デート・ア・ライブ  ~転生者の物語~   作:息吹

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 今年最後の投稿です。

 主人公をあのままにして新年迎えてたまるかということで、更新しました。
 書いてて思いました。
 ―――え、強くね?
 あくまでもこの作品の中では、ありえない力ですよ、反転体というか、逆転体の主人公。

 それではどうぞ。


第30話

 さらに強くなった雨に打たれながら耶倶矢と夕弦は、狂三と美九のもとへ飛ぶ。

 地面に降り立ち、訊いてみる。

「あの禍々しき闇の霊装に左腕……一応問うが、七海なのだろう?」

「ええ、七海さんの筈ですわ」

「疑問。筈、ですか」

 見た目こそは七海本人だが、霊装に表情、行動が全く違う。

 だからこそ、どうしても別人という意識が生まれる。

 静かにこちらを見る七海を見ながら、耶倶矢と夕弦は同じ疑問に辿り着く。

「……して、何があったと言うのだ?」

「それが、わたくしにもよく分からないんですの……唯一知っているであろう美九さんも、今は声が出ないようですし」

「うぅ……しゅみま、ひぇん……」

「確認。どうやらそのようですね」

 舌足らずの声で、美九は謝った。

「ですが、一つだけ確かなことはありますわ」

 狂三は、指を立てて言う。

 確かなこと、とは、

「少なくとも、『あの』七海さんは、『今まで』の七海さんではないと思った方がいいでしょうね」

 あんな七海は、七海ではない。

 つまりはそう言いたいのだ。

 誰が決めたという訳ではないが、今まで接してきた七海ではない、ということだろうか。

「くく……あのような闇に呑まれた七海など、見たことのないからな」

 耶倶矢も、それを肯定する言葉を紡ぐ。

 そんな時、視線の先の七海が動く。

「……気付いたぞ。また増援か」

 それは、こちらへの攻撃ではなかった。

 七海は、耶倶矢や夕弦たちから視線を外し、あらぬ方向を見た。

 その先にいたのは、

「へ……?〈ナイトメア〉に〈ベルセルク〉、〈ディーヴァ〉だけでなく、あれはまさか、〈ディザスター〉でいやがりますか……?」

 独特な言葉遣いが聞こえ、その声の発生源に目を向けてみる。

 そこで確認した。

「確認。確か……崇宮真那と呼ばれてましたか」

 左目の下に泣き黒子のある、やけに武装満載な青髪ポニーテールの少女がいた。

 真那である。

 彼女は、心底驚いたように七海とこちらを何度も見やる。

「あらあら真那さん、一体何の用ですの?今は遊んであげる暇は無いのですけれど」

「〈ナイトメア〉……まあ、今回は貴様に用があったわけではありません。用があるのは……」

 狂三に向けていた視線を、七海へと移す。

「……そこの、〈ディザスター〉です。なんか、前回とは雰囲気が全く違うみてーですが」

 しかし、と彼女はぼやく。

「精霊の現界を確認してるのに、なぜか出動しないことを不思議に思ってこっちに来てみたですが、一体、何があったでいやがりますか?説明してもらいたいものです」

「きひひ、今は、そんな悠長に説明する時間はありませんわね」

「……随分、大人しいでやがりますね、〈ナイトメア〉」

「ええ、今はそんな暇は無いと言いましたでしょう?」

 真那は、無言を返した。

 耶倶矢や夕弦、美九はと言えば、三人ともほぼ初対面なので、声が出せない美九はともかく、会話の糸口が見つからず黙ったままだ。

 一方七海はと言えば、新たな人物の登場で、敵か否かを判断しているようだった。

「……問おう。お前は、俺の、敵か?」

 再三の質問。

 その矛先は、無論、真那。

「私でいやがりますか?……まあ、あなたが敵対するのなら、敵になりますかね」

