さて、今回はあまり美九との会話が少ないですね。
あれです。前回から続く真那との戦闘をどうにかしないと。
それではどうぞ。
小さな欠片を落としながら、俺は立ち上がる。
「痛っ……、くっそ、思いっきり吹っ飛ばしやがって」
粉塵に汚れた服を払いつつ、そうぼやく。
幸いにも、怪我はないみたいだな。痛いけど。
いやさ、真那の腕を掴んだら、一気に振り落とされちゃってさ。
なんでそんなことをしたのかと訊かれれば、まあ、理解するため。
真那に施された魔力処理。それをな。
確か、真那は、そのCRユニットを扱うために、寿命を代償に魔力処理というものが施されていたはず。
なら、俺は真那を救う為に、それを理解しておこうと思って腕を掴んだんだけど、結果はこれだ。
あ、一応言うと、理解して速攻消す気はないぞ。
いきなり消したことによって、どんな弊害や副作用なんかがあるか分からないから、ってのが理由な。
だけど、もともと魔力ってのを理解するのは時間がかかるみたいだな。せめて十数秒はいる気がする……。
「……なにステージを台無しにしてくれちゃってるんですかぁ?」
そう考える俺の横。そう侮蔑成分が多量に含まれた言葉が聞こえた。
「……うげ」
そういえば、そうだったな……。
咄嗟のことで殆ど意識していなかったけど、いたんだよなあ。
耳を塞いで、声は聞こえなくしておいたけど、どうしたものか。
「折角の女の子たちが帰ったじゃないですかー。この責任、どうやって取るつもりですぅ?あ、いや、やっぱりいいです。責任とか言って何するか分かったもんじゃありませんしねー。まああるとすれば、そのゴキブリ以下の命を今すぐここで散らせることぐらいですかぁ」
誘宵美九。
紫紺の髪に、銀色の瞳。抜群のスタイルに纏う服は、どうやら普通の服の様子。
「残念だが、その要望には応えられないかな」
俺がそう返すと、彼女も言い返す。
いや、言い返すというか、突き放す、かな。
「はあ?何言ってるんですか、なに会話してるんですか、なに口を開いてるんですかぁ?汚れた声を発さないでいただけますぅ?私の耳がどうにかなって―――――」
そこで、声は途切れた。
理由は簡単。
「―――――少し、黙っていてくれ」
俺が、腕を横に突き出し、美九を守るように立ったからだ。
気配を感じたんだ。
そう、まだ終わってないよな。
「まだ死んでいやがりませんでしたか。しぶとい奴でいやがりますね」
視線の先、俺の敵対者が、そう言った。
「まあ!」
何かを言おうとする俺より先に発せられた声。音源は横。
美九だ。
「なーんだ。可愛い女の子もいるじゃないですかぁ」
きっと俺に向けられたのであろうその声は、ある言葉を続けた。
「―――――『
直後、彼女が光に包まれた。
そして、現れたのは、全体的にボリュームがあり、光の帯やフリルのあるドレスを身に纏った少女。
精霊としての、誘宵美九だった。
「な………!?」
「まさか、〈ディーヴァ〉でやがりますか!?」
どういうことだ!?なんでこの状況で霊装を顕現させた!?
明らかに敵対されるって……。
いや、分からないのか?
まさか、ASTなんかの組織を知らないんじゃ……?
元は一般人なんだから、それを知らないというのも有り得る話だ。
でも、それを止めなかった理由は推測できても、やった理由が分からない。
「ふっふー、私と一緒に遊びませんかぁ?今なら、たっぷりと可愛がってあげますよー?」
……あー。
成程、可愛い子とじゃれ合いたいだけ、と。
まあ確かに、霊装になれば空中に飛べるしな。そういうことかもしれないな。
でもほら、美九、真那もポカーンとした表情をしてるぞ?
「……今なら、見逃してやらないこともないです。早くこの場から去るがいーです」
気を取り直して、という風に真那は言う。
見逃してもいい、っていうのは、俺と交戦中で、優先すべきは俺を倒すことだからか。
「何言ってるんですかぁ。私は逃げたりしませんよー?さあ、私の胸に飛び込んでもいいですよ!」
「わけのわかんないことを言ってんじゃねーです!?」
うわ、真那が微妙に引いてる。
しょうがない、無理矢理だけど、状況打破といこうか。
「美九」
呼ぶと、今までの表情から一転。侮蔑と嫌悪の目になって返事をする。
「勝手に私の名前を呼ばないでいただけますぅ?私の名前が穢れちゃうじゃないですかー。というか、まだ生きていたんですね。なんで死んでないんですか、なんで消えてないんですかぁ?ほら、一刻も早くいなくなってくださいよ。それだけで私は救われますしー」
よし、無視しよう。
面倒なことは見て見ぬ振り。
俺から呼んどいてどうかとは思ったが、背に腹は代えられん。
俺は、空中を睨む。
すると、それに気付いたのか、向こうも見下ろしてくる。
「……」
「……」
一瞬の無言。
そして。
激突。
両者、一言も発しないまま、空中で激突。火花が散った。
俺は、落下の衝撃かなにかで消えていた翼をもう一度作り出し、雷の爪を纏って。
真那は、自身のレーザーブレードを振り翳し、一息に距離を詰めて。
「……一つ、いいでいやがりますか」
何度かの攻防の後、できた間を選んで、声が聞こえた。
「なんだ?」
「なぜ、そこまでして〈ナイトメア〉を……いや、精霊に荷担するでいやがりますか?どうも理解できねーです」
なんだ、いきなり何を訊くかと思えば。
しかし、いざ説明となると難しいな。
「まあ、ただ単に、目の前で救えるかもしれない奴がいるなら、手を差し伸べるのは当たり前だろ?」
「……それが、〈ナイトメア〉だとしてもでいやがりますか?」
「ああ。たとえ一万人以上殺していようが、最悪の精霊と言われようが、救えるなら俺は救うさ。勘違いしてもらっては困るが、別に俺は殺人を許容するわけではないぞ」
だからといって、それを償う方法もあるかわかんないけどな。
「ちょ、ちょっと待つです」
「……?」
どうした?
