ということで、修学旅行編5話目。中々終わりません。駄文率高すぎです。
まさかここまで長くなってしまうとは……。
先週の金曜日に、ネタ切れを起こして書けなかったので、少々遅れて、今日更新いたしました。
というか、マジであとどの位かかるのでしょう?
それでは、どうぞ。
夜。
あれから何時間後かに、俺は目が覚めた。
が、他の奴らが起きなかったので、体感的には数十分間、そのままの体勢の維持を強制させられた。きつかった。
まあ今は、来たる温泉の時間に思いを馳せるとしようかな。
ちなみに、美九と狂三は、教職員用の部屋の一室を借りているらしい。
まあ、一般生徒と同じ部屋割りだと、すぐにバレるかもしれないからな。
さて。
これで結構、温泉を楽しみにしている。
いやあ、だってさ、温泉って気持ち良いじゃん?
八舞姉妹と出会った頃に行った旅館にあった温泉も、中々気持ち良かったし。
……あの時の八舞姉妹の温度は、思い出さなくていい。
ともかく。
「あとどん位なんだ? 入浴の時間まで」
「もうすぐだろ? 今、前の奴らが上がる頃だから、すぐだと思うけど」
「というか東雲、温泉楽しみにしすぎだろ」
「悪いか、殿町」
いやいや、と殿町は手と首を振った。
「でもよ、ちょっと聞いてくれないか、五河、東雲」
「どうしたんだ?」
士道が訊き返すと、殿町はちょいちょい、と手で招いた。
何だ何だ。
俺は士道と一度目を合わせ、殿町のもとに近寄る。
「ちょっと聞いたんだけどよ」
「何をだ?」
「それがな……」
殿町はそこで、一旦言葉を区切った。
「早く言え」
「ぐぇ」
が、俺が急かすように腹を小突いたら(強め)、珍妙な声を上げた。
腹を擦りつつ、続きを言い始める。
「何すんだよ東雲……。ともかくだな、ここの風呂場には、ある秘密があるらしいんだよ」
「ある秘密?」
士道が、首を傾げてそう言う。
一方俺は、それで大体の見当が付いた。
そういや、あんなことやってたな、原作で。
「そう、即ち……」
またしても言葉を区切る殿町。ウザい。
まあ、こいつだから、そこまで勿体振りたいってのは、分かる。
だがな、いい加減言ってやれ。
俺の思念が通じたのかどうかは知らないが、殿町は再度、口を開いた。
「――――どうやら、ここの風呂場の、男子側と女子側を区切る垣根の間に、少しの隙間があるみたいなんだよ」
「……で?」
「で、じゃないだろ五河! だって、それはつまり、その隙間からは、女子達がきゃっきゃうふふしてる桃源郷が見えるんだぞ!」
「……バレた時のことを考えたらどうだ?」
「ハッ! お前や五河みたいに、俺は、俺らは、美少女達にモテねえんだよ! 同居してねえんだよ!」
殿町は、拳を握り締めて、熱弁を奮い始めた
「そりゃお前らは? それこそ一緒に風呂とか入ったこともあるだろうよ! 着替え途中にばったり遭遇して、きゃー五河さんのえっちー、とかなったんだろ!? 違うか!?」
ごめん、それ、片方ずつあった。
俺は八舞姉妹と一緒に温泉入ったことあるし、おそらく士道は、五月あたりに特訓という名目で、十香とラッキースケベイベントを体験しただろうし。
俺らが気まずそうに顔を逸らしたのを見た殿町が、さらに大声を上げる。
「あったのかよおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
そう叫んで殿町は、置いてあった座布団に顔を埋めて、呆れる程に泣き始めてしまった。
俺と士道はアイコンタクトをして、結論。
放っておこう、となった。
「次のクラスー、風呂の時間だぞー」
とある男性教師の声がした。
数分後。
未だに泣き続けている殿町を尻目に、戻ってきた同じ班の奴らと駄弁っていた時だ。
ようやく、という感想を俺は抱きつつ、入浴の準備をし始める。
殿町も、『
「それじゃ、先に行ってるから」
一番に準備を終えた俺は、真っ先に部屋を出た。
道順を覚えているかどうか心配だったが、勘で行ったら着いた。しかも、一番乗りっぽい。
微かに優越感を覚えつつ、適当な籠の前に行って手早く服を脱ぎ、タオルを腰に巻く。
がらがらがら、と戸を開けて、いざ温泉へ!