「……補足しておく。そこの奴らと手を組むと言うのなら、お前も敵とするからな」

 その平坦な声色に、狂三は声を張り上げる。

「真那さん、今は休戦ですわ!七海さんを助けるのに協力してくださいまし!」

「休戦……?協力……?〈ナイトメア〉が、私に言ってるんですか?」

 信じられないと言った顔で、真那は呟く。

「真那と申したか。お主、七海を助ける気が有るのならば、我らに協力せい!」

「懇願。どうか、お願いします」

 どこか慌てた顔の耶倶矢に、頭を下げる夕弦。二人とも、七海のことを案じているのだ。

 まさかの追い討ちに、たじろぐ真那。

 しばしの逡巡の後、口を開く。

「……はあ、そんなに言われたら、断れないじゃねーですか」

 まあ、と、彼女は前置きして、

「おそらく、七海というのが〈ディザスター〉のことでしょう。ならば、その為に協力してやるです」

「ありがとうございますわ、真那さん」

「……貴様に礼を言われるなんて、不思議なこともあるものです」

 そんな中、七海が口を開く。

「……確認した。お前は、敵になるのか」

 落胆した風でもなく、ただ事実を確認しただけという口調だった。

 言葉を、続ける。

「……宣告しておく。ならば、殺す」

 直後、消えた。

 

 思えば、今まで待っていてくれたのが奇跡に等しかったのかもしれない。

 狂三は、そんな思考をする。

 つい先程、戦闘は再開してしまった。

 だが、美九と自分は優先順位が低いのか、七海が向かったのは、目の前の八舞姉妹だった。

 今彼女たちは、最初の一撃こそ驚いていたものの、真那と共に七海と戦っている。

 そんな中で声を上げる。

「先に言っておきますわ!今のわたくしが使える時間は少ないですわ!ですから、わたくしは美九さんの護衛をしておきますわ!」

 返事は無かった。

 だが、それは聞いていないという意味ではなく、出来ないという意味であった。

 瞬間移動ばりの移動速度で動く七海に、あの八舞姉妹ですら追いつくのがやっとのようだった。

「〈刻々帝〉――――【一の弾】」

 そんな中、狂三は天使を顕現させる。

 そして銃に込めるのは、【一の弾】。

 被弾者の時間を高速化する弾だ。

 そして銃口を、八舞姉妹と真那の方に向ける。

「耶倶矢さん!夕弦さん!真那さん!……これを受けてくださいまし!」

 撃つ。

 声は聞こえていたのか、その直前に一瞬だけ三人がこちらに視線を寄越した。

 だからか、その場からほとんど動かなかった。

 そして、弾が届く。

 直後、

「……驚愕を禁じえないな。速くなったか」

 七海のそんな声が聞こえたが、実際、目を見張る程撃たれた三人は速くなった。特に八舞姉妹は、それこそ瞬間移動ばりの速度だ。

 しかし、それが狂三の限界であった。

 もうこれ以上の時間の浪費は控えたかった。

 本当なら、七海に向かってせめて【二の弾】ぐらいは撃ちたかったのだが、先程銃弾を止められた以上、また防がれる可能性があった。

 そう考える中、くいくい、と、手を引かれる感覚があった。

 視線を向けると、腰が抜けているのか、座り込んだままの美九だった。

「どうかしましたの?」

「ぁい、りょうふ……なんれふ、か?」

 大丈夫なんですか、だろうか。

 そう思うことにして、返事をする。

「ふふ、心配しなくとも、こちらには来ませんわ。言っていたでしょう?優先事項を変更した、って」

 先程の七海の台詞だ。

 あの時、八舞姉妹が乱入したとき、そのようなことを言っていた。

「ですから今は、信じて待つことにしましょう?耶倶矢さんや夕弦さん、真那さんが勝つことを。七海さんが、元に戻ってくれることを」

 そう言い戻す視線の先には、目に見えない速度で激突している四人の姿がある。

 

