緋弾のアリア その武偵……龍が如く   作:ユウジン

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龍の驚愕

「何で……」

「弟とその仲間達の危機に馳せ参じたのよ」

 

フワッと重力がまるで無いかのような動きでキンジとパトラの間にカナは着地すると、

 

「キンジ、私があげたバタフライナイフはあるわね?」

「あ、ああ」

 

次の瞬間カナはとんでもない事を言った。

 

「じゃあそれを持ってアリアにキスしてきなさい」

「……………え?」

 

戦いの場だというのに間抜けな声が出た。

 

「接吻とかチュウとも言う奴よ?」

「いやそれは流石に分かる」

 

女性との付き合い方と言う点において同世代の男子からは地球と冥王星位の差があることはキンジ自身も大いに自覚している。だが流石にキスが分から無いほどではない。

キンジをなにより驚かせてるのはキスをしろと言うこと事態である。

 

「王子様のキスでお姫様起こしてあげなさい」

「させるか!」

 

パトラのゴレムが迫る。

 

「ふふ……」

 

カナは不可視の銃弾(インヴィジビレ)で全て瞬時に撃ち抜く。

 

「行きなさいキンジ。彼女は私が止めるわ」

「………頼むぞカナ!」

 

キンジは走り出す。

 

「まて!」

「待つのはあなたよ」

 

足元に銃弾が撃ち込まれパトラは止まる。

 

「さぁ……掛かってきなさい」

「~~!!!!」

 

パトラは武器を抜く。形状は日本刀……

 

「イロカネアヤメ……星伽から盗まれたって噂を聞いていたけど貴女だったようね」

「はぁあああああ!!!!」

 

パトラがイロカネアヤメを振り下ろす。

それをヒラリヒラリと舞うようにカナは躱していく。

 

「その程度じゃ当たらないわよ」

「くっ!」

 

パトラはそれでも剣を振るう。

 

「パトラ……貴女は優秀な子……左右の手で別の絵を描くように魔術を使う。それに無限魔力が加われば一見脅威……でも貴方は人間。集中力は無限じゃない」

「っ!」

「今一毅達が応戦してるゴレムだってそう……砂を人形にする術……更にそれを無限に行えるようにループさせる術……そしてループの際に学習する術……これだけの複合術式を同時に何十体もここまでに使えば……貴女は疲れ始める」

「違う!!!!」

「違わないわ。その証拠に貴女はこの場では6体しか出せてない。そして今の貴方は……砂で剣すら作れない」

「だまれぇえええええ!!!!お前なんか嫌いじゃあああああああ!!!!!!!!」

「あら残念。私はあなたが好きなんだけどね」

 

カナの髪から刃の破片がゾロゾロと現れ一つの巨大な鎌となる。

 

サソリの尾(スコルピオ)

 

ギィン!っとイロカネアヤメを弾くと、鎌の先が空気を切り裂き円錐錐状(ヴェイパーコーン)が見える。まるで桜吹雪が舞う様に……

 

「おやすみなさい」

「っ!」

 

ズン!っと柄尻でパトラの腹を突くと意識を刈り取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝機!!!!」

 

一毅は急激に動きが悪くなったゴレムを見ると力をためる。急に動きが悪くなったのには驚いてはいるが今なら行ける気がした。

 

「全員集まれ!」

『っ!』

 

一毅に言われ皆は一毅の周りに集まる。

 

「合図でしゃがめ!」

 

一毅はそう言って背中の断神(たちがみ)を抜く。

 

「二天一流 剛剣……」

 

一毅は静かに精神を集中させる。

 

「秘技!!!!」

 

次の瞬間一毅の体を純白のオーラ(ホワイトヒート)が包む。

 

「今だしゃがめ!」

 

一毅が叫ぶと皆はしゃがみゴレム達は飛びかかってくる。

 

絡繰独楽(からくりごま)ぁあああああ!!!!」

 

断神(たちがみ)を手に一毅は回転……遠心力を味方にゴレム6体纏めて斬り飛ばした……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういう腕力してるんですか?」

「鍛えてますから」

 

一毅は辰正に親指たてて答える。

 

「一毅さんが鍛えてるとこ余り見たこと無いんですけど」

「まあそれもそうだな」

 

するとそこにカナが来た。

 

「お疲れさま」

「ゴレムが弱体化したのはあんたのお陰か?」

「ええそうよ」

 

いきなり絶世の美女と言っても過言ではない女性?が現れて間宮達が驚く。

 

「初めまして。キンジの姉のカナよ」

「姉……ねぇ……」

 

そこに疑問は覚えたがここでネタばらししようものなら確実に金一に戻った際に拳銃片手にキレた金一に地の果てまで追いかけ回されることは間違いないので黙っておく。と言うか是非とも一生カナで居て欲しい……

