緋弾のアリア その武偵……龍が如く   作:ユウジン

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龍と転校生

カンカンカン……と木が打ち鳴らされる音がする。

 

「神崎 かなえを……懲役500年の刑に処する」

『っ……』

 

全員が自らの耳を疑った。同時に怒りが沸き上がる……

 

「ふざけんじゃないわよ……」

 

今日はアリアの母親、神崎 かなえさんの裁判であった。

今まで捕まえたイ・ウーの人間は理子、ジャンヌ、ブラド、更にあかりたちが捕まえた夾竹桃……今回の証人にだってブラド以外は全員証言させられた……だが……現実はこれだ。

 

(何でだよ……)

 

一毅は自分の歯が軋むのを感じる。

自分は頭が良い方だとは思っていない。寧ろ悪い方だ。だがそれでも検事達の言い分は絶対に筋が通ってないし無茶苦茶だ……なのに証拠不十分で理子達の分しか減刑されなかった。

じゃあ逐一イ・ウーの構成員捕まえて全員に証言させなきゃいけないと言うのか?無理だ。一体何年かかると思っているのだ。

 

「こんなの不当よ!」

『アリア!』

 

キンジと一毅は今にも飛び掛かりそうなアリアを止める。

 

「離して!」

「まだ最高裁がある!心象悪くしたいのか!」

 

キンジに怒鳴られビクッとアリアは身を竦ませる。

 

「いいのよアリア」

「ママ?」

 

アリアはかなえさんを見る。

 

「こうなる事は分かっていたわ……遠山さん」

「え?」

「アリアがここまでやってくれるとは思わなかった。娘をありがとう。そしてこれからもお願いね」

 

そういい残しかなえさんは連れていかれた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………』

 

一毅、キンジ、レキ、アリア、理子、あかり、辰正、ライカ、志乃、陽菜……そして、

 

「気に入らないわね」

 

あかりたちが捕まえて司法取引と言う形で証言させた夾竹桃は呟く。誰も反応しないが……

特に先頭を歩くアリアは隣を歩くキンジの袖をずっと掴んだまま肩を震わせている。

泣いているのか……怒りか……はたまたその両方か……後ろを歩く一毅たちには分からないが少なくとも落ち着いた状態ではない。

 

「やっぱり気に入らないわ」

「何が?夾竹桃ちゃん」

 

辰正が夾竹桃に反応する。

 

「先程から車が一台も通らないわ」

「偶々じゃない?」

「あらじゃあ辰正……信号機が止まっているのも偶然?」

『っ!』

 

遂に全員が反応する。

 

「ようやく気づいた?」

「どう言うこ――っ!」

 

轟く雷鳴……街頭の上に立つゴスロリの少女に全員が注目した。

 

「貴方は……ヒルダ」

「久し振りねぇ……夾竹桃」

「あ……あ……」

 

ヒルダと夾竹桃に呼ばれた女は呆然とする理子を見る。

 

「久し振り。理子」

 

フワッと理子の前に着地するヒルダ。

 

「良いわねぇ理子。元気そうじゃない」

「ヒ……ルダ!」

「いやねぇそんな目を向けないで」

 

ヒルダは理子の頬に触れる。

 

「お父様はいないわ。だから貴女をもう虐めない。大切に扱ってあげる」

「シャア!」

 

キンジの後ろ回し蹴りが迫る。

半ばとっさに出したがヒルダは危険だ。

 

「無粋な男ね」

 

だがヒルダはそれを影に入って躱すと理子の背後に回って耳にコウモリのイヤリングをつける。

 

「友情の証よ」

「この!」

 

そこにライカが間合いを詰めて拳を振り上げる。

 

「邪魔よ」

 

バチィ!っとライカの体に電撃が走る。

 

「はぐっ!」

「ライカァ!!!!!!!!」

 

元々今回の判決でフラストレーションが溜まっていた一毅は一気に怒りの臨界点が突破する。

 

「っ!」

 

一毅は刀を抜くと疾走し……

 

「ちっ!」

 

ヒルダの電撃が一毅を襲う。

 

「痛いんだよ!」

 

だが一毅は喰らいながらも斬撃を叩き込む。

 

「くぅ!」

 

ヒルダは後ろに飛んで距離をとる。傷は勿論直ぐ様修復された。やはり魔臓壊さないと物理的なダメージはない。

 

「時々いるのよねぇ……痛みに鈍感なむさ苦しい猿……と言うかゴリラ」

「ああ!?」

 

メチャクチャ失礼な言い方に一毅のコメカミに青筋が走る。

 

「まあいいわ、ここは一つ派手に……「そこまでだ」は?」

 

一毅たちも声の方向を見る。

そこには銃と剣……武偵風に言うなら一剣一銃(ガン・エッジ)の構え……それを見た瞬間ヒルダは顔をしかめる。

 

「臭い……銀のにおいね」

「ああ、由緒正しい純銀だ」

「お前は……」

 

キンジは思い出す。確か開幕の時に無所属を表明していた中性的な顔の人間。服装を見る限り小柄な男か?

