「んでさぁ……この間は夾竹桃のお陰でヒデェ目にあったぜ」
「そりゃご愁傷さまだな」
一毅とキンジは二人並んで帰る。
早くもワトソンが転校してきてから一週間……その間も喧嘩を売られてはいるがキンジはよく我慢している。
とは言えキンジの堪忍袋も既にメルトダウン寸前の原発みたいな状況でいつ切れてもおかしくない。一重にキンジが切れないのは相手にしても仕方ないだろうと言う面があるからだ。
「しかしどうなんだ?ワトソンは」
「対岸から木でツンツン突かれてる気分だ。男ならドン!っとくればやり易いのにあいつは女か!!!!!」
「はは……」
一毅は苦笑いした。ストレスの溜まり具合が絶好調である。
「あいつに隕石でも直撃しねえかな」
「そしたら大惨事でワトソンファンが宇宙に文句言いにいくぞ」
「言っても聞く相手がいないぞ……」
キンジは一毅の返しに呆れながら肩を竦める。
とは言え一毅には感謝だ。一毅のお陰でここ最近孤立ぎみなのも緩和されてる。
まあ今日は任務で居ないがレキとライカや一年生たちとつるむようになってるためワトソンが武藤達を懐柔してキンジを孤立させようとしてもボッチにならないのが現状だ。
まあ困ったところと言えば平賀さんが懐柔されてオロチの左手が遅れてることである。
「ん?」
キンジの電話が鳴る。
「モシモシ?」
【どうも遠山さん。中空知です】
「ああ、どうしたんだ?」
何度か仕事でオペレーターをしてもらった中空知からの電話だ。
【ジャンヌさんにお願いされていたワトソンさんについての情報をお伝えします】
「何でジャンヌじゃないんだ?」
キンジは携帯をスピーカーにしながら聞く。
【ジャンヌさんは服をゲフン!……少々事情がありますので……】
「そ、そうか……で?」
【はい】
中空知が言うジャンヌからの情報によるとワトソンはリバティーメイソンと言うイギリスの秘密結社の構成員で【
「そうか……」
「ふぇ~案外危ないやつなのか?」
キンジと一毅は感心すると、
【そう言えば現在ワトソンさんはアリアさんとカフェに居られるようですが会話を聞きますか?】
「聞けるのか?」
【はい】
中空知が繋げる。
【アリア……それで結婚のことだが……】
【だから言ったでしょ……私にはまだ早い。それにママの事もあるのよ?】
【だけどアリア。僕と婚約すれば君もリバティーメイソンの一員になれる……そうすれば君のママの事も助けられる】
【っ!】
「っ!」
アリアの動揺とキンジの同様が重なった。
「落ち着けキンジ……」
「分かってる……」
携帯を握りつぶしそうなキンジを一毅が抑える。
【せめて……婚約だけでも……駄目かい?それとも好きな奴でもいるのかい?】
【それは……】
アリアは動揺したような声だ。
【でも……あれ?……………………】
「ん?」
急にアリアが静かになった。どうしたんだろうか……
【アリアさんは意識を喪失した模様……恐らく薬です】
「っ!」
キンジの体の芯が熱くなる……
「ワト……ソン………」
キンジは自分は比較的忍耐が強い方だと思っている。
まあ沸点が-を指すアリアや白から黒への切り替わりがタキオン粒子も追い越す白雪とか短気な部分がある一毅と比べた場合だがそれでも比較的忍耐強い……だからワトソンの嫌がらせも流してきたしそのうち飽きるだろうと見逃してきた……だが、
【行き先はスカイツリーのようです】
中空知がワトソンとアリアの行き先を告げる。
「あいつは……」
「え?」
キンジはそこまで聞くと携帯を握りつぶした。
「おぅ……」
一毅は驚愕で目を真ん丸にしながら握りつぶされてグシャグシャになった携帯を見る。
だがキンジにとってどうでも良いことだった。今のキンジはワトソンへの怒りしかない。ワトソンをぶっ飛ばすことしか考えられない。
「よほどあいつは……俺を怒らせたいようだなぁ!」
キンジの目が据わる……成っている……ヒステリアモード……
しかも派生系の野獣のようなヒステリアモード……女を奪う力攻撃一辺になる代わりに力が通常の1.7倍になるヒステリア・ベルゼ……
「スカイツリーにいく……アリアを奪い返す」
「はは……了解
