緋弾のアリア その武偵……龍が如く   作:ユウジン

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龍達のカジノ警備

「換金をお願いしたい。今日は青いカナリアが入ってきたんだ。きっとツイてる」

 

サングラスをかけた辰正はアタッシュケースを係員に渡しながら言う。

ギザな言い方だがイケメンの辰正が言うと本当に絵になる。

 

さて一毅、キンジ、辰正の三人はブラックスーツにサングラスという格好でカジノ・ピラミディオンに来ていた。

因みに構成は若手IT社長の役を辰正、そのボディーガードという役を一毅とキンジがやる。

 

「派手ですね~」

「ほんとだな」

「さて、レキとライカどこかな」

 

すると、

 

「いかがですか?」

 

お酒を出された。出してきた女性はバニーガール姿だった、そう言えばこの女性従業員は皆バニースーツだった。

キンジはヒステリア的な危険性のため目をそらす。

 

「いいえ、大丈夫です」

 

丁重に断っていると……

 

『なに鼻の下伸ばしてんのよ』

『いい!』

 

突然背中をつねり上げられキンジと辰正は飛び上がった。

 

「あ、アリア!?」

「あ、あかりちゃん!?」

 

カナリア色の目を吊り上げたアリアとプリプリと言う効果音が着きそうな感じで怒る間宮は二人をにらむ。

 

「良いのかよここで油売ってて……」

「そうだよ。それにここでは僕たち一応他人だよ?」

「だって誰も注文しないんだもん」

 

間宮はウンウンとアリアの同意する。

確かにアリアも間宮も顔立ちは整っているが如何せんチビ……しかも幼児体形と来てる。いくらパットで盛ってるとは言え確かに人気は…

 

「うっ!」

「らぁ!」

 

等と考えたキンジの目にアリアの……辰正の目に間宮のウサミミが刺さった。

 

『フグォ!』

 

キンジと辰正は目を抑えて何処ぞの大佐のように「目が、目がぁあああ!!!!」と叫んでいる。

 

「パットはオシャレ!パットは無罪!」

「そうだよ!パットは何も悪くない!!!!」

 

因みにもう一人仕事してないのがいる。それは間宮の背後でスロットに隠れながら写真を撮ってる白雪2号――もとい、佐々木である。

 

「あかりちゃん可愛い……ハァハァ……あかりちゃんのバニーは永久保存だよハァハァ……」

「あのぉ……注文したいのですが……」

「黙りなさい。そんな暇はないのよ!」

「あ、はい」

 

お客さんを脅してどうするんだ。しかも何か犯罪者みたいだし一応警備の仕事と言う都合上あいつ捕まえた方が良いんじゃないだろうか……

 

「何か波乱の警備のような気がする……」

 

などと一毅が考えていると、

 

「だぁああああ!!!!」

 

背後で声が聞こえた。

 

「くっつくなぁあああああ!!!!」

「お姉さまと麒麟の仲じゃありませんの~」

 

バニーガールのライカは同じくバニーガールの島に追いかけられていた。

だがライカは高身長の上にスタイルが良いのでこうやってみると非常に色っぽい……

 

「あ、一毅先輩……」

 

ライカはとっさに胸とかを手で隠すが色々と露出が多いバニースーツだ。あまり意味はない。

 

「あ……あれだな……色っぽいな」

「そ、そうですか?」

「あ、ああ……いっでぇ!」

 

島にハイヒールの踵で足を踏まれた。

とんでもなく痛い。

 

「さあ姉さま!行きますよ!」

 

そう言ってライカは引きずられていった。

 

「くっそぉ……島の奴本気で踏みやがった」

 

一毅はピョンピョン片足で跳びながら涙目になる。

 

「大丈夫かよ一毅」

 

キンジも目を軽く押さえながら一毅の所に来た。

 

『ん?』

 

すると向こうが騒がしい。

 

「あれは……」

「星伽先輩……」

「だなぁ……」

 

キンジ、辰正、一毅の順に声を発した。三人とも呆れた声を出していた。

白雪も当たり前だがバニーガールだ。だが高校生離れしたスタイルの持ち主である為かすさまじい人気となっていた。

そして人目に耐えられなくなったのかスタッフルームに逃げ出した。

 

