ということで、前回から引き続き、VSエレンの回ですね。
ですが、VSエレンは今回で終わりです。先に言っちゃいます。
しかし、反転体の七海の口調、説明させてもらいますと、『なんか違う倒置法(?)』みたいなのを意識したりしなかったりなんですよね。
なので、夕弦と被ってるのは気にしないでください。ちょっと違うんです。ちょっと。
それではどうぞ。
「ははははははっ!」
哄笑が響いていた。
そこは、真っ暗な世界だった。
しかしその世界は、いくつもの光もあった。
至る所に点在する、ディスプレイのようなものの数々。それが、この暗闇を照らしていた。
その画面には、それぞれ違う映像が流れていた。
いや、映像ではない。
全て、今起こっていることだ。あえて言うのなら、生中継といったところか。
その画面を見るのは、一人の少女。今も笑っている。
「いいねえ、いいねえ七海くん!」
楓であった。
その画面に映るのは、現実世界。
この世界ではない、ある人物を映したものだ。
彼女は、興奮したように叫ぶ。
「自身の正義すら無いのに、悪を決め付けるのかい!?絶望なんてしてないくせに、希望を語らないのかい!?己すらも分かっていないのに、相手を敵だと見做すのかい!?」
はははっ、と。
彼女は嗤う。
「そうか、絶望はしてないから、あの世界で言う反転体とは言わないのかな」
やや静かになった口調で、彼女は一人呟く。
「そうだね~……よし、『逆転体』って名付けよう。今度、話してみようかな」
食い入るようにして見る一つの画面では、今まさに戦闘が開始されようとしていた。
彼女が言った、七海という人物と、ノルディックブロンドの長髪が目を惹く人物が、一度接近した彼我の距離を離し、対峙しているのだ。
「七海くん?今はボクは何もしないよ」
でもさ、
「さっき負けた分、取り返してみなよ」
いつの間にか降り出した雨に打たれながらも、なんとか必死かつ静かに逃げて、距離を開けることは出来た。
後ろを見れば、今もなお、逃げてきた相手は動いていなかった。
「な、なんなんですかもうぅ~」
弱音を吐きたくもなる。
なにしろ、いきなり敵が、自分を殺そうとしてきたのだ。そりゃ逃げるし、怖い。
膝から力が抜け、おもわずその場に座り込む。
あの時はびっくりした。
狂三に言われてこちらに来たのはいいが、こんなことになるとは。
右側を見れば、闇を放つ人がいる。
七海だった。
先程、いきなりあんな状態になったのだ。理由は不明。
最初はあんなではなかったのに。
左側、目を惹く長髪の女性だ。
確か、エレン、と言われていた。
美女と評してもいいが、先程あんなことがあった以上、決して好きにはなれなかった。
そして、おかしいほどに強い。
「私、ここにいりますかねー?」
いらないと思う。
なら、逃げよう。自分の好きな時に戻っていいって言われてたし。
そう思い、立ち上がり、一歩後ろに踏み出そうとすると。
「……警告する。動くな」
固まった。
「……忠告しておく。お前も敵の可能性がある。判明するまで、逃げるな」
立ち上がろうとしている最中の、中途半端な状態で、美九はその言葉を聞いた。
発生源は、七海。
しかしその声は、今まで聞いてきた七海の声とは思えないほど、ぞっとする声色で、恐怖を感じた。
体勢がきつくなり、再度座り込む。
こちらを向かないままの七海は、エレンと言われていた女性に向かって言葉を発する。
「……最後に訊いておく。なぜ、敵対する?」
「あなたが強いからです。それ以外に、理由なんて無い」
「……聞き届けた。そうか」
直後、七海が、消えた。
現れたのは、エレンの目の前。構えた手刀を突き出してくる。
「く……っ!」
また、見えなかった。
人類最強である自分が見えないなど、この敵の速度はどうなっているのだろうか。
思うも、防がないと危ない。
先程、貫手だけで髪が切れたのだ。それは脅威に値する攻撃だ。
首元を狙った一撃を、顔を倒すように避ける。
そして、カウンターで、レーザーブレイドを振る。
しかし、
「いない……!?」
「……思うが。分からないのか」
「!?」
声は後ろからだった。
前に進みながら振り向くも、その攻撃をもらってしまった。
「かはっ!」
振り向く途中の自分。腹に衝撃を感じる。
ある意味、初めて攻撃が当たった。
思わず手を当て、さらに戦慄する。
「は……?……血?」
湿った感触に疑問を覚え、触れた手を見る。
そこには、赤い液体が付着していた。
自身の血液であった。
それを確認したが、冷静に止血と痛覚遮断を随意領域で行う。
ただし、冷静なのは表面上だ。
(なぜ!?今〈ディザスター〉は武器を持っていません。なのに、何故攻撃を受けた場所が傷つく!?)
