お前の動きを読んでるんじゃない。見えているだけ、凡そ五秒前後のお前の動きと現在の動きが……キンジはそう言ったが詳しく言うともっと見えているものもある。
例えば銃口からキンジに向けて赤い軌跡が見える。これは弾丸が発射され何処に着弾するかが分かる。
先程アリアが小太刀を抜いていた際には白い軌跡が見えた。これはアリアの剣筋が見えていた。
更にアリアの近くにもう一人……幽霊のように薄い色で立っているアリアはこれからするアリアの動きを見せていた。
先読み……または先見と呼ばれる力をキンジは使っていた。
もし戦いにおいて相手の動きが分かると言う力があればどれだけ有利なのかそれは言うまでもないだろう。だが残念ながら精度がまだ低く凡そ3、4割位しか当たらないし段々頭が痛くなってきた。だが精度が低かろうと今のキンジはヒステリアモード。しかも派生系のベルゼである。思考は攻撃よりで気を付けないとアリアに本気で攻撃しそうになる上に防御が疎かになりそうになるがそれでもアリアと十分に渡り合える。だが……狙いは戦うことではないのだ。
「アリア……もう辞めな。今の俺には勝てねえよ」
「まだよ!」
アリアが発砲する。
だが銃は発射されてから避けるのは難しいが銃口から読んで発射角度を見切って躱すのは難しくない。ようはタイミングだ。今のキンジの眼を持ってすれば……
「っ!」
「残念だったな」
キンジは僅かに横に逸れただけで避けるとアリアとの距離を詰める。
「シャア!」
アリアの銃に向けて蹴りをだす。
「馬鹿にすんのも……大概にしなさいよ!」
アリアは敢えて銃を上に投げて蹴りを躱すと小太刀を抜刀。
キンジの目には剣筋が見えるがそれでも相当早い。
回避に全神経を動員させる。
「さっきから何でアンタは私の武器しか狙わないの!!!!」
「しっ!」
片腕ずつの
「何で……」
「んなもん自分で考えろ」
キンジは息を吐く。
両手は塞がった。蹴りは……放てるがアリアに当てられない。いや、本音は当てたくない……だ。
一応
「…………」
キンジはアリアの小太刀から手を離す。
「殺せよ。アリア……」
「え?」
甘っちょろいかもしれない。
「武偵活動においてパートナーとは一心同体だ。俺は……お前を連れ戻せなかった」
ヒステリア・ベルゼは初めてだったお陰か概ね今の自分は何時ものヒステリア・ノルマーレだった。そのせいかもしれない……
「つまり……任務失敗だ。そして任務失敗した俺は死ぬんだ」
ヒステリアモードと言う厄介きわまりない体質がもたらす過ぎたるほどの優しさ……最後の最後で女には厳しくなれなかった。特に……アリア相手にだから……
「誰か知らないやつにやられるくらいなら……俺はお前に殺られた方がいい」
「だ、駄目よ!そうだわ、アンタもここに……」
「嫌だね。遠山家は正義の味方なんて言うのをずっとやって来た酔狂な奴等ばかりだぜ?俺は死んだらそんなご先祖様達にあの世でまた殺されるのはごめんだ。俺はジェームズ・ボンドじゃないし、そんなことしたら一毅にボコられちまう」
「っ!」
「もう終わりだ。俺はお前に殺されて……お前は悪に堕ちる。でもな、全てが終わったら思い出してくれ……お前を連れ戻そうとして拳銃とナイフと親友一人連れて原潜に乗り込んできた
アリアの持つ小太刀が震えている。
「いや……」
「殺れよ!!!!アリア!!!!!!!!」
「ああああああ!!!!!!!!」
アリアの小太刀が眼前に迫る……だが見えてしまった。アリアは……ギリギリのところで止める……
「何で……そんなこと言うの?」
ポロポロとアリアのカメリア色の瞳から涙がこぼれだす。
「そんなの……できるわけないじゃない!」
「アリア……」
「曾祖父様は敬愛してる。武器だって向けられない。でも……アンタを殺すなんてできないよ……もうどうすれば良いのか分かんな……え?」
「…………」
キンジは黙ってアリアを抱き締めた。
「バカ野郎……俺が何とかしてやるよ」
簡単だ。最初に言ったようにシャーロックぶっ飛ばせば良いだけだ。蹴っ飛ばして殴り倒して捕まえる。
「だから俺を……信じろアリア……」
「……キンジ……でも私アンタに銃を……」
「何時も向けられてる」
そんな大したことじゃないとキンジの目が語る。
「帰るぞ。アリア……」
「……うん」
アリアの顔が赤くなる。眼もボゥっとしてキンジしか視界にないって言う雰囲気だ。
(どういう……意味だ?)
