そんな感じで、ここに書くことが特に無いので、早々に切り上げます。
それではどうぞ。
「〈ディザスター〉に、〈プリンセス〉……〈ベルセルク〉や〈ナイトメア〉、〈ディーヴァ〉と〈ハーミット〉、〈イフリート〉までもが、同じ街にいる……」
某国。
エレンは一人、そう呟いた。
見ているのは、一つのディスプレイ。ただし、自分よりも大きな、と前置きが必要だが。
映るのは、一人の少年と、複数の少女たち。
彼らは一様に、この世の物とは思えない衣装と、武器を携えていた。
しかし、彼女が興味があるのは、最初の二人だけに過ぎない。
つまり、〈ディザスター〉と、〈プリンセス〉。
どちらも、強大な力を持つ、『精霊』、である。
「……ふふ」
小さく、笑う。
何故ならば、彼と彼女は。
――――強いから。
〈プリンセス〉とは直接剣を交えたことは無いが、〈ディザスター〉とならある。
最初は拍子抜けする程弱かったが、実際は違った。
『反転体』と呼ばれる姿になった〈ディザスター〉は、いくら本装備ではなかったとはいえ、こちらを圧倒するまであった。
こんなことは初めてだ。
自分と、対等に戦えるかもしれない者が現れるなど。
「そろそろ、再び戦ってみたいものですね」
「ならば、行けばいいじゃないか」
「……せめて、ノックぐらいはしてくれませんか」
扉が開く音も小さく、この部屋に入ってきた人物の名を呼ぶ。
「――――アイク」
「すまないね。つい、覗きたくなってしまって」
「誤解を招く言い方をやめてください」
はあ、と嘆息しつつ、アイク――――アイザックの方に向き直る。
「それで、何の用でしょうか?」
「いやいや、そろそろエレンも退屈する頃ではないかと思ってね」
どうやら、お見通しのようだった。
即ち、強い者と戦いたいということが。
「どうだろう? もう一度、日本の天宮市に行ってみる気はないかい? そして再び」
〈ディザスター〉と、戦ってきたらどうだい――――と。
彼はいつも通りに、訊いてきた。
「いいのですか?」
「ああ、いいとも。大義名分として、〈プリンセス〉の監視、なんかはどうだろう」
成程、それならばわざわざ日本に出向く理由が出来上がる。
しかし、一つ、気になることがあった。
「ですが、どうやって対象に近づきましょうか……。一応、〈プリンセス〉の監視もやっておくべきでしょうし」
「それなら大丈夫みたいだよ」
疑問で首を傾げつつ、次の言葉を待つ。
「どうやら近々、彼らは『修学旅行』というものに行くらしい。その行き先に紛れ込んだらどうだい?」
なんとタイミングのいいことか。
それならば、難無くかどうかはともかく、自然に近付くことが出来る。
そして、〈ディザスター〉と〈プリンセス〉は同じ高校に通っていた筈である。
であれば、〈ディザスター〉と戦う機会も、そのうち生まれるだろう。
「分かりました。ありがとうございます、アイク」
「気にしなくてもいいさ。なに、君なら負けることはないだろう?」
「――――はい」
静かに、だが、確かな自身を以って、エレンは頷いた。
―――――それが、彼女の悪夢の始まりとは気付かずに…………。
「おお……!」
十香は、その腕を大きく広げて、感動を表した。
「これが――――海か!」
言って、更にその腕を広げようとする。
「はは、そういや、見るのは初めてになるんだっけ」
「うむ!」
苦笑いの表情を浮かべている士道のその問いに、十香は大きく頷いた。
そう、海。
「結構広いもんだな」
「ふん、我らにとってしてみれば、海など見飽きたものだがな」