考えるも、答えなど出ない。
そこに、新たな声がかかる。
「……質問してみようか。不思議か?」
「……ええ、どうやって私を傷つけたのです?」
「……解説してやるべきか。やる必要はないが」
待つと、言い出した。意外と義理堅い奴である。
「……一言で説明するが。消した」
「消した?」
「……肯定しよう。そして、さらに詳しく言おう。お前の皮膚や肉を消させてもらった。人間の構造など、どれも一緒だからな。あとは、髪の毛さえあれば、そいつの遺伝子なんかも理解できる」
素直に、訳が分からないと思った。
それを理解したからなんだというのか、消すというのは、どういうことだろうか。
そう思う先、七海は呟く。
「……一応言っておくが。俺は生物は消せないぞ。ただ、皮膚も肉も、単体では生物ではないから消しただけにすぎん」
「理解出来ませんね……」
いや、言っている意味は分かる。
が、それを繋げることが出来なかった。
だがまあ。
「これしきのことで、屈する私ではありません」
「……返答してみるが。別に訊いた覚えがない答えを言われても……!?」
相手が話している間に突っ込んだ。
だが、多少の狼狽を見せたが、すぐに対応してきた。
主に、再び消えることで。
「また……!」
「……言おう。それが俺の戦闘スタイルだしな」
今度は、斜め前。左側だ。
先程と同じような体勢を、左腕を掲げるようにする。
その鋭利なフォルムの左腕は、エレンが未だ消しきれていないスピードの軌道上だった。
慌てて、その軌道を右方修正する。
が、
「……告げておく。悪くない手だ。だが、俺には通用しないな」
衝撃があった。
「うぐ……っ」
左からの衝撃だ。飛行がよろける。
そこに、敵が来た。左腕を伸ばしてくる。
避けようとするも、またしても一瞬で接近され、そのまま首を掴まれた。
「……がはっ!」
呼吸が苦しくなる。
掴む腕の爪は、浅く首を裂いたようで、鋭い痛みを得る。
「くっ!」
苦悶の声を上げるが、レーザーブレイドで左腕を切り落とすことは出来た。
距離を開けてみると、切り離された左手部分が霧散していき、本体は、新たに同じフォルムの左腕を闇で形作っていた。
首の傷は浅いので、大事にはならないだろうが、止血と痛覚遮断はしておき、言う。
「……あなたが強いというのは再確認出来ましたし、私は一度、退くことにしましょうか」
「……質問する。何故だ?」
「今の私のこの装備は、本来の装備ではありません。今のあなたと戦うのならば、そちらの方がいいと思いましてね」
「……睨み、思うが。逃がすと思うか?敵であるお前を。俺が」
「逃げるのではありません、いわば準備です」
そう、これは不利を悟った撤退ではない。
こんな状況を逃すのは不本意だが、今のこのCR‐ユニットでは、さすがに無理な気がする。
だから、準備だ。
その為には一度本部まで戻らないと行けないが、まあ今回はこんな敵を見つけただけ僥倖と言えよう。
「それでは」
「……納得しておこう。わざわざ追う必要も、思えば無い。だから、早く失せろ」
そんな言葉を背に、遠くで戦っていた〈バンダースナッチ〉を撤退させる指示を出しながら、〈アルバテル〉に戻るエレン。
その姿を、七海はずっと見ていたがそれも止め、ある一点を見た。
「ひ……っ」
そこには、その視線を受け、竦みあがる美九の姿があった。
そこに向かって、七海は距離を詰める。
またしても、その移動は一瞬だった。
七海の姿は、美九の前にあった。
「きゃ……!?」
「……問おう。お前は、俺の、敵か?」
それは先程、エレンにも向けた言葉。
「ひ、ぁ……ゃ……」
その問いに、答えることが出来ない。
恐怖のあまり、引き攣ったような声が出るのみだ。
「……確認した。返答無し」
彼は、そう言うと、手刀を掲げた。
「……判断する。返答無しは、敵と見做す」
「い、や」
声が、反射的に出る。
そこで美九は、一つの考えに行き着いた。
すぐに実行に移す。
「ゃ、ぁぁぁ、ぁぁぁあああああ!!」
声の衝撃だ。
霊力を込めた自分の大声は、物理的な破壊力を得る。
それをこんな至近距離で使ったのだ。七海は吹き飛ぶ。
筈だった。
「……確定した。今のを、敵対行動と見做し、お前を敵とする」
平然と立っていた。
否、その闇に包まれた左腕を掲げていた。
だが、それだけだ。
それだけで、自分の声が、消されたのだ。
「―――――!?」
そして、声が出なくなった。
驚いて何かを言おうとするも、口からは息が漏れ出るのみ。
霊力が無くなったのだ。
おそらく、さっきの一発で、今まで使ってきていた霊力が底を尽いたのだろう。
「……実行しよう。お前を、殺す」
体は竦んで動けない。声ももう出ない。
絶望的だった。
恐怖しかなかった。
そんな時だ。
「――――何をしていますの、七海さん!」
銃声が聞こえた。
しかし、七海は身動ぎ一つしなかった。
だが、彼の近くに、こぶし大の闇が生まれた。