 

「誰?」

 

あかりの呟きにそいつはこちらを見てくる。

 

「僕はエル・ワトソン。J・H・ワトソンの曾孫だ」

『なっ!』

 

J・H・ワトソン……シャーロック・ホームズの相棒(パートナー)……元軍医でシャーロックとは幾つもの難解且つ奇怪な事件を解決してきた男だ。そいつの子孫もいたのかと一毅が思っているとワトソンはヒルダを見直し……核爆弾級の爆弾を落としてきた。

 

「ヒルダ。ここは引いた方がいいんじゃないか?まあやると言うなら僕はパートナーであるアリアを……いや、婚約者であるアリアを守るために君と戦う」

『………………………はい?』

 

その場の全員が唖然とした……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はじめまして、エル・ワトソンです」

『キャー♪』

 

次の日……ごく普通にワトソン転校してきた。

昨日は結果としてヒルダはあっさりと撤退し(あっさりしすぎて怪しい)帰路についたが実際のところキンジとアリアが微妙にギスギスしていた。と言うか衝撃が走って亀裂ができてしまったと言うべきか……

無論二人が意識しあっているのは周知の事実で二人も最近は少しずつ距離も縮まってきたところと言う一番のデリケートな時期に婚約()()動 である。

特にアリアなんか顕著で昨日はキンジの部屋に帰らなかったらしい。

バスカービルと言うチームとしてはこの二人が喧嘩と言うのは非常に問題だし何より鑑賞物件が消えるのは残念きわまりない。何より何だかんだでお似合いの二人なのだからくっついてほしいとも思う。

 

「ねえ何科にはいるの?」

「他の武偵学校で強襲科(アサルト)探偵科(インテスケ)を修学したからこの学校では救護科(メディカ)をやるつもりだよ」

『キャー♪』

 

何を言ってもキャー♪である。

 

「ふぅ……」

 

女子にキャーキャー言われるワトソンを尻目に一毅は隣の席のキンジを見る。

キンジは敢えてアリアの方を見ていない。

それからこの間の席替えで何の因果か一毅のキンジとは反対側の席に座るアリアを見る。

こっちもキンジを見ていない。

 

(い、胃に穴が開きそうだ……)

 

一毅は二人に挟まれながら胃がキリキリ言うのを我慢して机に突っ伏す。

 

(まあ……キンジがどう言う風に結論出すかが気になるけど……)

 

一毅はキンジを見る。付き合い長い一毅だからわかる微妙な雰囲気……

 

(そうだよなぁ。大丈夫だろ?リーダー)

 

一毅はそう思いながらギスギス空気から逃げるように眠りの世界に落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

その日の昼休み……

午後からそれぞれの学科で授業なので強襲科(アサルト)の学科練に行くためアリアは校舎を出る……本当はキンジと話しておきたい……だが中々機会と言うか踏ん切りと言うか……等と考えていると目の前に自転車が止まった。

視界をあげていくと見覚えがある。

四月の事件で木っ端微塵にされた自転車をつい最近買い直し金欠だと嘆いていた……

 

「キンジ……」

「乗れよ、送るから」

 

キンジは後ろの荷台を指す。

 

「う、うん」

 

なぜキンジがこんな誘いをしてきたのかわかったアリアは素直にスタンドの辺りに足を掛けて乗る。

 

「行くぞ」

 

キンジは自転車を発進させる。

蹴りを得意とし無茶苦茶な蹴りも繰り出すキンジの足腰は自転車を漕がせれば結構早い。更に最近新技製作のため馬歩站椿で部屋の中を闊歩して(最初見たときはキンジの頭がイカれたのかと思った)更に鍛えておりこの間理子のイタズラ体当たりをジャンプで文字通り飛び越えて避けると言う事までやっている。

 

「キンジ……」

「あのなアリア」

 

アリアの言葉をかき消すようにキンジは言う。

 

「一応一晩考えて……んでもって授業中にまで考えた。んで思うんだけど俺はお前のパートナーだろ?なら別にワトソンのことは案外どうでも良い……お前が俺とどうしても解消してあいつと組みたいんだったら話変わるけどその辺どうなんだ?」

「そんなわけ無いでしょ……」

「なら別に良い。俺はお前のパートナーでお前の俺のパートナー……それだけ決定してれば別に良いじゃねえか。いや、多分俺の分からないところで貴族同士色々あるんだろうけどさ……お前くらいだろ?ヒステリアモードのトリガー知ってもパートナーでいてくれる奴なんてさ」