……とまあ、冒険風に言ってみたが、まあ、一般的な温泉だ。うん。
横を見れば、女子側との区切りになっている垣根があるが、別に覗く気は無いし。
俺はなんとなくで決めたシャワー台の前に行き、身体と頭を洗い始める。
八舞姉妹との勝負の時、海でとことん泳いだので、髪が気持ち悪かったんだよなあ。
……女々しいとか言わないでくれ。結構気になるんだから。
遅れてきた奴らが戸を開けてくる頃に洗い終え、さて温泉に浸かるかという時に。
事件が起きた。
「…………ん?」
ごしごし、と目を擦って、今見えたものを否定しようと再度見る。
温泉に浸かる為に、方向上向かざるをえなかった垣根。その最上部。
見覚えのある橙色の髪が見えたんだ。
そしてそれは、見間違いではなかったらしい。
「か、耶倶矢!? 夕弦!?」
「うむ? その声は……」
「発見。見つけました。あそこです」
「落ち着いてんじゃねーよ! 早く戻れ!」
バレるといけないので、小さく、だが強く、近寄りながら命じる。
なんというか、その、こいつらの裸(多分)を、他の奴らに見られたくなかったんだ。
ともかく。
腹辺りで洗濯物のように垣根に引っかかっている二人を見る。
一度俺は振り返り、そこそこ湯気が仕事しているのを確認した上で、俺は垣根を駆け登り始めた。
二人が寄り掛かっている近くまで行き、丁度垣根が終わってる所に手を掛け、足を踏ん張り、向こう側を見ないようにする体勢だ。
よし、この体勢なら、こいつらも、この向こうにいる女子達も見えない。男子から見ればすぐさまバレるが、まあまあ高いし、湯気も信じよう。
「何してるんだ!?」
「説明。七海を探していました」
「何故!? ホワイ!?」
「ふ、それはな……こうする為だ!」
「は?って、ちょ、おわあ!?」
耶倶矢が溜めた後、俺は腕を掴まれた。そのまま、向こう側に引きずり込まれる。
気付かれる気付かれないを考えず、本能的に叫んでしまった。
「くっ……!」
向こう側に俺の身体が移った瞬間、二人は手を離して着地の体勢に入っていたので、それに倣って、俺も着地に備える。
足を下に。地面に垂直に。
だがここで、俺は誤算があった。
ここは、温泉。入浴場。
即ち――――足場が濡れているということに。
「にょわぁっと!」
耶倶矢と夕弦が綺麗に着地するのを尻目に、俺は滑った足を何とかしようとする。
結果、一応尻餅を着くようなことは無かったが、無様な声を上げてしまった。
って、それよりも。
「何でこっち側に連れてきた!? 何考えてやがる!」
俺は体勢を戻して、二人に詰め寄った。
幸いにして、二人はタオルを巻いてたし、俺のタオルも取れていなかったので、まあ、良かった。
「何って、単なる勝負であるぞ?」
「しょ、勝負?」
「肯定。はい。初めは、この垣根の天辺に先に登った方が勝ちというものでした」
その地点で色々おかしいとは思うが、とりあえずスルーしてやろう。
「……で?」
「うむ。登ったら登ったらで同時であってな。ならば第二試合ということで、先に、七海、お主を見つけた方が勝ちというものに変更したのだ」
「何でその発想が出たのかを俺は小一時間程問い質したい」
「鎮静。まあまあ。良いではないですか」
「よくねえよ……」
はあ。まあ、理由は分かったが……。
それじゃあ、
「……どうして、俺をこっち側に?」
「返答。それはですね――――」
夕弦が答えようとするのと同時。
「あれー? 耶倶矢ちゃーん? 夕弦ちゃーん? そこにいるのー?」
「他にも別の人の声がしたんだけどー?」
「まさか、男子……!?」
!
「やっべ……!!」
声からして、亜衣麻衣美衣か。
遂に、恐れていた事態に陥ってしまった。
ここで見つかったら、俺は残りの学校生活を、変態のレッテルと共に過ごさなければならなくなる。
男子からは英雄と、女子からは、……、…………何て言われるだろ? やっぱ普通に変態か。
でも、普段の学校において、俺ってあまり男として認識されていないんだよなあ……。
っとと。今はそれどころじゃない。
ぺたぺた、という足音は、段々近付いてくる。
この距離で垣根を駆け登る訳にも行かないので、慌てて辺りを見渡すと、数秒間はなんとかバレなさそうな物陰を発見した。
「二人とも、なるべく時間稼いでくれ!」
「承知した!」
「請負。任せてください」
だ、大丈夫だよな?