 

「それにしても強くなったわねぇ。凄い凄い」

 

カナに頭を撫でられる。背はこっちの方が今じゃ高くなったもののキンジ同様一毅もカナに頭が上がらないのだ。

 

「それで?キンジは?」

「たぶん棺の方に……あれ?」

 

するとキンジも棺のいない。

 

「あら?」

「いや、あら?じゃねえだろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いつつ……」

 

キンジは頭を抑える。棺に近づいた瞬間確か……

 

「そうだ。いきなり穴に落ちたんだ」

 

上を見てみるが完全に閉じてるため上がれそうにない。だがそれより、

 

「アリア!」

 

キンジは棺を開ける。酷く重かったが何とか開けると中には瞳を閉じ、エジプト風の服に身を包んだアリア……こんなときに不謹慎だが……可愛かった。

 

「っ!」

 

ドクン……っとヒステリアモードに成るときのとは違う質の心臓の跳ねを感じた。

ただ可愛いものを見たときはこんな反応はない。薄々……気付いていたのかもしれない……それを否定していただけだったかも知ればい……でも……確信してしまった。

論理的に言うのは得意じゃないし今だって否定したい気持ちがある。

 

(アリア……)

 

キンジはバタフライナイフを出す。

 

多分……言うことはないだろう。彼女がそういうのが苦手なのはわかってる。しかも自分は厄介な病気(ヒステリアモード)持ちだ……顔だってネクラと言われるような顔だし素の自分は情けないくらい弱くて頭だって偏差値が底辺の武偵高校ですら落ちこぼれ……レキみたいな多彩さも……一毅のような強さも……アリアのような直感も……理子のような変装技術も……白雪のような超能力もない。

相手にもされず言ったところで困らせるだけだろう。

分かってる……だから何度でも言うが伝えることはない。だが……意識のない今なら思うくらい良いよな?

 

(アリア……俺は……お前の事が――!)

 

キンジとアリアの顔の距離がゼロになる……

 

 

ドックン!と体の芯が跳ねる。成ってしまう……ヒステリアモードに……

 

「ん……」

 

アリアが目を開ける。

 

「アリア!」

「キンジ!?ってここは!?て言うかなにこの服!」

 

いつものアニメ声だ……良かった……本当に……

 

「目覚めさせられたか……」

『っ!』

 

キンジとアリアの二人が振り返るとそこには腹を抑えたパトラがいた。

 

「残念じゃがアリアは置いていって貰うぞ」

「っ!」

(不味い!)

 

パトラの銃口はアリアに向いている。

アリアとのキスでヒステリアモードに成っていたキンジは半ば本能的にアリアの前に立つ。

 

「引っ掛かったのぅ」

「くっ……」

 

銃弾が発射される。そう、キンジの顔面に……わかっていたのだパトラは……ヒステリアモードに成っている事も……成っていれば庇うことも……

 

(死ぬのか……?)

 

走馬灯のように思考が駆け巡る。

目の奥が痛くなる。バチバチ視界が明暗する。

 

(嫌だ……死ねない……死ねるか……)

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!」

 

キンジは咆哮と共に後ろにぶっ倒れた……

 

「キン……ジ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!」

 

一毅達も到着する……キンジが撃たれた瞬間に……

 

「キンジィイイイイイイイ!!!!!!!!」

 

一毅の体から深紅のオーラ(レッドヒート)が現れる。

 

「てめぇ!!!!」

 

一毅は刀に手をかけようと手を伸ばす。

だが次の瞬間ドクン!っと刀が脈を打ったような感覚がした。

 

「っ!」

(何だこれは……)

 

一毅は驚きながらも刀を触る。すると驚くほど熱くなっていた。

 

(これは……)

 

同時に目の前に目が眩みそうになるほどの緋色の光……

 

「アリア?」

 

一毅が呼ぶがまるで感情を失ったかのような瞳に変わった緋色の光に身を包んだアリアは指をパトラに向ける。

 

「避けなさい!パトラ!!!!」

「っ!」

 

アリアの指から光線が放たれた次の瞬間その場の全員が我が目を疑った。

 

(天井が……)

 

消えていた……まるでそこに最初から存在しなかったかのように……抉り取られたかのように消えたのだ。

 

「何だよ一体……」

 

一毅達はゾワっとした。あんなのを喰らったら文字通り肉片一つ残らないだろう。

 

「……」

 

スッとアリア?はパトラに再度指を向ける。

 

「待てアリア!」

 

一毅は叫ぶがアリアの耳には届かない。

だがあんなのを当てるなんてオーバーキル(やり過ぎ)だ。

そう思った一毅は飛び出そうとしたが……

 

