金と姉
「ふぁぁぁああああ………」
キンジは学校の帰り道で大きな欠伸をした。
先日一週間ほどの入院から無事退院して登校初日……久々の学校は中々骨がおれた。
すると、校門前に見たことがある影がある。
「よぅ。理子」
「やあ、キー君」
そう、理子は帰ってきた。あの事件の直後姿を消し、キンジ達が学校に復帰した日に合わせて自分も復帰した……
あと、恩義は感じてるらしくアリアの母親の裁判に出ることはきちんと了承している。
そしてその理子がキンジをみると頬を染め……
「一緒に……帰ろっか」
「あ、ああ」
なんか初めて見る汐らしい理子……調子が狂う。まあヒステリア的な危険さは無くなってありがたい限りだが……
「取り合えずありがとね」
「一毅に言ってくれ。あいつがいなきゃ結局負けてた」
「言ったよ。後はキー君だけだったんだ」
「そうか」
あらためてブラドとの戦いを思い出す。今でも少し背中が寒くなる。
だが一毅の変化はなんだったのだろう……レッドヒートを使うと確かに興奮して狂暴性が増すのは自分も体験済みだ。だが明らかにそれだけじゃない。あの時の回避力はそれだけじゃない。
なにか裏がある……そんな気がした。
「後さ、パソコンに送っといたから……」
「何をだよ」
「お兄さん……金一の事を」
「っ!どういうことだ理子!」
キンジは振り替えるが既に理子はいない。
「……くっ!」
キンジは足早に帰宅した。
「これか……」
キンジはパソコンを起動するとメールを急いで開ける。
ブラドが言っていた金一の血により受け継いだヒステリアモード……それが本当なら間違いなく兄は生きている……ならば会って聞くのだ……何故イ・ウーにいるのか……
「【ジャジャーン!!!!!】うぉわ!」
椅子から落っこちた……メールを開いたらいきなり大音量のアニメーション……間違いなく理子の自作だ。あのロリ巨乳……と恨めしく思いながら座り直して見る。映像には壊れた飛行機と風力発電用のプロペラ……
「そこで待つ……か」
キンジは俯いた……
キンジは理子の飛行機ジャックの際に不時着した懐かしくも記憶に未だ強く残る空き島に居た。
未だに不時着した飛行機は残ったままでありプロペラも曲がったままだ。
そしてプロペラの上には……
「久しぶりね……キンジ」
「……………」
一人の女性……その姿は理子も前に変装したことがある。だが……持っている雰囲気……オーラ……声……立ち振舞い……全てが本物だと告げている。
「兄さん」
「?」
「あ、いや、間違えた。カナ」
キンジの兄の遠山 金一はキンジと違い意図的にヒステリアモードに成れていた。その方法が今目の前にいる……カナと言う女性になること……用は女装することでヒステリアモード……兄さんはHSSと呼んでいた力を使うことができる。その代わりカナに成っていると兄さんと呼んでも返事をしてくれない。と言うか自分だと分からなくなる。
だがそのときの強さは自分が知る者の中でも突出しており喧嘩したって勝てるわけがない。
「何でだ……何で今まで連絡一つくれなかったんだよ!」
「ごめんなさいキンジ……」
カナはすまなそうに顔を伏せた。
「なあ、アンタ今何をやってるんだよ」
「……ごめんなさいキンジ……言えないの」
だから……とカナは続けた。
「何も言わずに力を貸して?」
「なに?」
「一緒にアリアを殺しましょう」
「……え?」
キンジは自分の血が凍りついた気がした。アリアを殺す?何をいっているのだろうか。
カナは……いや、兄さんはそんな人ではない。殺しだけは絶対しない人だったはずだ。あの優しい兄さんが……あ、いや今はカナだがどちらにせよ……そんな人じゃない。
「どういう……事だよ」
キンジはそう言葉を絞り出すのが限界だった。
「アリアは巨悪の種よ……ならば今のうちに潰すのが義であり遠山の宿命……そうでしょ?」
そう言ってカナは飛行機の方に降りるとキンジの前に立つ。
「さぁ行きましょう?キンジは私の言ってることは分かるわよね?」
「……」
一瞬……手を伸ばしかける。だがそれを心が拒否した。
アリアを殺す?ふざけるな!!!!!