一抹の不安を覚えつつ、その物陰に俺は飛び込んだ。
同時、会話が聞こえ始めた。
『あれ? 二人だけ?』
『もう一人いなかった?』
『声がしたんだけど』
『気のせいではないか?』
『否定。ここには、夕弦達だけしかいませんでしたが』
よし、なんとか持ちそう。俺はその間に、やることをしよう。
とりあえずの打開策は考えてあるので、早くしよう。時間は限られている。
『本当かねー?』
『隠してないかねー?』
『嘘はいかんぞー?』
誰だよお前らっ。
出そうになる突っ込みを飲み込んで、意識を集中させる。
声すら意識しなくていい。
意識するのは――――視るのは、俺自身。
俺自身の何か、を消すのはそれ程負担にはならないので、すぐに出来るだろう。
まずは、染色体を創り出す。
男性には本来存在しない、二つ目のX染色体。視たことは無いが、理解しているので、なんとか創り出せた。
次に、Y染色体を消す。
これで、性別上において俺は、〈女性〉になった。
後は、筋肉量や脂肪量、骨格や脳構造なんかも消したり創ったりで調整して……。
「……よしっ」
これで、俺は、本当の意味で、見た目も全て、〈女子〉となった。
顔自体は殆ど変えていないが、胸の大きさとか、お腹や太腿辺りの筋肉量。髪の長さも、さっきまでとは違う。
……勿論、『アレ』は付いてません。
「す、すみませんっ。その、彼女たちには、内緒にしてって頼んでたんです」
声帯の形も変えたので、どこか高く聞こえる声。
俺は、『罪悪感に負けて、その姿をさらした少女』を装って物陰から出てきた。
「お?」
「ほ?」
「へ?」
同じように口を開けながら、亜衣麻衣美衣は俺を見てきた。
う、うぅ……結構、恥ずかしい……。
視線を下にする訳にはいかないので、横に逸らす。
「お、おお? 君可愛いねー。うちのクラスじゃないみたいだけど、どなた?」
「ええと、その、あの……」
「もしかしてずっと入ってたの? それなら、バレない内に上がった方がいいよ?」
「え、あ、はい。そうですね」
「ん? でも、どっかで見たことあるような気が……」
美衣のその言葉に、少しだけ、ビクッと肩が跳ねる。
大丈夫。バレる筈が無い。
髪の長さを調節して、右目部分は前髪で見えなくしてあるし。
「……お主、七海か?」
「耶倶矢か。ああ。まあな」
「驚愕。まさか、女の子になってくるとは……」
静かに近付いてきた耶倶矢と夕弦に、小声で大まかな説明をする。
その間、三人に横から凝視されたけど、なるべく気にしない振り。
「そ、それじゃあ、お……じゃない。私は上がりますので……」
説明を終え、そろそろと逃げようとする俺。
が、
『……あー!』
不意の大声に、過敏になってる感覚が反応してしまった。先程と同じように、ビクッ、っと肩が跳ねる。
な、何だ一体……?
「分かった。どこかで見たことあるなと思えば!」
「あなた、もしかして」
「ナナちゃん……東雲ちゃんの親戚じゃない?」
…………えーと。
「え、ええ、まあ、はい」
咄嗟に、肯定の返事をしてしまった。
「名前は?」
「し、東雲、な、な、な……」
名前? そうだな、七だから……。
「……
まあ、これで良いか。
「内緒で付いてきたの?」
「いえ、それは、その」
そうだな、ここは……。
「今日お忍びで来られる、アイドルのマネージャー、です」
ということにしておこう。
「じゃあ、そのアイドルって、誰?」
「それは、ええと」
多分、教えちゃ駄目だから……。
「内緒、です」
俺がそう言うと、三人から、えー、という不満気な声が上がった。
俺は一歩後退り、耶倶矢と夕弦に向き直る。
「……俺が理由を作るから、お前らは俺の擁護に回ってくれ」
「うむ。任せるがいい」
「了解。分かりました」
その返事を聞いて、俺は再度、三人の方に体を向ける。
「それでは、そろそろ時間なので、お……じゃない。私は退出させていただきます」
「えー、もうちょっといいじゃーん」
「遊んでいこうよー」
「洗いっことかしようよー」
「弁護。七霞さんも、お仕事があるのでしょう。ここは帰らせてあげませんか」
「そうだな。なに、我らがお主らと戯れてやらんこともない。ほら、
すまん。恩に着る……!
俺は二人に片手を上げて謝りながら、女子風呂を退出した。
……身体を戻して、なんとか帰ってきた男子風呂では、殆どの男子どもが、なんか沈んでいた。気持ち的な意味で。
聞くところによると。
覗けたはいいけど、湯気で何も見えなかったらしい。
女体化した意味を問いたい……!
きっとこう思ってる人は少なくない筈。
答えは、自分も分からない、です。
あれです。士道くんも士織ちゃんモードがあったんだから、七海も似たようなモードがあってもいいじゃないかということで。
なかなか終わらない修学旅行。まだ作中では、一日と経っていないんですよ。
まあその分、二日目は一気に過ぎて、三日目は……どうなるんでしょう?
それでは、次回も読んでいただけることを願いつつ、ここらで終わりとさせていただきます。
まだまだ書くことはたくさんあるぞー。