 耶倶矢が飛ばしてきた風の塊を、左手で掴むようにして消し、夕弦のペンデュラムが右腕に巻きつくも、逆に振り回して投げる。

 その隙を突いてきた真那の剣戟を避け、カウンターで蹴る。

 全て、一瞬。

 一瞬の間に凝縮された行動が、連続する。

「……悟った。流石に不利か」

 突撃してきた耶倶矢の突撃槍の先端を左手で掴み、多少刺さるも、気にせず投げ飛ばす。

 その一瞬で、呟く。

「来い、〈死天悪竜(サマエル)〉……」

 そして、闇が広がった。

 八舞姉妹や真那が驚愕する中、現れたのは、両剣。

 再び、七海の天使が顕現したのだ。

 しかしそれは、先程とは違う様相だった。

 黒いのだ。

 元がまだ色があったのに対し、今回は全体的に黒い。

 別に、単色ではない。他の色もある。

 しかし、それらも全て明度が低く、やはり黒っぽい色合いだった。

 デザインとしては、多少の差異はあれど、大きな違いは無かった。

 それを、掴む。

「……警告しておく。死を、覚悟しておけ」

 元と同じように、鱗のようなものが巻きついた右腕を掲げる。

 片方の刃を上に向け、言う。

「……【虚無(バーブラ)】」

 闇が生まれた。場所は先端。

 何か来ると感じた三人は、一様に七海に向かって突撃する。

 だが、その前に攻撃が来た。

 光線だ。

 いや、『光』線ではないのだが。

「うぐあ……ッ!!」

「激痛。ぐあっ」

「く、うぅ……!」

 三者三様の苦悶の声を上げる。

 その闇は、三人を貫通した。

 霊装を持つ八舞姉妹も、随意領域のある真那も、だ。

 幸い、急所には当たってない。心臓や頭部は無事だ。

 しかし、幾条もの闇は、腕を、腿を、脇腹を貫通していた。

 目にも止まらぬ速さ、それを体現していたのに当たったのも、想定外だった。

「?……疑問だ。何故、外した……?」

 当の七海は、何が不思議なのか、〈死天悪竜〉を左手に持ち替え、右手を握ったり開いたりしていた。

 ほどなくして、右手に持ち直したが。

「……呼び掛ける。耶倶矢」

 七海は、比較的当たった箇所の少ない耶倶矢を呼ぶ。少ないと言っても、言うほどの差は無い。

「く……な、なに?」

 貫通させられた痛みからか、素で対応する耶倶矢。顔は苦痛に歪められている。

 しかし、そんな表情を気にした風でもなく、七海は言葉を発する。

「……告げておく。去るなら、去れ」

「ふん、殺すと息巻いていたお主が、いきなり何を申すか」

 明らかに強がりでそう言い返す。

 それを聞いた七海は、

「……思考してみよう。確かに、何故だ……?」

 考え込んでしまった。

 鋭利な左手を顎に当てながら、考える。

 その間に、耶倶矢のもとに夕弦と真那が集う。ちなみに、真那は随意領域で止血と痛覚遮断をしていた。

「呼掛。耶倶矢。一つ、聞きたいのですが」

「どうしたの?」

 流石にきついのか、また素に戻っている耶倶矢。

「質問。何で、今の七海は、耶倶矢を耶倶矢と分かったのでしょう?」

「適当なんじゃねーですか?」

「否定。その割には、考えた素振りがありませんでした」

 言うと、真那は黙ってしまった。

 七海が動いていない今、本来なら好機なんだろうが、こちらも思考タイムだ。

 しかし、耶倶矢と夕弦は怪我を負った以上、悠長にはしてられない。

「確かに、なんでだろう……?」

 うーんと三人で考える。

 同じように七海も、唸っていた。

 

 何故、逃げることを推奨した?

 何故、攻撃を外した?

 ……そういえば、何故、『耶倶矢』というのが分かった?

 それが今、七海の中で渦巻く疑問だ。

 七海は考える。

「……仮説立てよう。俺の善意か?」

 いや、それならば敵対しないだろうと思う。

 ならば、何故?

 何故、耶倶矢と夕弦が分かった?

 乱入してくる前と乱入してきた際に、狂三がその名を言っていたのは覚えている。だが、どちらがとは言っていない。

 ならば、何故?

