「はぁ……今回こそは死ぬかと思った」
ふらついた足取りで実家の門を開けたのは、今回もどうにか生き延びたキンジで、その後ろには一毅やアリア、理子にかなめ達がいる。
さて、前回《内閣特別警護官》やら《MI6》やらに追い詰められたものの、突如現れたかなめや機械人間(後で聞いたら、あれはアーマーのようなもので中にはアトラスと言う男が入っていたらしい)が乱入し、暫くにらみ合いが続いた後にこれ以上の戦闘は人が集まるとの理由で解散となりその後MI6と郷田、銭形はどこかに消え、アトラスはアーマーを隠すため帰っていき、かなめだけが残った。
「そう言ってキー君死なないくせに~」
『うんうん』
「やかましい!」
とまあそんなわけでふらつく足取りで帰ってきたキンジ達だが、さてこれからどうしたものか……と、頭を悩ませている。
そんな中でも実家に戻ってきた理由は、なんとGⅢ……もとい、金三が実家で待っているらしいのだ。
アレの性格上本人も乱入してきそうなものだが、それがなかったのは理由があるのだろうか……等と考えつつ奥の部屋に入ると、
「おぅ、兄貴。待ってたぜ」
『なっ……』
部屋に入るとそこには金三と、確か九九藻?とか言う玉藻の親戚みたいなやつが居た。それだけならまだいい。一番驚いたのは、GⅢが全身包帯グルグル巻きのミイラ状態でキンジの部屋に寝そべっていたのだ。
「お前どうしたんだ?」
「ん?まあ……ちょっとドジってな」
ヨイショっとGⅢは立ちあがり首をコキコキと鳴らす。見た目より怪我は良いのか……それとも痩せ我慢か?
まあコイツの性格を考えれば限りなく後者だろう。
「ちょっとドジった何て言う怪我かよ。誰にやられたんだ?俺が仇を討ってやるよ。まあ色々今立て込んでるからそれが終わってからになるが……」
「まぁそう急かすなよ。どちらにせよその辺の話をしに来たんだ」
と、キンジに仇を討ってやると言われたのが嬉しかったのかGⅢはにやつきながらそういった。
「まあまあ取り合えず何でこうなったのかを……だな?まあいっちまえばあるやつと戦ってやられたんだが……」
おいおいマジかよ……キンジだけではなく周りにいた他の面子も頬がひきつる。
GⅢの強さはよく知っている。特にキンジは殴りあって勝ったものの運が良かったと今でも思うくらいだ。 そのGⅢ相手にここまでやったのか?
「良いとこまでは行ったんだがよ。あと一歩が足りなくてそんで兄貴に力借りようと思って来たんだ」
「成程な……」
それでわざわざこんなボロボロ状態の体で寝転んで待っていたわけかとキンジは一人納得した。だが、
「だがなGⅢ……協力したいのは山々なんだが今言ったみたいにこっちも立て込んでてな……探さなきゃならんもんがあるんだ」
そうキンジは言った。先程仇を討ってやると言ったが、今急いで片付けなければならない案件は色金関係だ。それ片付けないことには……
すると、そんなキンジの様子を見たGⅢはニヤリと笑う。
「兄貴が探してんの……瑠璃色金か璃璃色金だろ?」
「っ!」
何故それを……と言う言葉が詰まるほどキンジは驚愕して眼を見開いた。
だがそんな反応を面白そうにGⅢは見ながら、
「俺も色金関係が必要なもんでな。んで色々調べてる過程で見つけたのさ。恐らく所在がはっきりしない唯一の色金と思われる物が保管してある場所がな」
「それって……」
アリアの緋緋色金、ウルスが所有するらしい璃璃色金、そして最後に来ると言えば……
「璃璃色金か?」
「そう言うことだ」
パンっと膝を叩きニッと笑うGⅢ……しかし、
「だが何で俺が探してるって知ってるんだ?」
