「…………」
かなめが来てから早くも三日……その間アリア達は全く顔を出さない。
レキにそれとなく聞いたらアリアの部屋で戦闘準備を着々と進めてるらしい……真剣に国外逃亡しようかとも思うがアリアの貴族の特権をフル活用と言う名の職権濫用を行って追い掛けてきそうだし仕方ないので此方は此方で自分で動くしかなさそうだ。
と言うわけでキンジは信用の於ける情報収集係と連絡を取るため学校裏の雑木林にかなめを撒いてからやって来た。
「おーい。居るんだろ?」
すると次の瞬間地面からブワっと木の葉を撒き散らし何者かが飛び上がる。
そしてシュタ!っと黒い髪を舞わせながらキンジの顔を見る。
「お久し振りでござる師匠……」
「あ、ああ……」
久しぶりと言うほど久しぶりではない陽菜はキンジを半ば睨むような眼だ。
「だ、だからお前一昨日あれだけ説明しただろ?あれあっちからいきなりだって……」
最初電話したときは何故か陽菜は大層ご立腹でキンジはその際必死に自己弁護を行いなんとかかなめのかなめの監視を依頼して今日に至るのだが陽菜の機嫌は良くなる訳がなくムスッと陽菜はしていた。嫌われたわけではないのは何となくわかる。純粋にご機嫌斜めと言う奴だ。
確かに妹とキスと言うのは後輩の女子に見せるものではない(だからと言って誰かに見せられるものと言う訳じゃないが……)がなぜそこまで気にくわないのかキンジには皆目見当がつかない。
「そんなのはわかってるでござるよ……ですが理解するのと納得するには別問題でござる」
陽菜にきっぱりと言われキンジは弱る。
「と、とりあえず報告は?」
「御意。フォース殿はこの三日で一部を除き人身を把握している模様。ですが少々男嫌いのようで男性から距離を置かれているようでござるがモテるようでござる」
「一部ってもしかして……」
「あかり殿達でござる。ですが表だっての抗争はなくフォース殿が正々堂々に拘っているためあくまで感情的なものでござるが……」
キンジは内心少し驚いた。かなめは思った以上にキンジの言葉に忠実らしい……
「とりあえずこんな感じでござる」
「そうか。ありがとな陽菜」
礼を言ったがプイッとそっぽ向かれた。
だが実はこんな事もあろうかと実は友人の不知火にある一言を教えてもらっておいた。
曰く「君の
「陽菜……」
「?」
陽菜は少しキンジを見た。
「悪かった。すまなかったよ……許してくれ……お前が望むならどんなことでも言うことを聞くから……」
「っ!!!!!!!!!!」
陽菜は自分の体に核爆発クラスの衝撃が走った気がした……
無論キンジは自分がとんでもないことを口にしたとは全く思っていない。
だが陽菜から聞けば好意を持つ異性に……更に普段はあくまで自分は後輩であり願われることはあれども願うことは恐れ多くてできなかった。だが今回はキンジの方からどんな願いでも聞くとのこと……陽菜にとってどれだけ甘美な言葉に聞こえたのかは推して知るべしだがともかく頭の中を何度も再生状態にある。
「ん?おーい……陽菜?」
「はっ!」
一瞬石になっていた陽菜は慌てて正気に戻ると、
「ど、どんなことでもでござるか?」
滅茶苦茶詰め寄られてキンジは若干退くが陽菜は気にしない。
「あ、ああ……ただし俺にできる常識の範囲内でだぞ」
キンジは釘を指すがあまり意味はなかった。
「で、でしたら師匠……せせ……拙者に……せせせっぷ……」
ならば今こそと陽菜は言おうとするが緊張で噛みまくって全く意思疏通ができない。
「せせせっぷ?新しいお菓子かなんかか?」
そのためキンジは陽菜が伝えたい願いとは全然違う勘違いをした。
「ち、違うでござる!」
本当は接吻と言いたいのだがやはり今の陽菜では羞恥心の方が強い。
「し、師匠!」
なので代案にすることにした。
突然陽菜が大声を出すためキンジが驚いていると陽菜は覚悟を決めた目でキンジを見る。
「師匠……左頬に何か着いてるでござるよ?」
「え?」
突然なんだと思いつつもキンジは触るが何もない。
「せ、拙者がお取りするでござる……」
「そうか?悪いな」
そう言ってキンジが左頬を陽菜に向けた瞬間……
「《チュ》……え?」
いきなり自分の頬に暖かくて柔らかい何かが当てられキンジが今度は石になった……
ほっぺにキスされた……そう理解するのにたっぷり5秒……目を限界までひん剥いてキンジは固まっていた。
この間妹にキスされ今度は後輩の女の子に頬とはいえキスされるとは我ながらどうかと思った……
「ひ、陽菜?」
キンジがギシギシ効果音がつきそうな感じで陽菜を見ると顔を真っ赤にした陽菜は3歩ほど後退り……
「ね、願いの件は後日お願いするでござる!然らば後免!!!!!」
ボフン!と陽菜は地面に煙玉を叩きつけ煙を巻く。
「ごほ!げほ!」
キンジは激しく咽せながら煙が晴れると辺りを見回す……すると背中を見せたまま気の根っこに足を引っ掻けて転びそうになりながらも走り去る陽菜が見えた……まあ、
「あいつ……」
キンジは甘くであるがヒステリアモードの状態であることを確認しながら悪態をついた。
だが同時に
(こっちか?)
キンジは少し歩いて木に回り込むと見つけた……引っ掻いた後だろうか?木がボロボロになっていた。
「まさか大型の肉食獣でもいるのか?」
だとしたら熊かなんかだと思うがその時は一毅に相手して貰おうとキンジはあまり深く考えずに帰り道についた……
(しかし……キャラメルの匂いか……どっかで嗅いだような気がしたんだけどな……)
後にこれによって後悔することになるが別の話である。