緋弾のアリア その武偵……龍が如く   作:ユウジン

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金と弟 後編

「GⅢ……もう辞めろ。そんな体でどうするんだ」

「くははは……教えてやるよキンジ……戦いに於いての負けってのは負けと思った方の負けなのさ……俺は負けだと思ってねえ……つまり俺の負けじゃねえ」

 

そう言ってGⅢはフラフラしながら一歩進む。

 

「俺は負けられないんだ……俺は最強じゃなきゃいけない……無敵で不敗じゃないといけない……あの人の理想を叶えるために……俺は負けられねぇ……」

 

更に一歩進む……

 

「最後の通告だぜキンジ……頭を垂れて降伏しな……そして【緋弾のアリア】を渡せ……」

「アリアを?」

 

キンジは咄嗟にアリアを見た。

 

「そうさ……イロカネ界隈じゃ有名でな……古いやつらの間じゃ神様扱いだぜ」

 

更に一歩……

 

「なぜアリアが必要なんだ?」

「お前も見ただろ……【緋天・緋翔門】をな……」

 

キンジもそれは覚えている……無意識にパトラに一回、そしてシャーロックに向けて一回……何に利用する気かは知らないが……

 

「無理だGⅢ……あれをアリアは自分では使えない」

「お前が絡めば使えるさ……」

「?」

 

キンジは意味がわからない。

 

「だがGⅢ……確かにあれは強力だったが触れた物体を消し飛ばすなんれ明らかにオーバーキルだろう」

「はぁ?なにいってやがんだお前……あれは殺さないぞ」

「……え?」

 

そんな馬鹿な……パトラの時にはピラミッドの天井が消し飛んだのだ……あれを人に向けたら生きてるはずがない。

 

「三年前に突然海にピラミッドの一部が流れ着いたって事件になっただろうが……」

「ああ……――っ!まさか!」

「鈍いやつだな……そうだよ。あれが三年前に飛ばされたパトラのピラミッドの一部だ」

「…………」

 

それが表すのはつまり……

 

「そうさ、緋弾には時を越える力がある」

 

後ろにいたアリアが息を飲んだのを感じた……アリアもある程度は自分の胸に撃ち込まれた緋弾については前に玉藻からどの辺りかまではわからないが聞いている筈だ。でも……

 

「そんな力を手に入れてどうする気だ」

「…………」

 

GⅢ歩みが止まった……これは鬼門だったらしい。

 

「お前には関係ないことだ」

「……………」

 

何かある……というのはわかった。

過去にも戻れる力……それがあったら何ができるだろう……

恥ずかしい過去をなかったことする?宝くじで一山当てる?株価で大もうけ……他人の知られたくない秘密を知る……いや、こいつがどんな奴かは分かっている。

そんな理由ではない。恐らく……

 

「惚れた女か?」

「っ!」

 

GⅢは眼を見開いた。

 

「そういう嗅覚だけはいいんだな」

「…………」

 

まさか正解だったとはとキンジは内心肩を竦めた。

 

「辞めておけGⅢ……人の命はそんな軽いもんじゃない。過去に戻って生き返らせようなんてそれは命への冒涜だ……」

「…………」

 

GⅢは黙って聞いた……そして、

 

「そんなのは分かってんだよ……」

 

バイザーを外しながらGⅢは言い……それをみたキンジは……いや、後ろにいたアリア達も息を飲んだ。

 

バイザーの下にあった顔は双子……とまでは言わないがキンジに良く似ていた。

 

「お前何者なんだ……」

Golden(ゴールデン) Cross(クロス) (サード)……それで俺はGⅢだ……」

「え?」

 

ゴールデン……クロス。

日本語に直訳すれば【金叉?】

 

「俺とフォースはな……お前の親父……SDAランキング八位にして心・技・体三つが完璧な日本を代表した武装検事……遠山 金叉から密かに奪ったDNAから必要な染色体取り出して別の女の卵子と掛け合わせて作られたのさ。まあ腹違いの兄弟ってやつだな。まあ俺とお前は殆ど生まれた時間に差なんか無いけどな」

 

おいおいアメリカさんよ……人の親父のDNA好き勝手に使ってくれやがるとキンジは嫌悪感を示す。

 

「本当は桐生 一明のも奪いたかったみたいだが金叉の奪うのに予算かけすぎたのとコンセプトは武も知もバランスが良いことだ。そういう意味では少々戦闘に特化しすぎていたからな。桐生 一明は……」

 

そう言いながらGⅢはバイザーを捨てキンジを見る。

 