「シャア!」
「っ!」
キンジは殆ど無意識にハイキックを放った。
「キンジ?」
上半身を逸らしてミリ単位で見切って躱したがカナは驚いている。
「ふざけるなよカナ……」
キンジも自分がやった行動に困惑した。だが後悔はない。
「どうしたの?キンジ」
「カナ……アリアは俺のパートナーだ……殺させるわけにはいかねぇよ」
キンジは腰を落とすと蹴りの構えをとる。
「アンタがイ・ウーで何があったか知らない……でもな、アリア殺すって言うことは俺に対する挑戦状と同じだ……例えアンタでも……引けない」
「そう……」
カナが残念そうな顔を見せた次の瞬間、
「が!」
腹に鋭い痛みが走った。これは……見えない銃撃……金一の十八番にして看板技…… 【
見えず……そして悟られずの銃撃……
銃が見えないため理子の時のように
「ぐぅ……オオオオオ!」
キンジは走り出す。距離はそんなにない。キンジは一足飛びで間合いを詰めると蹴り上げる。
「ふっ!」
だがギリギリで当たらない。いや、こっちの攻撃が完全に見切られてる。
故に最低限の動きだけで躱される。なら、
「スラッシュキック!!!!!」
連続蹴り……刀が連続で人を斬るように蹴り続ける蹴りの猛攻。だがそれすらも簡単に見切られて躱す。
幾らこっちがヒステリアモードじゃないとはいえ明らかに実力差がありすぎる。
「キンジ……」
「なん!だよ!」
後ろ回転蹴り……も躱された所にカナが話しかけてきた。
「アリアが……好きなの?」
「っ!」
キンジの顔がバッと赤くなった。
「な、ちがっ!言っただろ!パートナーだ!!!!!」
顎を狙った蹴り上げを躱されたながらキンジが叫ぶ。
「そう言うこと……だったのね」
カナは少し悲しそうに目をした。
「分からないものね……キンジも成長したと言うことかしら?お姉ちゃんは少し寂しいわ」
お姉ちゃんは……と言う下りには酷く違和感を覚えたが何も言うまい。
「ならば……夢を見てみましょう」
「え?……が!」
次の瞬間キンジの腹に鋭い蹴りが入った。
「キンジ……教えて上げるわ。蹴りは……こうやって放つのよ!」
「ぐぉ!」
先程蹴りが腹に入りくの字になっていたキンジの顎にカナのサマーソルトキックが決まる。
「また会いましょう……キンジ」
ニコッと天使のような……綺麗な笑顔を書けと言われたら誰もが想像しそうな美しい笑みを浮かべたカナがキンジの最後に見たものだった。
「カナ!」
キンジは飛び起きる。
すると自分は椅子に座っていてパソコンの画面はReplayとなっていた……夢?
「何してんのよキンジ。遅刻するわよ」
「え?」
キンジの肩をアリアが叩く。
生きてる……一応頬を引っ張ってみるが痛い……
ちゃんとアリアは居た。良かった……本当に良かった。そして感泣極まってキンジは……
「全く。昨日からずっと椅子で寝てるしなにやっぷ!」
「良かった……」
思わず立ち上がってアリアを抱き締めた。クチナシのような香りも……ちっこくて細い体もスッポリとキンジの体に収ま……え?
「あ……」
ここまで来てやっとキンジは自分がしでかした事に気付く……思わずやらかしてしまったが今の自分……アリアを抱き締めてる……しかも事故ではなく自分から……そしてアリアは現在キンジの体にスッポリ嵌まりながらプルプル震えていた。
(や、やば!)
蹴られる殴られる撃たれる!!!!!
キンジは咄嗟に防御体制を取ろうとした……だがアリアから来たのは予想だにしないもの……何とギュッと逆に抱き締められた。言っておくが鯖折りじゃない。優しくて女性的な抱き締め方だ。
「あ、アリア?」
「ば、馬鹿キンジ……い、言っておくけどそんな時間はないのよ?だから手短にね?」
手短にね……と言われてもキンジにはこれ以上何をすればいいのか分からない。取り合えず離れて欲しい訳じゃないのはわかる。こう言うときはヒステリアモードなら分かるのだが……
「……はぁ、ほら……」
アリアは痺れを切らしたのか目を瞑って顔を……と言うかもっと正確に言うと唇を突き出してきた。
ドキン!っと心臓が跳ねた。一瞬ヒステリアモードに成り掛けてるのかと思ったが違う……もっと別の感情だ。だがキンジにはどうでもいいことだった。頭でわかった訳じゃないが……キンジも目を瞑るとゆっくりと顔を近づけて行く……
そして後、数㎜で着く所で……
「おーいアリア。
「おお……」
「あちゃ……」
上から順に一毅、レキ、ライカだ。
学校に行くついでに一毅は
三人は何の迷いもなく写真を撮った。
「よしお前ら!送れる奴に送信しろ!」
「はい」
「賭けは勝ちましたね!」
「待て!何する気だお前ら!て言うか賭けって何だ!」
賭けとは密かに秘密裏に当人たちには秘密の【アリアとキンジは付き合うか否か……】である。オッズは付き合う3に対し付き合わない7である。因みに同じクラスの武藤や不知火は付き合うに賭けている。無論間宮は付き合わない派だ。
「おいアリア!固まってないで急いでこいつら止めるの手伝え!このままじゃクラス処か学校中にあることないこと言われるぞ!」
「大丈夫。真実100%で皆に送っとくから。後、俺たちお邪魔虫みたいだな。先生には遅れるって伝えとくから」
「全然大丈夫じゃねぇ!」
「…………はっ!………」
ついにアリアもやっと硬直が解け、動き出す。
「アンタたちぃ!今すぐその写真消しなさい!!!!!」
「にげろぉ!」
一毅、レキ、ライカたち三人が携帯片手に走って逃げ出し、それをアリアとキンジがそれぞれガバメントとベレッタを抜いて空に向かって撃ちながら全速力で追いかける。
『待てぇえええええええ!!!!!』
夏が深まってきた空に二人の声が響いた……