緋弾のアリア その武偵……龍が如く   作:ユウジン

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後編 龍と風の出会い

桐生(きりゅう) 一馬之介(かずまのすけ)……これは一毅の先祖の名である。

【祇園の龍】と呼ばれ酒と女を好み、喧嘩には滅法強い……だが情に弱く己を頼るものを無下に出来ないお人好しだった。だがこの男にはもう一つの名があった…それは、【宮本 武蔵】

【天下無双】【最強の剣士】【史上最強】etc.etc……この全てが彼を語る上で外せない二つ名である。

彼を知らぬものはいないだろう……誰もが一度はその強さに憧れ、誰もが一度はその男の伝説を聞く。

そして誰も知らないだろう……彼はその武をたった一人の少女を助けるために懸けた事を……

そして知るだろう……彼の魂を、彼の強さを、彼の心力を、全てを受け継ぐものがいることを…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウォオオオオオオ!!!!!」

 

一毅は相手に向かって走り出す。

 

「ちぃ!」

 

相手も武器を構える。

 

「いよっしゃあ!」

 

一毅は太刀型の木刀を振り下ろす。

 

「っ!」

 

相手の一人がそれを躱し別の相手が攻撃に出る。

ゴムで出来たナイフを一毅は小太刀型の木刀で弾く。

 

「なにぃ!」

 

相手は大きく体制を崩す……そこに、

 

「二天一流・必殺剣!二刀陰陽斬!!!」

 

一毅はがら空きになった脇に太刀型の木刀を打ち込む。

 

「がっ…」

 

打ち込まれた相手は泡を吹いて倒れた。

 

「フゥウウウウウ……」

 

一毅は残心を行いゆっくり息を吐く…

 

「この!」

 

背後から来るが小太刀型の木刀で防御する。

 

「なっ!」

 

二刀流は良く隙があると言われるがそれは使いこなせていないからである。

確かに重い一撃はガードごと弾かれることもある。更に剣を振れば刀を刀で振るうと言う都合上どうしても振りが大きくなる傾向にある。

だがこの様に真の意味で使いこなせば隙がないのだ。例えば重い一撃は透かしたり躱す。それ以外は弾いてその隙をもう一方の刀で突く。

攻撃寄りの型であり二天一流の看板の型……そして桐生 一馬之介が命懸けで会得し最も好んで使った……一対多数から一対一までどんな状況でも使える万能にして最強の型。必殺剣と総称される構え……それが【二天一流・必殺剣】の構えである。

 

「この!」

 

更に前から来る。

だが当たると思った一瞬油断し次の瞬間そこを太刀型の木刀で突かれる。

 

「がっ…」

「二天一流・必殺剣!二刀瞬斬!!!!!」

 

一毅に突かれた相手は白目を剥いて倒れる。

 

「く、くそ!」

 

残り五人は驚いて下がる。

 

「来ないのか?なら俺から行くぞ!」

 

一毅は木刀を二本とも握ると走り出す。

 

「うぉ!」

「うっらぁ!」

 

一毅は木刀を振り上げる。 相手は顔を逸らして躱すが一毅は、

 

「イヨッシャア!」

 

反対の足を前に出し床を踏み抜かんばかりに力強く踏み込むと小太刀型の木刀を相手の鳩尾に突く。

 

「ごはっ!!」

 

相手は吐瀉物を撒き散らしながら倒れる。

 

「だぁ!」

「おらぁ!」

 

背後から来るがスウェイで躱しながら更に転がる。そして後頭部を、

 

「二天一流・必殺剣!二刀側転斬!!!」

 

ぶっ叩くと倒れる。一毅の超人的な腕力からの一撃だ。仕方ないだろう。

 

「こ、こんのぉおおお!」

「ま、待て!」

 

仲間が止めるが焦っているのか来る。

 

「舐めんなぁああああ」

 

木刀が振り下ろされるが、一毅は二刀を使って止める。

 

「うぉおおらぁあ!」

 

一毅は蹴っ飛ばして相手を押し返すと空中に向かって跳ぶ。

 

「オッシャア!」

 

二刀共振り上げると力を込め勢いをつけながら渾身の力で振り下ろしそのまま頭に叩きつけた。

 

「ごがっ!」

 

相手はその凄まじい衝撃に脳裏で一瞬驚愕しながら倒れる。

 

「ぐ……」

 

だがそれでも立とうとするのは意地とかプライドか……

 

「ふん!」

「ぐえ!」

 

だが、一毅は立とうとしていた相手を踏みつけて止めを指すと残りの二人を見る。

すると二人は目配せし、ゆっくり一毅を取り囲むように近寄っていく。

他の奴等とは違うようだ……それが分かると一毅は二刀を構え腰を落として迎え撃つ……

 

『…………………』

 

一瞬静寂が辺りを包む……そして、

 

「はぁ!」

 

一人が木刀を振り下ろす。

 

