緋弾のアリア その武偵……龍が如く   作:ユウジン

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第十五章 自由の国
VS緋緋神


「何でテメェが……」

 

グッと拳を握りつつヒステリア・ベルゼとレガルメンテが同時に発動したキンジはアリアの肉体を乗っ取った孫を睨み付けた。

 

キン……っと脳裏にそんな音が響く感覚と共に万象の眼も発動する。だがそれ以上にキンジの体はマグマでも注入したかと思うほど熱を帯びた感覚があった。

 

怒りが爆発する……と言う言葉があるがそれも振りきれると静かになると言うのをキンジは知った。口を開くと言うのにすら面倒くさくなる。それよりもどうやってこいつを倒すのか、と言うのに思考がいった。

 

だがそれを孫はニヤニヤと笑いながら見つめていた。

 

「良いなぁ遠山……この体すげぇぞ。猴なんかとは訳がちげぇ、今なら何でもできそうだ!」

 

トンっと軽く地面を蹴った孫はフワリと鳥居の上まで簡単に飛び上がる。たったそれだけでも今の身体能力の高さが分かると言うものだった。

 

だがキンジは驚きはしても気後れはしない。そこはベルゼが良い意味でも作用した。バックギアを壊して戦うベルゼの力は恐怖心を抑えてくれる。

 

だがそんな様子を孫は楽しそうに見ている。

 

「良いなぁ遠山……俺はお前のその目が気に入ってるんだ。不可能を可能としようとする目だ。不況を……不条理を……乗り越えようとあがく目だ。ゾクゾクするよ」

 

大口を開けて笑う孫にキンジは苛立ちを募らせた。アリアはそんな笑いかたをしない……だからこそ余計にアリアを好き勝手に使われてると思うのか血か熱くなっていく。

 

「だめだぁ……我慢できねぇ、おい遠山……ちょっと付き合えよ。加減はしてやっからよ」

 

そう言うと孫はスカートからガバメントを抜く。

 

「っ!」

 

それをキンジは万象の眼で先読みしキンジはベレッタを抜くと孫の放った銃弾を銃弾撃ち(ビリヤード)で迎撃する。しかしその間に孫は間合いを詰めてきた!

 

「ちぃ!」

 

ゴゥ!っと空気を切りながら拳が迫る。それをキンジは橘花で受ける。だが孫は気にせず次々と拳をキンジに向けて放つ。

 

(アリアの体じゃなければ……)

 

キンジは思わず舌打ちした。孫の身体能力は厄介だがそれよりも厄介だったのはアリアの体だと言うことだ。アリアの体だからこそ攻撃が出来ない。

 

孫もそれを分かっているのだろう。さっきから防御をほとんど考えていない。だがだからと言って攻撃ができるわけでもない。完全にじり貧だった。

 

「おらどうした遠山!」

 

空気を切るどころか今度は弾きかねないほどの破壊力の拳……まともに受けたら死んでしまう一撃をキンジは橘花ではなくスウェイで躱す。流石にそろそろ痛くなってきた。だが、

 

「逃がさねぇよ!」

 

キュイイン……っと左目が光だした。あれは間違いない……レーザー改め如意棒だ!

 

「まずい!」

 

あの時は一毅の断神(たちがみ)で助けられたが今度は違う。半ばキンジは反射的に孫との距離を詰めるために走り出した。

 

如意棒にはチャージする間がある。その間にまず顔を逸らさせないとまずい!そう思ったが……

 

「キンジ……」

「っ!」

 

ギクッとキンジの体が硬直した。今の声は……アリアの声だった。孫は意識して発しただろうその言葉に不覚にも気を乱した。その一瞬の間があれば孫は十分だと言うのに……

 

「残念だったな……」

「っ!」

 

孫が如意棒を放とうとした次の瞬間!

 

「オッラァ!」

「ぐぇ!」

 

孫の真横から突然なにかがぶつかり孫は吹っ飛び如意棒を中断させられる。そのぶつかったのは勿論、

 

「一毅……」

「よう、で?これはいったいどういう状態だよ……」

 

折れた肋骨の部分を擦りながら孫に体当たりをぶちかました一毅はキンジに聞きながら買ってきた洗剤を地面におき腰の殺神(さつがみ)の鯉口を切った。すると、

 

「成程……目覚めてしまったようね」

「え?」

 

三つ編みにした真っ黒な髪を揺らし、肩で若干息をする女性?