キンジと一毅は走り出した……
二人は徒歩しかない。本来なら何か乗り物がほしいが今回は残念ながらワトソンが乗り物を軒並み抑えてあった。
用意周到と言うか恐らく前々から準備していたのだろう。
それが余計にキンジの怒りの鍋に油を注いでいく。
更に本当は龍桜を持っていきたいが寮の部屋だ。今はそれを取りに行く時間も惜しかった。
「あと二百メートルだ!」
キンジはグングン行く。
『っ!』
突然地面に穴が開き、二人は止まる。
そして銃を構えながら現れた。
「ロキ……」
「確か開幕の時に……知り合いだったのか?」
「レキの妹だ。んで、俺を殺したいらしい」
一毅は腰から
「ここは任せて先に行けキンジ。こいつは俺も獲物だ」
「……多分だけど半分一度言ってみたかった台詞なだけだろ?」
「まあな。でも時間はないんだ。行けよ」
「……ああ、任せたぞ」
キンジは回り込むように走り去る。
「てっきりキンジ狙うかと思ったぞ」
「私がエル・ワトソンから受けた依頼は桐生 一毅の足止めだけだから……たまたま貴方と戦いたかった私と利害が一致しただけ……でも……」
ロキはスカイツリーを見る。
「薬はやりすぎだと思う。でも一応依頼主だしこう言っておく」
ロキは
「遠山 キンジ追いたければ……私を倒していけ」
「そうか!」
一毅は走り出す……
「おぉ!」
一毅は刀を振り上げる。
「っ!」
それを迎撃するように銃を向ける。
「チェイ!」
一毅はそれを弾くが既に二発目が発射……
「くぅ!」
一毅は躱すが弾いた一発目が跳弾し、一毅の脇腹に決まる。
「いっつ……!」
「っ!」
更に2、3と一毅の胴体に銃弾を打ち込む。
「いってぇ!」
「っ!」
更に銃弾が一毅を狙う。
「うぉ!」
一毅は体を捻って躱す。今度は跳弾は来なかった。
こう言うときに心眼を自在に使えれば良いが思い通りにはなかなか行かない。
「流石だなぁ……レキほどじゃねえけど天才的な狙撃だ」
一毅は笑うと再度間合いを詰めに掛かる。
「ウォオオオオオ!」
一毅は飛んできた銃弾を今度は全て斬る……だが、
「っ!」
刃が当たった瞬間閃光……これは武偵弾の
「ぐぉ……」
一毅は目を抑えるが視角は封じられた……絶好の攻め時……だが、
「馬鹿にしてる……」
ロキは銃口を下に向けた。
「え?」
「こんなもんじゃないはず……何でふざけて戦う!!!!!」
「……………」
一毅は一時的に見えなくなった目を瞑って頭を掻く。
意外と聡い……まあ良いだろう。
「そりゃやっぱお前はレキの妹だ……でも一番の理由はあれだ。お前だって俺のこと殺す気ないだろ?」
「っ!」
一毅は見えないがロキは目を見開いていた。
「だってさ、最初の一発目だって不意打ちできたのにしないし狙撃主の癖して俺の前に出てきて正々堂々だし……何より銃弾が絶対に俺の防弾制服に当たるように撃ってる」
「………たまたま」
「違う。偶然胴体だけ当たるように撃つ何て狙ってなきゃ無理だって。それにお前殺気無かったし」
「え?」
「俺分かるんだ。お前みたいなやつが考えること」
「………は?」
ロキは唖然とした。
「お前さ。本当はレキが弱くなってようが関係ないんだろ?」
「な、何言ってんの?」
ロキの声が僅かに震える。
「お前本当は
「っ!」
ロキの頬が紅潮する。
「なのにお姉ちゃんの隣にはどこの馬の骨とも知れぬ男がいてそれに腹が立ったんだろ?お前の本心はウルスなんか実はどうでもよくて本当は大好きなお姉ちゃん盗った男に八つ当たりしたくなったんだろ?」
「…………………」
パクパクとロキは口を動かす。動揺何て生易しいもんじゃないくらい困惑してる。
「いやぁ~うちの孤児院にもいたんだよ遥の取り合いする奴等がさ。誰が構って貰うか~みたいな喧嘩をしてた。なんかお前そいつらに似てるんだ」
「違う違う違う!」
足をバタバタしながら必死に言い訳を考える。成程、素の性格結構まだ子供だ。少なくともレキみたいな冷静な性格はしてないようである……等と見えないが聞こえる音と声で判断する。
「そうだよな。気に食わないよな~大好きなお姉ちゃんの隣に男がいればさ」
「~~!!!!!」
