主人公をあのままにして新年迎えてたまるかということで、更新しました。
書いてて思いました。
―――え、強くね?
あくまでもこの作品の中では、ありえない力ですよ、反転体というか、逆転体の主人公。
それではどうぞ。
さらに強くなった雨に打たれながら耶倶矢と夕弦は、狂三と美九のもとへ飛ぶ。
地面に降り立ち、訊いてみる。
「あの禍々しき闇の霊装に左腕……一応問うが、七海なのだろう?」
「ええ、七海さんの筈ですわ」
「疑問。筈、ですか」
見た目こそは七海本人だが、霊装に表情、行動が全く違う。
だからこそ、どうしても別人という意識が生まれる。
静かにこちらを見る七海を見ながら、耶倶矢と夕弦は同じ疑問に辿り着く。
「……して、何があったと言うのだ?」
「それが、わたくしにもよく分からないんですの……唯一知っているであろう美九さんも、今は声が出ないようですし」
「うぅ……しゅみま、ひぇん……」
「確認。どうやらそのようですね」
舌足らずの声で、美九は謝った。
「ですが、一つだけ確かなことはありますわ」
狂三は、指を立てて言う。
確かなこと、とは、
「少なくとも、『あの』七海さんは、『今まで』の七海さんではないと思った方がいいでしょうね」
あんな七海は、七海ではない。
つまりはそう言いたいのだ。
誰が決めたという訳ではないが、今まで接してきた七海ではない、ということだろうか。
「くく……あのような闇に呑まれた七海など、見たことのないからな」
耶倶矢も、それを肯定する言葉を紡ぐ。
そんな時、視線の先の七海が動く。
「……気付いたぞ。また増援か」
それは、こちらへの攻撃ではなかった。
七海は、耶倶矢や夕弦たちから視線を外し、あらぬ方向を見た。
その先にいたのは、
「へ……?〈ナイトメア〉に〈ベルセルク〉、〈ディーヴァ〉だけでなく、あれはまさか、〈ディザスター〉でいやがりますか……?」
独特な言葉遣いが聞こえ、その声の発生源に目を向けてみる。
そこで確認した。
「確認。確か……崇宮真那と呼ばれてましたか」
左目の下に泣き黒子のある、やけに武装満載な青髪ポニーテールの少女がいた。
真那である。
彼女は、心底驚いたように七海とこちらを何度も見やる。
「あらあら真那さん、一体何の用ですの?今は遊んであげる暇は無いのですけれど」
「〈ナイトメア〉……まあ、今回は貴様に用があったわけではありません。用があるのは……」
狂三に向けていた視線を、七海へと移す。
「……そこの、〈ディザスター〉です。なんか、前回とは雰囲気が全く違うみてーですが」
しかし、と彼女はぼやく。
「精霊の現界を確認してるのに、なぜか出動しないことを不思議に思ってこっちに来てみたですが、一体、何があったでいやがりますか?説明してもらいたいものです」
「きひひ、今は、そんな悠長に説明する時間はありませんわね」
「……随分、大人しいでやがりますね、〈ナイトメア〉」
「ええ、今はそんな暇は無いと言いましたでしょう?」
真那は、無言を返した。
耶倶矢や夕弦、美九はと言えば、三人ともほぼ初対面なので、声が出せない美九はともかく、会話の糸口が見つからず黙ったままだ。
一方七海はと言えば、新たな人物の登場で、敵か否かを判断しているようだった。
「……問おう。お前は、俺の、敵か?」
再三の質問。
その矛先は、無論、真那。
「私でいやがりますか?……まあ、あなたが敵対するのなら、敵になりますかね」
「……補足しておく。そこの奴らと手を組むと言うのなら、お前も敵とするからな」
その平坦な声色に、狂三は声を張り上げる。
「真那さん、今は休戦ですわ!七海さんを助けるのに協力してくださいまし!」
「休戦……?協力……?〈ナイトメア〉が、私に言ってるんですか?」
信じられないと言った顔で、真那は呟く。
「真那と申したか。お主、七海を助ける気が有るのならば、我らに協力せい!」
「懇願。どうか、お願いします」
どこか慌てた顔の耶倶矢に、頭を下げる夕弦。二人とも、七海のことを案じているのだ。
まさかの追い討ちに、たじろぐ真那。
しばしの逡巡の後、口を開く。
「……はあ、そんなに言われたら、断れないじゃねーですか」
まあ、と、彼女は前置きして、
「おそらく、七海というのが〈ディザスター〉のことでしょう。ならば、その為に協力してやるです」