そう、キンジの疑問はそこだった。そこが一番の疑問点、まさかテレパシー持ってるわけじゃあるまいし……
等と考えているとGⅢはソッと耳打ちしてきた。
「神崎 H アリアも危ないんだろ?」
「っ!」
GⅢの言葉にキンジは唾を飲んだ。成程、いきなり近づいてきてなにかと思ったがGⅢなりに気を使ったらしい。アリアも自分の状態は知ってるからな……相変わらず口は悪いが中々気を使えるやつじゃないか。等と思いつつキンジはGⅢの話を聞く。
「驚くことじゃない。うちの九九藻はその辺に詳しいしな。緋緋神が色金を介して干渉する精神体みたいなものだとかくらい調べはついてる……そして場合によっては緋緋神に意識を乗っ取られる危険があることもな。んで神様のことは神様にでも頼もうってなる……違うか?」
やっぱお前テレパシー持ってるだろ……と思わず突っ込みたくなる弟に、キンジは苦笑いを浮かべる。
「分かった。なら一枚噛ませて貰うよ。しかしよくそこまで分かるもんだな」
「弟だからな、兄貴の考えくらい分かる」
ふん!っと偉そうに鼻をGⅢを見つつキンジは肩を竦めた。どうしてこう
等と考えつつ、ふと周りを見渡すといつのまにか一毅達がソッと距離を置いているではないか……
「なにしてんだ?お前ら……」
「いや、俺たち邪魔者かなって」
は?とキンジは首をかしげたが、よく考えてみればGⅢはキンジの肩に顎をおき、耳打ちしている……この光景、確かに兄と弟で抱き合ってるように見えるのだ!
「お前ら……なんか変な考えかたしてないか?」
『キノセーキノセー』
と、片言で返してくる面子にヒクヒクと頬が動くが、敢えてそこは黙っておく……下手に喋れば墓穴を掘りかねないからだ。
すると、
「キンジ」
「ん?どうしたんだ?婆ちゃん」
ヒョコっと顔を覗かせたのはキンジの祖母のセツさんで、それを見た瞬間アリアと何故か理子までビシッと背筋を伸ばしにっこり笑った。
「あら可愛らしいキンジのお友だちが増えたわね。あ、そうそう。キンジのお友達がたくさん来たから上がってもらったわよ?」
「友達?」
と、キンジが首を傾げると現れたのは……
『いたぁ!』
『げっ!』
キンジだけではなく思わず一毅とアリアまで眼を見開き驚愕……そう、そこに現れたのは既に見飽きる程見たいつもの面子……と言うかお前ら、人を見た瞬間指差すなよ。
何てキンジは思っていたが、いつもの面子はピタリと動きを止め……そして!
『キンジ(さん)(先輩)が弟にまで走った!?』
「ちがうわぁああああああああああ!」
皆の失礼すぎる発言にそこは全力で突っ込んでおく。と言うか陽菜、お前はなに泡を吹いて固まってるんだよ……リサも私は気にしませんみたいな眼を向けんな。
「急に消えるから心配したんですからね?」
と、言ったのは辰正で、その言葉に他の面子もそれに合わせ頷く。片手にはキンジの祖母のセツさんお手製のいなり寿司付きだ。
「それで今度は何あったんですか?」
「まぁ……色々あってな。ちょっとMI6とか都市伝説だと思ってた内閣特別警護官に追いかけ回された」
いやほんとになにしたんですか……と聞いてきたあかりだけではなく他の皆も眼を細めながらそんな視線を向けてくる。
「と言うわけで俺はちょっとGⅢと一緒に行くことになりそうだ」
「何かあるんですか?」
と聞いてきたのは志乃で、それにキンジは頷いて返す。
「そこに璃璃色金があると思われるらしいからな」
と、何て言うことの無いようにキンジが言う……すると、
『いろかね?』
と首をかしげたのは一年ズ……それを見てあれ?とキンジが首をかしげた。
「あれ?話してなかったっけ?色金関係のこと……」
『全然知りません』