「分かるだろ?俺やかなめはお前と違って産まれる筈がない人間だった。祝福なんかされなかったし物心ついた時に持たされたのはナイフはナイフでも殺し用のナイフだ……俺たちは人の扱いを受けなかった……」

 

でも……とGⅢは続ける。

 

「俺を人間扱いしてくれた女がいた……サラって言うんだ……だけど俺は助けられなかった……そして死んじまった……」

「…………」

「自然に逆らうってのはわかりきってるさ……でもなぁキンジ(兄さん)……俺はそれでも止まれねえんだよ……そこに希望があるならすがり付きたいんだ……あいつ生き返らせて公園のベンチでマックのハンバーガー食ってみたり……サラが作った弁当を食ってみたりもしたい……一緒にコンビニの弁当買ってゲームなんてものもいいなぁ……」

「GⅢ……」

 

他人の気持ちに鈍感な自分だが……キンジは気づいてしまった。

 

「分かったよGⅢ……」

 

キンジは肩を掴むとバッと一気に服を脱ぎ捨て上半身を外気にさらす。

 

「来いよ……第二ラウンドじゃない……ファイナルラウンドにしよう」

 

最初からGⅢは自分と戦いたがっていたのはわかっていた。そして今本心がわかった。

GⅢは……自分でも気づいているかわからないが止めて欲しいのだ……もう辞めろと言って欲しいのだ……無理矢理でも……殴り飛ばしてでも……止めて欲しいのだ。だからカナとキンジの元に来たのだろう。

 

なら止めてやる……今までの戦いは根底から間違えていたのだ。キンジは最初は知らなかったが本来GⅢとの戦いは兄弟喧嘩だった……なら銃もナイフもミサイルもいらない。かなめに説教しといて恥ずかしい限りだが今からでも遅くないだろう。

喧嘩には拳でやるものだ……今から喧嘩でも良いだろう。

 

「止めてやる……お前をな」

「…………」

 

それをみたGⅢも上に来ていた服を脱ぎ捨て外気にさらす。

キンジと違い筋肉質な肉体……相当鍛えている。

 

「手加減抜きだぜ?」

 

GⅢが言うとキンジは笑みを浮かべて、

 

「ああ……」

 

と頷く。

 

「死ぬかもしんないけど……恨むなよ」

 

楽しそうにGⅢは言う。

 

「分かってる……」

 

キンジも笑みを浮かべて同意した。そして二人は同時に走り出す……

 

「いくぞキンジィ(くそ兄貴)イイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!」

「来いよGⅢォ(馬鹿弟)オオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!」

 

そして二人は跳躍し、

 

「オォ!」

「ッシャア!!!」

 

蹴りがぶつかる……遂に二人の喧嘩が最高潮を迎える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ウッシャア!』

 

二人の蹴りが同時に相手の軸足を蹴る。

 

「くっ!」

「ちぃ!」

 

二人はバランスをとるがそのまま一気にハイキック同時に叩き込む。

 

『がはっ!』

 

二人とも横に吹っ飛ぶがGⅢは素早く体制を戻すと、

 

「ヨッシャ!」

 

飛び上がり上がり肘を落とす。

 

「くっ!」

 

キンジはそれを防御すると押し返しこのまま腰にタックルしてマウントを取った。

 

「オォオオオオ!!!!!!」

 

拳を握るとキンジはそのままGⅢの顔に落とす。

 

「っ!」

 

だがGⅢは顔を横に動かして避ける。

 

「ラァ!ラァ!」

 

何度も何度も落とすがGⅢはそれを躱しキンジの腕を掴むとマウントから脱出しそのまま腕ひしぎへと持っていく。

 

「ちっ!」

「るぁ!」

 

腕ひしぎさせまいとするキンジと腕ひしぎを完全に極めるべくGⅢの両者は力を込め……

 

「うぉらあ!」

 

キンジがなんとか脱出して転がる。

 

「ウォオオオ!!!」

 

だがGⅢは素早く立ち上がるとそれを追って疾走しそのまま飛び上がりながら膝を叩き込む。

 

「くぅ!」

 

だがキンジも咄嗟に腕を交差させて防ぎながら同時に後ろにわざと跳んで衝撃を逃がす橘花擬きで対処する。

 

『はぁ……がぁ!』

 

GⅢの生身の方の拳が迫るがキンジは伏せて躱すと逆立ちしながら顎を狙った蹴り上げを放つ。

 

「おぉ!」

 

だがGⅢは横へのスウェイで躱すとキンジを蹴っ飛ばす。

 

「がはっ!」

 