「ありがとうございますわ、真那さん」
「……貴様に礼を言われるなんて、不思議なこともあるものです」
そんな中、七海が口を開く。
「……確認した。お前は、敵になるのか」
落胆した風でもなく、ただ事実を確認しただけという口調だった。
言葉を、続ける。
「……宣告しておく。ならば、殺す」
直後、消えた。
思えば、今まで待っていてくれたのが奇跡に等しかったのかもしれない。
狂三は、そんな思考をする。
つい先程、戦闘は再開してしまった。
だが、美九と自分は優先順位が低いのか、七海が向かったのは、目の前の八舞姉妹だった。
今彼女たちは、最初の一撃こそ驚いていたものの、真那と共に七海と戦っている。
そんな中で声を上げる。
「先に言っておきますわ!今のわたくしが使える時間は少ないですわ!ですから、わたくしは美九さんの護衛をしておきますわ!」
返事は無かった。
だが、それは聞いていないという意味ではなく、出来ないという意味であった。
瞬間移動ばりの移動速度で動く七海に、あの八舞姉妹ですら追いつくのがやっとのようだった。
「〈刻々帝〉――――【一の弾】」
そんな中、狂三は天使を顕現させる。
そして銃に込めるのは、【一の弾】。
被弾者の時間を高速化する弾だ。
そして銃口を、八舞姉妹と真那の方に向ける。
「耶倶矢さん!夕弦さん!真那さん!……これを受けてくださいまし!」
撃つ。
声は聞こえていたのか、その直前に一瞬だけ三人がこちらに視線を寄越した。
だからか、その場からほとんど動かなかった。
そして、弾が届く。
直後、
「……驚愕を禁じえないな。速くなったか」
七海のそんな声が聞こえたが、実際、目を見張る程撃たれた三人は速くなった。特に八舞姉妹は、それこそ瞬間移動ばりの速度だ。
しかし、それが狂三の限界であった。
もうこれ以上の時間の浪費は控えたかった。
本当なら、七海に向かってせめて【二の弾】ぐらいは撃ちたかったのだが、先程銃弾を止められた以上、また防がれる可能性があった。
そう考える中、くいくい、と、手を引かれる感覚があった。
視線を向けると、腰が抜けているのか、座り込んだままの美九だった。
「どうかしましたの?」
「ぁい、りょうふ……なんれふ、か?」
大丈夫なんですか、だろうか。
そう思うことにして、返事をする。
「ふふ、心配しなくとも、こちらには来ませんわ。言っていたでしょう?優先事項を変更した、って」
先程の七海の台詞だ。
あの時、八舞姉妹が乱入したとき、そのようなことを言っていた。
「ですから今は、信じて待つことにしましょう?耶倶矢さんや夕弦さん、真那さんが勝つことを。七海さんが、元に戻ってくれることを」
そう言い戻す視線の先には、目に見えない速度で激突している四人の姿がある。
耶倶矢が飛ばしてきた風の塊を、左手で掴むようにして消し、夕弦のペンデュラムが右腕に巻きつくも、逆に振り回して投げる。
その隙を突いてきた真那の剣戟を避け、カウンターで蹴る。
全て、一瞬。
一瞬の間に凝縮された行動が、連続する。
「……悟った。流石に不利か」
突撃してきた耶倶矢の突撃槍の先端を左手で掴み、多少刺さるも、気にせず投げ飛ばす。
その一瞬で、呟く。
「来い、〈
そして、闇が広がった。
八舞姉妹や真那が驚愕する中、現れたのは、両剣。
再び、七海の天使が顕現したのだ。
しかしそれは、先程とは違う様相だった。
黒いのだ。
元がまだ色があったのに対し、今回は全体的に黒い。
別に、単色ではない。他の色もある。
しかし、それらも全て明度が低く、やはり黒っぽい色合いだった。
デザインとしては、多少の差異はあれど、大きな違いは無かった。
それを、掴む。
「……警告しておく。死を、覚悟しておけ」
元と同じように、鱗のようなものが巻きついた右腕を掲げる。
片方の刃を上に向け、言う。
「……【
闇が生まれた。場所は先端。
何か来ると感じた三人は、一様に七海に向かって突撃する。
だが、その前に攻撃が来た。
光線だ。
いや、『光』線ではないのだが。
「うぐあ……ッ!!」
「激痛。ぐあっ」
「く、うぅ……!」
三者三様の苦悶の声を上げる。
その闇は、三人を貫通した。
霊装を持つ八舞姉妹も、随意領域のある真那も、だ。
幸い、急所には当たってない。心臓や頭部は無事だ。
しかし、幾条もの闇は、腕を、腿を、脇腹を貫通していた。