 …………?

「……思考するが。……狂三?」

 誰だ?

 いや、あのゴシック調の服を着た少女だろう。

 ……いつ、名前を聞いた?

 美九というのは推測出来る。あの座り込んでいた奴だろう。

 美九が呼んでいた?

 否、それはなんと言っているのか不明瞭だった。少なくとも、自分にはなんと言っているのか分からなかった。ただの驚きの声かと思っていた。

 何故かを考える自分、突如として、

「!……苦悶だ……!が、あああぁぁぁぁぁッ!」

 猛烈な頭痛が、襲った。

 突然苦しげに声を上げた自分を、耶倶矢と夕弦と真那が見てくる。

 何かを言ったようだが、自分には聞こえない。それどころじゃない。

「あああああぁぁぁぁぁぁぁ―――――――ッ!!」

 まだ、叫ぶ。その痛みを、誤魔化すように。

 思わず〈死天悪竜〉を投げてしまうが、それに構っていることすら出来ない。

 自由になった右手で、右目を隠すようにして顔を覆う。

 左目は自分でもどこを向いているか分からない。しかし、右目を覆っている以上、あまり気にする必要は無いかもしれない。

「疑問、する……!誰だ、誰だ、誰だっ!」

 耶倶矢。双子のスレンダーな方。

 芝居がかった口調で話すが、興奮すると地に戻る。己の体型に少しコンプレックスを抱いている。

 夕弦。もう一方の、スタイルが良い方。

 台詞の頭に二字熟語を付けて話す。時々、子供っぽい言葉が入ることもある。

 狂三。ゴシック調のドレスを着た少女。

 己の目的の為に動いており、人を喰らう。また、自身の黒歴史あり。

 美九。スタイル抜群の少女。

 間延びした口調。男性を嫌悪しており、女性の方を好む傾向がある。

 真那。先程現れた少女。

 独特の敬語で喋る。狂三と因縁があり、彼女を殺すことを使命であり、存在理由としている。

 まだある。

 考えだしたら、(きり)が無い程に。

 だが、

「が、あああぁぁぁッ!」

 またしても、頭痛。

 そんな中でも、考える。

「……思考、するっ!……この情報を、どこで知った!?俺は、覚えてなど……」

 ふと、思う。

「……疑問だ。覚えてなど、だと?否、覚えている筈など無い!知らないのだからッ!」

 もう、どう見られているかなど関係ない。

 だが、こんな思考も要らない。

 どう断ち切るか。

「……掻き毟る……!」

 実行した。

 顔の右半分を覆っていた右手に、闇で爪を装着させ、一気に下ろす。

 掻き毟った。

 顔の右側。額から、目も巻き込み、顎まで。一気に、全部。

「な、七海!?」

「疑念。どうしましたか」

「うわ、何をやってやがるです!?」

 返答など、しない。

 傷から血が溢れるが、左腕と同じように闇で塞ぐ。

 結果、右目と引っ掻き後が闇で形作られたことだろう。自身の顔を確認する術は持たないから、推測だが。鏡を創るのも面倒だ。

「……宣言、する。一気に、終わらせよう」

 言って、一度、右腕を掲げる。

「……命令する。もう一度来い、〈死天悪竜〉……!」

 そして、再度その右手に〈死天悪竜〉が握られた。

 それを右下に構え直し、言う。

「……『幽幻を奏で、深淵へと誘う、闇であれ』……ッ!」

 すると、〈死天悪竜〉がその色を変えた。

 否、正しく言うのであれば、明度を変えた、か。

 もとより暗い色だったのが、その台詞の後、さらに黒を増す。

 その原因は、闇。

 濃密な闇が、その刀身を覆い、幅を大きく、太くしていく。

「【無極闇(カイゼーク)】―――――ッ!!」

 そして、振った。

 右下から左上へと、次いで、腕を動かし、右上から左下へと。

 交差の形の斬撃だ。

 闇色のオーラで出来た斬撃は、全てを呑み込む。

 もしかすると、七海の攻撃が闇色なのは、光すら呑み込むからかもしれなかった。

 それは、固まっていた耶倶矢や夕弦、真那の元へと向かう。