残念ながらヒステリア・ベルゼ寄りのヒステリア・ノルマーレの思考能力でもアリアの今の気持ちは分からない。
「キンジ……ありがとう」
「ああ」
するとアリアは瞳を閉じた。
ドクン!っと心臓が跳ねる。キンジも眼を閉じ……そして、
「なあ、俺は何時までここで待ってれば良いんだ?」
『っ!』
二人は離れる。入り口には一毅が口の形をへにしていた。
「なんだよ俺は痛め付けられながら何とか倒したってのにそっちはピンク空間製造気やってるんですか?」
『いや、そんなんじゃ……』
一毅はコメカミに怒りマークを浮かばせながらグチグチと文句を言う。
「ほ、ほら行こうぜ」
キンジはこのままでは形勢不利と見たのかアリアを連れて歩きだした。
「良いんだ。帰ったらレキとライカに慰めて貰うから」
「なんだその死亡フラグ……」
それから奥に向かうと、
「これは……」
一毅達の目の前には
「戦争でもする気かよ」
すると、
「私……見た事あるわ」
「何だと?」
アリアの呟きにキンジは反応する。
「昔……間違いなく見たわ」
「んな馬鹿な」
一毅が首を降る。
「ううん。それにここでキンジと会ってる」
「俺はこんなところに来たことないぞ……」
キンジも困惑していると、突然音楽が流れた。これは……
「モーツァルトの【魔笛】?」
一毅にはさっぱり分からなかったがアリアは分かったらしい。
そしてそれと共に、
「音楽には和やかな調和と甘美な陶酔がある」
ICBMの影から世界最強の名探偵……シャーロック・ホームズが現れた。
「そう、まるで今から起きる戦いのようにね。だがこのレコードが終わる頃には戦いも終わるだろう。その後は……僕でも推理しきれない部分がある」
「アリア……下がれ」
キンジがアリアを下がらせる。
アリアはシャーロックに対して本気で武器を向けられないだろう。それを責める気はない。どちらにしても最初からキンジと一毅の二人がシャーロックと相対する予定だった。
「ふ、良いものだ。諦めることを知らず……不可能を知らず……そして希望に溢れた眼。何時見ても若者の光は僕には眩しいものだ」
「はん!爺みてえな言い方だな」
一毅は腰から
「まあ、お前を倒して捕まえて……全部終わらせてやる」
キンジもナイフと銃を抜くと蹴りの構えを取る。
「残念だが終わりではないよ。この戦いはあくまでこれは始まりの序曲。【
「序曲だと?」
一毅が聞き返す。
「そうだ。この戦いは君たちにこれから降りかかる火の粉の一旦に過ぎない。これから始まる出来事の開幕を知らせる合図だ」
するとシャーロックはアリアを見る。
「アリア君。君は素晴らしいパートナーと友人を見つけた。誇っても良い。君を後継者と見定めた僕の目は間違いでなかった」
シャーロックはステッキを握る。
「そしてキンジ君との間には確実に……未だ芽吹きとも言えぬ小さなものだが現れている。推理できていたがやはり目で見て確信できると嬉しいものだ」
『?』
一毅たちは首をかしげる。この男は何を言いたいのだろうか。
「おっと、すまない。年よりの長話ほど鬱陶しい物はないね」
そう言ってシャーロックはこいこいと指を動かす。
「追いで、年期の違いと言うものを教えてあげよう」
「上等だ……」
一毅とキンジは腰を落とす。
『行くぞぉおおおおお!!!!シャァアアアアアアロックゥウウウウウ!!!!!!!!』
一毅とキンジは疾走した。