「期待。それでも、七海と一緒なんですし、楽しくなりそうです」
夕弦の言葉に、やや顔を赤くしながらも、耶倶矢は、
「……まあ、そりゃ」
十香とは対照的に、小さく、頷いた。
俺はそれを微笑ましく思いつつ、眼下に広がる藍を見渡す。
今日は七月一七日。
―――――修学旅行が、始まったのだ。
「それでは、皆いるか、点呼を始めてくださぁい」
タマちゃん先生の言葉に、班毎の点呼を開始し始める。
ものの数十秒でそれも終わり、全員で面白くも無い主任の先生から留意すべき事などを聞き、やっとの思いでまずは各自の部屋へと向かう。
行く途中、皆の表情は、隠しきれてない『楽しみ』の色で染まっていた。
それは、今から始まる修学旅行に対するものかもしれないし、お忍びで来るという、あるアイドルの存在にかもしれなかった。
しかし、まあ。
「……はあ」
俺は、例外かな。
というのも、
「えーと、今九時ぐらいだけど、自由時間の時までには来るって言ってたし……」
そう、そのうちお忍びで来るというアイドル――――美九の存在があるからだ。
別に、来てほしくない訳じゃない。
ただ単に、美九に会った生徒達が暴れたりしないかとか、そんな事を心配しているんだ。
「…………はあ」
再度、溜め息を漏らす。
「おうおうおう、どうしたんだ東雲。元気ないじゃないか」
「うるさい、殿町……」
俺の言葉を気にした風でもなく、はっはっはと、真横で笑う殿町。うん、普通にうるさい。
「まあまあ、ちょっと聞いてくれよ。ついでだ。五河も来い」
「何?」
「どうかしたのか?」
殿町が士道を呼び、三人となって、歩きながら喋る。
「いやさ、ちょっと噂になってんだけどよ」
「何がだ?」
噂? 何の噂なんだろうか。
「それが、今日来るというアイドルについてだよ」
「……ふーん」
それを聞いて俺は、殿町に気付かれないよう、士道とアイコンタクトをとる。
即ち、内緒にしておこう、と。
士道含め耶倶矢と夕弦、十香は、お忍びのアイドルが美九だっていうことを知っている。
だが、美九は、今人気爆走中のアイドルな訳でもある。
だから、それについては黙っておこうという風に、話し合いの結果決まったのだ。
大体、そんなこと言ったら、知り合いなのか、と勘繰られてしまう可能性もあるからな。
「それで? どんな噂なんだ?」
士道が、殿町を催促する。
それを受けた殿町も、何故か微妙に自慢気に話し出した。既に他の奴らは知っているのか、ボリュームは落とさないままだ。
「ああ、そのアイドルって――――『美九たん』じゃないかって噂だぜ」
殿町の声で『美九たん』なるニックネームが出たことに少し寒気を感じたが、まあ、気にせず話を聞こう。うん。別に、ヤキモチなんて焼いてないからな。
「でも考えてみればそれに行き着くよな。わざわざ、スタイルが良くて歌が上手いっていうヒントを出したってことは、他のアイドルよりも優れているってことなんだろうし、となると、美九たんしかいないよな」
……普通にバレてるじゃん、美九。
いやまあ、別に隠そうとしているのは俺と士道だけなんだけども。他の三人は、言われたから、っていう面が強いし。
「まあ、会ったら分かるだろ」
俺はそう締めた。
さて、ほら、あの部屋じゃないのかな。俺らが使う部屋って。
「お、ここか」
部屋番号を確認し、入室。とりあえず今からは、実質の自由時間となっている。
というのも、行き先を変更したお詫びにということなのか、今回の修学旅行、個人の自由時間が大幅に設けられているんだ。更に、水着も自由。
原作ではどうだったか覚えてないが、嬉しいことではあるし、別にいいか。
