっと一緒にいられると思う?」
「思考。きっと、七海について行けば、あるかもしれません」
「だよね。私もそう思う」
うん?話がまとまったっぽい?
「七海」
「なんだ?耶倶矢」
今更、素が出てるなんて指摘することはしない。それは、あまりにも野暮というものだろう。
「私と夕弦、この先も一緒にいられる?夕弦と二人で、笑える?」
「・・・無理だな」
耶倶矢、それはちょっと違う。これは傲慢かもしれないけど・・・
「憤慨。どういうことですか?さっきと言ってることが違います」
夕弦も、落ち着け。
俺は、さっきの耶倶矢の訂正の意もこめて、口をあける。
「俺は、お前ら二人が笑える未来なんて、創る気はない」
「なら、なんで・・・!」
「俺は、俺ら三人で笑える未来にしたい」
ほんと、傲慢で、わがままで、欲深い願望だな。こりゃ。
二人は、俺のその言葉を聞くと、ハッとした表情になった。
「だからさ、言ってるじゃん。『俺と』一緒に過ごさないか?って」
言うことは決まった。最後の一押しといこう。
「三人で笑える、幸せな未来にしよう、耶倶矢、夕弦。いや、まあ、もっと増えるかもしれないけどさ」
新しく、精霊に遭遇する可能性だって、ないわけじゃないしな。
「っていうかさ、正直に言って、大切な、大切だと思える人を救いたいだけなんだ」
そう言って、今度は俺から手を差し出す。
さ、どんな返事が聞こえてくるかね?
「・・・夕弦、私は決めたよ」
「同意。夕弦も決めました」
そんな言葉が聞こえたと思ったら、さっきは意識しなかった柔らかくて温かな感触が、俺の手を包み込んだ。
「ふ、それではこれから先、世話になるぞ七海よ」
「請求。きっと幸せにしてみせてください」
あーもう、そこまで言われたら、何が何でもやってみせたくなるじゃん。もとよりその気だけどさ。
「・・・ああ!」
俺は、そう、笑って迎えたんだ。
よし、まず最初にやるべきことは、
「とりあえず、宿探しと飯だな」
そう言うと、二人は顔を見合わせて、やれやれといった表情で、
「ふ・・・全く、抜けておるな」
「早急。早く探しましょう」
そう言って、飛び出した。俺も慌ててついていく。
俺が見た、二人の表情は、笑っていた。
・・・な~んだ。笑えるじゃないか。ま。原作でも普通に笑ってたしな。
最後のほうになるにつれ、主人公の台詞(地の文含む)が、「~~しな」や、「~~よな」とかが多くなっていますね。もう口癖じゃダメでしょうか?ダメですね。
ここまで読んでくれた方、ありがとうございます。次回も読んでいただけると嬉しいです。