少し時間を戻そう。
東京駅ではあかり、志乃、ライカ、風魔、辰正の五人が藍幇の構成員たちと戦いを繰り広げていた……
風魔は忍者刀を握り締めながら夏候黽と距離を詰める。
だが風魔の忍者刀は全て夏候黽の身に付けた鉤爪に弾かれていく。
「は!」
「遅い!」
風魔の横凪ぎを夏候黽は後ろに跳んで躱し振りきったところに一気に間合いを詰めて夏候黽の鉤爪が風魔を狙う。
「ふ!」
「っ!」
風魔はそれを伏せて躱すがそこを狙い澄ましていたようで夏候黽は足を振り上げ顎を蹴り上げた。
「うご!」
「大したことないね」
夏候黽の言葉に風魔はカチンと来た。
「まだでござる!」
風魔は袖から鎖分銅を出すと夏候黽の体を縛る。
「ハァアアアアア!!!!!!!!!!!!」
風魔は疾走し忍者刀で突きを放つ……だが夏候黽は縛られたまま体を捻って突きを躱すと跳ぶ……そのまま両足で風魔の頸を挟むと更に回転……結果として風魔は危険な角度でコンクリートの地面に頭から叩きつけられた……しかもその際に風魔の首が変な音を発していた。
「かひゅっ……」
夏候黽は意識が朦朧としている風魔を鎖分銅を外してから首を持って風魔をたたせた。
「バイバイ」
「っ!」
次の瞬間風魔の体は夏候黽の鉤爪によってこれでもかと
――――風魔 陽菜・敗北―――――
志乃は甘餓のカリスティックを躱し続ける。
最初の一撃を弾いただけで手が痺れて力が入らない。更に武器はハンドガード付きの日本刀が一本しかない。その刀はたった一撃受けただけで刀身が欠けた上にヒビまで入った。
無論相手の武器が鋼鉄の棒であるため相手の武器に損傷はない。
「おらおら~どうしたんだ大和撫子~!!!!!!」
甘餓がユラユラと不思議な歩行で間合いを詰めて来る。
「っ!」
「らぁ!」
日本の武術では見られない特殊な歩行……そこから放たれる一撃……
それは志乃の反応を完全に遅らせた……そしてその遅れが命取りとなる。
「がっ!」
足に当てられたカリスティックでミキミキ足が音を発てながら志乃は体制を崩す。
「がぅ……あが!……うぅ……わぁあああああ!」
半ば無意識に志乃は抜刀……だが、
「あめぇよ」
甘餓の振ったカリスティックは寸分違わずヒビを穿ち志乃の刃を砕く。
「っ!」
「結構怪我が酷いだろうからな……」
志乃と甘餓の目が合う。
「誰か知り合いに付きっきりで看病してもらえや」
「な……」
次の瞬間凄まじい速さの連撃が志乃の全身を余すところなく叩いていく……
「あ……がが……」
志乃は折れた刀を落とす。
「あばよ……
最後志乃が見たのは自分の顔に迫るカリスティックと興味が失せたような顔をした甘餓の表情だった……
――――佐々木 志乃・敗北――――
「あぐ……」
「しゅ!」
あかりの肩の付け根に趙伽の貫手が刺さる。
「シュシュシュ!!!!!!」
喉、脇腹、鳩尾の三つを次々と槍のような鋭い貫手が刺す。
「がひゅ!げはっ!」
どれも呼吸困難……下手すれば命に関わる人体急所だ……死んでも可笑しくない。だが趙伽は迷うことなく突く……まるで槍の達人が鎧と鎧の間を的確に突いていくように……
「が!はふ!」
あかりは必死に呼吸困難を抑えて息を整える。
体の頑丈さだけならAランクも凌ぐと言われているが趙伽の急所への貫手とは相性が悪い。
「どうしたの?その程度?」
「っ!」
ザクゥ!っと効果音が付きそうな勢いでの貫手……それはあかりの肋骨の隙間を突き抜く……
「ひゅ……」
同時にあかりの呼吸が完全に止まる。注意しておくがあかりが死んだのではない。肺に衝撃が走り一時的に自発呼吸ができなくなったのだ。
「っ!っ!っ!っ!」
突然息が出来なくなりあかりは驚愕した。だがそこに……
「もういいや。終われ」
爪先蹴り……それはあかりのコメカミを直撃する。
「が……」
当たり前だが横に吹っ飛ぶ……しかし、
「よいしょ!」
瞬時に逆方向からの爪先蹴り放った趙伽は反対側のコメカミを蹴る。
「っ!」
反対側に無理矢理吹っ飛ばされ平衡感覚が麻痺し……
「せぇの!」
あかりの腹筋による防御がしにくいと言われる下腹への爪先蹴り……
「げぼ……」
血を吐きながらあかりは壁に背を付けそのままズリズリと下がる。
「退屈だ……」
趙伽は頭を掻いていた。
――――間宮 あかり・敗北――――
「おぉ!」
辰正は楽刄のメリケンサック付きの拳を受け流す。
「おっ?」
「うっらぁ!」
その隙をついて辰正は飛び上がると後頭部に拳を落とす。
「がっ!」
「どうだ!」
ギリギリ転ばないように楽刄はふらつきながらも立つ。
「いったぁ……確かCランクの武偵だって聞いたんだけどな~」
楽刄は首を捻る。
「まあ良いか」
楽刄が疾走……拳を辰正は打ち上げるように弾くと関節を極めて地面に倒す……
「これで終わりだ」
「……そう言うことかぁ……」
楽刄は地面に伏せたまま辰正をみる。
「え?」
