緋弾のアリア その武偵……龍が如く   作:ユウジン

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龍と金のそれぞれの夏祭り

一毅は自室で着物を着ていた。

 

今日は緋川神社で夏祭りの日だ。レキとライカも何か浴衣で行くとのことなので序でに一毅も着物で行くことにしたのだ。因みに一毅の着物は先祖代々由緒正しい物で灰色に背中に竜の刺繍が施されたちょっと派手だが一毅には良く似合っていた。

だがこの着物……何と初代の桐生。つまり一馬之助が着ていたものらしい。多少補修された箇所も見受けられたが今だに現役で着れるこの着物は一毅も気に入っていた。

それに一毅は基本的に洋服よりは着物とかの方が似合うのだ。

因みに余談だがキンジも先祖が武士のためか着物が似合う。

 

「あ、終わりました?」

 

そこにライカが顔を出す。ライカは明るい黄色の着物にコウモリの刺繍がアクセントになった着物だ。

 

「じゃあ行きましょうか」

 

続いてレキは瑠璃色の着物に何時もは下ろして少し寝癖が残る髪を束ねている。こうすると大人っぽくなる。

 

「ああ。おっと財布忘れるところだった」

 

着物の唯一の欠点と言えばポケットがないことだなぁ……等と考えつつ一毅は財布を取ると両手に花状態で外に出た。

 

 

 

 

上野まではそんな時間はかからないので言ってみると結構な人だかりだ。

 

「いや~何やる?」

「では射的で」

『店のもの取り尽くす気(か)(ですか)!?』

 

店を開店早々閑古鳥を鳴かす訳にいかないのでレキを引っ張って行く。

 

「うーん……何か良いもん無いかな」

 

すると、

 

「おお?おーい!桐生ちゃーん!」

「んん!?」

 

一毅が声の方を振り替えると眼帯にオールバックの髪をバンダナで覆い、エプロンを着けてヒッヒッヒ~と笑っている男……

 

「宍戸さん!?」

 

一年前の事件で知り合い、それ以降も何度も会ってすっかり顔見知りになってしまった極道の組長がたこ焼きを返していた。

 

「大阪仕込みのたこ焼きやでぇ~買ってってや~」

「何してんですか?」

「いや~最近は極道社会も閑古鳥鳴いておってな~普段は不動産売買とか言うのが多いんやけどこう言うときは店出して稼ぐんや」

「へぇ~麻薬とかしないんですか?」

 

ライカが聞くと宍戸は眉を寄せた。

 

「何や初めて見る嬢ちゃんやな。まあ教えたる。ワイら宍戸組は麻薬(ヤク)とか、売春(ウリ)とか言うのは全部禁止や。まあ去年の件もあるし更に強くしとるけどな」

 

一毅とレキは苦笑いした。去年の一件で一毅と宍戸は戦いそして友人のような関係になった。宍戸にとって一毅は武偵と言う云わば敵に当たるが桐生 一毅と言う人柄を気に入ってるし一毅も極道と言う相容れぬ立場にあるが宍戸 梅斗と言う一人の漢を人生の先輩として尊敬していた。

 

「ま、それはそれとして桐生ちゃん。両手に花なんやしここは一つ器量あるとこ見せや」

「ようわ買えと」

「まあそんなところやな。六個入りと十二個入りの二つあるで」

「じゃあ折角なんで十二個入り下さい」

「毎度あり~」

 

宍戸は手際よく入れていく。

 

「慣れてますね」

 

レキが誉めると、宍戸は何でもないと言った顔で、

 

「大阪人の基本技術や」

 

と言って熱々のたこ焼を作ると渡してくる。

 

「オマケしとくさかい。ここのたこ焼き旨かったって言いふらしてきてくれへん?」

「本当に美味しかったら言いふらしてきて来ますよ」

 

十二個入りなのにオマケで十五個も入ってるたこ焼き片手に一毅達はそこを離れた。

 

 

 

「うわ~旨そうですね」

「と言うわけで一つ目は……」

「あーん」

 

レキがパカッと口を開いてきた。

 

「はいはい」

 

一毅は一つ刺すと良く冷まして……

 

「ほれ」

「むぐ……」

 

ムグムグと咀嚼し……燕下する。

 

「ほぅ……これは美味しいですね」

「……………」

 

ライカが河豚みたいに頬を膨らませる。

 

「お前にもやるって」

 

一毅は笑いながらライカにも同じように食べさせてやる。

 

「あつつ……」

 

ハフハフとたこ焼きを飲み込むと、

 

「ほんとだ。美味しい」

 

そう聞くと一毅も食べたくなった。

 

「じゃあ俺も……」

 

すると、レキとライカが一つずつ刺し……

 

『あーん……』

 

突きだしてきた。

 

「あ……むぐ……」

 

美少女二人からあーんして貰えるとは……こんな役得な状況におかれてるとはこれでは確かに100人クラスに喧嘩売られても仕方ないかもしれないな……等と思いつつ口に含む。

 

「あっちぃ!」

『あ……』

 

レキとライカが冷ますのを忘れていたため一毅が飛び上がった。

 

「ん?」

 