ロキは林檎も負けそうな位真っ赤になる。
「だから本気出せないんだ。お前は悪いやつじゃない感じがしてさ」
「………」
ロキは歯を噛み締める。
「最初から分かってたの?」
「ああ、女心には鈍いがそう言うのは結構気づく性格でね」
一毅は少し笑う。
「………そうだよ。私はあんたが気に食わないよ……調べてみれば一年の女の子とも関係持ってるって言うじゃん!お姉ちゃんはホントは騙されてるんだ……って思ってた」
でも姉は一毅と共にいるときすごく楽しそうだった。ここ一週間こっそり見てたが見たことない姉がいた。
「あ、ここ一週間感じてた視線お前だったんだ……」
「それも気づいてたんだ……」
「薄々な」
ロキはため息をついた。
「最初は納得いかなかった。何でこんな見た目ヤクザでその癖して二股してお姉ちゃん何でこんなのって思った……」
「…………」
一毅は何も言えない。事実だから……
「なんか言い訳しないの?」
「事実だからな。その通りだよ。最低かもな。でもやっぱり……いや、これ以上は言わないでおくよ」
そう言って一毅は一旦下がって距離を取る。その距離はおよそ30m……100mを十一秒で駆け抜ける一毅が走れば凡そ4秒もあればつく距離だ。
「うん。口で言ってもやっぱり言い訳にしかならん。だからお前のありったけをを俺に向けろ……今度は本気出す」
一毅は腰刀を仕舞い腰を落としながら目を開く。もう視力は回復した。
一毅は暗に言っているのだ。自分を気の済むようにボコって言い訳をさせてみろ……と、
「………分かった」
ロキはリロードする。
「それで良い……」
一毅の体を
まず一毅はヒートを完全に制御する修行をしていた。そうすることで今は【ホワイトヒート】【ブルーヒート】【レッドヒート】の全三種のヒート全てを完全に使用できるようになっていた……
「行くぞ……」
一毅が前傾姿勢になった瞬間ロキが発砲……狙いは一見バラバラで一毅は一発も当たらない……だがそれは間違い。
銃弾は壁に跳弾し跳弾した弾丸は別の跳弾とぶつかり跳弾……それが幾つも起こり銃弾の壁を作り出し一毅に迫る。例え防弾制服の上からでも十分に倒す威力があるだろう……だが一毅は迷うことなくそこに突っ込む。
「勝機!」
一毅の体に電撃のようなものが走る。夏休み前以来の心眼……それが来た。全く遅すぎである。
「っ!」
飛んできた銃弾を全てギリギリで回避する。360度全てから飛ぶ弾丸をまるで見えているかのように避けていく。だが本当は見えていないし見切っていない。全て体が勝手に動いていく……本能が一毅の体を支配する。
「二天一流……絶刀!!!!!」
銃弾の壁から抜けると一毅は抜刀……ブラドにも放った二天一流 秘剣の構えの絶技!
「龍牙一閃!!!!!」
一毅の居合い……だがそれはロキの首筋に添えられただけだ。
「結局一太刀もいれられないんだ……」
「はは、勘弁してくれ。俺にはレキの妹って言う盾は壊せなかった」
一毅は刀を仕舞う。
「俺なぁ。自分でも駄目だなって思うよ。でもさぁ……」
一毅は笑う。
「あいつら俺を好きだって言ってくれるんだ。そんな二人をさ……俺はどっちも大切にしたくてどっちも愛おしくて……好きなんだよ」
「………………」
ロキは一毅の言葉を黙って聞いた。
「はは、我ながら優柔不断だな」
「ホントだね……でも……何でお姉ちゃんが惚れたか少し分かった気がする」
「そうか?」
「うん」
ロキは肺の空気を吐ききる。
「どこがって言いにくいけどね。感覚的な感じかな」
「ふむ……そんなもんか」
そんな一毅を見てロキが笑う。
「へぇ、そうやって見るとレキと似てるな」
「お姉ちゃん笑うの?」
「時々な」
一毅が言う……だが次の瞬間スカイツリーに雷が落ちた。
「っ!……どう言うことだ?」
天気は星が見えるくらいの雲ひとつない空だ。そこに雷?
「じゃあ俺は行くからな」
「え?やばそうだけど?」
「キンジが行っててアリアもいる」
そして一毅は笑みを浮かべながら、
「男が危険に飛び込むには十分な理由だ」
一毅はそういい残し走り出す。
ロキの頬が紅潮していたのは気づかなかった……