デート・ア・ライブ  ~転生者の物語~   作:息吹

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 (便宜上)反転体の七海と、夕弦の口調が8割ぐらい被った……!

 ということで、前回から引き続き、VSエレンの回ですね。
 ですが、VSエレンは今回で終わりです。先に言っちゃいます。
 しかし、反転体の七海の口調、説明させてもらいますと、『なんか違う倒置法(?)』みたいなのを意識したりしなかったりなんですよね。
 なので、夕弦と被ってるのは気にしないでください。ちょっと違うんです。ちょっと。

 それではどうぞ。


第29話

「ははははははっ!」

 哄笑が響いていた。

 そこは、真っ暗な世界だった。

 しかしその世界は、いくつもの光もあった。

 至る所に点在する、ディスプレイのようなものの数々。それが、この暗闇を照らしていた。

 その画面には、それぞれ違う映像が流れていた。

 いや、映像ではない。

 全て、今起こっていることだ。あえて言うのなら、生中継といったところか。

 その画面を見るのは、一人の少女。今も笑っている。

「いいねえ、いいねえ七海くん!」

 楓であった。

 その画面に映るのは、現実世界。

 この世界ではない、ある人物を映したものだ。

 彼女は、興奮したように叫ぶ。

「自身の正義すら無いのに、悪を決め付けるのかい!?絶望なんてしてないくせに、希望を語らないのかい!?己すらも分かっていないのに、相手を敵だと見做すのかい!?」

 はははっ、と。

 彼女は嗤う。

「そうか、絶望はしてないから、あの世界で言う反転体とは言わないのかな」

 やや静かになった口調で、彼女は一人呟く。

「そうだね~……よし、『逆転体』って名付けよう。今度、話してみようかな」

 食い入るようにして見る一つの画面では、今まさに戦闘が開始されようとしていた。

 彼女が言った、七海という人物と、ノルディックブロンドの長髪が目を惹く人物が、一度接近した彼我の距離を離し、対峙しているのだ。

「七海くん?今はボクは何もしないよ」

 でもさ、

「さっき負けた分、取り返してみなよ」

 

 いつの間にか降り出した雨に打たれながらも、なんとか必死かつ静かに逃げて、距離を開けることは出来た。

 後ろを見れば、今もなお、逃げてきた相手は動いていなかった。

「な、なんなんですかもうぅ~」

 弱音を吐きたくもなる。

 なにしろ、いきなり敵が、自分を殺そうとしてきたのだ。そりゃ逃げるし、怖い。

 膝から力が抜け、おもわずその場に座り込む。

 あの時はびっくりした。

 狂三に言われてこちらに来たのはいいが、こんなことになるとは。

 右側を見れば、闇を放つ人がいる。

 七海だった。

 先程、いきなりあんな状態になったのだ。理由は不明。

 最初はあんなではなかったのに。

 左側、目を惹く長髪の女性だ。

 確か、エレン、と言われていた。

 美女と評してもいいが、先程あんなことがあった以上、決して好きにはなれなかった。

 そして、おかしいほどに強い。

「私、ここにいりますかねー?」

 いらないと思う。

 なら、逃げよう。自分の好きな時に戻っていいって言われてたし。

 そう思い、立ち上がり、一歩後ろに踏み出そうとすると。

「……警告する。動くな」

 固まった。

「……忠告しておく。お前も敵の可能性がある。判明するまで、逃げるな」

 立ち上がろうとしている最中の、中途半端な状態で、美九はその言葉を聞いた。

 発生源は、七海。

 しかしその声は、今まで聞いてきた七海の声とは思えないほど、ぞっとする声色で、恐怖を感じた。

 体勢がきつくなり、再度座り込む。

 こちらを向かないままの七海は、エレンと言われていた女性に向かって言葉を発する。

「……最後に訊いておく。なぜ、敵対する?」

「あなたが強いからです。それ以外に、理由なんて無い」

「……聞き届けた。そうか」

 直後、七海が、消えた。

 