目にも止まらぬ速さ、それを体現していたのに当たったのも、想定外だった。
「?……疑問だ。何故、外した……?」
当の七海は、何が不思議なのか、〈死天悪竜〉を左手に持ち替え、右手を握ったり開いたりしていた。
ほどなくして、右手に持ち直したが。
「……呼び掛ける。耶倶矢」
七海は、比較的当たった箇所の少ない耶倶矢を呼ぶ。少ないと言っても、言うほどの差は無い。
「く……な、なに?」
貫通させられた痛みからか、素で対応する耶倶矢。顔は苦痛に歪められている。
しかし、そんな表情を気にした風でもなく、七海は言葉を発する。
「……告げておく。去るなら、去れ」
「ふん、殺すと息巻いていたお主が、いきなり何を申すか」
明らかに強がりでそう言い返す。
それを聞いた七海は、
「……思考してみよう。確かに、何故だ……?」
考え込んでしまった。
鋭利な左手を顎に当てながら、考える。
その間に、耶倶矢のもとに夕弦と真那が集う。ちなみに、真那は随意領域で止血と痛覚遮断をしていた。
「呼掛。耶倶矢。一つ、聞きたいのですが」
「どうしたの?」
流石にきついのか、また素に戻っている耶倶矢。
「質問。何で、今の七海は、耶倶矢を耶倶矢と分かったのでしょう?」
「適当なんじゃねーですか?」
「否定。その割には、考えた素振りがありませんでした」
言うと、真那は黙ってしまった。
七海が動いていない今、本来なら好機なんだろうが、こちらも思考タイムだ。
しかし、耶倶矢と夕弦は怪我を負った以上、悠長にはしてられない。
「確かに、なんでだろう……?」
うーんと三人で考える。
同じように七海も、唸っていた。
何故、逃げることを推奨した?
何故、攻撃を外した?
……そういえば、何故、『耶倶矢』というのが分かった?
それが今、七海の中で渦巻く疑問だ。
七海は考える。
「……仮説立てよう。俺の善意か?」
いや、それならば敵対しないだろうと思う。
ならば、何故?
何故、耶倶矢と夕弦が分かった?
乱入してくる前と乱入してきた際に、狂三がその名を言っていたのは覚えている。だが、どちらがとは言っていない。
ならば、何故?
…………?
「……思考するが。……狂三?」
誰だ?
いや、あのゴシック調の服を着た少女だろう。
……いつ、名前を聞いた?
美九というのは推測出来る。あの座り込んでいた奴だろう。
美九が呼んでいた?
否、それはなんと言っているのか不明瞭だった。少なくとも、自分にはなんと言っているのか分からなかった。ただの驚きの声かと思っていた。
何故かを考える自分、突如として、
「!……苦悶だ……!が、あああぁぁぁぁぁッ!」
猛烈な頭痛が、襲った。
突然苦しげに声を上げた自分を、耶倶矢と夕弦と真那が見てくる。
何かを言ったようだが、自分には聞こえない。それどころじゃない。
「あああああぁぁぁぁぁぁぁ―――――――ッ!!」
まだ、叫ぶ。その痛みを、誤魔化すように。
思わず〈死天悪竜〉を投げてしまうが、それに構っていることすら出来ない。
自由になった右手で、右目を隠すようにして顔を覆う。
左目は自分でもどこを向いているか分からない。しかし、右目を覆っている以上、あまり気にする必要は無いかもしれない。
「疑問、する……!誰だ、誰だ、誰だっ!」
耶倶矢。双子のスレンダーな方。
芝居がかった口調で話すが、興奮すると地に戻る。己の体型に少しコンプレックスを抱いている。
夕弦。もう一方の、スタイルが良い方。
台詞の頭に二字熟語を付けて話す。時々、子供っぽい言葉が入ることもある。
狂三。ゴシック調のドレスを着た少女。
己の目的の為に動いており、人を喰らう。また、自身の黒歴史あり。
美九。スタイル抜群の少女。
間延びした口調。男性を嫌悪しており、女性の方を好む傾向がある。
真那。先程現れた少女。
独特の敬語で喋る。狂三と因縁があり、彼女を殺すことを使命であり、存在理由としている。
まだある。
考えだしたら、
だが、
「が、あああぁぁぁッ!」
またしても、頭痛。
そんな中でも、考える。
「……思考、するっ!……この情報を、どこで知った!?俺は、覚えてなど……」
ふと、思う。
「……疑問だ。覚えてなど、だと?否、覚えている筈など無い!知らないのだからッ!」
もう、どう見られているかなど関係ない。
だが、こんな思考も要らない。
