緋弾のアリア その武偵……龍が如く   作:ユウジン

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龍と剣術家

「ふん!」

「くっ!」

 

清寡の刀と一毅の殺神(さつがみ)が火花を散らしてぶつかる。

 

『おぉ!』

 

更に切り返すと二人は次々と斬撃を放つ。

腕力や速さなら一毅に分がある……だがそれを補う清寡の圧倒的な技術力……

速さや力を受け流し逆に相手の勢いを使って斬る……

 

「ちっ!」

 

一毅は遂に受けきれなくなり神流し(かみながし)まで抜いて二刀流で応戦する。

 

「それを待っていた……」

 

清寡と一毅は距離をとる……

 

「やはり桐生はその二刀流の構えを取った状態でないとな……」

「……」

 

一毅は無言を返す。

 

「いくぞ!」

「っ!」

 

清寡の切り上げを殺神(さつがみ)で抑えると神流し(かみながし)で突く。

 

「ふっ!」

「オラァ!」

 

その突きは躱されるが一毅は更に間合いを詰めると二刀を構える。

 

「オッラァ!」

 

気合いと共に交差切り……

 

「くぉ!」

 

清寡は正面から受ける……

 

「何でだ……」

 

一毅は歯をギリッと噛み締める。

 

「何で……」

「悪いが言えないと言っただろう……」

「そうか……だが言わせてもらうぞ……」

 

一毅の眼が座る。

 

「あんたの剣の太刀筋は何でそんなに迷っているんだ?」

「っ!」

 

清寡の眼が開かれる。

 

「この間立ち会ったときはもっと真っ直ぐで正直だった……なのになんだその剣筋は!」

「黙れ!」

 

清寡は一毅を押し返すと斬りかかる。

 

「くっ!」

 

一毅は自分に迫る白刃を全て弾き返すが何度か掠る……龍桜が防いでくれるが精神的には圧迫される……だがそれでも清寡の剣筋は迷ったままで曇ったまま……

 

「今のあんたたとの戦いは楽しくねえよ……」

「これは立ち会いじゃない……殺るか殺られるか戦いだ……」

「そうか……」

 

一毅は腰を落として改めて構え直す……

 

「ならあんたをボコボコにして俺はその曇りの理由を聞かせてもらうぞ……」

「やれるものならな……」

 

再度一毅は疾走して二刀を次々振るう。

 

「この!」

 

清寡は剣を逸らすと横凪ぎに返す……それを一毅は、

 

「オラ!」

 

伏せて躱すと切り上げる。

 

「ふん!」

 

だがそれを刀の切っ先を使った突きで突いて止めると言う荒業で清寡は防ぐ……

 

『………………はぁ!』

 

ギン!っと刀がぶつかった音がひとつしてから離れると一毅は地面が凹むんじゃないかと思うほど強く踏むと間合いを詰めて剣撃を放つ。

 

「ちっ!」

 

清寡は全て受け流しきると斬撃を放った一毅の直後の硬直を狙い逆に斬撃を放つ……先程と同じ横凪ぎ一閃……このままいけば首が跳ね跳ぶだろう……このままなら……

 

「ぐぅ!」

「なっ!」

 

清寡は驚愕した……そりゃそうなのだ……一毅は横凪ぎの剣撃を()()()()()()のだ。

 

ふふふ(ふぇふぇふぇ)……毎日歯磨きと(まいふぁふぃふぁふぁふぃふぉ)煮干しを食い続けた(にほひほほほひひふふぁ)俺の歯を舐めるなよ(ふぉげぐがごふぁふぇふふぁふぉ)……」

 

一毅は思い切り清寡を蹴っ飛ばした……

 

「ごほっ!」

 

後ろに清寡は吹っ飛び転がる。

 

「あぶねぇあぶねぇ……煮干しどころか鳥の骨とか豚足の骨とかもガリガリ食って顎を鍛えといて助かったぜ」

「どんな歯と顎をしてるんだ?」

 

清寡が人外かなにかを見るような眼をした。

 

「すいませんねぇ……ここじゃ死ねないんですよ……」

 

一毅は首を軽く回しながら言う。

だが内心は今だ焦っていた。少なくとも清寡は今の剣の腕なら相対できる。だが剣術の腕となったときには相手の方が一日の長があった……どんな決定的な斬撃を叩き込もうとしても相手はそれを絶対受け流してくる。

 

「さて……どうするかな……」

 

一毅は考えを張り巡らせ、

 

「ダメだな」

 

諦めた……元々策略家ではない。

考えるより即行動タイプだ……

 

「もういっちょ!」

 

決めるが早いかまた間合いを詰めると次々と斬撃を放っていく……

 

「っ!」

 

清寡は一毅の剣に息を巻いていた……一毅の剣筋は振れば振るほど良くなって強くなっていく……

普通はこの若さでここまでいけば伸びしろの限界が見えてくる。

だが一毅にそれがなかった。一分一秒全てが一毅にとって成長する瞬間であった。

 

「ちぃ!」

 

弾き返すと刀を振りおろす……だがそれは横に受け流された……

 

「なに……?」

 

一毅は自分が清寡と比べれば幾分未熟とは言え受け流しを行ったことに気づいていない……とにかく何をするべきかを一毅は選択して行動したのだ。

無論心眼を使えればもっと完全な受け流しができただろうが一毅にそんなことを考える余裕はない。

 

(俺の技を……盗んでいるのか……?)