キンジは吹っ飛ぶ。更に追撃にとばかりにGⅢはキンジの顔を踏みつけようとする。

 

「っ!」

 

キンジは転がって避けるがGⅢは追う……

 

「こん……」

 

だがキンジは途中で腕に力を込めて飛び上がると、

 

「オッシャア!」

 

GⅢの横っ面に後ろ飛び回し蹴りを叩き込んだ。

 

「がはぁ……」

 

元々肉体的にボロボロだったGⅢは血を吐きながら下がる。

 

「ごほっ!」

 

遂にGⅢは膝をつく。元々戦える状態ではないのだ。

 

「まだ……だぁ……」

 

それでもGⅢは自分の膝を叩いて立ち上がる。

 

「俺は誰にも負けられねえ……俺は人間兵器(ヒュー・アモ)……最強でなければいけないんだ……」

「何が最強だよこの馬鹿……俺に蹴られて血を吐いて……挙げ句の果てに女の名前呼んで……どこが最強だ……人間じゃねえか」

 

キンジの言葉を聞いてGⅢは眼を見開く。自覚はなかったようだ。

 

「おらGⅢ……まだなんだろ?来いよ」

 

キンジがそういうとGⅢがキンジの肩をつかむ。

 

「お互いまだ切り札があるだろ?」

「お前もなのか……」

キンジもGⅢの肩をつかんだ。

 

「覚悟しろよ……俺は兄さん以外に負けたことはない」

「俺は無敗さ……フォースにも負けたことはねえんだ」

 

キンジとGⅢはニッと笑うと大きく体を逸らし……

 

『ウッシャア!』

 

ガツ!っと闘牛のごとく互いの頭を叩き会わせる。

 

「こんの……」

「石頭がァ!!!」

 

再度ガツ!っとぶつけ合わせる。

 

「が……」

 

だがキンジの方が石頭だったらしくGⅢ大きく体を後ろに倒した……

 

「ウォオオ!!!!!!」

 

キンジは大きく体を逸らし三度目の頭突きを放つ……

 

「負けるかぁ!」

 

だがそれをGⅢ拳で迎撃……ゴン!っと派手な音をたてて二人が制止する……

 

「ぐあ……」

 

GⅢキンジの頭を迎撃した手を抑える。ヒビくらいなら入っただろう。

 

「オッシャ!」

 

キンジはその場に飛び上がると強烈なドロップキックを叩き込む。

 

「がっは!」

 

後ろに吹っ飛ぶながらGⅢは転がる……

 

「つぅ……はぁ……」

「くぅ……はぁ……」

 

二人は間合いを測る……そして、

 

『ウォオオオオオオオ!!!!!!』

 

二人は走り出すと最初と同じように跳躍……だが二人が放つ蹴り最初の飛び蹴りではなく後ろ胴回し回転蹴り……

 

「勝機!!!」

 

キンジの大きく捻った体から放たれた後ろ胴回し回転蹴りはGⅢのはなったものよりも数コンマ早くヒットし……

 

「シャァアアアアアアア!!!!!!」

 

そのまま地面に叩きつけた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『サード様!』

「がふ……」

 

GⅢは血を吐いてキンジに掴み掛かる。だが力はない……

 

「俺は……まだ……」

 

ズリッとそのまま遂にGⅢは地面に倒れ伏す。

 

「はぁ……」

 

キンジが手を空に向けると、

 

「俺の……勝ちだ」

 

そう宣言してキンジも後ろに倒れた。

 

「いってぇな……」

「キンジ!」

 

アリア達が駆け寄ってきた。

 

「勝ったぜ」

「うん……」

「そういえばカナは?」

「かなめの治療を終えたらどこかに帰っていったわ」

「そうか……」

 

それからキンジはGⅢを見る。向こうもGⅢを囲って傷を見ている。

 

「負けたのか……俺は」

「サード様……」

 

GⅢは体を起こすとキンジを見る。

 

「ああ、お前の負けだ」

「……くそ……負けたんじゃ文句言えねえな……」

「敗者に文句を言う権利はないって奴か?」

「ああ……」

 

GⅢは狐耳の少女の膝に頭を落とす。特に意識してなかったみたいだな。体に力が入んないのだろう。だがその少女は顔を真っ赤にしてアワアワしている。

 

「何だろうなぁ……何か悔しい気もするし苛つくような気もするし……良くわかんねえな……でも悪くねえ」

「なら良いんじゃないか……」

 

キンジがそういうとGⅢは少し笑う……

 

「ま、これにて一件落着……だな」

 

そう……キンジが言った瞬間相当数の足音が聞こえる。

 