どう断ち切るか。
「……掻き毟る……!」
実行した。
顔の右半分を覆っていた右手に、闇で爪を装着させ、一気に下ろす。
掻き毟った。
顔の右側。額から、目も巻き込み、顎まで。一気に、全部。
「な、七海!?」
「疑念。どうしましたか」
「うわ、何をやってやがるです!?」
返答など、しない。
傷から血が溢れるが、左腕と同じように闇で塞ぐ。
結果、右目と引っ掻き後が闇で形作られたことだろう。自身の顔を確認する術は持たないから、推測だが。鏡を創るのも面倒だ。
「……宣言、する。一気に、終わらせよう」
言って、一度、右腕を掲げる。
「……命令する。もう一度来い、〈死天悪竜〉……!」
そして、再度その右手に〈死天悪竜〉が握られた。
それを右下に構え直し、言う。
「……『幽幻を奏で、深淵へと誘う、闇であれ』……ッ!」
すると、〈死天悪竜〉がその色を変えた。
否、正しく言うのであれば、明度を変えた、か。
もとより暗い色だったのが、その台詞の後、さらに黒を増す。
その原因は、闇。
濃密な闇が、その刀身を覆い、幅を大きく、太くしていく。
「【
そして、振った。
右下から左上へと、次いで、腕を動かし、右上から左下へと。
交差の形の斬撃だ。
闇色のオーラで出来た斬撃は、全てを呑み込む。
もしかすると、七海の攻撃が闇色なのは、光すら呑み込むからかもしれなかった。
それは、固まっていた耶倶矢や夕弦、真那の元へと向かう。
それを見届ける七海。
だが、直後。
「……?…………!?」
動いた。
疑問を感じたのは一瞬。行動に移したのは、さらに数瞬後。
大技を使った後の疲労感も何も無視して、その攻撃の速度を超える。
一瞬だ。
当たり前だ。
今までそうしてきたように、瞬間移動並みの速さだったのだから。
「え、うそ、七海!?」
「驚愕。また、一瞬で詰めてきたのですか」
「……あんな大技放っておいて、まだ何かするつもりでいやがりますか」
彼我の距離が大分離れていたのが幸いした。こうした言葉を挟む余地が出来たのだから。
だが、返事など出来る筈が無い。
返事などする暇無く、今しがた自分が放った攻撃が来たのだから。
七海は、その斬撃に、竜のような鋭利なフォルムの左腕を翳す。
激突。
音も、衝撃も無い、静かな激突だ。
全てを呑み込む両の闇は、それぞれを呑みこもうと相殺し合う。
だが、威力が段違いだった。
明らかに、【無極闇】の方が強い。
右腕も、左腕を支える。
右手で触れる箇所だけ右手が消されないようにし、支える。
羽を広げ、片腕を翳して、斬撃を止めようとする。
その姿は、
「まさか、私たちを守ろうとしていやがるんですか!?」
明らかに、後ろを守っての行動だった。
振り向かないまま、七海は言う。
「……告げて、おく。自分でも、何故かは、分かっていない……」
強大な威力の前に、途切れ途切れで発せられるその台詞。
だがそれは、真那の言葉の肯定であった。
「……まだ、行く。……〈死天悪竜〉――――【砲塔】」
突如として、虚空から両剣が出てくる。
そして、その姿を変えた。
砲身が、両剣状態の時の刃部分で出来た、大半が砲身で出来た砲だ。
「……苦悶、しながら、だが。流石に、琴里の霊力の反転状態では、この前に、無力だろうから、な」
琴里というのも、一体誰だろうと思うが、知っているからしょうがない。
自嘲気味に告げつつ、宙に浮いたままの〈死天悪竜〉に命じる。
「……命令、する。撃て……!」
絶句した状態の後ろの三人の上から、己が腕を半ば呑まれるようにしてぶつけるすぐ近くに放つ。
それも、闇。
しかし、それすらも、多少の軽減にしかならない。
じわじわと押される。
腕の感覚が無かったのは幸いかと、現実逃避気味に思う。
そんな中、
「〈颶風騎士〉――――【穿つ者】!」
「呼応。〈颶風騎士〉――――【縛める者】!」
声がした。
その声は、合わさる。
「「〈颶風騎士〉――――【
耶倶矢と夕弦だった。
彼女たちは、〈死天悪竜〉よりやや離れた場所に飛び、己らの天使を合体させていた。
耶倶矢の【穿つ者】を矢として、夕弦の【縛める者】を弦として、二人の翼と合体する。
形状は弓。
そして、行く。
風の弓矢は、七海の頭上で闇の斬撃と激突した。
それは確かに、わずかながら威力を減衰させた。
が、暴風すら呑み込んで、闇は消えなかった。