「少し不思議だったんだよ。アンタCランクでしょ?その割りにはスゲェ鍛え混んでる。筋肉量も受け流しの練度も高い。あたしさぁ、アンタがS……は言い過ぎだけどAランクの中でも上位だって言われても信じれた……でも分かったよ……アンタが何でそんな低評価なのかがさぁ!」
次の瞬間楽刄は半ば強引に関節技の解除にかかる。
「なっ!」
ベキィ!っと骨が折れる音がした……だが曲がらない方に腕を曲がるようにした楽刄が仰向けに体勢を戻すと辰正の顔をぶん殴る。
「がっ!」
「アンタは……勝つ気がないんだ……」
楽刄は腕を抑えながら立ち上がる。
「アンタは狂う程の勝利への渇望がない。極端な話すればアンタは自分の大切な人に傷を負わなきゃいいとか思ってんじゃないの?」
舐めんな……楽刄は辰正を更に殴り飛ばす。
「ヘドが出る甘さだ。お前は勝つ戦い方じゃない。勝つために戦うんじゃなくて攻撃を守る人間に届かなければいい戦い方……その結果勝つ戦い方だ。結果的に勝つのと勝つために戦って勝つのは違う」
辰正は関節を極めたときに瞬時に折るべきだった。
だがそうしなかった為に楽刄に腕一本犠牲にして反撃すると言う選択肢を与えた。
「アンタのその甘さが何よりもその守りたい奴を傷つけるんだぜ?」
「…………」
辰正は自分の手を見る。震えていた……
本人にそんな気はなかった。勝ちたいとも思っていたと思っていた。
だが……否定できなかった。
「もういいや……」
「っ!」
振りかぶられたのは折れた腕……
「私は例え腕を折られようが引きちぎられようが構わないぜ?それで相手に勝てるならよ……」
狂気……勝つためであれば幾らだろうと傷を負えるタイプの人間……辰正にはない物だった。
「くっ!」
辰正は受け流そうと構えたが精神的な動揺のためか受け流しに失敗し顔面にモロ直撃した……
「ふぶぅ……」
「アンタは……人間相手を傷つけるのを本能的に何処かで恐れる。だから相手に幾ら有利な状況に持っていっても返されるだろ?」
「っ!」
幾らでも心当たりがあった。
「それにお前は本気で人間相手に関節技を掛けられない。腕一本犠牲に抜け出せたのがいい例だ」
「ちがっ……」
「違わないね!負けたくねえと口では言ってお前は本当に負けなきゃいいと思ってる!勝ちたいと思ってねえ!負けたくない=勝ちたいじゃない!」
今度は折れてない方の腕で
「あが……」
「お前戦いに向いてねえよ……そんなあまっちょろい気持ちじゃさ」
顔面に折れた方の腕でフック……
「ぶし!」
そのまま辰正は地面に倒れると楽刄がマウントを取る。
「お前の負けだ……」
次の瞬間拳が降り下ろされた……
――――谷田 辰正・敗北―――――
「ウォオオオ!」
ライカはグローブを付けた拳を振りかぶる。
「ふん!」
それを迎撃するように関羅は青龍堰月刀を振り上げる。
「っ!」
間一髪ライカは躱す。
普段ライカが見ている一閃は一毅やキンジなどの人間辞めてます連中ばかりだ。それに比べれば比較的関羅のは遅く見える。
そしてそこに腹部への突き……
「ほぅ……」
関羅はライカの動きに感心した。中々良い師匠がついてるらしい。だが、
「やはりな」
「え?」
次の瞬間青龍堰月刀の柄でライカは殴り飛ばされる。
「がっ!」
「お前に武を教えた男はとんだ凡愚だったようだ」
「なん……だと……」
ライカは立つ。
「訂正しろよ」
「事実だ」
「コンノオォオオオオ!!!!!!」
ライカの拳を関羅は避けるとカウンター気味に柄でライカの脇腹を殴る。
「がっ!」
「はぁ!」
更にそのまま回転すると強かに腕を打ち据えられた。
「あぐ!」
「フンヌ!!!!!!」
そして止めとばかりに柄を降り下ろされた。
「あがっ!」
ライカは地面に転がった……
「お前ら……弱いな」
関羅の言葉にライカは歯を噛み締めながら立ち上がる。
「まだ……だぁ……」
「たいした根性ではあるようだな」
関羅は青龍偃月刀肩に担ぐ……
「……ウワァアアアアア!!!!!!!!」
ライカの二天一流 拳技・煉獄掌が放たれ決まる……だがその前にライカの鳩尾には関羅の青龍偃月刀の石突きがめり込んでいた……
「あ……が……」
ライカは再度地面に転がる。今度は立てない。
「お前に武を教えた男……かなり大柄な男だろう?しかも腕力が高い」
「何で……それを……」
「分かる……今お前が放った掌打が今いった二つの条件を満たして居なければならないからだ」
「っ!」
「教えてやる。お前は中々才がある。だが、
「え?」
「今のうちに別の流派に変えることを進めておく」
「…………」
ライカは呆然とした……傷よりも……受けた痛みよりも……今言われた事実の方が心に響いていた……
「ん?」
すると関羅たちに連絡が入る。
「何?ここたちが負けた?……分かった。こっちも退却する」
関羅達は連絡を切る。
「では去らばだ。もう会うことはないだろうがな」
関羅達はその場を去る……誰もそれを止めることはできない……
こうして一年生達は敗北を知ったのだった……