「さて、勿論海に行くよな?」
殿町が訊いてくる。
ここで、『泳ぐよな?』という台詞が出ないあたり、本当の目的が見え見えだ。
「ああ、そうだな」
士道は、十香が心配なのか、それに賛同する。
「俺は、少し休んでから行くよ。先に行っててくれ」
俺はというと、美九からの連絡がいつでも来ていいように、少し部屋で待機することにした。
ま、すぐ来るだろ。
「オーケー。じゃ、着替えたら俺ら行くから」
そう言って、殿町は大きめのタオルと水着を取り出した。
「って、ここで着替えんのか?」
「え? 他にどこで着替えんだよ」
訊いた士道は、それもそうかという表情で、バスタオルやらを取り出す。
……俺も用意は済ませておくか。
男の裸体なんて見たくも無いので、俺は視線を自分の荷物へと落とした。
士道達が行ってから数分後。
プルルルルッ、と携帯が鳴った。
「……やっと来たか」
俺はそう呟き、それに出る。
「もしもし、美九か」
『はいー、そうですよー。今そちらに着いたのでぇ、連絡しましたー』
「そうか。分かった。迎えに行くよ」
『いえいえ、一応、先生方を経由してから、七海さんに迎えに来てもらうことにしますー』
「? 俺をピンポイントで指名して大丈夫なのか?」
『大丈夫ですよー。だってぇ――――』
そこで、少し間が空いた。
何だ?
『――――今変わりましたわ』
「……へ?」
この声は……。
「狂三!?」
『ええ、そうですわ。ということで、わたくしがいますので、そこらへんは大丈夫でしてよ?』
「いや何がというわけなのか分からないんだが。と、それよりも、どうしてお前も一緒なのかが分からないんだが!?」
『簡単なことですわ』
狂三は、一度そこで一息ついて、
『今わたくしは、美九さんの
「そうなの?」
はい、という答えが返ってきた。
……そ、そうだったのかー。
確かに、天宮市に留守番させておくのは心が痛んだが、来禅の生徒ではない以上、そうせざるを得なかったんだよな……。
一度、来禅に編入させてもらえばとは言ったんだが、今はいい、と言って断られたんだよなあ。
今は、って、どういうことだろう?
ともかく。
『わたくしの知人だからという理由で、七海さんに、耶倶矢さんや夕弦さんをお呼びいたしますわ』
「分かった。それじゃ俺はもう少し待っているから、先生が来たら行くよ」
『はい、お待ちしておりますわね――――それじゃあだーりん、少し待っててくださいねー』
最後に美九に返したのか、そんな声がした。
さて、俺も着替えるとするかな。
一応、誰もいないが下半身をバスタオルで隠しつつ、俺は水着に着替えた。シンプルな、黒の海パンだ。
ただし、胸の傷を隠すために、上から薄手のシャツを着ている。こっちも黒。
そうして待つこと更に数分。
こんこん、と扉がノックされる音が聞こえた。
『東雲くんいますかぁ?』
やや早足に近付き、扉を開く。
「はい、どうかしましたか?」
何も知らされていないという体でそう訊きつつ、やっと来たか、という感想しかない。
来たのは、タマちゃん先生。まあ、担任だしな。
「えぇと、その、東雲くんあてに連絡があったんだけど……」
俺は無言で続きを促す。
「えー、今から東雲くんは、八舞の双子ちゃんたちを連れて、ここに行ってください」
そう言って、タマちゃん先生は地図を取り出し、場所を示した。
えーと、どうやら、海を挟んだ向こう側か。
この或美島は三日月のような形をしているので、丁度その先端同士の向かい側に、美九達はいるようだった。
ははーん、さては〈フラクシナス〉の転送装置を使ったな?