見れば、何か小さな物を呑み込んでいるようだった。
「――――【
七海は、何かを呟いたようだった。
そして、闇が消えた後、ようやくその銃声の音源に目を向ける。
そこにいたのは。
銃口を七海に向けるゴシック調のドレスを着た少女。
「く、ぅみ……ひゃん……?」
狂三であった。
彼女は、一度こちらを見たが、すぐに七海へと視線を戻す。
「……もう一度訊きますわ七海さん。今、何をしようとしていましたの?」
「……判断する。今のも、敵対行動とする」
「答えてくださいませ」
狂三の声は、どこか怒っているみたいだった。
その声にも表情を変えず、しかし七海は答える。
「……説明しよう。殺そうとしていただけだ」
「誰をですの?」
「……指で示すが。そこにいる奴だ」
そういえば、何で名前で呼ばないんだろうと、美九は思った。声は出ないし出せないが。
その答えを聞いた狂三は、なにかショックを受けたようだった。
「な、七海さん。今自分が何を言っているのか、分かっていらっしゃいますの?」
「……疑問を覚える。当たり前だろう」
「……ふざけないでくださいまし!」
突如、狂三は声を荒げた。
「七海さん、あなたがそれを言いますの!?それを行いますの!?精霊を救おうとするあなたが、わたくしですら救おうとしてくださった物好きなあなたが!何を言っていますの!?」
怒りと悲しみが混ざった叫びだった。
狂三は、雨なのか、はたまた別の何かを目元に溜めながら、まだ叫ぶ。
「あなたを信じた耶倶矢さんや夕弦さん、そしてわたくしを、裏切るつもりですの!?あなたが救おうとした美九さんを殺して!」
銃を持つ右手は、震えていた。
そんな叫びを聞いた七海は、心動かすだろうか。
「……疑問する。で?」
そんなことは無かった。
絶句する狂三や美九を無視し、彼は続ける。
「……それと、一つ質問させてもらうが」
まずもって、
「……耶倶矢や夕弦、美九と言ったな。お前も含めて――――」
七海は、本当に疑問に思っているかのように、訊いた。
「―――――誰だ?」
時が止まったかと思った。
だが、強くなる雨が、濡れた地面や水溜りを叩く音が、時の進みを語っていた。
「そん、な……」
ばしゃんと、狂三は膝から崩れた。
霊力で汚れることは無いとはいえ、雨に濡れた地面に直接触れるが、それを気にした風でもなかった。
ただ、呆然と呟く。
「こんなの、わたくしは知りませんわ……
小さく呟いたその声は、雨音に掻き消され、誰にも届かなかった。
そんな彼女に、一つの影がかかる。
「……変更する。最優先はお前と判断した。よって、今から殺す」
「……ふ、ふふ、わたくしを殺しきることが出来る方なんて、この世にはいませんわよ?」
諦めたように、彼女は言う。
しかし、それに構わず、七海は右手の手刀を振り上げた。
「……ですが、七海さん」
最後に、狂三は語りかける。
「あなたを止める方がわたくしだけなんて、誰も言ってませんわよ?」
「?」
小さく首を傾げた七海。
その瞬間。
「!」
何かに気付いたらしい七海が、ある方向を向いて身構える。
直後。
「何しようとしてるんじゃ七海いいいぃぃぃぃぃぃッ!!」
「制止。どんな状況かは分かりませんが、狂三、とりあえず七海を止めますよ」
そんな声が響いた。
そして、七海が身構えた方向の逆方向へと飛ばされた。
一緒に、雨粒も飛ばされる。
「……流石に、呆れるぞ。同じような言葉で邪魔されるとはな」
飛ばされながらも、空中で羽を広げ、その場に止まる。
「……再度、変更する。最優先の敵を、今の者とする」
七海がそう言う先、いるのは、
「何か不穏な物を感じて急いで戻りてみれば、一体、何があったと申すのだ?」
「疑問。……七海、ですよね?あれは」
それぞれがそれぞれの天使を構える、八舞姉妹だった。
はい、ということで次回はVS八舞といったところでしょうか。狂三の秘密は、まだまだ先です。
狂三と八舞姉妹が乱入してくる際の台詞が同じな件については、気にしないで下さい。他に何を言わせればいいか分からなかったんです。
あと、作中の『逆転体』というのは、勝手に作りました。アレです。独自設定。……すみません。
それと、逆転主人公のテレポート並みの移動速度についての説明もあります。次回。きっと。
あとは(まだある)、戦闘時の台詞のワンパターン化もお許しください。どんなこと言うか分からないんです。
それと、年末年始は更新を一時止めます。宿題をぱーっと終わらせちゃいます。
年明け5、6日ぐらいに更新出来たらします。
それでは、メリークリスマス&(暫定的に)よいお年を~。
……普通に更新しそうな気がします。
それでは、次回も読んでいただけることを願いつつ、ここらで終わりとさせていただきます。
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