約二週間振りです皆様。新年一発目の投稿となります。
宿題もあとはテスト用に詰め込むだけとなりましたので、今日、更新させていただきました。
それでは、どうぞ。
「うん。なかなか面白かったよ、七海くん」
声が聞こえた。
聞き覚えのある声だ。
「いや~、まさかあんなことになるとは思わなかったよ」
それに起こされるようにして、目を開ける。
まず見えたのは、顔。
次いで、黒。
寝ているのであろう俺を見下ろす楓の顔と、背景の色だった。
光は無いだろうに、物が見えるってのも、不思議だな。
「あ、起きた?」
「……まあ、な」
両手をついて、身を起こそうとする。
「…………?」
出来なかった。
右手の感覚はあったものの、左手の感覚は無かったからだ。
右手に押されるようにして、左に倒れる。
「ぷっ、何やってんの?」
「あ、ああ……左手の感覚が……」
右腕だけで身を起こしつつ、ああ、と納得する。
そういえば、
「左腕、無いんだっけ……」
最早朧気だが、ぼんやりと覚えている。
確か、エレンと戦っている最中に、左腕は無くなったんだっけ。
……戦っている、か。
俺は、また。
「……護れなかったのか」
「誰かを護ろうとするなんて、随分おこがましい事を言うようになったね、七海くん」
うるせ。
大体、その原因はお前じゃないか。
いや、違うか。
「そうだね。ボクが死んだことで君が何を思ったとしても、それは君自身の問題だよ。ボクは関係ない」
思考を読むな。
だがまあ、言ってることは正しいか。
俺は、感覚の無い左腕に目を向ける。
「ああ、七海くんの左腕は、現実世界において無くなっているよ。まあ、この世界では闇っぽいものに包んであるから、傷口は見えないと思うよ。顔の右半分含めてね」
言われて思い出す。
「……そういや、そうだったな」
そういえば、自分で顔を掻き毟ったんだっけな。
鏡が無いから確認出来ないが、まあ、そっちの方が良かったかもしれない。
引っ掻き傷なんて、あまり見たくない。
「さて、そろそろ本題に入ろうというか、ちゃんとお話しようか」
本題?
「別に君の信条なんてどうでもいいんだけどね、まあ、それを踏まえたお話さ」
「……一体、どんなことを話すつもりだ?」
いや、訊かずとも分かっている。
今話すことなんて、決まっているだろう。
「暗いなあ……まあ、しょうがないかな」
呆れたように言いつつ、楓は話し出す。
「今回の件、君はどう償うつもりだい?」
いきなり話の核心を突いてきやがった。
まあ、そっちの方が気が楽、か……?
「償う、か。……どうするべきか」
「いや、それを訊いてるんだって」
分かってるっての。
しかし、まあ……。
「…………はあ」
「ああもう!自分で考え始めていきなり落ち込まないでくれるかなあ!?話が進まないじゃないか!というか、立場が逆転しているというか役が逆転してるよ!」
言っている意味が分からん。
「本来、七海くんがツッコミ役じゃないか」
「いや、そんなことはないと思うぞ」
「ううん、絶対そうだね。ってか、それも一種のツッコミだね」
そうかなあ……?二重の意味で疑問を覚えるぞ。
……話が逸れた。誰の所為だよ、まったく。
「どう考えても主な責任は君にあると思うな」
うるせ。
で、償い、な。
「…………はあ」
「ループすんにゃああぁぁぁっ!」
ははは、冗談だ。ちゃんと考えてるから。
といっても、答えは出ないがな。
一番良いのは、
「あ、七海くんが死ぬ、っていうのは、ただの逃避だから償いにはならないよ?」
言われてしまった。
「そうか?俺はあいつらを殺そうとしたんだ。その命をもって償うべきだろ」
「まあ、そこらへんは任せるよ。ボクも一応言っておきたかっただけだし」
へいへい。
「……うん、大分戻ってきたね」
戻ってきた?
「こっちの話だよ」
そうかい。
あ、また思考を読まれた会話になってしまった。
なんか嫌なんだよなあ……。じゃあ何か話せよって結論になるか。
「自己完結しないでほしいなあ。ボクが割り込む余地がなくなっちゃうじゃないか」
ほら、また。
「あ、そうそう。七海くんに言っておきたいことがあるんだった」
「何だ?って、結構今更だが」
「とりあえず、一つ目」
一つ目、ってことは、二つ目以降があるのか。
で、なに?