「っ!」

 

それを太刀型の木刀で防ぐ。だがそこに、もう一人の方が木刀を振り下ろす。

 

「はぁ!」

「おお!」

 

それを一毅は小太刀型の木刀で防ぎ下がる。

 

『はぁ!』

 

それを二人は追うように木刀を振るいながら追ってくる。

 

「ちぃ!」

 

一毅はそれを次々と弾き返していく。

 

『っ!』

 

そして一毅が止まると、二人は好機と踏んで同時に大振りの一撃を放ってきた……

だが、それを見ると一毅の目が光る。

 

「勝機!!!!!」

 

一毅は二本とも握ると、二人の木刀を一本ずつ弾く。

 

『なっ…』

 

流れるように……鮮やかにそして優雅に……余りに美しい動きに二人が唖然とした……そこに一毅は最後の一撃を叩き込む。

 

「二天一流・必殺剣!真二刀(しんにとう)()い!!!!!!」

 

先祖で二天一流の開祖・桐生 一馬之介がある日に躍りの稽古をする舞妓を見て天啓を得て作り出した二刀流の剣技によって二人とも沈めた…

 

 

「ふぅ…」

 

一毅が息を吐くとブザーが鳴る。恐らくこれで試験終了という合図だろう。

 

「おーい!」

 

そこに教官の蘭豹が来た。

 

「めんごめんご、お前狙撃科なんやってな!」

 

そう言って先程狙撃銃をこっちに向けてきた少女に話しかける。

 

「はい」

「こっちの書類の手違いや、今から別途に試験やるから来い」

 

いやひどい間違いだな……しかも科が違うならあの少女も言えば良いのにと一毅が呆れる。

 

「分かりました」

 

そんな一毅の思いも露知らず少女は頷くと一毅を見る。

 

「……貴方が風が言っていた神殺しの一族ですか……成程、その年で二刀流を操る常識離れした腕力、更に銃弾も見切る動体視力と反射神経……極めつけに複数人相手でも物怖じせず返り討つ……化け物ですね」

「何?」

 

突然謎の言葉を言い出した少女に一毅は疑問符を浮かべる。

風とか神殺し良く分からんが……所謂最近流行りの電波ちゃんとかだろうか……

だが初対面に化け物呼ばわりはされたくない。それに化け物度合いなら父親の方が上だ。

 

「いえ、此方の話です」

「そうかい」

 

一毅は少し不機嫌そうに言う。だが少女は一毅の顔をジッと見つめる。

 

「なんだ?」

「貴方のお名前を聞いていいですか?」

「え?ああ~、桐生……桐生 一毅だ」

 

最初は名字だけでいいかと思ったが一応名前まで名乗っておく。

 

「私はレキです」

 

相手は名前しか名乗らなかった……だったらこっちも名前だけで良かったな。

 

「では又会いましょう……」

「え?」

 

そう言ってレキと名乗った少女はポカンと口を開けたままの一毅を置いて蘭豹に着いていった。

 

「おいおい。また会うことなんてあるのか?」

 

可愛いが何か口より先に狙撃銃が出そうなレキという少女の背を見送ってから一毅は首を傾げつつ外に出る。

すると、

 

「ふふ、じゃあキンちゃんも合格決定だね!」

「あ、ああ……そうだな」

 

ヒステリアモードも切れて唯の人間に戻ったキンジとそれにハートマークを飛ばしながら話続ける白雪がいた。

 

「よう、どうだった?」

 

一毅が声を掛けるとキンジが振り替える。

 

「取り合えず全員ぶっ飛ばして終わりだ」

 

流石ヒステリアキンジ。多分向こうにも此方に現れたようにプロの武偵が居た筈だ。それをぶっ飛ばすのだから本当にキンジと同じグループでなくて良かったと思う。

無論戦って負けると思ってる訳じゃないが簡単に勝てる相手でもない。

 

「じゃあキンちゃん!寮が決まったら教えてね、お弁当持っていくから」

 

白雪はグッと手を握ってキンジを見る。

 

「いや、別に良いって……」

 

キンジは必死に断ろうとするが、

 

「私がしたいから良いの!」

 

白雪には馬の耳に念仏だった。完全にヤル気満々だ。

 

「はは……」

 

こりゃ盛大に惚れられたもんだなキンジ……と一毅は苦笑いを溢す。

まあ別に良いのだ。どうせ女関係で苦労するのはキンジだし、当分自分には恋愛は程遠い話で関係のない話題だ……こんなヤクザみたいな顔の男と付き合おうと思ってくれる女はそんな多いとは思えない。

 

だがこの時一毅は知らなかった……先程会ったレキという少女とそれから一ヶ月後に告白され……そしてその少女と紆余曲折を経て付き合うことになることを……

 

 

これは後に王龍と呼ばれる男と魔弾の龍姫と呼ばれる女の出会いの話である……


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