 

砂漠の渇いた土が1滴の水を余さず吸収して行くように……一毅は無意識に吉岡 清寡と言う男の剣を我が物にしていく……

 

「オォオ!」

 

次々と斬撃叩き込んでいく……

 

「くっ!」

「どうした!その程度かよ!」

「っ!……舐めるなぁ!」

 

清寡は刀を握ると体を捻って躱す……

 

「っ!」

 

突然視界から外れるように避けられ一毅は反応が遅れる……

 

「ふん!!!」

 

清寡の刃が一毅の腹に刺さる……普通であれば一毅の負け……だが普通じゃないのが一毅だ。

 

「ん?」

 

清寡は明らかに刀が深く刺さっていない……と言うか切っ先から数センチしか刺さっていない……のに抜けない。

 

「二天一流 拳技……金剛の気位……」

 

別段特殊な技術じゃない……筋肉を固めて攻撃からのダメージを防ぐ技で今回は腹筋を固めて刀が深く刺さらないようにした……とは言え筋肉力が桁外れに多くなければできる芸当じゃない。

 

「勝機……」

 

一毅は清寡を見据えると二刀を構える……それと共に体から深紅のオーラ(レッドヒート)が溢れでる。

 

「二天一流 絶技……怒龍の気位」

 

一毅はこれで決めると腹を据えると体を捻る。

 

「二天一流……絶双!!!!!!」

 

次の瞬間すさまじい速度で回転し、まるで竜巻のようになると清寡に圧倒的な数の斬撃を瞬時に叩き込んだ……

 

龍爪咆歌(りゅうそうほうか)!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「が……はぁ……」

「はぁ……いっつ……」

 

一毅は腹を押さえる。血は出てるが内蔵に傷はないだろうし死ぬことはないだろう。

 

「まさかそんな技があるとはな……」

「まあ今の俺じゃああんたの受け流しを壊せないからな……なら受け流す刀を使えなくすれば良いだろ?」

 

無茶苦茶な作戦である。

 

「つうわけで事情を聞かせて……ん?」

 

そこに刀を携えた男たちが一毅を囲ってくる。

 

「ま、まて!まだ俺は負けていない!」

「もう遅いですよ……時間切れです」

 

男達は刀を抜く。

 

「あ~……話が見えないぞ?」

「分からなくて良いんだよ……お前と吉岡 清寡は立ち会いの末に相討ちで死亡……なに安心しな。後でお前の仲間達も行くんだからな」

「なに?」

 

一毅が眉を寄せる。

 

「気にすんなよ!これから死ぬんだかばっ!」

 

メキィ!っと一毅の蹴りが先に男を吹っ飛ばした。

 

「てめ!」

「おら!」

 

一毅の頭突き……

 

「らぁ!」

 

斬撃……

 

「オッラァ!」

 

ドロップキックと続けて放って全員沈めた。

 

「全く話が見えんが取り合えずあいつらに危害加える連中だったら潰しておいても問題ないな」

 

そして一毅は清寡を見る。

 

「これはいったいどう言うことなんんですか?」

「………吉岡一門は現在【眷族(グレナダ)】へ帰順することにしている」

「っ!」

 

一毅は驚愕した。

 

「今回の戦役で有利なのは現在【眷族(グレナダ)】だ……それ故に最初は【師団(ディーン)】への参加だったが……」

「寝返ることにしたってか?」

 

清寡はうなずく。

 

「だがこれから盛り返すことだって……」

「そうならないための今回の一戦だ」

「ならないため?」

「そうだ。現在【師団(ディーン)】で日本を中心に活躍をしており名が売れ出しているチーム・バスカービル……それを討った上で【眷族(グレナダ)】に帰順することで【眷族(グレナダ)】に於いて高い地位を持つことができると踏んだのだ……」

「だがGⅢの襲撃と何の関係がある」

「元々Ⅲにはなにか思惑があったらしい……だから遠山キンジと戦いたければ戦えばいいと我らは発破を掛けた……そして両者がぶつかり疲労したところを……」

「つまりお前らは良いとこだけ浚っていこうとしてるって訳か……」

「その通りだ。成功すればバスカービルだけじゃない。アメリカのRランク武偵をも討ったと言う箔が付く……例えどんな手を使おうが……な」

 

一毅はそれを聞いて腸が煮えくり返ってくる。だが同時に疑問が浮かぶ……吉岡 清寡と言う男はそんな手を使うような男には見えない。

 

「あんたみたいな男がなんでそんなことをするんだ?」

「……弟がいるんだ……」

「え?」

「よくドラマかなんかでもある展開だ……弟の命が惜しければ……とな」

「っ!」

 

一毅が怒りではを噛み締めた。

 

「じゃあ誰だそんなことを企んだやつは……」

「……祇園 廣二……お前も見ただろう?」

 

あいつかと一毅は思い至る。

 

「もうだめだな……俺はお前に負けた……もう」

「弟はどこに?」

「わからない。わかっていたらこんな事態にはなっていない」

「そうか……ギリギリだな」

 

一毅は男達の服を漁ると携帯を引っ張り出す。

 

「よし……あとは俺たちに任せてもらいますよ」

「え?」

 

清寡は一毅の言葉の意味がわからず呆然と一毅を見る。

 

「あんたの弟は俺達武偵に任せてもらいます」

 

一毅は自分の携帯を取り出しながら電話を掛けた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃キンジは発電所に到着していた……

 

「くそ……」

 

キンジは頭を振るい……そして

 

「何でだよ……おい!」

 

剣を携えてアリアたちを見る少女の名を叫ぶ。

 

「かなめ!」

「…………」

 

キンジとかなめの視線が交差した……


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