「今てめーは、一万人以上殺した、最悪の精霊と言われようが、そう言ったでいやがりますよね?」
「?それがどうした?」
「……それは、誰のことを言ってるでやがりますか?」
…………は?
今、なんて?
「いやいや、何を変なところでとぼけてるんだ。そんなの、狂三以外にいないだろ?」
狂三以外に、なんて言い方はあまり好きじゃないが、どうも動転して頭が回らない。
だって、あの真那が、だぞ?
あの真那が、そんなこと言うわけないじゃないか。
「〈ナイトメア〉……?何を言ってるんです?あいつは、そんなに殺したりしてねーですし、呼ばれてもねーですよ。まあ、似た呼び方ではいやがりますけど」
待て。それこそ何を言っている?
だって、それじゃ、おかしいだろ。
「……じゃあ、あいつはどういう奴だ?」
「知らないでやがるのですか?変に偏った知識でいやがりますね」
言いつつ、真那は語る。
訂正箇所だけですがと前置きして、
「殺した数は
……なんだと?
じゃあ、なんでお前は狂三を狙う?
いや、能動的に人を殺すだけで、危険とは思われるのか。
だけど、最悪ほどではない、と。そういうことか?
「真那」
「なんでやがりますか?」
「情報、ありがとう。だが、今は戦闘を再開してくれないか」
そうでもして思考を切り替えないと、混乱してどうにかなりそうだ。
そう続けた俺の言葉に、真那は、
「別にかまわねーですよ」
そう言ってくれた。
なら俺も、本気で行こう。
「さあ、再開です」
「ああ、行くぞ」
再度、激突。
美九は、暇を持て余していた。
というのも、
「……置いてかれたですぅ……」
いや、実際には見えている。
可愛らしい女の子と、害悪存在が戦っている姿が。
しかし、見えているからこそ、そこに行く気も起きなかった。
なんせ、
「見えませんしねー」
とにかく速すぎた。
一度、何か会話をしたようだが、流石に聞き取れなかったし、既に戦闘は再開されている。
「だけど、あの人は精霊さんだったですかー……」
あの人とは勿論、七海のことだ。
だが、名前を知らないので『あの人』となっている。まあ、伏せ字にしなければならないようなあだ名ではないだけマシか。
翼をいきなり出してきたときは驚いたが、自分と同じ精霊というのなら、話は分からないでもない。
さて、暇なので、ちょっと疑問に思っていることを考えようと思う。
(なんであの時、瓦礫は私を潰さなかったんでしょうかぁ?)
あの人が落ちてきた時のことだ。
明らかにあれは、自分に直撃する軌道だった。
なのに、今、自分はここになんとなしに立っている。
察するに、あの時目が合った気がしたのは、彼とだろう。
そう思うと寒気がするが、今はそれどころじゃない、かもしれない。
美九は、彼が落ちてきた時に一緒に落ちた瓦礫の近くに行ってみる。といっても、数歩だ。
(……瓦礫が、少ないですねー)
気付いたことはといえば、思ったより瓦礫の量が少ないことぐらい。
やけに多く見えたのは、錯覚か。その割には、穴は大きいが。空が大きく見える。意外と脆かったのかもしれない。
(?そういえば、なんで落下地点がずれてるんですぅ?)
思えば、おかしいのだ。
瓦礫の軌道は自分の真上。だけど、あの人が落ちてきたのはすぐ前。
つまり、ずれている。
んー、と考えるが、結局分からない。
微妙な消化不良を起こしつつ、見上げた空では、未だ火花が散っていた。
さて、最後に美九が感じていた疑問については、そのうち明かされます。きっと。
ここで大きな独自設定がありましたね。その理由もちゃんと考えています。ただし、それが明かされるのは随分後になりそうです。
それでは、次回も読んでいただけることを願いつつ、ここらで終わりとさせていただきます。
真那の独特な敬語については不問でお願いします……。安定の『~やがります』口調です。