「やめろアリア……」

 

先程倒れたはずのキンジがアリアを抱き締めて止めた。

 

「もういいだろう。やり過ぎだ」

「………………あれ?キンジ?」

 

アリアの体から緋色の光が消え、アリアはキンジをみる。

 

「何で……」

「ん?ああ……これだよ」

 

キンジは少しモゴモゴと口を動かすとペッ!と何かを吐き出した。

 

『へ?』

 

手の中にある物を見た瞬間アリアのみならず一毅やライカ達一年生達、更にカナやパトラと来てあのレキですら呆然とした。

 

「名付けるならば銃弾噛み(バイツ)ってところだな」

『えええええええええ!?』

 

嘘でしょ……っとその場の全員が思った。

この男は銃弾を噛んで止めると言う普通出来ないし誰もやろうとも思わない技で今の危機を回避したのだ。

 

「一毅は知ってると思うが俺は昔両方の奥歯が虫歯になって今はセラミックで被せてあんだよ。そこで噛んで止めたんだが勢いは殺しきれなくて脳震盪起こすし鼻血も出たしでしばらく動けなくって」

 

それを死んだと勘違いしたと言うことだ。

だが……

 

(あ、あり得ねぇ……)

 

その場の全員の心の中での声となる。

 

「我が弟ながらあり得ない切り抜けかたするわねぇ……」

 

カナは冷や汗をかきながらパトラに手錠をかけた。

 

「ほっといてくれ……あーこれは明日辺り鞭打ちだ」

「銃弾歯で止めた代償には小さいだろ?」

 

一毅が言うと次の瞬間船が大きく揺れる。

 

「不味い!沈むわ!」

「ちっ!脱出だ!!!!」

 

一毅が叫ぶと皆は動き出した……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

船が沈んでいくのはボートから一毅達は見る。

あの後何とか脱出用ボートを探し出して全員無事脱出……死ぬかと思った。

 

「しっかし何だったんだ……?」

 

一毅は刀を見る。あの時感じた脈動……絶対に気のせいではない。だが今は感じない。何だったのだろうか……

 

「…………」

 

キンジもどこか虚空をみていた。

先程まで起きていた目の異常……それはすっかり収まっていた。良かったような……だが同時に少し残念だ。

あの時見えていたものが何だったのか……それは分からないがお陰で躱すことも出来たし生き残れた理由だ。

 

(あの時俺は全部見えていた……)

 

銃弾も……そしてなによりも相手の動きを……全て見抜いた目はすでに消えて何時もの景色を写していた。

 

「じゃあお願いします」

 

間宮が携帯を切る。

 

「今から迎えに来てくれるそうです」

「そう」

 

アリアは少し疲れたような顔をしながらも間宮に返事する。そうとう消耗してるらしい。

 

「まあ仕方ないわね」

 

医師免許を持つカナ(と言うか金一)がアリアの診断を終えると、

 

「あの……」

 

間宮はカナに話し掛ける。

 

「何処かで……会ったことありませんか?」

「…………」

 

カナは少し驚いたような顔をし……

 

「そうね……私は……――っ!」

 

そこまでカナが言った次の瞬間海が揺れる。

 

「なんだっ!」

 

一毅が言ったとき、海から何かが現れる。一瞬鯨かと思ったが違う。これは……

 

「潜水艦……?」

 

ライカが呟く。

更にその側面にはこう記されていた。

 

【伊・Uー】

 

「イ・ユー?」

「違う……あれでイ・ウーと読むのじゃよ……」

 

成程そりゃ見つからない筈である。水の中を悠々と動ける潜水艦が本拠地であれば見つかる筈もない。

そうやってパトラが一毅に説明していると、中から誰かが出てきた……

それは男だ……目鼻の堀りは深い美丈夫……更に高身長で一毅と同様に筋肉質だ。年は見た目で精々20代……それが誰なのか……そんなのは見ただけでわかった。

特に探偵科(インテスケ)のキンジと佐々木はその男について授業までやっている。

まあどちらにせよ武偵やってれば顔くらいは何処かで知ることもある。無論それは晩年の写真や……絵などと言ったものに普通は限られるが……そんな男が一毅達の目の前に立っていた。

 

すると次の瞬間パァン!っと空気を切り裂く音が聞こえた。

 

『え?』

「……………」

 

カナがゆっくり後ろに倒れていく。

男が持つのは狙撃銃……それで不可視の銃弾(インビジヴィレ)を放ったのだ。あれは拳銃でしかできないと思っていたが違うことを教えられた……

 

「この瞬間は……推理できていたよ」

 

男の声に皆は注目した……

武偵の始祖にして最強にして最高の名探偵……シャーロック・ホームズの言葉を……


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