もうちょっと主人公の心情をダウナーに書くつもりが、気が付けば通常運転。駄目じゃないですか。
ようやく美九主体に書ける!と思ってたら、やはり次回になりました。
ということで、次回はやっと美九とのデート回ですかね。
今回は、神様ちゃんとの会話が主です。
それではどうぞ!
落ちていくが、風を生み出すことでなんとか体勢を保ち、人目のない所を選んで着地する。
さて、どうしようか。
『結局、自殺を選ぶんだね、七海くん』
楓か。
まあな。
『だったら、大振りの剣でも創って自分を刺したらどうだい?おそらく、それで死ぬと思うよ』
だろうな。
だけど、それじゃ死体が残るだろ?それは避けたいんだ。
流石にここで声に出す気はないので、頭の中だけで会話する。
『ふーん、そうなんだ……』
な、なんだよ。
『いやさ、それはただの怯えじゃないのかいと思ってね。だって、言い訳にしか聞こえないし』
そんなつもりは無いんだが。
まあ、人の言葉を聞いて何を思うかなんて、強制出来ないけども。
『で?それじゃあどうするつもりだい?死体を残さず死ぬなんて、まず不可能じゃないか』
うんにゃ。ちょっと語弊があるな。
別に死体を残さない必要なんてないんだ。
『というと?』
死体を残さないではなく、死体を晒さない、だ。
『……ああ、成程』
分かってくれたか。
ということで、俺はとりあえず歩くか。時間的に猶予はあるのかどうか怪しいが。
『でもさ、七海くん。そんな死に方なんてあるのかい?』
ああ、あるとも。
目指すのは、
「……海、とかな」
落ちていく最中に、海の方角は分かっている。
本来ならぱーっと飛んで行きたいんだが、そんなことしたら、〈フラクシナス〉に発見されちまう。だから、てくてく歩くことにした。
『それじゃあボクは、君が関与した精霊達の為に、君を止める側になろうか』
そっちの方が君と楽しくお話できるし、と聞こえた。
楽しくってなんだ、楽しくって。
『さて、じゃあ始めようか』
……まあ、お前のしたいことは分かる。
お前が生きていた頃、よくやったもんな。
『まずは景気付けに、この台詞から始めようかな』
それじゃ俺も、こう思うことにしよう。
『ボクたちの――――』
俺たちの――――
『――――
――――
対話ゲーム。
どちらから言い出したかも分からない安直なネーミングだが、内容を表すには十分かもしれない。
前の世界で、俺と楓がよくやっていたことだ。
今はそうでもないが、昔はよく意見の対立があった。
その際、最終的に似たような台詞が入るから、そのうちそれが様式化というか形式化して、『ゲーム』と言うようになったんだ。
要は、ただの口論。口喧嘩とも言うし、ディベートの縮小版みたいなものだ。
そして、どちらかの意見に相手が了承、もしくは反論出来なくなったら、終了。喧嘩でいう勝敗も決まる。
それが、今から始まる戦争だ。
『それで、君は本当にそれが償いになると思っているのかい?』
ああ、他に方法が見つからない以上、その選択肢を取るのは当たり前だろう。
少しずつ沈下していく心情を意識しながら、俺は頭の中だけで会話する。
『それじゃあ、他の選択肢があれば、君は自殺をやめるんだね』
他にあるならな。
だが、考えうる全ての選択肢に通ずる反論として、先も言ったが、『死体を晒さない』ということが絶対条件な。
『その条件は、今から君がすることにも当てはまるんじゃない?』
路上に肉片が飛び散っているのと、海に沈んだり肉食魚の餌になる方が、俺という身体は無くなるだろ。
だから、当てはまるとはいえ、その中での最善だと思うぞ。
『自己満足だね。他者の気持ちを思わない、自己満足の自己完結だ』
違う。他者を思っていないなんてことはない。
きっと、俺が死ねば、少なくとも耶倶矢と夕弦は悲しんでくれるとは思う。多分。きっと。……まあ、希望的観測かな。
で、そんな奴らが俺の死体を見たらどうなると思う?
『まあ、悲しみは増大するかな。死を確実なものにしてしまうから』
だろ?