 

「カナまで!」

「儂もおるぞ」

 

と、カナの背中から顔を出したのはパトラ。しかし……何故カナ?さっきまで金一はカナになっていなかったはずだ。カナになるには服装や髪を結んだりと意外と手間がかかるのでもしこの事態に気づいて来たのだとしても早すぎる……何かあったのか?

 

「丁度そこであってな」

 

そんなキンジの考えに一旦ストップをかけるようにコキリと一毅は首を回す。

 

「ったく……何か急に体が熱くなって嫌な予感すると思えばよ……」

 

と、一毅がボヤくと孫はゆっくり立ち上がった。

 

「おいおい、ずいぶん派手にやったな……」

「加減は苦手なんでな……」

 

だが一毅も攻め手に迷っていた。体当たりは咄嗟だったが今のアリアの体に一毅も切りつける訳にいかない。

 

「どうする?」

「俺も考えてんだよ……」

 

アリアの体に孫がいる以上強引な手に出るわけにはいかない。しかしだからと言って孫を追い出す方法があるのだろうか……そう思っていると、

 

「二人とも。私に策があるわ」

「策?」

 

カナに話し掛けられキンジがカナを見る。

 

「えぇ、そのためには隙をつくってもらえるかしら?そしたら私が止めを指す」

「まて!殺す気か!?」

 

カナの言葉にキンジは目を見開き抗議する。それに対してカナは柔和な笑みを浮かべた。

 

「別に命は取らないし怪我もさせない、ただちょっと動けなくなってもらうだけよ。未来の義妹(貴方のパートナー)を傷つけたりしないわ」

「そ、そうか……」

 

何か今別のに服音声があった気がしたが気のせいだろう。うん……

 

「んじゃ……俺とキンジで行くか……」

 

一毅はそう言って左手で神流し(かみながし)も抜き二刀流となる。

 

「援護は儂がやる。安心して行くがよい」

 

そう言ってパトラの周りに砂が集まりだしたのを合図にキンジと一毅が駆け出す。

 

「おぉ!桐生も一緒か!来い!」

 

そう言って孫はガバメントを撃つ。それをキンジの前に出た一毅が刀で弾いた。更にそこからキンジが入れ替わるように前に出ると孫の腕をつかんで一本背負い。

 

殴るわけにいかないが投げて抑え込む位なら……と考えていたのだが、

 

「ちぃ!」

 

軽い……とキンジが気づいたのは投げた直後だった。幾ら孫が乗っ取っているアリアの体が小さいとは言え投げた瞬間があまりにも軽すぎたのだ。

 

(自分から飛んだのか!?)

 

投げの動作が完了したキンジが顔をあげるとその目の前には思わず見とれそうなアリアの顔があった。

 

そう、孫は自分から飛び上がることで空中で体勢を整え地面に綺麗に着地したのだ。

 

「良い投げだったぜ……ただもうちょい殺す気で投げねぇとなぁ!……あぁ!?」

「そうかい、良い勉強になったぞ!」

 

無事着地した孫がキンジに反撃しようと拳を構えた瞬間再度浮遊感に襲われた。今度は一毅が孫を持ち上げたのだ。

 

抵抗感はあるがキンジほどではない一毅は孫を片手で持ち上げそのまま勢いよく地面に叩きつける!

 

「ぐっ!」

 

だが顔をしかめたのは一毅の方だった。孫は一番遠心力などの力が低い瞬間を見計らい孫は一毅の緋鬼との戦いで付けられた傷に蹴りを叩き込んだ。そうすることで思わず手を離したため実際見た目ほど地面には強く叩きつけられた訳じゃない。

 

「やっぱおもしれぇなぁお前らぁ!」

 

そう叫ぶ孫は一毅に襲いかかる…が、

 

「っ!」

 

突然の砂塵吹き、孫は思わず目を瞑る。

 

「くっ!パトラァ!」

「儂を忘れたのが運の尽きじゃ」

 

更に、その砂塵の中孫は僅かに開けた目で見た……長い黒髪を揺らし、巨大な大鎌を振り上げる美女……

 

「っ!」

「ハァ!」

 

ヒュン!っとカナの大鎌……スコルピオ横凪ぎ一閃!

