やや急展開、ご都合主義なところがありますが、気にしないでください。
それでは、どうぞ。
「ほぅ・・・」
思わずそんな言葉が出るほどに、この露天風呂は気持ち良かった。
ありきたりな文章表現になるが、疲れがにじみ出る様な感じとでも言おうか。
「はぁぁぁぁ・・・」
あまり人がいないことを良いことに、体を伸ばしてくつろぐ。
微かに水音をたてながら、俺は縁に首を乗せるような体勢になる。足も伸ばして絶賛リラックスタイムだ。
ただただぼーっとしているだけの時間。
「ほんと、色んなことがあったなぁ・・・」
思い返せば、まだこの世界に来てから1日と経っていないんだよな~。
こっちに来たかと思えばすぐに鬼ごっこ。途中でガチ勝負して、二人を助けると誓って、そのまま遊覧飛行・・・とはちょっと違うか。落ちそうになるのを助けてもらってデートみたいなのをしたり、遊園地で遊んで、旅館に来て、そして今。
予想以上に疲れていたらしい体は、そんな思考と共に力が抜けていって・・・
俺は、まぶたが落ちていくのに抵抗できずに、そのまま眠ってしまった。
「・・・ぅあ?」
む、どうやら寝てしまったらしい。もとより少なかった利用者が、さらに少なくなっている。
寝起きだからか、あまりはっきりしない頭で、そんなことを確認する。
もうちょっと浸かっていたいが、そろそろあがるとしよう。
そういや、耶倶矢と夕弦は?
未練まがしく、未だに浸かった状態のまま周りを見渡してみる。
両隣にある、温泉の湯とはまた違う温もりを刺激しないようにしながら・・・
・・・待て。両隣の温もり?
ギギギと、錆びた歯車のように首を動かす。
目に映るのは解かれた橙色の髪。意外と長い。規則正しい息づかいも聞こえてくる。寝ているらしい。
よし、これだけで十分。落ち着こう。まずは落ち着こう。さあ東雲七海、どうやってこれを切り抜ける?
①常識的に、静かに起こす。
②驚いた風に、叫んで起こす。
③現実逃避(という名の願望)、このまま寝た振りor放置
さあ、どうしよう。基本この3つだ。
温泉に浸かってるはずなのに、冷や汗をかきながら考える。
・・・うん、どう考えても①が最良としか思えない。
ということで、思い立ったが吉日だ。
「おーい、耶倶矢、夕弦、起きてくれー」
どちらも、俺の肩に頭を乗せるような体勢なので、それぞれの手で頭を軽く揺する。
最初に起きたのは夕弦の方だった。
「よう、起きたか?」
「放、心。これは・・・」
「俺の方が説明願いたいところなんだけど」
「要求。待ってください。今思い出しますので」
この会話の所為か、今度は逆側からむずがるような声が聞こえてきた。
「む・・・ぅ、ぅん・・・」
「いやいや、寝るな。起きてくれ、耶倶矢」
「・・・え?」
再び眠りにつこうとする耶倶矢に声をかけると、寝ぼけ眼でこちらの顔を見上げてきた。
が、これもあり!と思う間もなく(結局思ってる)、その目が見開かれた。
「え、え?あれ?七海?なんでこんなことに?あれ?」
顔に大量の疑問符を浮かべながら、体を離す耶倶矢。夕弦も、いつの間にか耶倶矢の方にやってきていた。
「思考。・・・確か、中の温泉を満喫した後こちらに来たのですが、七海が寝ているのを発見しまして」
その言葉に、大量の疑問符を一気に『!』にしながら、耶倶矢が続けた。
「そう!それで隣に入ったら、いつの間にか寝ていて!」
「同調。そして今に至るわけです」
「・・・そうか」
はあ、成程。状況は理解した。
ま、それはあまり興味はないんだけど。
「それじゃ、そろそろ部屋に戻るか」
「クク・・・では、先に待っておるとしよう。あの誓い、忘れるでないぞ?」
誓い?ああ、お前らを救ってやるってやつね。
「約束。必ず、夕弦たちが笑える世界にしてください」
「言われなくても」
そうして二人が立ち上がる素振りをしたため、慌てて後ろを向き、気配がなくなったところで俺も立ち上がって脱衣所へと向かう。
さあ、今日一番の大仕事だ。
言っていたとおり、耶倶矢と夕弦は既に部屋にいた。
何故か浴衣姿だったが、きっとこの浴衣を着ている客でも見て、自分たちも着てみたくなったんだろう。
俺はそう結論付けて、部屋に敷かれていた布団の一つに座り込む。
「耶倶矢、夕弦、ここに座ってくれ」
そう言って示すのは、俺のすぐ目の前。
二人は特に何も言わずに、大人しく座ってくれた。
「手、貸して」
そうすると、それぞれ手を出してくれたので、その手を掴む。
それじゃ、とっとと始めよう。
目を閉じ、集中。視覚ではないもので、『視る』感じ。