 それを見届ける七海。

 だが、直後。

「……?…………!?」

 動いた。

 疑問を感じたのは一瞬。行動に移したのは、さらに数瞬後。

 大技を使った後の疲労感も何も無視して、その攻撃の速度を超える。

 一瞬だ。

 当たり前だ。

 今までそうしてきたように、瞬間移動並みの速さだったのだから。

「え、うそ、七海!?」

「驚愕。また、一瞬で詰めてきたのですか」

「……あんな大技放っておいて、まだ何かするつもりでいやがりますか」

 彼我の距離が大分離れていたのが幸いした。こうした言葉を挟む余地が出来たのだから。

 だが、返事など出来る筈が無い。

 返事などする暇無く、今しがた自分が放った攻撃が来たのだから。

 七海は、その斬撃に、竜のような鋭利なフォルムの左腕を翳す。

 激突。

 音も、衝撃も無い、静かな激突だ。

 全てを呑み込む両の闇は、それぞれを呑みこもうと相殺し合う。

 だが、威力が段違いだった。

 明らかに、【無極闇】の方が強い。

 右腕も、左腕を支える。

 右手で触れる箇所だけ右手が消されないようにし、支える。

 羽を広げ、片腕を翳して、斬撃を止めようとする。

 その姿は、

「まさか、私たちを守ろうとしていやがるんですか!?」

 明らかに、後ろを守っての行動だった。

 振り向かないまま、七海は言う。

「……告げて、おく。自分でも、何故かは、分かっていない……」

 強大な威力の前に、途切れ途切れで発せられるその台詞。

 だがそれは、真那の言葉の肯定であった。

「……まだ、行く。……〈死天悪竜〉――――【砲塔】」

 突如として、虚空から両剣が出てくる。

 そして、その姿を変えた。

 砲身が、両剣状態の時の刃部分で出来た、大半が砲身で出来た砲だ。

「……苦悶、しながら、だが。流石に、琴里の霊力の反転状態では、この前に、無力だろうから、な」

 琴里というのも、一体誰だろうと思うが、知っているからしょうがない。

 自嘲気味に告げつつ、宙に浮いたままの〈死天悪竜〉に命じる。

「……命令、する。撃て……!」

 絶句した状態の後ろの三人の上から、己が腕を半ば呑まれるようにしてぶつけるすぐ近くに放つ。

 それも、闇。

 しかし、それすらも、多少の軽減にしかならない。

 じわじわと押される。

 腕の感覚が無かったのは幸いかと、現実逃避気味に思う。

 そんな中、

「〈颶風騎士〉――――【穿つ者】!」

「呼応。〈颶風騎士〉――――【縛める者】!」

 声がした。

 その声は、合わさる。

「「〈颶風騎士〉――――【天を駆ける者(エル・カナフ)】!!」」

 耶倶矢と夕弦だった。

 彼女たちは、〈死天悪竜〉よりやや離れた場所に飛び、己らの天使を合体させていた。

 耶倶矢の【穿つ者】を矢として、夕弦の【縛める者】を弦として、二人の翼と合体する。

 形状は弓。

 そして、行く。

 風の弓矢は、七海の頭上で闇の斬撃と激突した。

 それは確かに、わずかながら威力を減衰させた。

 が、暴風すら呑み込んで、闇は消えなかった。

「かか……我らは、ここまでのようだ。最早、霊力が底を尽きそうだ……」

「謝罪。傷もありますし、もう、見てるだけしか出来ません」

 力の無い声だった。

 だが、と二人は続ける。

「ここで無様に逃げ帰るは、万象薙ぎ伏す颶風の御子の名折れ!」

「同調。残りの力、七海に貸してあげます」

 そう言うと二人は、七海の後ろへと行き。

 その背中を支えた。

 幸い、羽は全て張っており、後ろには来てないので、その羽に触れる心配は無かった。

「……では、私も何かをしたほうがいいみてーですね」

 真那も、何かを成そうとする。

 が、今の自分では出来ることなど無い。

「……せめて、遠距離武器を片っ端から撃ちかましますか」

 そうと決まれば、飛ぶ。