「……何でですか?」
一応、俺は何も知らないということにしてあるので、訊いておく。
「うーん……教えられないですねぇ」
コケた。
ま、いいが。
おそらく、連絡したのが、今日来るアイドルだっていうことを伏せておきたいんだろう。広めないために。
「まあ、分かりました、いってみます」
「はぁい、特例ということにしておきますのでぇ、多少時間を過ぎても大丈夫ですからね」
それは、気遣ってくれているととるべきか、やっぱり守らなくちゃいけないのかととるべきか。
ま、いいか。
俺は持って来ていたスポーツバッグを手に(必要最低限の物だけを抜き出して入れてある)、部屋を後にした。
「ふむ、して美九と狂三は、今向かう先におるというのだな?」
「ああ。正確には、途中で転送装置を使わせてもらうんだけどな」
「理解。分かりました」
あれから耶倶矢と夕弦を探し、というか群がられていたのを連れ出し、俺は人目の無い所へと歩いていた。
二人は、原作で見たのと同じ、白のレースに黒地の水玉と、その逆の黒のレースに白地の水玉模様の水着だった。
正直、恥ずかしくて見てられない。
顔が赤くなっていることを自覚しつつ、そろそろかとインカムをバッグから探し出す。
その途中。
「お、おい、七海よ」
「? どうかしたか?」
「一言。何か言うことがあるとは思いませんか」
言うこと? 何だろう?
俺の疑問が分かったのか、二人は微妙な表情になった。
な、何だよ、一体。
「ほら、その、あれだ!」
「あれで分かるか」
俺はエスパーじゃねえ。……あ、能力持ってたな。
ともかく。
「示唆。ほら、夕弦たちを見て、思うことは無いんですか」
お前らを見て思うこと……?
…………ああっ!
成程な。それならそう言えばいいのに。
「くく……どうやら、気付いたようだな」
「首肯。そのようですね」
「ああ」
つまり、
「――――似合ってるぞ、耶倶矢、夕弦。超可愛い」
これの筈だ。
俺がそう言うと、二人して顔を赤らめた。
「ふ、ふんっ。当然であろう。我ら万象薙ぎ伏す颶風の御子、八舞の名を持つものぞ。その美貌は世の凡人が見惚れて当たり前なのだ」
「感謝。ありがとうございます。とても、嬉しいです」
どうやら正解だったっぽい。よかったよかった。
目を逸らしながら強がる耶倶矢に、本当に嬉しそうに微笑む夕弦。
うん、やっぱり可愛いな。
「……っと、そういやインカム探さないと」
俺の方も、照れ隠しにわざわざ言葉を発しながら、再度インカムを探し始める。
程無くして、見つかった。
それを右耳に付け、通じるか確認。
「あー、通じてるか?」
『はい、大丈夫ですよ。通じてます』
「……神無月さん?」
通信にでたのは、どうやら神無月さんのようだった。
そういや、今日から琴里は〈ラウンズ〉とやらの集まりだったっけ。
「……まあ、お願いがあるんだけど」
『転送装置ですね?』
「どうして分かった?」
俺はまだ、何も言ってないぞ。
『まあ、美九さん達を送ったのは私たちですし、彼女達が何をしてほしいかなども聞いてますしね』
ああ、つまり、既に俺を呼び出す方法とかは知っていたんですね。
「それなら話が早いな。頼めるか?」
『別にいいですよ。十秒後に、一旦呼びます。大丈夫ですか?』
「おう」
俺はインカムに向けていた意識を、耶倶矢と夕弦に向ける。
「えと、今から転送装置を使わせてもらって、目的地に行くからな?」
「うむ。承知」
「同調。はい、分かりました」
さて、残り数秒。
そして、転送装置使用時の浮遊感が、俺らを包んだ。
――――アイクの口調が分からん……っ!!
序盤の二人の会話については、ノーコメントでお願いします。
修学旅行において、『自由時間大幅増』と、『水着自由化』については、独自設定です。なぜなら、そっちの方が都合がいいから。
ただし、『水着自由化』は、原作でどうだったのかが分からなかったので、一応、ということで書いておきました。
なので、それが判明したら、少し修正入れておきます。
それでは、次回も読んでいただけることを願いつつ、ここらで終わりとさせていただきます。
えーと、美九の水着は、アンコール3の口絵にします。