だから、死体を残したくないんだよ。
『でも、それすらも自己満足だね』
……何でだ?
『じゃあ逆に訊くけどさ。君はもし八舞姉妹が死んでしまったとして、その死体を見つけ切れなかったらどう思うんだい?』
絶対に俺が護るから、そんなことはない。
『今から死のうとしている君が言ったって、信憑性はまるで無いね』
む。
『で?たとえばの話さ。どう思うの?』
そうだな……。
……絶望する、だろうな。
『どうして?』
死体が無いということは、俺自身が知らないところで死んでしまったということだ。つまりそれは、俺の力量不足で、あいつらを護れなかったということに他ならない。
『うん、だろうね。まあ、あくまでたとえばだから。あんまり考え過ぎなくてもいいんだけどね』
でも、それがどうしたって言うんだ?
『その立場を逆転しているのが、今のこの状況ってことだよ』
そんなことは分かっている。
だが、それが何だっていうことだ。
俺の今の答えは、俺が耶倶矢や夕弦たちを護るという誓いのもとで考えていることだぞ。立場は逆転しても、心情までは逆転しない。
『でもさ、きっと七海くんが死んでしまったら、彼女たちはこういう感情を得ると思うよ』
楓は、そこで一旦間を置いた。
そして、言う。
『――――絶望。虚無感。喪失感。悲嘆。凄愴。哀絶。痛哭。何でもいい。ありとあらゆる【悲哀】の感情だね』
それを、君は看過するのかい――――と。
楓は言う。
それを頭の中に聞いた俺は、さらに感情が沈むのを感じた。
そして、自分でもぞっとするような声で、言葉を発した。
「……それでも、だ」
辺りには誰もいない。だからこそ、言葉を口にした。
「時間は残酷だ。たとえどんな感情でも、時間は癒してくれる。それが嬉しさでも歓喜でも。悲しみですらも――――ってのは、何の台詞だったかな」
『つまり君は、たとえ彼女たちが悲しんでも、そのうち時間が癒してくれるだろう、とでも言うつもりかい?悲しませない為に、死なないという選択を無視して』
「それは、償っていないからな」
『それが、逃避だとしてもかい』
前も言ってたな、それ。
だが、逃避じゃない。
『自分勝手すぎる感情論だね』
「ああ、自己満足の理想論かもな」
そして、沈黙が訪れる。
未だ勝敗は決していないが、両者が言うことを決めかねているからだ。
楓は反論してこないが、もともと反論するような台詞ではない。
俺も追い討ちかければいいんだろうが、その為に言えることが見つからない。
だからこその、沈黙の膠着だ。
……そして、どれくらい経っただろうか。
ぼちぼちと人の姿が見えるようになっていた。今まで会わなかったのが不思議なくらいだ。
既に〈フラクシナス〉は俺が脱走したのに気付いているはずだ。おそらく、探しているだろう。
今が何時かは分からないが、制服姿の奴も何人かいるので、もう学校は終わったのだろうな。
俺は休憩を挟みつつ、海を目指して歩く。
視界に映るのは全て、情報。
そこに『存在』する情報。この『地』の情報。
それを視ながら、海を目指す。
「……で?何か言うことは無いのか?もう大分時間が経ったみたいだが」
人がいるので、小さく声を発する。
携帯で電話しながら歩いてきた制服姿の女生徒を避けつつ、歩く。
『……うん、そうだね。再開しよう』
少しの間があって、楓から返事がある。
『……ボクと君は、対立するね』
「ああ、俺とお前は、対立する」
……いきなり、飛んだな。
今から始まる言い合いは、様式化した、形式化した台詞だ。
『やっぱり、ボクらは向かい合わせだね』
「違うだろ。どちらかというと、背中合わせだ」
人目が無いのをいいことに、俺も実際に言葉を発する。
『どうしてだい?結局意見は対立したまんま。対等に対立して、対面しながら対話をしているじゃないか』
「たとえ対等に対立しているとしても、俺らは互いを見ていない。対面なんかしていない」
『そんなことはないね。向かい合って対話しているんだから』
