緋弾のアリア その武偵……龍が如く   作:ユウジン

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金と妹

「はぁ……」

 

キンジが鬱屈とした面持ちで歩く。右腕だけ少し重量を感じる……何故かと言うと、

 

「えへへ~お兄ちゃ~ん♪」

 

自称妹のフォースが自らの右腕に縛り着いて離れないのだ。何度剥がしてもまるで強力磁石の如くくっつき直してくるのでもう諦めている。

 

「おいフォース。お兄ちゃんは辞めろ。俺に妹は居ない」

「……」

 

何故そこで機嫌を損ねるのだろうか…… まあ別にいい。

 

「ったく……どうすんだよ……」

 

それよりキンジとしてはこれからアリア達にどんな顔で会えば良いのだろうかの方が大切だった。

先程の皆の前でされたフォースのキス……

それを見た面々は一瞬硬直して当たり前だがドン引きされた。

あの普段他人に対して嫌悪感を見せず一度戦ったがそれ以降はキンジに対してきちんと後輩として礼節もって対応する辰正ですら「うわぁ……」と言う眼だった。

白雪と陽菜に至ってはバタンと後ろに倒れて気絶したくらいだ。

そりゃ自称とは言え妹とキスするとかどんな鬼畜野郎状態であろう。キンジ自身も自覚はあるがこれは向こうからだしまさかキスがくるとは思ってなかったのだ。

なのに混乱の極致に達したアリアがガバメントを四方八方に乱射し出し仕方なくフォースを連れて逃走したのだが……

 

「はぁ……」

 

だが今ごろあそこで自分がなんと言われてるか想像すらしたくない。するとフォースが離れて背を向けた。

 

「おいどこ行く気だ?」

「アリア達のところだよ?」

 

キンジはずっこけかけた。

 

「何でだよ!」

「ちょっとアリア達ぶっ殺してくる」

「っ!」

 

カァっとキンジは自分の体の芯の熱くなる気がした……だが確実に怒りの沸点振りきれていた。

 

「辞めろ……フォース」

「……お兄ちゃんってアリア好きなの?」

「はぁ!?」

 

フォースの言葉にキンジは唖然とした。

 

「だってアリアって部分にお兄ちゃん強く反応したよ?」

「んなわけねえだろ!」

 

キンジは全力で否定した。

 

「ふぅん……じゃあ他の女は?」

「全員仲間だ!しかも一部は一毅の彼女だしな」

「へぇ~。じゃあキスとかないんだね?」

「……………」

 

キンジは視線を横にそらした。はっきり言おう……寧ろバスカービル内ではキスしてないのはレキ位なものであり(一毅は男だから言うまでもなく論外だ。まあレキとしたと言うことが一毅に知られれば微塵切りにされそうだ)アリア、白雪、理子と全員している……

 

「やっぱり殺そう」

「だから辞めろっての!」

 

キンジがフォースの前に立って止める。

 

「だってお兄ちゃんあいつらがいるとずっとその事考えてばかりだもん!あいつら居なくなればもう考えないでしょ!?」

「そんなことすれば一毅が阻止するだろうがその前に聞いておくぞ?何でそんなにあいつらが気にくわないんだ?」

「お兄ちゃんは私だけ見てれば良いの!そして彼女にしてくれれば良いんだよ」

 

キンジはこめかみを抑えた。

 

「お前……自称とは言え俺の妹なんだよな?」

「うん。でも自称じゃないよ」

「んな事はどっちでもいい。じゃあお前は俺の妹を名乗るくせして恋人になりたいのか?」

「最初からそう言ってるじゃん」

「絶対ダメじゃねえか!世界広しと言えど近親相姦が許されてる場所なんかねぇよ!」

「愛があれば大抵の事は許されるんだよ!」

 

どこかで聞いたなその言葉……とかキンジは考えながら頭を抱えた。

比較的この少女は白雪に似た性格だ。目的を定めるとその標的に向かって爆走して辺り一帯を粉塵と化しかねない危険な性格……

 

「とにかくアイツ等に関わるな。危害加えるようなら俺はお前を全力で潰さなきゃいけなくなるぞ」

「非合理だよお兄ちゃん。私の方がお兄ちゃんより強いよ?」

「やってみなきゃわからないし少なくとも自称妹に負けるような低いプライドはねえよ」

『……………』

 

二人は睨み会う……そして、

 

「分かった。その代わり一つお願い聞いて?」

「内容によるが聞くだけ聞いてやる。何だ?」

「そこのコンビニでキャラメル買って」

「…………………」

 

キンジは今度は完全にずっこけた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ~ん♪」

 

フォースは鼻唄を歌いながらバス停キャラメルを口にいれる。

何がそんなに楽しいかわからないが取り合えず少し考えておきたいことがある。

フォースは相当な美少女だ。いや、並外れたと言う方が正しいかも知れない。少なくともアリア達クラスの美少女だ。

そんな少女とのキス……それによってヒステリアモードになっても何ら不思議じゃない。無論自称とは言え妹に対してヒスった切腹ものだがそれでもヒステリアモードに成らなかったのは何かあるのだろうか……

 

「ねえお兄ちゃんバス来たよ?」

「ん?あ、ああ……」

 

思考に深く入りすぎて気付かなかった。取り合えず後でじっくり考えよう。まさか急にヒスらなくなった訳じゃないだろうか……

 

「ねえ、またキンジ違う女の子つれてるよ」

 

誰かが呟いた。またとは心外である。確かにいろんな女子と一緒なのは否定しないがそんな取っ替え引っ替え女を連れ歩くクズ野郎扱いは勘弁してほしい。

 

「なに遠山、今度はまた可愛い子つれてるね」

「ホントだ。これなら私たちにもチャンスあるかな」

「ねえねえ貴女は誰?」

 

修学旅行の一件以来妙に話し掛けてくるようになった鷹根・早川・安根崎の三人が身を乗り出してきた。

 

「姦し三人娘……」

 

キンジは顔がひきつる。元々ヒステリアモード化の危険を考え女子との交流を(自分の中では)減らしてきたつもりのキンジである。なのに女子三人に話しかけられてもどう返すべきか悩ましいところだ。更にこの三人に話しかけられるとアリア達の機嫌がすさまじく悪くなるのだ。何故?

