艦これのレ(仮題)   作:針山

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疫者三友(えきしゃさんゆう)

 

 

 ル級との戦闘から数か月、レ級はその後の追撃を受けることなく、また艦娘や人間に襲撃されることなく、世界旅行を楽しんでいた。

 オーストラリアから離れ古巣に戻るかと考えていたレ級を追う者たちは、一向に捕まらないレ級の姿にやきもきしながらも、その間にあった様々なイベントもとい大規模な戦闘により、次第に忘れていく。

 目前の日常に、過去は次第に薄れていく。

 あの戦闘狂が艦娘、深海棲艦とも戦わず、また古巣にも姿を見せないことに対し、撃沈されたのではと少々甘い考えを唱える者もいたが、確かに以前のレ級を思えば致し方ない結論だが、そうではなかった。

 彼らないし彼女らがレ級の捜索として広げた範囲は、それまでと同様の海域であり、まさかレ級が、深海棲艦が世界旅行などと優雅な休暇を楽しむなど、考えにも及んでいなかった。

 オーストラリアを後にしたレ級はそのまま太平洋に行くのではなく、パプアニューギニアへ進路を取り、南太平洋最後の楽園と呼ばれる島々を見て回る。オーストラリアと比べると発展に関しては劣っているが、その分、多くの自然が残された美しい国だ。

「海ノ色ガ違ウ」

『コバルトブルー、というやつだ』

 自然と人間が創り出した共存を見た後、インドネシアにインドと回る。インドからは南アフリカへ象を見に行くも、沿岸付近ではキリンしかおらず、しかし異様に長いキリンに興奮していた。

「ペッペッ、コノ川、メッチャ汚イ」

『飲むなよ? ここいらは人間の排泄物も含まれている。お前が病にかかるとは思えんが、衛生上良くないのは確かだ』

「デモ、川デ洗ッテルヨ?」

『家でまた洗う』

「オオ、知ッテル。二度洗イ。良イ機能」

『……少し違う』

 続いてブラジルへ行き、尾が言うにはサッカーが盛んな国だと話していたが、現在は地元の子供たちも外へ出るよりテレビゲームなど他の娯楽をする者が多く、サッカーの風景を見ることは叶わずレ級は頬を膨らませていた。

 そこからプエルトリコを通り過ぎアメリカ合衆国へ。北大西洋では深海棲艦の勢力はそれほど浸透してはおらず、日本近海よりも警戒は幾分か緩い。緩いとは言っても未だ世界トップを誇る軍事力を有する国だ。油断は禁物だ。

「コノ国ハ知ッテル。イ級ガ言ッテタ。夢ガ叶ウ国ダッテ」

『そのイ級は何を夢見てるんだ……』

 そこから進路を北に、イギリス、ノルウェーを回り氷が阻む世界へ。

 巨大な国ロシア。その北側をぐるりと一周する。

「寒イ……」

『そうだな。思ったよりも水が冷たい』

「眠イ……」

『寝るな』

「ウン……チョットダケ……グゥ」

『寝るな』

 尾にたたき起こされながら、閉じる眼をこじ開けベーリング海を抜け戻ってきた。

 ロシアと北海道に位置するオホーツク海。

 日本近海へと、戻ってきた。

 どれほどの月日が経ったのか、カレンダーの感覚がないレ級には解らない。郷愁なんて想いも、初めて体験した。ぐるりと地球を一周。満遍なく回ったわけではなく、 要所要所を見ただけでほとんどが航行だったが、それでも世界の人々の営みを見た。

 たくさんの人間が、色んな日常を過していた。

 争わず、憎しみ合わず、楽しそうに過していた。

 生活の違いなんて比べるものではないけれど、それでもレ級は考える。自分と、見て回った世界の人々の、日常の違いを。

 いつでも一人でいたレ級にとって、多くの者と一緒にいる彼らは不思議の対象でしかなかった。ちょっと前までの、レ級にとっては。

 今は、少し背後を見やれば。

『どうした?』

「ウウン。何デモナイ」

 不思議そうに首を傾げる尾を見て、思わずクスリと笑うレ級。

 こうして声がある。

 自分以外の声が。

 今までレ級は自分以外は不要だった。必要性を感じていなかった。だが、あっても構わないと思うようになっていた。

 仲間がいて弱くなることはないと、考えるようになったのだ。

 一人で戦った日々も楽しかったが、二人で戦う日々も楽しかった。

 だからいいやと、レ級は考えた。

 艦娘も弱い集団だけれど、以前の伊勢と日向の連撃のように、仲間がいて強くなることもあるのだと、思うようになった。

 深海棲艦もそうなのだろうと、なら今度戦う時は、どちらとは解らないが、他に仲間がいてもいいかなと、鼻歌交じりに思う。

 そんな、旅行から帰り家に近づき、気が緩んだその時、レ級は出会う。

 小さな島々が点在する、千鳥列島と北方領土の間。

 オホーツク海から太平洋へと抜ける為に、通過しようと思った場所。海上。

 直径四、五キロほどしかない小さな小さな島の目前で、レ級は出会う。

「オ前、噂ハ聞イテルゾ」

 岩礁の影から、島の影から突如、声が聞こえ姿を現す。

 不意打ちにしては絶妙で、奇襲にしては奇妙だ。

 声をかける前に砲撃を与えればいいのに、そいつは会話を求めてきた。

「死ンダト聞イテタガ……カハハッ、ソウダヨナ、ソウ簡単ニ死ヌ訳ガナイ」

 初めて見ると言えば初めて見るし、よく知っていると言えばよく知っている人物。

 そいつの出現に、尾は黙り込み。

 そいつの出現に、レ級は驚愕を覚える。

「待ッテイタゾ」

 特徴的なのは恰好だ。

 真っ黒のレインコートに背中には白いリュックサック。

 チャックを腹部まで開けたレインコートの下には黒のビキニという妖艶な服装。

 そして腰よりやや下から、長く太い大きな尻尾が、伸びていた。尾の先には、深海棲艦の艦種、駆逐艦の頭部が付随している。

「ヨク来タ、ワタシ」

 そいつは――ニタリと――いやに怖気が混ざった笑み貼り付け。

 右手を背後の島へと差しながら、言った。

「ココガ、ワタシ達ノ居場所ダ」

 

 戦艦レ級は、戦艦レ級を迎える。

 

 


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