「互いに背を向けて、対話しているんだよ」
言葉は、続く。
「背中合わせだからこそ、絶対に重ならない。妥協も譲渡もない、ただの言い合いだ」
『向かい合っているからこそ、歩み寄れる。ボクらの意見は対立し、お互いがお互いを否定しあっても』
言葉は、重なった。
「それは現実を見ていない、理想論だ」
『それは理想を語らない、現実論だね』
再度、対話する。
『理想を語って、何が悪いんだい?』
「現実を見たところで、何が悪い?」
『……やっぱりボクらは、向かい合わせに対話するんだね』
「……結局俺らは、背中合わせで対立する」
さて、そろそろ最終場面かな。
元々言い合っていた内容で、俺らは対話する。
『……君は、死ぬべきではないね』
「……俺は、死んでしかるべきだ」
『……ボクは、君に死んでほしくない』
「……俺は、自分の死を選択したい」
理想論と、現実論。感情論と、願望論。
背反する意見はやがて、収束する。
自論を押し通しただけのその結果は、つまり。
『……君は、意見を曲げるつもりはないみたいだね』
「ああ。つまり今回は、俺の勝ちか」
『うん』
今回は、俺の勝ちだった。
そうして、俺らの
『でも』
ん?
『もし、君が死ぬ必要がなく、誰も悲しまない償いがあるとすれば、君はどうするつもりだい?』
はっ、もしそんな方法があったら、
「……勿論、食い付くだろうな」
『うん。それが聞けてよかったよ』
だが、それが一体何だって言うんだ?そんな方法が無いからこそ、今俺はこうして歩いているんだろうが。
『知ってるかい?裁判で判決を下すとき、裁判員は複数いるんだよ?』
は?んなこと知ってるに決まってんだろ。中学の時に習ったことじゃねえか。
中学生にして高校生並みの学力と知識を誇っていたお前が、何を今更。
『つまり、償いの方法は君が一人で決めるべきじゃないってことだね』
……言いたいことが見えないんだが。
『それじゃ七海くん。その【眼】で視てごらん。君の視界には【音】の情報も見える筈だよ』
言われなくとも、気付いてはいるけども。
それも含めて、言いたいことが分からないんだって。
『分からなくても答えはあるさ。それじゃ』
あ、おい、まさか。
『じゃ~ね~』
帰りやがった!
どうしたんだ突然。まるで、時間だとでも言うように帰っていったぞ。
いや、帰るという表現もおかしいか?
そんな時、後ろから声がした。聞こえたし、視えた。
「なーなーみーさあぁぁぁん!」
聞き覚えのある声だな。
というか、一瞬で分かった。
俺は音源に目も向けず、一目散に逃げ出した。
いつの間にか、また誰もいなくなっていてよかった。目立つからな。
『その人を、捕まえてください!』
明らかに質が違う声がした。
そして突然、進行方向が塞がれた。
「な……!?」
いたのは、人。
ただし、その殆どが同じ服を着ているから、不気味さを覚える。
慌てて進路を変えようとするも、そこすらも塞がれていた。
つまるところの、通行止め。
見覚えはあっても見慣れない制服の人たち(と、プラスα)を見つつ、ついに立ち止まる。
「ぜえ……はあ……やっと、追いつき、ましたぁ……」
そして、振り向かない後ろから、再度声が聞こえる。
「もうっ、何で逃げるんですかー?」
その人物は。
今、最も会いたくなかった人物と言って過言ではなく。
ギギギ、と振り向きながら、名前を呼ぶ。
「み、美九……!?」
「ようやく見つけましたよー。まったく、どこ歩いていたんですかぁ」
美九だった。
む、最後の方がやや急展開に……。どんまい、自分。
作中にあった神様ちゃんとの会話ですが、あれはただ単に、ああいう会話をさせたい、ということで書きました。最後の様式化した~とか言ってる部分は、結構前から考えていたり。
でも、もうちょっと屁理屈こね回した会話にしたかったです。
やっぱり、キャラが勝手に動く……!
それでは、次回も読んでいただけることを願いつつ、ここらで終わりとさせていただきます。
やっと、美九とのデート回……!