「あいつ何してんだよ……」

 

キンジがボヤく。

何かこのままじゃ警備の仕事が覚束無い気がする……

 

「と、取り合えず適当に廻りませんか?」

 

辰正の提案に一毅とキンジは黙ってうなずいた。

 

 

 

 

 

 

さてその後適当に見て回ったのだがルーレットを見ると、

 

「あ!」

 

レキがいた。残念ながらバニーガールではない。大切なことなのでもう一度言うがバニーガールではないのだ。チョッキにスボンと蝶ネクタイと言う完全に男装である。

まあ凄く似合っているのだが少し残念だ。

しかし……

 

「ふふ……まさかここまで僕が負けるとはね。まるで君は勝利の女神だ。ならば次は僕の全てを賭けよう」

 

そう言って男は全額を賭けた。

まあそれは別に良い。破産でもなんでもすれば良いのだ。だが次に放たれた一言が一毅の怒りを買った。

 

「もし僕が勝ったら君を貰おう!」

「あ゛?」

 

一毅のコメカミに青筋が走った。

 

「あーあれだな。警備のためにあれは排除だな」

「まてまて!」

 

キンジが一毅を止めた。

 

「止めるなキンジ……アイツコロセナイ」

「武偵法9条だ!」

「ナニソレシラナイナァ」

「一毅先輩落ち着いて!」

 

辰正も止めに入る。

 

「……そうだ、おい辰正。お前ちょっとあそこであいつに勝ってこい」

「え?」

「ギャンブルで負かしてこい。もしあいつに勝ってくれば問題はない」

「……参考程度に聞かせてもらいますけど負けたら?」

「お前を海に叩き込んでからあの男ぶちのめす」

「じゃ、じゃあ二人一緒に負けたら?」

「二人一緒に鮫の群れの中に投げる」

「いやそれは別にお咎め無しで良く無いですか!?」

 

辰正はキンジに助けを求めるように目を向けたが……

 

「……………」

 

キンジは黙って合唱した。そしてマバタキ信号で……

 

【骨は拾ってやる】

 

と言った。

 

「……………」

 

味方は居ないと悟った辰正は胃を痛くしながら出ていく。

 

「あーすいません」

「ん?」

 

辰正は男の隣に立つ。

 

「俺も入れさせてください。俺もこの子狙ってましてね」

「………………」

 

レキは辰正と後ろの方でさっきから殺気を放ち続けている一毅と辰正の勝利を必死に祈ってやっているキンジを見た。

 

「成程……」

 

大方一毅に無茶ぶりでもさせられたのだろう。全く……仕方ないのでここは助け船を流してやろう。

そう思ったレキはマバタキ信号で、

 

【どこでも良いんで一つ賭けてください】

【え?】

 

辰正もマバタキ信号で返す。

 

【そこに私が入れます】

 

いやいやいや……普通無理だ……辰正苦笑いした。いくらレキでも自分の意図したところに入れるなど出来るはずがない。

だがレキがそう言い切るからには何かしらの策があるのだろう。なので辰正は赤の23番にコインを置いた。

 

「では行きますよ」

 

そう言ってレキはルーレットを回すと玉を投げ入れる……全員が注目する中……

 

「赤の23番です」

『え?』

 

その場の全員が唖然とした。

 

「配当金は全額をそちらの方にいきます」

『えええええええええ!?』

 

辰正は一気にお金持ちになった。まあ……ここでいくら稼いでも結局後で店に回収されるのだが……

 

(狙って……入れられるの?)

 

辰正はあんぐり口を開けたまま固める。

 

「ま、待ってくれ!せめてメアドだけでも……」

 

やっぱり殺そう。一毅はそう決心して行こうとした次の瞬間……

 

『っ!』

 

けたたましい音と共にフード付きのローブを来た何者かが着地した。

 

「何だあれ……」

 

キンジが驚くなか、

 

「ハイマキ!」

 

一毅の声でハイマキがそいつに噛みつく。

 

だがそれはローブをハイマキに被せて避けながら蹴っ飛ばした。

 

「あれは!」

 

辰正が驚愕する。

ローブの中にいたのは全身黒で腰巻きと首飾り……そして何よりも辰正を驚かせたのは顔……犬?