すると見知った顔があった。

 

「あれ?キンジとアリアじゃん」

『あ、ほんとだ』

『え?』

 

武偵高校の制服姿のキンジとピンクの着物姿のアリアは二人仲良く手を繋いで人波から出てきた。

 

『ほぉ~』

 

一毅とライカはニヤッと笑いレキがポン!っと手を叩き、

 

「私たちは邪魔ですね」

「ええ」

「さ、行くぞ二人とも」

『ちょっと待ったぁああああ!!!!』

 

キンジとアリアは一毅たち三人を止めた。

 

「べべべべべべべ別にデートとかじゃねぇから!」

「そそそそそそそそうよ!!!!この手は今突き飛ばされて」

「大丈夫。分かってるから。仲直りのデー――もとい、訓練だろ?」

『そうそう!!!!』

 

二人ともめっちゃ首を縦にブンブン振る。首が遠心力で取れそうだ。

まあ逆に互いに意識してるの丸わかりだけどね。

 

「まあ良いわ。どうせ此処で会ったのもなんかの縁だし一緒に回りましょ」

 

そう言ってキンジの手を引っ張って行く。何だかんだで手は離す気はないらしい。そこを突っ込んだらぶちギレられそうなので言わないが……

 

 

 

 

その後いつものメンバーで回りながらたこ焼きを平らげる。

 

それから金魚すくいで切れそうになるアリアを見たり……(レキが異常に上手い)お面を選んだり……綿飴買ったり……フランクフルト買ったり……何やかんやと一番楽しむアリアを見ている。

 

「レキ!ライカ!輪投げで勝負よ!」

「良いですよ」

「望むところです!」

 

三人は輪投げの方に行く。

 

「ん?」

 

すると見知った顔がありキンジは首をかしげた。

 

「あれ間宮たちじゃないか?」

『え?』

 

確かに視界の先にいた……

 

「全く!こういう場所では犯罪も多いんだからちゃんと注意しなきゃ!何楽しんでんのよ!」

((お前が言うな……))

 

一毅とキンジの心の声がハモった。

 

「ちょっと注意しに行くわよ」

 

アリアに率いられ皆で行く。

 

「何やってんのよあかり!」

「あ、アリア先輩!?」

 

間宮はひっくり返りそうな勢いで飛び上がった。

 

「どうも、桐生先輩」

「こんにちわ」

 

佐々木と島に普通に挨拶される。さすがにこの人混みの中では喧嘩吹っ掛けられずに済みそうだ。

 

(隙あらば……)

(殺れる……)

 

ゾクゥ!っと一毅の背中に悪寒が走った。

 

(何だ!?俺の第六感が言っている?逃げろと!!!!)

「あ、久し振りだな桜」

「あ、火野先輩」

「知り合いですか?」

 

レキが聞くと、

 

「あ、はい。この間のランク昇格試験で知り合った中等部の乾 桜ちゃんです」

 

一年の中で唯一の男……紅一点ならぬ黒一点の辰正が答えた。

そう言えばこの間間宮のランクがEからDになったと聞いた気がする。確か一毅が二日酔いの綴に無理矢理試験監督代理をさせられてた。

 

「はじめまして」

 

桜に頭を下げられ一毅たちも下げる。

見たところ他の組織……つまり警察とかでも研修を受けてる架橋生(アクロス)だろう。確か間宮と戦妹契約交わしたはずだ。

 

「それで何してたんだ?」

「あれ見てたんです」

 

するとステージの上では戦隊物の奴をやっていた。

 

「何?あれ」

 

アリアが首をかしげた。

「警察戦隊 ピーポニャンじゃねぇか。久し振りに見たな」

 

一毅の言葉を聞いた桜が一毅を驚いたような顔で見る。

 

「分かるのですか?」

「ああ、沖縄で実家が孤児院やっているんだけどそこのチビたちが好きでさぁ。良い話だよな。まあ俺はこっちの方をやらされてたけど……」

 

そう言って一毅はコホン!っと咳一つして……

 

「ハーハッハッハ!!!!遂に俺に追い付いたなぁピーポニャン!だが残念ながら既に爆弾は起動した!そこで人々が苦しむ様を見ているが良い!」

「爆発魔・ボムンダーですね!!!!」

「とまぁ悪役になって居たけどな」

 

しかもピーポニャンのリーダーであるピーポレッドを皆でやりたがって5人ともピーポレッドと言う摩訶不思議な戦隊になったが……

 

「あんたって何だかんだ顔に似合わず面倒見が良いわよね」

「顔って何だ顔って」

 

アリアに一毅がコメカミをヒクつかせると……

 

「あかり!これを食べましょう!」

 

美少女と言うか美女……と言う方が正しい少女……こいつは一毅も知っている。 確か、

 

「高千穂 あらら?」

「う!ら!ら!」

 

間違えて怒られた。

 

「誰だっけ?」

 

キンジがアリアに聞く。

 

強襲科(アサルト)のAランク。代々武装弁護士の一族・高千穂家の人間よ。後……鳥取出身」

「鳥取は関係無いっちゃ!」

 

高千穂が叫んだ。

 