あるぇええええええ!?っとキンジは思わず口に出しそうになったのを飲み込む。因みに一毅やアリアもあれ?話してないんだっけ?みたいな感じである。
動じてないのはレキと、ヒルダから少しだけだけど聞いたよ~っと手を振る理子……星伽から帰ってきてないためここにはいないが白雪も多分知ってるだろう。なんか色金の関係者っぽいし……
「兄貴……あんたその辺の説明なしでこいつら巻き込んでたのか?」
と若干一年生達に同情めいた視線を向けるGⅢにキンジは頭を掻いた。
いやはや何か色々あったしこいつらも知ってるつもりだったけどその辺の話を全くしてなかったか……となれば、
「よしお前ら。今言ったことは忘れて速やかに帰宅しろ。おつかれさーん」
『できるか!』
ですよね……とキンジは肩をすくめ、少し真面目にやるかと眼を細めた。
そんなキンジを見て一年生達も背筋を伸ばす。
「良いかお前ら。今の忘れろって言うのは別にふざけてたわけじゃねぇ。この一件で俺はさっきまで地獄の逃走劇してたわけだからな」
ゴク……っと誰かが息を飲んだ。それを聞きつつキンジは言葉を続ける。
「お前ら。ここからが一線だ。この一線を越えたらお前らも眼をつけられるだろうな。だからお前ら……少しでも嫌ならすぐに帰れ。そして忘れろ」
そうキンジは言った。MI6や内閣特別警護官のヤバさは身をもって味わった。これ以上こいつらを巻き込むのは余りにも危険すぎる。
そう思ったのだが、
「聞かせてください。ちゃんと」
最初に口を開いたのはあかりだった。そしてそれに続くように、
「俺も聞きます」
口を開いたのは辰正で、それを皮切りに皆は言葉を発さずとも、眼を見れば分かる位真剣な顔で頷きを返した。それを見た一毅はニヤリと笑い、
「だそうだぜ?|キンジ先輩」
そうキンジに言い、キンジはため息を吐く。それから、
「なら話す。だがまだ判明してないことも多くてな。わかってることだけの話しになるぞ?」
そうキンジは前置きをしてから話し出す。
色金のこと、その内緋緋色金は元々はシャーロックが持っていたが今はアリアの胸にあること、そしてそれを介して宿主を操る緋緋神の存在、最後に完全に操られるまで時間がないことも……
それをすべて話し終え、キンジはリサが淹れ、置いてくれたお茶を飲んだ。
「何かまだ私たちの知らない事情がありそうな気はしてましたけど……」
と、口を開いたのはライカで、他の一年も今までモヤついていた物の正体が分かったと言う感じだ。
「まあそう言うわけだ。はっきり言って今回の話はやべぇぜ?何せ相手は神様だからな。しかも戦のだ。しかもアリアに乗り移ったときの奴は猴の比じゃない。俺と一毅と俺の兄とその嫁さんの四人がかりで一時的に追い払ったけど同じ方法はできない。そしていつまた乗っ取られるかも分からない。んで、まず他の色金にも同じような神様が居ないか探すのと一緒にその一件について詳しいと思われる人物に話を聞きに行こうって話だったんだよ」
と、キンジは一気に言うと、またお茶を啜った。すると、今度は志乃が口を開いた。
「それでGⅢさんとはどこへ?」
「アメリカだ。んで、色金関係に詳しいやつがいるらしいんだが……」
そいつには私が会いに行くわ。とアリアが口を挟み、キンジは大丈夫なのか?と聞くと、
「仕方ないわ。知らないやつが言っても危ないからね」
と、遠い目をしながら言うアリアにどう言うことだ?と聞くが、まあちょっとねとはぐらかされてしまう。気になるが余り突っ込んでも教えてくれない感じだろう。すると、
「じゃあ今回はみんなで別れる感じですか?」
と言うライカの問いに、キンジは苦笑いしつつ答えた。