意識を、彼女たちに向ける。
俺の能力の応用、発展型。その情報を『理解』する。
効果としてはそのまま。相手の情報を理解するための力。こうしないと、創ることも消すこともできないからな。
あくまでも応用なので、もう1つの能力っていうわけじゃない。
相手の情報と全く同じ情報を頭の中で組み立て、それを理解することで、創れるように、消せるようになるって感じだと思う。
まあ、普通はここまでしなくてもいいんだろうけど。
俺が今理解しようとしてるのは、耶倶矢と夕弦の
そうして、俺の意識は二人だけに注がれていく。
イメージ的に、二人の中に入ったとでも言おうか。そうした途端、猛烈な頭痛が俺を襲う。
「うぐ・・・!」
我慢するために眉間に皺を寄せ、手に力が入っているのが分かる。
だけど、これじゃ駄目なんだ。それすらも分からないぐらい集中しないといけないのだから。
既に、二人の声は聞こえない。意識すれば声という情報を理解できるだろうが、そうすることもできない。
俺はさらに集中することで、その頭痛を我慢することにした。
俺が今『視て』いるのは、なんとも表現できないものだ。色のような、形のような。抽象的のような、実物のような。そんな感じのもので、なにがなんだか分からない。
だが、それでも理解しないと。なにがなんだか分かんないのなら、片っ端から調べてみればいい。
そうして、俺の意識はさらに奥深くへ・・・
どのくらい経っただろうか。1時間かもしれないし、1分かもしれない。この状態じゃわからない。
少しずつではあるが、理解する効率も上がってはきている。似た感じのものがあるから、その分の理解が早くなっているのだ。
それでも、まだ見つかっていないものがある。そう、俺が消すべきものである、二人の同一化の部分。
見つからないなら、さらに奥に潜るまでだが。
そうするに連れて、俺が理解している内容は、二人の根本的なものになっていく。
これは・・・天使か。
ここは・・・霊装。
元が同一人物であるためか、二人の霊結晶の情報は、ほとんど一緒だ。むしろ、二人で一つの部分すらある。
そうしたさらに奥で、俺はついに見つけた。
・・・ここだ!
同一化。絶対に抗うことのできない根幹部分。
俺は、これを、消す!
これが消えるイメージをする。
それでも・・・消えない。
なっ!?何でだ?なんで消えない!!
焦りだけが募っていく。
落ち着け。冷静になれ。それが俺のモットーなんだから。
問、能力の発動条件は? 解、それを理解していること。
問、どうすれば発動しやすい? 解、方向、イメージを実際に表すこと。
・・・?
問、イメージを、表すとは?
解、言葉にすること。
これは、少し危険性を帯びる。
なぜなら、言葉を口にするには意識をその分浮上させないといけない。
・・・それでも、
俺は、意識が少し離れていることを意識しながら、言葉を口にした。
「
俺がそれと同時に、俺は目を開けた。
「・・・どうだ?」
目の前の瓜二つの顔をした彼女たちに問いかける。
「む・・・おかしな違和感があるな。それ以外には、特にこれといった感じはせぬが・・・」
「首肯。でも、わかります。七海は、夕弦たちを救ってくれたんだと」
「クク・・・大義であったぞ、七海」
「・・・ああ」
俺の言葉数は少ない。
「確認。これで、夕弦達は、ずっと一緒なんですね」
「ん・・・確かに、もうどっちかが、消えること、なん、て・・・っ」
その声が、少しずつ濡れたものに変わっていく。
「質、問。耶倶矢?どうして、泣いて・・・?」
それを疑問に思う声も、途中で止まる。
「疑、問。どういう、こと、でしょう・・・?」
「ふん・・・夕弦、だって、泣いてる、し・・・」
・・・俺が言葉をかける雰囲気じゃないな。
未だに続く頭痛を堪えながら、俺は二人の姿を見続ける。
「ねえ、夕弦」
「返答。なんで、しょう?」
「・・・ごめん、泣かせて」
「・・・承認。いいです、が、夕弦も、いいでしょうか?」
「・・・うん」
そうして、二人は、嬉しさからくるのであろう涙を、二人して抱き合って、零し続けた。
途切れていく意識の中、それが俺の見たことだった。
それを見て思う。
・・・よかった。俺は、誰かを、救えたんだって―――――
こんな感じです。
実は今日テストでして、結果が散々なことが目に見えているため、レッツ、リアルエスケープということで。
書くことがあまりないため、この辺で終わらせていただきます。
次回からは美九編です。新しく書くifは、四糸乃ともう1人も決まりました。誰かはお楽しみで。