「七海くんってさ、自分の能力の使い道を一個だけ見落としてるよね」
「見落としてる……?」
そうか?霊力ですら理解さえすれば創造/消去できるこの能力の、使い道?
一体、何がある?
「ヒント。君の能力は、理解さえすれば何でも創りだせるっていうものだよね?」
「ああ、まあ。造りだすだけではないが」
「ヒント二つ目。君が今、失っているものは?」
俺が今、無くしているもの……?
何があるだろうか?
まずもって、この世界に俺が持ってきたものという物が無い。である以上、失ったものなんて……。
「……あ」
違う。一つだけ持ってきたものがある。
「気付いたみたいだね」
「……俺、自身……?」
正解、と楓は言った。
この世界で、この夢の中で俺が失っているもの。
言い換えるなら、俺から失っているもの、だ。
ある。
「左腕と、顔の右半分、か」
「うん。正確には、顔の右半分ではなく、表面付近右側、だね」
大して変わらん。
しかし、それが俺の能力とどう繋がる?
「もう言っちゃうけどさ。君の能力で傷や怪我の修復は可能なんだよ」
「は?いや、俺の能力は生物には使えないんだろう?」
「それは消すときだけ。創るのに問題はないよ。まあ、だからといって新たな生命を創るのは出来ないんだけど」
そうなのか。
どうやら俺は、勘違いをしていたらしい。
傷の回復、いや、修復が出来るのなら、真那と戦った後の太腿の傷も治せたのか……。
「……で、それが一つ目?」
「そうだよ。そんじゃ二つ目」
はいはい、次は何だ?
「君の右目のことなんだけど」
右目?
今言った俺の能力の使い方で、普通に治せるじゃん。
「まあ、そうなんだけどね。それじゃあ面白くない」
面白くないて。
「ということで、右目はボクからプレゼントすることにするよ」
字面だけ見ると猟奇的だなあ……。
んで、プレゼント?
「そう。君が彼女たちを殺そうとした罰、証明、戒め、なんでも良いけど、そういうこと」
「……!」
……そういうことか。
おそらく、楓はこう言いたいのだろう。
君の信条に則って、ボクから罰を与えよう、ってね。
「よく分かってるじゃないか」
まあな。
で、右目はその烙印ってところか。
「そゆこと。でもまあ、左腕を戻すのも、右目を与えるのも、君が起きてからだね」
「だな」
ということは、
「そ。そろそろおはようの時間だよ」
やっぱりな。
そんじゃ、
「じゃ~ね~」
「……またな」
さてと、起きたら何処だろうか?
「ん……」
目が覚めた。
感覚的には、ついさっきまで起きていたのに、また目が覚めるという不思議なものだが、特段不快感があるわけでもない。
「ん、起きたかね」
「……令音さんですか」
声の発生源に目を向けると、椅子に座った令音さんがいた。
なにやら機械を弄っているけど、何の機械か分かんないのでスルーしておこう。
居場所は見覚えがある。医務室だ。
「……俺、どれぐらい寝ていましたか?」
「約一週間だ。正直、このまま寝たままかと思ったよ」
「一週間!?」
おいおい嘘だろ。そりゃ長過ぎだって。
八舞姉妹の霊力を消したときだって、三日三晩だったんだぞ?
……あ、そうか。
「……消していたから、その分の負担が返ってきたのか」
「ん?どうかしたのかい?」
「あ、いえ」
俺が反転体になっている間、とにかく消すことを主体とする戦闘方法だった。
攻撃しかり、移動しかり。
相手の攻撃を消したりもした。移動する際に、距離を消すことで擬似瞬間移動を再現した。
それらの連続が負担となって、返ってきたわけか。
「……?」
そういや、何で反転体時のことを覚えてるんだろ?