 

「なんつうか……エジプトとかの方の壁画とかにある【アルコール神】とかそう言うのに似てるな……」

「………………一毅、多分言いたいのは【アヌビス神】か?」

「…………そうとも言うな」

「そうとしか言わん」

 

キンジは銃を抜く。

 

「お前は銃は?」

 

キンジが辰正に聞くと、辰正も銃を抜く。

 

「俺のはこれです」

「ラドムVIS wz1935か」

 

キンジが呟く。

ポーランドの拳銃でアリアのガバメントに少し似ている。だが細々とした部分に違いがある名銃だ。

 

「とは言えあまり射撃は得意じゃないんですよね~」

 

そう言いながら辰正は構える。

 

「おい、一毅!お前の銃は?」

「今抜くよ」

 

そう言って一毅は懐に手をいれ……

 

「あれ?」

 

一毅は自分の体をあちこち叩いたりする。

 

「何してんだよ」

「やべ……部屋に忘れた」

 

キンジと辰正がずっこけた。

 

「アホかぁああああ!!!!」

「良いんだよ!殴り飛ばせば……」

伍法緋焔札(ごほうのひほむらふだ)!!!!!!!!!!!!」

 

そこに炎をまとった折り鶴がアヌビス?に炸裂した。

 

「ダメだよカズちゃん!それにさわったら呪われちゃう!!!!」

「白雪!?」

 

白雪は更に折り鶴を構える。

 

「キンちゃんには触らせません!!!!」

 

白雪は折り鶴を更に放つと跳躍。

 

「はぁ!」

 

白雪は貫手をアヌビス?に放つ。だが全く効果はなく簡単に腕を掴んで止められると腕に膝を叩き込む。

 

「あぅ!」

 

ベキィ!と言う音と共に白雪の腕が曲がらない方向に曲がった。

 

「白雪!!!!」

 

キンジが叫ぶ。

 

「……………」

 

レキはアヌビス?の頭に銃弾を撃ち込んだ。すると砂鉄に変わり、中から虫が出ていった。

だがそれを気にする暇はなく。

 

「大丈夫ですか!?」

 

レキは駆け寄ると白雪の腕を見る。

 

「完全に折られてます」

「ちっ!」

 

一毅は舌打ちする。そこに、

 

「がう!」

 

アヌビス?が更に現れた。

 

「おいおい……幾らなんでも多すぎだろ……」

 

一毅はサングラスを捨てながらレキと白雪を庇うように立つ。

 

「くそ……」

 

キンジもサングラスを捨てて少しネクタイを緩めながらベレッタを三点バーストにして……

 

「っ!」

 

撃った……が、

 

(弾が二発しかでない!?)

 

キンジは驚愕しながら舌打ちした。

この銃は平賀に改造されたのだが腕が良い代わりに不具合も多いのがご愛敬の平賀の魔改造である。

そしてこのベレッタは二発がほぼ同時に出てしまうようになっていた。

 

「うわわ!」

 

辰正も銃を撃っていくが動きが速い上に辰正自体射撃能力が高いわけでもないためか全て躱される。

 

「お前本当に下手だな」

「キンジ先輩だって全部避けられてるじゃないですか!」

「喧嘩してる場合かよ!」

『銃を忘れた(お前)(あなた)にだけは言われたくない!!!!』

「全く……」

 

レキはドラグノフを構え……

 

「ふっ!」

 

アヌビス?の眉間を撃ち抜く。

また砂鉄になった。

 

「何だこれ……」

「触んない方がいいわよ」

「アリア!?」

 

アリアがキンジのとなりにガバメントを二丁構えながら着地した。

 

「白雪お姉さま!」

 

佐々木は白雪に駆け寄る。

 

「大丈夫だよ」

「がう!」

 

そこにアヌビス?が飛び掛かる。

 

「一毅先輩!!!!」

 