「全く!何で帰ってきたら増えているんですの!?しかも男が二人も!辰正だけでも邪魔なのに」

「麗ちゃん酷くない!?」

「それで?誰ですの?」

 

高千穂に聞かれたため、

 

「遠山 キンジだ」

「桐生 一毅だよ」

 

それを聞いた瞬間高千穂は首をかしげた。

 

「桐生?遠山……?」

 

何処かで聞いたような……と言った感じで考え出した。

 

「とにかく食べましょう!」

 

そう言って間宮が高千穂が買ってきた食べ物を広げ一毅たちもご相伴に預かる。

 

「うーん」

「どうしたの?麗ちゃん」

 

あかりは首をかしげる高千穂に声をかける。

 

「何処かで聞いた気がするのよ……桐生も遠山も……」

「…………」

 

キンジもそう言われて高千穂と言う名に記憶がないか考えるが全く無い。無論一毅にもない。

すると、佐々木が口を開いた。

 

鬼検事(オルゴ)……」

 

その一言で高千穂は思い至り、

 

「もしや遠山 金叉の子息ですか?」

「……ああ、父さんだ」

 

それを聞いた瞬間高千穂は驚愕した。

 

「あの鬼検事(オルゴ) 遠山 金叉の息子でしたの!?」

「知ってるの?」

 

辰正が聞く。

 

「ええ、武装検事局始まって以来の才媛。たった一人でも100人単位の犯罪組織を潰し、検挙した伝説を持つ男。確かその相棒(バディ)は桐生 一明……もっとも有名なのは500人近く居た麻薬組織に二人で乗り込み一斉検挙した事件で未だに武装弁護士界でも有名な人物ですわ」

『へ、へぇ~』

 

何か周りドン引きしてる。言っておくが、高千穂に……ではなく一毅とキンジにだ。

と言うか一毅とキンジも驚いていた。

何やってんだろうかあの人たち……そして高千穂……それは有名は有名でも怖がられてるって言うんだ多分……

 

「流石キンジと一毅のお父さんね。人間離れしてるわ」

 

ウンウンとその場の全員がうなずく。

 

(どういう意味だよ……)

 

と一毅とキンジは項垂れたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、キンジとアリアは二人で直ぐ其処の輪投げ屋で遊ぶ面々を見ていた。

 

「あんたのお父さんって武装検事だったのね」

「まあな」

 

そう言えばアリアに自分の家族の事を話したことなかったなぁ……とキンジふと思い至った。

 

「今は何してるの?」

「殉職したんだ」

 

それを聞いた瞬間アリアの顔がこわばる。

 

「ご、ごめん」

「別に良い」

 

沈黙が二人を包む。

 

「ねぇ」

「なあ」

『…………』

 

ハモってしまった。アリアとは愛称が良い分こう言うときまで合ってしまう。

 

「キ、キンジから言いなさいよ」

「ア、アリアから言えよ」

 

二人でしどろもどろしてしまう……

 

「……ねえキンジ……カナに負けて…悔しかったけど今は冷静に出来る。カナは次元が違ったわ。今ならそれがちゃんと理解できてる」

「アリア……」

「でもキンジ……カナと組むの?」

「あのなぁ……俺とカナは実力が違いすぎる。それに俺はお前のパートナーだろ?」

 

最近……何となくそれだけじゃない気もしてきたが……とにかくキンジは自分はお前のパートナーだと言い切った。

 

「……そうね、ありがとう。キンジ」

 

ニコっと笑ったアリアに少しドキッとしていると……

 

「みぎゃ!」

 

アリアが飛び上がった。

 

「むむむむ虫が入ったぁあああああ!!!!」

「お、おい暴れるな!」

 

アリアは荷物を撒き散らしつつ転げ回る。するとアリアの背中から虫が飛び出していった。

 

(コガネムシ……?)

 

一瞬しか見えなかったため確証はないがそれに似た虫だ。

 

「大丈夫か?」

 

アリアを立たせながらキンジはアリアの荷物を拾う。

すると、

 

(写真?)

 

一瞬見えたがアリアに奪われた。

 

「何よ」

「別に」

 

自分でも驚くほどイラついた声が出た。何だいったい。

 

「はぁ、言っとくけどあんたが想像してるような人じゃないわ」

 

そう言って写真を見せてくる。

 

「これは私が世界でもっとも尊敬してる人よ」

 

改めて見たキンジはやっと分かった。教科書で見たときよりも若々しいが間違いない。

 

「シャーロック・ホームズ一世……私の曾お祖父様よ」

「お前写真なんかもって居たのか?初めて聞いたぜ」

「そりゃあ見せたの初めてだもん」

 

そう言ってアリアはキンジを見る。

 

「キンジじゃなきゃ見せないよ」

 

ドッキン!とキンジは自分の心臓が跳ねた。音が近くにいたアリアに聞こえたんじゃないかと少し心配になるほどだ。

多分……服が悪いんだ。いつものセーラーしか着ないアリアが浴衣を着ている。武藤が言うギャップと言うやつだろう。絶対にそうだ……

 

(多分……だけどな……)

 

キンジは自分に言い訳するように内心呟くと顔をそらしていた……


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