……ま、いいか。覚えてないよりはマシだ。
俺の罪を覚えていられるからな。
「……さて」
考える横、令音さんが声をあげた。
「とりあえず、今のナナの状況について説明しておこうか」
「は、はあ……」
俺の状況、ねえ……。
見たところ分かるのは、顔の右側と、胴体ごと左肩に巻かれた包帯ぐらいか。
「左腕と顔の処置はしてある。ただ、流石に失くした左腕と傷ついた右目の眼球の代わりは無くてね、そのうち義手なんかをどうするか決めるから――――」
「あ、そのことなんですけど」
「……なんだい?」
俺は声を被せ、先程判明した能力の使い方について説明する。
「俺の能力で左腕とかは治せるんで、この包帯を取ってくれませんかね?」
「……別に構わないが、本当かい?」
その質問に肯きつつ、包帯を外してもらう。
なるべく断面は見ないようにして、っと。
まあ、名前はいいか。特に思いつかないし。
「――――――」
無言で目を閉じ、イメージする。
思うのは、見慣れた左腕。
右目は、後ででいい。楓が何か言ってたし。
数瞬後。
「…………ほう」
令音さんの驚いた声が聞こえた。
閉じていた目を開け、左腕に視線を移す。
あった。
見慣れた左腕が、そこにはあった。
「よし」
試しに動かし、手を握ったり開いたりしてみるが、特に違和感も無い。
成功だった。
あとは、右目なんだが……。
俺は自分で包帯を外しつつ、令音さんにお願いする。
「すいませんが、鏡かなにかないですかね」
「ん、ちょっと待っていたまえ」
そう言って、令音さんは部屋を出て行ってしまった。
そうして、俺が包帯を外すのに悪戦苦闘している間に、令音さんは戻ってきた。
今度はこっちが待ってもらいながら、ようやく外し終える。
「じゃあ、ちょっと貸してくれませんか」
はい、という風に手渡された手鏡を持って、右目を映す。
楓が何か言っていたし、一体何をしたんだろうかと思って見ると、
「お、おうっ!?」
つい凝視してしまった。
そこに映っているのは、確かに目だ。
しかし、色が全く違った。
本来白い部分が黒で、黒い部分が赤。
不気味とかそういうのを通り越して、「うわっ……」って引くレベル。
「……うわー」
現実に言ってしまった。
まあ、そのぐらい衝撃だったのだ。
だってさ、普通こんな色の目を持った奴なんていないだろ?そりゃびっくりするっての。
「……ん、どうかしたのかね」
「ええ、まあ……右目がこんなことに」
顔を向けて右目を見せると、令音さんも驚いたようだった。
ま、まあ、義手や義眼の心配も無くなったし、ちゃんと機能するし、気にしないでいいかな。うん。
どうやら今はお昼らしい。つまり、八舞姉妹や美九は学校だ。狂三も他の人たちと一緒に来るつもりらしい。
俺は〈フラクシナス〉内を当ても無く歩きながら、ぼんやりとしていた。
既に服装は私服に着替えてある。
その際、どこからか紛れ込んでいた眼帯があったので、令音さんも知らないらしく、楓からのアフターケアということで右目を隠させてもらっている。
まあ、多少イタくなるとはいえ、普通に目を晒すよりかはマシか。
「さて、と」
俺は周りに誰もいない及び何も無いのを確認して、あることを実行した。
目を閉じ、周囲を『視る』。
……理解完了。
数瞬後。
俺は空中にいた。
空気がうなる音が耳元で聞こえる。
〈フラクシナス〉の床部分を消したからだ。
俺が落ちていった後に全く同じ情報体を創りだした、つまりは元に戻しておいたので、何か不具合が生じることはない筈だ。
そんなことをした理由は簡単。
「……やっぱり、命を奪おうとしたのならば、自分の命を以って償うことにするよ」
誰に向けたでもなく、そう呟いた。
そう言えば、前回がなんかあまり盛り上がらない理由が分かりました。
大技を止める際の雄叫び的なものが無いからですね。キャラ上出来ませんが。
ということで、大分短くというか本来の文字数に戻りました。
次回からようやく美九と主人公を絡ませれそうな気がします。……次々回かな?
そして三人称に慣れた所為か、冒頭の一人称がややおかしくなってしもうた……。
ここでちょっとした暴露話。
もともと美九編は、『主人公の目を変えたいな~』と『主人公を反転体にしたいな~』と『美九が時系列的に書きやすいかな~』というのが合体してできた話なんですよね。大分迷走もしましたが。
その際にVSエレンも出てきたんですよ。
それでは、次回も読んでいただけることを願いつつ、ここらで終わりとさせていただきます。
今年も、どうかよろしくお願いします。