「かか……我らは、ここまでのようだ。最早、霊力が底を尽きそうだ……」
「謝罪。傷もありますし、もう、見てるだけしか出来ません」
力の無い声だった。
だが、と二人は続ける。
「ここで無様に逃げ帰るは、万象薙ぎ伏す颶風の御子の名折れ!」
「同調。残りの力、七海に貸してあげます」
そう言うと二人は、七海の後ろへと行き。
その背中を支えた。
幸い、羽は全て張っており、後ろには来てないので、その羽に触れる心配は無かった。
「……では、私も何かをしたほうがいいみてーですね」
真那も、何かを成そうとする。
が、今の自分では出来ることなど無い。
「……せめて、遠距離武器を片っ端から撃ちかましますか」
そうと決まれば、飛ぶ。
斬撃が当たる心配の無い、なるべくの近距離に移動し、持ってるだけの遠距離武装を展開する。
傷が開くだろうが、そんなことはどうでもいい。
「――――いきますよ!」
撃った。
ミサイル、レーザーカノン、魔力砲、etcetc……。
弾数の制限のあるものは一気に使い切り、なんとかなるものは、その時に出せる全力で。
ここに来る際、精霊が複数いるということで、持てるだけの武器を持ってきたのが幸いした。
が、すぐに限界が訪れる。
ほどなくして、何も出来なくなった。
「……ははっ」
笑いが出た。
使えなくなった武器を捨て、七海の背へと回る。
「〈ベルセルク〉……いや、耶倶矢さんに夕弦さん、でしたか」
こちらを見てくるのを気にせず、言葉を続ける。
「今は、協力中ですから、邪魔しねーですし、そちらもしないでください」
そして、支える。
ついでに、八舞姉妹を随意領域で包み、止血もしておいた。
「これは……」
「感謝。ありがとうございます」
「いえ、どうってことねーですよ」
しかし、と思う。
背を支える七海は、自分たちより苦しいはずなのに、と。
「……感謝、しよう。今までのと、時間経過で、大分威力も落ちてきた」
七海は、そう言った。
今なお左腕をじわじわと消されながら、しかし、それでもこちらを向いて。
そして、羽を消した。
もともと、羽は霊装の一部ではなく、別の者として生やしていたので、後ろの三人の邪魔にならないよう、消したのだ。
どうせ、飛ぶわけではない。ならば大丈夫と判断したからだ。
そして、〈死天悪竜〉の砲と、四人が必死に留める中、
「わたくしも、お手伝いいたしますわ」
「ぁ、たし、も……」
また、新たな人物。
霊力で浮いてきた狂三と、彼女に抱かれた美九だった。
彼女たちは、七海を支える三人のさらに後ろに行き、
「それでは、微力ながら」
「…………!」
その三人の背中を支える。
狂三は美九を抱いているし、美九も狂三に掴まっているので、それぞれ片腕ずつだ。
「……再度、感謝しよう。あと、もう少しな、気がする」
そして、全力で、止める。
どれだけ経っただろうか。
その内、【無極闇】が収束を見せ始めた頃、遂に耶倶矢と夕弦、真那がダウンした。
狂三たちに彼女たちを任せ、七海は一人、斬撃を止めていた。
ある程度収まったら、〈死天悪竜〉を両剣状態に戻し、右手で持って、刺した。
すると、割れるようにして、斬撃は消えた。
それを見届けると、七海は落ちていく。
そうしていると、霊装が変形していった。
闇を放つものから、黒の光放つものへと。
戻ったのだ。
そして、思う。
考える。
またしても。
自分は。
「……護れなかった、のか」
先程まで自分がやっていたことを、言っていたことを思い出しながら、七海は、気を失った。
長っ!?
まさかの8000文字オーバーに、流石に驚きました。
最後の方の主人公の改心については、次回で詳しく触れられると思います。
また、作中の逆転体時のサマエルの漢字については、不問でお願いします。自分で「うわー」とは思っているんです。
加えて、作中で主人公がサマエルを顕現させる際、『天使』と描写されていますが、あれは反転体とはまた違うから、ということで納得してください。お願いします。
あと、主人公が使っていた『無形』『虚無』【無極闇】の読みですが、あれはもともとあったものを、勝手に翻訳したものです。本来の呼び方ではないかもしれません。
それでは、次回も読んでいただけることを願いつつ、ここらで終わりとさせていただきます。
それでは皆様、よいお年を~。