「いや、今回はチーム単位では動かない」
え?と、一年たちにはキンジの言葉に首をかしげられた。それに対してキンジはため息をつく。
「お前らな。今俺はMI6や内閣特別警護官に追われてるんだぞ?一緒にいきたいか?」
『……』
ス……と視線を外す一年生たちに、若干薄情なやつらと自分から言っといてなんだが思ってしまうのは我が儘だろうか……ってそれを言いたい訳じゃない。
「と言うのは半分冗談としてだ。今回のは一旦は俺の場合アメリカに行くがその後どうなるかわからん。それこそ世界中を飛び回る可能性だってない訳じゃないんだ。だから固まって歩くよりある程度人数を絞った方がいい。そして向こうから別の場所に行かねばならんときはそれぞれの体調をみて場合によっては日本に帰らせて別のやつと現地で合流……って言う風にしていった方がいいと思うんだ。何せアメリカにはGⅢの仲間もいるから頭数だけならそこまで切羽詰まってないしな」
「であるならば師匠。どのようにメンバーを分けるのでござるか?」
そう陽菜が言うとキンジはさらに口を開く……が、
「俺の方には一毅が……」
「あとは私も行きます」
と、いきなりしゃべったのはレキだった。その突然の言葉にキンジは驚くが、レキ曰く少々気になることがあるらしい。
まあレキのスナイパーとしての能力はあって困ることはないだろうと言うことで了承し、アリアをみた。
「アリアもだれか連れてけよ」
「でも……いやそうよね」
こっちの方は最初からドンパチしに行くのが前提だが、別にアリアの方はドンパチしに行く訳じゃない……だがそれでもMI6も動いてた以上行くなら誰かいた方がいい。流石にMI6とまともにやりあえるやつはいないが誰かがキンジたちにSOSを出すことは出来るし、こっちが動けなくても日本に残ってる奴等で援護に向かうことができる。そう言う点から大勢で行くことは出来ないが少し位は誰かと一緒の方が安全だろう。
「ならあかりと……あと辰正いきましょ」
「あ、はい!」
と、アリアの声掛けにあかりは殆ど条件反射に返事をしたが、うぇ!?っと声を辰正は漏らした。
「俺っすか?」
「荷物持ち兼肉壁ゲフン!にね。あんたが一番あかりと連携が取れるし」
「いま肉壁って言いませんでした!?」
気のせいよ……と目をそらしてアリアは流す。まぁ辰正は何だかんだでもうそう言う役回りだし……
「まあ安心しなさいよ。こっちは別に戦いに行く訳じゃないわ。序でに観光くらいできるわよ?」
「……」
アリアにそう言われ辰正が黙る中、何故彼女が彼をつれていこうとしたのかをあかり以外の面子は理解した。
ようはコイツ、余りにも亀の歩みすぎる二人に気を使ったと言うことか……確かにこの二人中国の一件以降明らかに意識しあってると言うのに付かず離れずを繰り返しているため非常にもどかしい。
全く、とっとと素直になってくっつけばいいものを……ん?人のこと言えるのかだって?聞こえんな。
(それにしてもGⅢを倒したやつか)
一先ず話を終え、キンジは一息つきながら背後で包帯が鬱陶しいと外そうとして九九藻に止められているGⅢをチラ見しながら思考を回転させる。
さっきも言ったがコイツをボロボロにするなんてどれだけの強敵なのだろうか……等と考え若干鬱になった自分にキンジは自嘲気味に笑った。例えどんな奴だったとしてもやることは変わらない。勝たねばアリアの身が危ないのだ。なら黙って勝つだけ。
(また命掛けか……)
と、いつのまにかそんな危険に飛び込む事に全く抵抗しなくなりつつある自分にキンジはまた思わず笑いつつ残ったお茶を飲みきったのだった……