 現れたのは、エレンの目の前。構えた手刀を突き出してくる。

「く……っ!」

 また、見えなかった。

 人類最強である自分が見えないなど、この敵の速度はどうなっているのだろうか。

 思うも、防がないと危ない。

 先程、貫手だけで髪が切れたのだ。それは脅威に値する攻撃だ。

 首元を狙った一撃を、顔を倒すように避ける。

 そして、カウンターで、レーザーブレイドを振る。

 しかし、

「いない……!?」

「……思うが。分からないのか」

「!?」

 声は後ろからだった。

 前に進みながら振り向くも、その攻撃をもらってしまった。

「かはっ!」

 振り向く途中の自分。腹に衝撃を感じる。

 ある意味、初めて攻撃が当たった。

 思わず手を当て、さらに戦慄する。

「は……?……血?」

 湿った感触に疑問を覚え、触れた手を見る。

 そこには、赤い液体が付着していた。

 自身の血液であった。

 それを確認したが、冷静に止血と痛覚遮断を随意領域で行う。

 ただし、冷静なのは表面上だ。

(なぜ!?今〈ディザスター〉は武器を持っていません。なのに、何故攻撃を受けた場所が傷つく!?)

 考えるも、答えなど出ない。

 そこに、新たな声がかかる。

「……質問してみようか。不思議か?」

「……ええ、どうやって私を傷つけたのです?」

「……解説してやるべきか。やる必要はないが」

 待つと、言い出した。意外と義理堅い奴である。

「……一言で説明するが。消した」

「消した?」

「……肯定しよう。そして、さらに詳しく言おう。お前の皮膚や肉を消させてもらった。人間の構造など、どれも一緒だからな。あとは、髪の毛さえあれば、そいつの遺伝子なんかも理解できる」