 

「あ……う……」

 

すると突然孫が膝を着いた。見たところ傷はない。まさか……

 

「脳震盪を起こさせただけよ。顎をかすらせてね」

 

とカナはにっこり笑い、キンジと一毅は一先ず孫の動きが止まったことに安堵すると共にこれでどうするんだ?と目で問う。

 

それに対してカナは分かってるとばかりに頷き、

 

「安心しなさい。これで終わりじゃないわ。キンジ、私があげた緋色のバタフライナイフを使いなさい」

「これをか?」

 

そう言ってキンジはいつも持ち歩くバタフライナイフを懐から出すと気づく……緋色の光が点っていることに。

 

「それを孫に近づけて」

 

そう言われキンジはナイフを孫に突きつけるとパトラが何かを呟いた。するとナイフの刀身が更に強く光り、孫が苦しみだす。

 

「や……めて……キ……ンジ……」

「っ!」

 

わざとアリアの口調で言う孫にキンジは僅かに動揺するが今度は油断しなかった。寧ろ殊更強くナイフを突き付けた……次の瞬間!

 

『なっ!』

 

突然のことにその場の全員が驚愕する……何故なら突如孫はキンジが突きつけていたナイフの刀身に噛みついたのだ。

 

「ちっ!」

 

それを見た一毅は慌てて孫に近寄ると引き剥がす……だが孫は満足げに笑った。

 

「これで、もうそれは使えねぇ……次は……もう防げねぇだろ……」

 

孫は呪詛のように呟くと……ゆっくりと目を閉じた。それを見てパトラが息を吐く。

 

「緋緋神は去ったようじゃな……じゃが」

 

パトラはキンジのナイフの刀身を見た。一毅も見てみれば既にそれは緋色の刀身ではなくただのナイフの刀身となってる。

 

「それはもう使えないわね」

 

と、カナが言うとパトラも頷いた。それを聞いたキンジはナイフをしまいつつ、どういうことかと問うと、それにはカナが答えた。

 

「それは元々星伽が遠山にくれた匕首である使うイロカネトドメを打ち直したものなの。まぁちょっとした緋緋色金の発動なら抑えられる色金関連用のお守りみたいなものね」

 

そうカナは言いつつ続けた。

 

「ただほぼ無制限に使える上に強力なイロカネアヤメと違ってそれは有限なのよ。この一年大質量の緋緋色金の持ち主と何度も出会ってるでしょ?だから大分力が弱くなってたんだと思うわ。それに加えて最後に無理矢理力を緋緋神が使わせてもうこれを使えなくしたと言ったところでしょうね……」

 

カナは一通りの説明を終えると、キンジはアリアを抱き上げた。

 

「なぁ、じゃあもう打つ手は無しなのか?」

 

これが使えないと言うことはもう緋緋神に出られたらアリアを戻せない……つまりアリアが討伐されると言うことだ。それに対してカナは首を横に降って否定した。

 

「いくつか方法はあるわ。まず緋緋神に覚醒する条件は二つ。戦と恋……ならばあなたとアリアがもう会わないこと……あなたへの恋心で覚醒したのでしょう?ならその根本を絶つ……アリアが武偵であれば覚醒するほどの戦……と言うかこの場合殺し合いなんだけどそうなる可能性は少ないでしょうけど……それでは納得しないでしょ?」

「あぁ……」

 

キンジがうなずくとカナは、ならばと言葉を続けた。

 

「ならキンジ、神崎 かなえに会いなさい」

「かなえさんに?」

 

突然告げられたのはアリアの母である神崎 かなえの名前だった。驚愕したキンジの復唱にカナは頷きを返し言葉を続けた。

 

「貴方も可笑しいと思わない?何故彼女があれだけ証拠を揃えても未だ有罪なのかを」

「それは……」

 

確かに可笑しいとは思っていた。明らかに異常なのは分かっていた……だがその理由はわからないままだった。しかしこのタイミングでそれを出すと言うことは……

 

「緋緋色金関係なのか?かなえさんが釈放されない理由は……」

 

キンジの言葉にカナは肯定の意思を示す。

 

「正確には彼女は教えられただけ……何処までかは判らないけど少なくとも私達より深く緋緋色金の知識をね」

「教えられた?」

 

緋緋色金のことを自分達以上に理解した人物がいる……カナはそう暗に言っているのだ。まだ分からないことが多く、シャーロックですら読みきれないと言った緋緋色金を……

 

「彼女に会いなさいキンジ」

「なぁ、その前に何者なんだ?かなえさんに緋緋色金のことを教えた人物って言うのは……」

 

キンジは問う……それにカナは答えた。

 

「アリアの妹、メヌエット・ホームズ……アリアがシャーロックの【武】を受け継いだのならその逆……メヌエットはシャーロックの【知】、この場合頭の良し悪しではなく、【推理力】を受け継いだ者よ」




久々の更新にキャラのしゃべり方とかその辺からちょっと四苦八苦しつつ再開です。

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