「キンジ……」

「あいつが婚約者だろうがお前のパートナー自称しようが興味ない……って訳じゃないがお前が何か気にする必要も俺が気にすることもないだろ。今日からちゃんと俺の部屋に帰ってこいよ。昨日桃饅買っておいたのにお前が帰ってこないからこのままだと冷蔵庫の肥やしになるぞ」

「うん……キャ!」

 

そこに段差をガタン!っと落ちた際に揺れてアリアはキンジにガッチリだきつく。

 

『っ!』

 

二人はブワッと顔が赤くなった。

 

「……しっかり……捕まってろ……」

「う……ん……」

 

その後強襲科(アサルト)練につくまでアリアはキンジの首に手を回したままだったのは秘密だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【と言うわけでして特に問題なく仲直り……と言うか喧嘩らしい喧嘩しなかったので仲直りとも言えませんがね】

【でもアリア先輩強襲科練に来たときそれはもうご機嫌でしたよ】

「そりゃ良かったな」

 

複数人同時会話可能なビデオ電話でレキ、ライカ、一毅の三人は談話していた。本当は一毅も強襲科練にいく予定が途中で担任の高天原 ゆとりに捕まって荷物運びの手伝いをさせられ顔を出せなかった。是非とも見たかった。

 

「どちらにせよ取り合えずチーム組んだ直後に解散騒動にならなくて済みそうで良かった良かった」

【では仕事があるのでこれで失礼します。今夜はなんですか?】

「もう秋も深まったし栗ご飯と秋刀魚にするか」

【良いですね。楽しみにしときます】

 

そう言って電話を切る。

 

「さて、スーパーのタイムセールが終わる前に行くか……」

「やあ桐生」

 

そこにワトソンが来た。

 

「ん?おおワトソン」

 

ワトソンはアリアや理子やレキほどでないにせよ小柄だ。近くで話すと首を結構曲げなくてはいけないため辛い。

 

「授業は良いのか?」

「君こそ強襲科(アサルト)に顔を出さなくて良いのかい?」

「他は知らないがうちの強襲科(アサルト)は滅多に授業やらねえよ。顔出さんでも怒られることはないしな。放任主義といえば聞こえは良いが担当が面倒臭がるんだよ」

 

いつも酒呑んで寝てやがるしよく教職をクビにならないものだ。

 

「ふぅん……」

 

ワトソンは一毅の頭から足の先まで見る。

 

「ゴミでも着いていたか?」

「いや、凄いね君は……こうやって自然体なのに隙がない。【行住坐臥常に戦場】ってやつかい?」

「そんな大それたもんじゃねえよ。誰かと話すときは不意打ち喰らわねえように注意してるってことさ」

「遠回しに僕の敵だって言いたいのかい?」

「別に」

 

一毅とワトソンの視線が交差する。

 

「中々根回しがうまいようだな。さっそく寄付やったりしてるみたいじゃないか」

「対したもんじゃないよ。自分の学舎だ。壊れてたら直したくなるものだろ?」

 

喰えない奴だと一毅は思った。

 

「そうそう、今夜パーティをやるんだ。君も来ないか?レキと一年のライカ?だったっけ?その子達も呼んで良い」

「キンジは来るのか?」

「呼んでいないから来ないだろう」

「じゃあ良いや。パーティは嫌いじゃないが今夜はもう決まっててね」

「随分仲が良いんだな。ホモなのかい?」

「んなわけあるか!」

 

失礼な奴だな。

 

「まあ良いさ、別に無理にとは言わないよ。じゃあね」

「ああ最後にワトソン」

「ん?」

 

一度背を向けたワトソンが一毅を見る。

 

「余計なお世話だと思うがお前はアリアの婚約者だ……でも諦めた方がいいぜ」

「貴族の約定だよ。違えられないさ」

「それ以前の問題だろ」

「……どう言う意味だい?」

「別に。アリアにはもうキンジがいるんだ。諦めろって」

「なら二人を引き離すさ」

 

二人の間の空気が張り詰める。一触即発とはこの事かと言う雰囲気だ。

 

「……まあ良いさ。だけど忘れるなよ?あんまり無茶なやり方するとキンジに風穴開けられるぜ?」

「肝に命じておこう……」

 

その言葉を聞くと一毅が背を向けた。

 

「ま、キンジが本気出せるか分からねえけどな」

「それは僕を舐めてるからと言うことかい?」

「理由はお前の胸にでも聞け。自分が一番要因を分かってるんじゃないのか?」

「っ!」

 

ワトソンの表情は強張り自分の手を胸に寄せる。

 

「じゃあまた明日」

「……くっ!」

 

ワトソンは一毅が見えなくなったあと壁を蹴り飛ばしそうになったが寸でのところで我慢した。修理費をまた払わなくてはいけなくなる。


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