 素直に、訳が分からないと思った。

 それを理解したからなんだというのか、消すというのは、どういうことだろうか。

 そう思う先、七海は呟く。

「……一応言っておくが。俺は生物は消せないぞ。ただ、皮膚も肉も、単体では生物ではないから消しただけにすぎん」

「理解出来ませんね……」

 いや、言っている意味は分かる。

 が、それを繋げることが出来なかった。

 だがまあ。

「これしきのことで、屈する私ではありません」

「……返答してみるが。別に訊いた覚えがない答えを言われても……!?」

 相手が話している間に突っ込んだ。

 だが、多少の狼狽を見せたが、すぐに対応してきた。

 主に、再び消えることで。

「また……!」

「……言おう。それが俺の戦闘スタイルだしな」

 今度は、斜め前。左側だ。

 先程と同じような体勢を、左腕を掲げるようにする。

 その鋭利なフォルムの左腕は、エレンが未だ消しきれていないスピードの軌道上だった。

 慌てて、その軌道を右方修正する。

 が、

「……告げておく。悪くない手だ。だが、俺には通用しないな」

 衝撃があった。

「うぐ……っ」

 左からの衝撃だ。飛行がよろける。

 そこに、敵が来た。左腕を伸ばしてくる。

 避けようとするも、またしても一瞬で接近され、そのまま首を掴まれた。

「……がはっ!」

 呼吸が苦しくなる。

 掴む腕の爪は、浅く首を裂いたようで、鋭い痛みを得る。

「くっ!」

 苦悶の声を上げるが、レーザーブレイドで左腕を切り落とすことは出来た。

 距離を開けてみると、切り離された左手部分が霧散していき、本体は、新たに同じフォルムの左腕を闇で形作っていた。

 首の傷は浅いので、大事にはならないだろうが、止血と痛覚遮断はしておき、言う。

「……あなたが強いというのは再確認出来ましたし、私は一度、退くことにしましょうか」

「……質問する。何故だ?」

「今の私のこの装備は、本来の装備ではありません。今のあなたと戦うのならば、そちらの方がいいと思いましてね」

「……睨み、思うが。逃がすと思うか?敵であるお前を。俺が」

「逃げるのではありません、いわば準備です」

 そう、これは不利を悟った撤退ではない。

 こんな状況を逃すのは不本意だが、今のこのCR‐ユニットでは、さすがに無理な気がする。

 だから、準備だ。

 その為には一度本部まで戻らないと行けないが、まあ今回はこんな敵を見つけただけ僥倖と言えよう。

「それでは」

「……納得しておこう。わざわざ追う必要も、思えば無い。だから、早く失せろ」

 そんな言葉を背に、遠くで戦っていた〈バンダースナッチ〉を撤退させる指示を出しながら、〈アルバテル〉に戻るエレン。

 その姿を、七海はずっと見ていたがそれも止め、ある一点を見た。

「ひ……っ」

 そこには、その視線を受け、竦みあがる美九の姿があった。

 そこに向かって、七海は距離を詰める。

 

 またしても、その移動は一瞬だった。

 七海の姿は、美九の前にあった。

「きゃ……!?」

「……問おう。お前は、俺の、敵か?」

 それは先程、エレンにも向けた言葉。

「ひ、ぁ……ゃ……」

 その問いに、答えることが出来ない。

 恐怖のあまり、引き攣ったような声が出るのみだ。

「……確認した。返答無し」

 彼は、そう言うと、手刀を掲げた。

「……判断する。返答無しは、敵と見做す」

「い、や」

 声が、反射的に出る。

 そこで美九は、一つの考えに行き着いた。

 すぐに実行に移す。

「ゃ、ぁぁぁ、ぁぁぁあああああ!!」

 声の衝撃だ。

 霊力を込めた自分の大声は、物理的な破壊力を得る。

 それをこんな至近距離で使ったのだ。七海は吹き飛ぶ。

 筈だった。

「……確定した。今のを、敵対行動と見做し、お前を敵とする」

 平然と立っていた。

 否、その闇に包まれた左腕を掲げていた。

 だが、それだけだ。

 それだけで、自分の声が、消されたのだ。

「―――――!?」

 そして、声が出なくなった。

 驚いて何かを言おうとするも、口からは息が漏れ出るのみ。

 霊力が無くなったのだ。

 おそらく、さっきの一発で、今まで使ってきていた霊力が底を尽いたのだろう。

「……実行しよう。お前を、殺す」

 体は竦んで動けない。声ももう出ない。

 絶望的だった。

 恐怖しかなかった。

 そんな時だ。

「――――何をしていますの、七海さん!」

 銃声が聞こえた。

 しかし、七海は身動ぎ一つしなかった。

 だが、彼の近くに、こぶし大の闇が生まれた。

 見れば、何か小さな物を呑み込んでいるようだった。

「――――【無形(ラ・トフ)】」

 七海は、何かを呟いたようだった。

 そして、闇が消えた後、ようやくその銃声の音源に目を向ける。

 そこにいたのは。

 銃口を七海に向けるゴシック調のドレスを着た少女。

「く、ぅみ……ひゃん……?」

 狂三であった。

 彼女は、一度こちらを見たが、すぐに七海へと視線を戻す。

「……もう一度訊きますわ七海さん。今、何をしようとしていましたの?」

「……判断する。今のも、敵対行動とする」

「答えてくださいませ」

 狂三の声は、どこか怒っているみたいだった。

 その声にも表情を変えず、しかし七海は答える。

「……説明しよう。殺そうとしていただけだ」

「誰をですの?」

「……指で示すが。そこにいる奴だ」

 そういえば、何で名前で呼ばないんだろうと、美九は思った。声は出ないし出せないが。

 その答えを聞いた狂三は、なにかショックを受けたようだった。

「な、七海さん。今自分が何を言っているのか、分かっていらっしゃいますの?」

「……疑問を覚える。当たり前だろう」

「……ふざけないでくださいまし!」

 突如、狂三は声を荒げた。

「七海さん、あなたがそれを言いますの!?それを行いますの!?精霊を救おうとするあなたが、わたくしですら救おうとしてくださった物好きなあなたが!何を言っていますの!?」