 斬撃が当たる心配の無い、なるべくの近距離に移動し、持ってるだけの遠距離武装を展開する。

 傷が開くだろうが、そんなことはどうでもいい。

「――――いきますよ!」

 撃った。

 ミサイル、レーザーカノン、魔力砲、etcetc……。

 弾数の制限のあるものは一気に使い切り、なんとかなるものは、その時に出せる全力で。

 ここに来る際、精霊が複数いるということで、持てるだけの武器を持ってきたのが幸いした。

 が、すぐに限界が訪れる。

 ほどなくして、何も出来なくなった。

「……ははっ」

 笑いが出た。

 使えなくなった武器を捨て、七海の背へと回る。

「〈ベルセルク〉……いや、耶倶矢さんに夕弦さん、でしたか」

 こちらを見てくるのを気にせず、言葉を続ける。

「今は、協力中ですから、邪魔しねーですし、そちらもしないでください」

 そして、支える。

 ついでに、八舞姉妹を随意領域で包み、止血もしておいた。

「これは……」

「感謝。ありがとうございます」

「いえ、どうってことねーですよ」

 しかし、と思う。

 背を支える七海は、自分たちより苦しいはずなのに、と。

「……感謝、しよう。今までのと、時間経過で、大分威力も落ちてきた」

 七海は、そう言った。

 今なお左腕をじわじわと消されながら、しかし、それでもこちらを向いて。

 そして、羽を消した。

 もともと、羽は霊装の一部ではなく、別の者として生やしていたので、後ろの三人の邪魔にならないよう、消したのだ。

 どうせ、飛ぶわけではない。ならば大丈夫と判断したからだ。

 そして、〈死天悪竜〉の砲と、四人が必死に留める中、

「わたくしも、お手伝いいたしますわ」

「ぁ、たし、も……」

 また、新たな人物。

 霊力で浮いてきた狂三と、彼女に抱かれた美九だった。

 彼女たちは、七海を支える三人のさらに後ろに行き、

「それでは、微力ながら」

「…………!」

 その三人の背中を支える。

 狂三は美九を抱いているし、美九も狂三に掴まっているので、それぞれ片腕ずつだ。

「……再度、感謝しよう。あと、もう少しな、気がする」

 そして、全力で、止める。

 

 どれだけ経っただろうか。

 その内、【無極闇】が収束を見せ始めた頃、遂に耶倶矢と夕弦、真那がダウンした。

 狂三たちに彼女たちを任せ、七海は一人、斬撃を止めていた。

 ある程度収まったら、〈死天悪竜〉を両剣状態に戻し、右手で持って、刺した。

 すると、割れるようにして、斬撃は消えた。

 それを見届けると、七海は落ちていく。

 そうしていると、霊装が変形していった。

 闇を放つものから、黒の光放つものへと。

 戻ったのだ。

 そして、思う。

 考える。

 またしても。

 自分は。

「……護れなかった、のか」

 先程まで自分がやっていたことを、言っていたことを思い出しながら、七海は、気を失った。




 長っ!?

 まさかの8000文字オーバーに、流石に驚きました。

 最後の方の主人公の改心については、次回で詳しく触れられると思います。
 また、作中の逆転体時のサマエルの漢字については、不問でお願いします。自分で「うわー」とは思っているんです。
 加えて、作中で主人公がサマエルを顕現させる際、『天使』と描写されていますが、あれは反転体とはまた違うから、ということで納得してください。お願いします。
 あと、主人公が使っていた『無形』『虚無』【無極闇】の読みですが、あれはもともとあったものを、勝手に翻訳したものです。本来の呼び方ではないかもしれません。

 それでは、次回も読んでいただけることを願いつつ、ここらで終わりとさせていただきます。

 それでは皆様、よいお年を~。

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