『っ!』

 

その場の全員が顔をあげるとそこには100人以上の男達が囲んできた。

 

「なんだ……人工天才(ジニオン)ってのも対したことねえな」

「お前は……祇園 廣二……!」

 

キンジが叫ぶと廣二はキンジを見る。

 

「ははは……程よくボロボロだな」

「くっ!」

 

今のところ無傷のGⅢの仲間たちと傷が浅いアリア達が立つ。だがアリアたちはもとよりGⅢの仲間達もフル装備で来たわけではない。武装が乏しいのにこの人数……かなりヤバイ。

かなりヤバイ。

 

「さぁて……わりぃがお前ら……俺の出世のために踏み台になってもらうぜ」

「てめぇ……」

 

GⅢは廣二を睨み付ける。

 

「しかしGⅢ。お前ずいぶん嫌われてるなぁ。俺が殺す算段つけた途端に一枚噛ませろって奴が沢山居たぞ」

『……』

 

廣二とその部下達が武器を持つ。

 

「さて……いくぞお前らァ!」

『っ!』

 

相手が走り出そうとした瞬間……

 

「どけどけぇ!」

『え?』

 

皆が唖然とするとそこに大型ローラー車が走ってきた。

 

『うぉわ!』

 

キンジたちと廣二たちの間を走り抜けると誰かが飛び降りると出てきたのは……

 

『一毅!』

「よう!」

 

一毅がグッと親指を建てる。そして、

 

『私たちまで引き殺す気か!』

 

アリア、白雪、理子、レキの四人にボコられた。

 

「ちょ!待てって!ああでもしないとぶつかり合っただろ!」

 

さすがに四人掛かりでが一毅も大弱りである。

 

「なんだあいつら……」

 

GⅢは呆然と見る。

一毅のことは知っている。少なくともバスカービル最強という肩書きを持っているし有名だ。

その二つ名の示すように鍛えてるのは分かるし強そうだ。だが……何かこのやり取りを見るとあまりそういう風には見えない。

 

「おう一毅……重役出勤だな相変わらず」

「わりぃわりぃ」

 

一毅はキンジに謝罪してから廣二を見る。

 

「清寡さんから聞いたぜ……」

「そうか……ならこれも聞いたよなぁ」

 

廣二は性格の腐った笑みを浮かべる。

 

「俺に手を出せばあいつの弟の命は……」

「あ、悪い電話」

『………』

 

一毅は気にせず電話に出て周りの人間が唖然とした。

 

「ん?おぉ……了解了解」

 

一毅は携帯を話すとスピーカーにする。

 

「おいお前ら……首尾はどうだ?」

【間宮 あかり!】

【佐々木 志乃!】

【火野 ライカ!】

【谷田 辰正!】

【風魔 陽菜!】

 

聞きなれた一年生たちの声が聞こえ……声を揃えて言う。

 

【無事人質の救出(セーブ)を完了しました!】

「なにっ!」

 

廣二が驚愕する。

 

「くそ!」

 

廣二が確認のために電話を掛ける。

だが出ない……

 

「役立たずが!」

「ははは!」

 

一毅は笑う。

 

「お疲れお前ら!帰ったら君達の戦兄か戦姉がきっとリーフーパイを奢ってくれるだろう!」

『おい!』

 

その戦兄と戦姉達が同時に突っ込んだ。

 

【一毅先輩あたしには?】

「ライカには俺がおごってやるよ」

【俺には無いんすか】

「男は我慢しろ!」

【酷い!】

「冗談だ。俺が奢ってやるよ」

 

すると次はあかりの声が聞こえた。

 

【かなめちゃーん!一緒に食べようね!】

それを聞いてキンジは苦笑いしながらかなめを見た。

 

「だとよ」

「うん!」

 

それから一毅は携帯を切る。

 

「さぁて……」

 

一毅は首を捻る。

 

「つうわけで……お前ブッ飛ばすのにもう遠慮はいらないわけだ」

「ち!アイツらを斬れぇ!」

 

廣二が指示する。

 

「あいつら?馬鹿言うなよ……お前らの相手は俺だけだ……」

『え?』

 

その場にいる皆が一毅を見る。

 

「お前ら……頼むから手は出さないでくれ……あいつらは……」

 

俺の獲物だ……そう一毅は言う。

 

『っ!』

 

全員の背筋が少し凍った……一毅はこんな場なのに……()()()()()……

 

「大丈夫なのか一毅」

「ああ……」

「なら……行って暴れてこい」

「ああ!」

 

次の瞬間獣が解き放たれた……


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