 

「妹です」

 

キンジは眼を引ん剥いて吃驚眼でフォースを見る。

 

『………ええええええええ!?』

 

だがそれ以上にバス中の人間がひっくり返った。

良くも悪くもキンジは有名人だ。女好きとか女誑しとか異常戦闘能力とか銃弾を手で逸らしたりだとか上げていけば切りがない。

そんな彼の妹が登場である。しかも美少女と来た。

 

「うっそ!歳は?」

「14です」

「好きな言葉は?」

「背徳です」

「好みのタイプは?」

「少し影があって不運だけど……まあお兄ちゃんみたいな男の人が好きです」

「かわいー!」

 

ダメだこりゃキンジはガックシと肩を落とした。完全にお兄ちゃん子の妹がいると認識された。

 

「名前は?」

「Gふぉーもごご!」

 

それは不味いとキンジはフォースの口を抑えた。遠山 Gフォースとかどう考えても可笑しい。

 

「ちょっと何で隠すのよ」

「あ、いやその……」

 

不味い何か名前を出さなければとキンジの頭がフル回転する。

まず遠山兄弟には【金一】【金次】と金の字が入る……ならば金の字を入れれば問題はないだろう。

金子?いや何世代前の名前だとキンジは考え直す……そうだ(きん)と読まずに(かな)と読めばどうだろう。だがそのままでは金一のカナと被る。そこで思い付いたのが、

金女(かなめ)……金と女でかなめだ!」

「え?」

 

周りの人間はかわいー!とかまた叫ぶ。

 

「かなめ……か」

「ん?」

 

だがキンジにはそれよりもかなめと呟くフォースの事の方が気になった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えへへ。かなめ……かぁ」

「何がそんなに嬉しいんだ?」

 

その後バスを降りて寮への帰路に着く。何を言っても着いてくるのは目に見えていたので半ば諦めていた。

 

「だってお兄ちゃん着けてくれた名前だもん。嬉しいに決まってるじゃん」

「はぁ?」

 

キンジは首をかしげる。

 

「あれはあの場を誤魔化すために……」

「それでも良いの。お兄ちゃんが私のためにしてくれたのが良いんだから」

「…………」

 

何だかなぁとキンジは頭を掻く。こいつは自分の仲間を攻撃した敵なのだろう。だがこうして見ると何故か敵意が持ちきれない。ヒステリアモード成らなかった件もあるし変な相手だとキンジは思った。

 

「ねえお兄ちゃん。これからもかなめって呼んで?」

「……ならその代わりだが……」

 

フォース……いや、かなめは首をかしげる。

 

「あいつらが気に食わないのも良い。だが嫌いな相手でも喧嘩するなら正々堂々やれ。態々俺を使って喧嘩売ったり不意打ちしたりするな。喧嘩は相手の目を見てちゃんとお互い名乗ってしかも武器に頼らず素手でやるもんだ。あいつらは強襲する相手じゃないんだからな」

「うん分かった」

 

素直にかなめは頷く。

 

「じゃあ帰ろうか」

 

お前の家じゃねえけどな。と言いたかったか何故か言えなかったキンジは自分に首をかしげつつもかなめに引っ張られていった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみにその頃……

 

「取り合えずすぐにレキ先輩退院出来そうで良かったですね」

「そうだな」

一毅とライカも寮への帰路にあった。

 

「ですけど……」

「どうしたの?」

 

ロキ首をかしげる。

 

「何でそんなに当たり前のように着いてくんだよ!」

 

一毅も気付いていたが敢えて言わなかった事をライカが言った。

 

「だってお兄ちゃんの寮の部屋こっちじゃん」

「はぁ!?部屋まで来るのかよ!」

「と言うか住み着く気だけど?」

「んなもんダメに決まってるだろ!あそこは男子寮だ!」

「じゃあライカとかお姉ちゃんはどうなの?」

「うぐぅ!」

 

ブーメランの如く自分に帰ってきたロキの反論にライカは後ずさる。

 

「も、もういい!一毅先輩おいていきましょう」

「言っておくけど昨日ライカの後を着いてって部屋は確認したから意味にないよ」

「なな!」

ライカは驚愕する。

 

「ライカなにも言わなかったから黙認してると思ったんだけど?」

「してねえよ!あんまり普通について来るから違和感がなかっただけだ!」

 

ライカがダンダン地面を踏む。

 

「ねぇお兄ちゃん一緒にいても良いでしょ~?」

 

ロキは一毅の腕に絡み付いてくる。

ムニムニと柔らかくて暖かい胸が……は!

 

「か~ず~き~せ~ん~ぱ~い~」

 

ゴゴゴと炎をその身から燃え上がらせるライカに一毅は後ずさる。

 

「きゃ~お兄ちゃん怖いよ~」

 

だがロキはどこ吹く風で一毅に抱きつく。

 

「こんの!」

 

ついにライカの堪忍袋の緒がぶちギレロキに飛び掛かる。

 

「待て逃げんな!」

「こっちだよ~」

「お、おいお前ら俺の周りで暴れるな!」

 

二人に引っ張られくっつかれと一毅は振り回されながらも、

 

(お互い妹と言う奴には苦労させられるな……キンジ)

 

キンジに同情しつつも一毅は現実逃避へと意識を移行していった……


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