 怒りと悲しみが混ざった叫びだった。

 狂三は、雨なのか、はたまた別の何かを目元に溜めながら、まだ叫ぶ。

「あなたを信じた耶倶矢さんや夕弦さん、そしてわたくしを、裏切るつもりですの!?あなたが救おうとした美九さんを殺して!」

 銃を持つ右手は、震えていた。

 そんな叫びを聞いた七海は、心動かすだろうか。

「……疑問する。で?」

 そんなことは無かった。

 絶句する狂三や美九を無視し、彼は続ける。

「……それと、一つ質問させてもらうが」

 まずもって、

「……耶倶矢や夕弦、美九と言ったな。お前も含めて――――」

 七海は、本当に疑問に思っているかのように、訊いた。

 

「―――――誰だ?」

 

 

 時が止まったかと思った。

 だが、強くなる雨が、濡れた地面や水溜りを叩く音が、時の進みを語っていた。

「そん、な……」

 ばしゃんと、狂三は膝から崩れた。

 霊力で汚れることは無いとはいえ、雨に濡れた地面に直接触れるが、それを気にした風でもなかった。

 ただ、呆然と呟く。

「こんなの、わたくしは知りませんわ……あの日(・・・)、七海さんは教えてくださいませんでしたの……?」

 小さく呟いたその声は、雨音に掻き消され、誰にも届かなかった。

 そんな彼女に、一つの影がかかる。

「……変更する。最優先はお前と判断した。よって、今から殺す」

「……ふ、ふふ、わたくしを殺しきることが出来る方なんて、この世にはいませんわよ?」

 諦めたように、彼女は言う。

 しかし、それに構わず、七海は右手の手刀を振り上げた。

「……ですが、七海さん」

 最後に、狂三は語りかける。

「あなたを止める方がわたくしだけなんて、誰も言ってませんわよ?」

「?」

 小さく首を傾げた七海。

 その瞬間。

「!」

 何かに気付いたらしい七海が、ある方向を向いて身構える。

 直後。

「何しようとしてるんじゃ七海いいいぃぃぃぃぃぃッ!!」

「制止。どんな状況かは分かりませんが、狂三、とりあえず七海を止めますよ」

 そんな声が響いた。

 そして、七海が身構えた方向の逆方向へと飛ばされた。

 一緒に、雨粒も飛ばされる。

「……流石に、呆れるぞ。同じような言葉で邪魔されるとはな」

 飛ばされながらも、空中で羽を広げ、その場に止まる。

「……再度、変更する。最優先の敵を、今の者とする」

 七海がそう言う先、いるのは、

「何か不穏な物を感じて急いで戻りてみれば、一体、何があったと申すのだ?」

「疑問。……七海、ですよね?あれは」

 それぞれがそれぞれの天使を構える、八舞姉妹だった。




 はい、ということで次回はVS八舞といったところでしょうか。狂三の秘密は、まだまだ先です。

 狂三と八舞姉妹が乱入してくる際の台詞が同じな件については、気にしないで下さい。他に何を言わせればいいか分からなかったんです。
 あと、作中の『逆転体』というのは、勝手に作りました。アレです。独自設定。……すみません。
 それと、逆転主人公のテレポート並みの移動速度についての説明もあります。次回。きっと。
 あとは(まだある)、戦闘時の台詞のワンパターン化もお許しください。どんなこと言うか分からないんです。

 それと、年末年始は更新を一時止めます。宿題をぱーっと終わらせちゃいます。
 年明け5、6日ぐらいに更新出来たらします。
 それでは、メリークリスマス&(暫定的に)よいお年を~。
 ……普通に更新しそうな気がします。

 それでは、次回も読んでいただけることを願いつつ、ここらで終わりとさせていただきます。

 よければ、活動報告の質問もお答えお願いします。

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