ライカは元々店に預けて置いた殺神(さつがみ)神流し(かみながし)を投げる。流石に断神(たちがみ)は持ってこれなかったらしい。確かにあれは重い。

 

「サンキュー、ライカ!!!!」

 

空中でキャッチして二振りとも腰に差すと殺神(さつがみ)を抜刀。

それに合わせるようにアヌビス?も飛び上がる。

 

「ラァ!」

 

一人と一体が交差する……

 

『………………』

 

一瞬の静寂……そして、

 

「がう……」

 

砂鉄になった。

 

「ぐるる……」

「あーもう!しつこい!」

 

幾ら何でも多すぎる。

 

「行くわよ!レキ!!!!」

 

アリアは回転する台に飛び乗るとレキがその台を撃つ。すると回転し、アリアはその回転に乗って銃弾をぶっ放した。

 

「お、お前やりすぎだろ!!!!」

「これくらいで良いのよ」

 

アリアは台から飛び降りる。

 

「ん?」

 

すると一体逃げ出した。

 

「ちっ……追うぞ!」

 

キンジは近くにあったモーターボートに飛び乗る。

 

「いくぞアリア!」

「え゛?」

 

アリアは表情を強張らせた。

 

「仕方ないだろ」

「せ、せめてライフジャケット……」

「んな時間はない!」

 

キンジがアリアを引っ張ると……

 

「きゃうわ!」

 

キンジにヒシっと抱きついた。

 

「ひゅ~」

「馬鹿!んなこといってる場合か!」

 

一毅にキンジは切れるが、

 

「だ、ダメキンジ……」

「っ!」

 

ドクン!っとキンジ体の芯が熱くなる。成って……行く……

 

 

 

 

 

 

「っ!」

 

一毅は背後から襲撃を受けた。

 

「先輩!!!!」

「ちぃ!」

 

一毅は相手の横凪ぎを、武器の上を転がって躱す。

 

「す、凄い……」

 

佐々木も驚いたような目で見る。

幾ら身体能力が高い一毅でもこれは誰もが見ても驚愕の一言に尽きる避け方だ。

だが注目すべきなのは襲撃者だ。それは先程のアヌビス?に似ているが大きさが違う。身長はおおよそ2m半……この中で一番背が高い一毅の頭1個分近く大きい。

そしてその武器はグレードソードと呼ばれるタイプの剣だ。普通の人間であれば振るう処か持ち上がることすら不可能。だが重量に物を言わせた破壊力は侮れない。

 

「お前ら下がれ!」

 

この武器はただの横凪ぎでも纏めて切り捨てるだろう。残念だが大勢いても邪魔だ……つまり一人でやるしかない。

 

「一毅、そいつを任せて大丈夫か?」

「ああ……」

 

今気づいたがキンジはヒステリアモード……アホはやらないだろう。

 

「お姉さま……こっちです」

 

島がライカと協力して白雪を他の皆と隠す。

 

「気を付けろよ」

「そっちもな」

「行くわよキンジ!」

 

アリアとキンジはモーターボートで走っていく。

 

「よぉし……行くぞ!」

 

一毅は疾走する。

 

 

 

 

「ウラァ!」

 

一毅は殺神(さつがみ)を切り上げる。

 

「ぐぉ……」

 

刀は刺さるが凄まじい筋肉量のためか深く刺さらない。

 

「ちぃ!」

 

一毅は抜こうとするが、筋肉を素早く収縮させ抜けなくする。

 

「なっ!」

「ぐわ!」

 

アヌビス?はグレードソードを振り下ろす。

 

「くっ!」

 

一毅は殺神(さつがみ)から手を離し避ける。

 

「っ!」

 

先程一毅の居た場所にグレードソードが振り下ろされ床に穴が開く。

 

「おいおい……」

 

剣の重さだけじゃない。振るってるアヌビス?その者の腕力が人間離れ(まあ人間では無いのだが)してるのだ。

 

「くそ……」

 

一毅は神流し(かみながし)を抜く。だがこれでは普通に刺しても効果は薄いのは目に見えている。ならば……

 

「うぉおおおお!!!!」

 

一毅は間合いを詰める。

 

「グォオオオオオ!!!!!!!!!!!!」

 

アヌビス?は咆哮をあげると凄まじい速度で振り下ろした。

 

「甘い!」

 

一毅は横にスウェイで躱すと、

 

「オッラァ!」

 

グレードソードの上に飛び乗ってアヌビス?の顔に膝蹴りを叩き込んだ。

 

「がぅ!」

「せぇ……の!!!!」

 

そのまま一毅は神流し(かみながし)を逆手に持つとアヌビス?の顔に突き刺した。

 

「が……」

「…………」

 

一毅は着地する。

 

「どうしたレキ」

「…………嫌な風を……感じます」

「…………」

 

一毅は眉を寄せる。久しぶりに聞いた。レキの風と言う言葉を……

 

『っ!』

 

すると遠方で銃声が聞こえた。

全員が周りを見る中レキはドラグノフを構える。

そして狙いをつけると迷わず撃つ。

 

「不味いですね」

「どういうことですか?」

 

間宮が聞く。

 

「アリアさんが何者かに狙撃されました。更にキンジさんが何者かと交戦に入る可能性があります」

「見せろ」

 

一毅がレキのドラグノフを借りてスコープを覗く。確かに居た……キンジと……金一さんが……

 

「くそ!俺たちも行くぞ!」

 

一毅が振り返った次の瞬間、

 

「ガウァアアアアア!!!!」

「しまっ!」

 

先程倒したと思っていたアヌビス?が突然動きだし一毅の襟を掴むと総重量100キロを越えるグレードソードを軽々と振るう腕力で一毅をぶん投げそのまま一毅は店の受付だったところに突っ込んだ。

 

『なっ!』

 

他の皆も驚愕しつつも武器を構える。

 

「こんの!」

 

ライカのトンファーによる一撃がアヌビス?の腹に叩き込まれる……が、

 

(ダメだ……体重(ウェイト)が違いすぎる……)

 

体格も体重も差がありすぎるためか殆ど効いていない。

 

「ライカ避けて!」

 

間宮の声を聞いてライカは横に飛ぶと、間宮がUZI(ウージー)を撃つ。

だが……

 

「ぐるる……」

(銃弾のパワーが低すぎる!?)

「あかりちゃんに手を出すな!」

 

佐々木が飛び掛かる。

鞘を捨て……放つは巌流の看板技。

 

燕返(つばめがえ)し!!!!」

 

だが脇腹に少し切り傷が入っただけで一毅同様致命傷には遠い。

 

「うぉおおおお!!!!」

 

辰正がアヌビスの頭に飛び乗ると首に足を巻き付けそのまま体を回転させて首をへし折る。

 

「どうだ!」

 

普通なら武偵法9条に違反するため使えないがこいつは人間じゃない。遠慮なく使わせて貰った殺し技だ。

 

「ぐ……るぁ!」

 

だがアヌビス?は頭をがっしり掴むと無理矢理戻した。

 

「っ!」

 

ゴキゴキ首を回して確認するとグレードソードを拾う。

 

「ここは暗闇の中 一筋の光の道がある 光の外には何も見えず、何もない私は光の中を駆けるもの」

 

そこにレキの暗唱と共に銃弾がアヌビス?頭を撃ち抜いた。

 

「やはりダメですね……」

 

レキが言うようにアヌビス?は頭が撃ち抜かれたと言うのに動いている。

 

「喰らえですの!」

 

島のデリンジャーが更にアヌビス?の片目を撃ち抜く。残念ながら効果はないが……

 

「どうする?」

 

ライカたちは目配せする。

 

「じゃあ俺にもう一度交代だ」

『え?』

 

一毅がさっき投げ込まれた受付を乗り越え着地する。

手には三本目の刀……と言うには少々デカいがとりあえず桐生の家に伝わる名刀……断神(たちがみ)を抜く。

刀身はそのでかさと武骨さ……圧倒的なまでの重量感を見ただけでも感じる。全てを断ちきる破壊力を持った刀……薄く緑色に輝くそれは真に使いこなすものは神の意思すらも断ちきると言う意味を込めた一振り……そして二天一流の中ではあまり使われないが攻撃力は最強の型……【二天一流 剛剣の構え】を取る。

 

「グルルル!!!!」

 

アヌビス?は一毅を見ると疾走する。

 

「二天一流……」

 

一毅は断神(たちがみ)を構える。

 

「剛剣!!!!」

 

一毅も合わせて疾走……

 

「グルァ!!!!」

 

グレードソード横凪ぎ一閃……それを一毅は断神(たちがみ)を床に突き刺し飛ぶと曲芸のようにアヌビスを軽々と飛び越えた。

 

「っ!」

 

アヌビス?も驚く中一毅は断神(たちがみ)を握ると、

 

「猿返し!!!!!!!!」

 

そのままアヌビス?の首を撥ね飛ばした。

 

「ウォオオラアアアア!!!!!!!!」

 

更にそのまま振り下ろすと重量に物を言わせて強引に叩き切って体を真っ二つにした。

 

「これでどうだ?」

 

一毅が残心を取りながら見る……そしてそのままアヌビス?は砂鉄になった。

 

「……ふぅ」

 

一毅は刀を全部拾うと仕舞う。

 

「よし、あいつら追うぞ!」

 

一毅の言葉に全員がうなずいた。

 

 

 

 

 

 

少し時間を戻そう。

 

キンジとアリアは逃げ出したアヌビス?を追っていた。

そして、

 

「それ以上は通行止めだ」

 

そう言ってキンジはベレッタを撃つ。

そして、アヌビス?は水の中に砂鉄となって沈んでいった。

 

「ふぅ……」

 

キンジが前髪についた水を払う。

 

「ふぁ……ふぁふぁ!!!!」

 

アリアはアリアで水が怖いのか少し震えている。

 

「ほら、帰ろうか」

「そ、そうね!」

 

アリアは震えた声で言う。

 

(一毅の方は大丈夫だろうし……これにて一件落ちゃ……)

 

パァン!っと空気を切り裂く音が聞こえた。

 

「え?」

 

アリアの体がゆっくり倒れていく。

 

「アリア!」

「おっと動かない方がよいぞ」

「っ!」

 

キンジの目の前に突然船が現れた。

 

「ホッホッホ」

 

船の上にはおかっぱの髪の美女が居た。

 

「く……」

 

キンジがアリアは目だけ動かして探すと水の中から棺に入れられたアリアがアヌビス?達に引き上げられていた。

 

「ふむ……折角じゃ、お前は木乃伊にでもしてやろう」

 

女性がキンジに手をかざした所に、

 

「やめろパトラ」

「っ!」

(兄さん……!?)

「キンイチ……妾の邪魔をするか」

教授(プロフェシオン)から言われているはずだ。アリアに仕掛けるのは良い……だが無駄な殺しはするなと」

「うるさい!妾はやりたいようにやる!贄がなければ楽しくない!!!!」

「だから退学になったのだろう。今の長は教授(プロフェシオン)だ……リーダーの座を狙うなら今は従え」

「何を今さ……むぐ…!」

「え?」

 

キンジは目を見開く。

そりゃ自分の兄が今日初めて見る女性とキスしたのだ……

 

「これで許せ……あいつは俺の弟だ」

(しかも……成っただと!?)

 

今の兄はヒステリアモード……いや、兄の呼び方で言えば【HSS】……だが何でだ?兄である金一はカナに成ることでヒステリアモードになることができる。逆に言えば女性との接触でなる必要はないし何よりあの優しい兄が人を利用してヒステリアモードに成るなど初めて見た。

 

「き、貴様、わ、妾を使って成ったな!」

「悲しいことを言うな。そんな打算的な理由でキス出来るほど器用な男じゃない」

「なっ!」

 

女性はアウアウと顔を真っ赤にすると、

 

「ふ、ふん!今のお主を殺すのは簡単だが儂も無事では済まないじゃろう」

 

背を向け消えていく。

 

「待て!」

「いくな!」

「っ!」

 

金一の怒声にキンジは動けなくなる。

 

「夢を……見ていたようだ」

「何だと?」

 

キンジは兄を睨み付けた。


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