アリアが緊急入院した次の日……既に厳重な警戒体制がしかれ見舞いにも行けない状態だった。
何せ心配したあかりが突貫してあっという間に組伏せられて外につまみ出されたのを考えても明らかな過剰警備なのは言うまでもなかった。
だがあかりもただでつまみ出されはせず相手の特徴を見ていたらしい。そしてあかりが見た情報を統合すると……まず一般の警備に駆り出される奴とかではない。服装や胸につけてたバッチなどから考えるとほぼ間違いなく国の直属の奴等だ……つまりこの一件は国も動いてると言うことだ……面倒なことこの上ない。と言うわけで……
「問題はどうやってアリアを取り戻すか……なんだよなぁ……」
キンジは病院を双眼鏡で覗きながら言った……他には一毅、あかり、辰正がいる……この面子は偶然見舞いに来たあかり(とそれに引っ張られてきた辰正)にキンジに頼まれて同行した一毅で構成されている。他の面子は誘わなかった。理由としては謎が多いため下手に巻き込むわけにもいかなかったのだ。そもそもキンジは一毅とあと今は居ないがもう一人以外連絡する気もなかったのだが……
「でも厳重ですね……正攻法でも行くのだって危険ですよ……」
「武装検事や公安0課とかMI6がついてない……ってのは唯一の救いかもな」
救いにならないキンジの言葉にその場の面子は頭を抱える。そもそも強引な手に出たらお縄を頂戴する羽目になりそうなので攻め手を思い付かないのだ。すると、
「師匠」
ズサっと陽菜が登場した……
「それでどうだ?」
キンジは陽菜に中の偵察を頼んでいたのだ。あかりでは無理でも専攻学科を考えたり頼みやすさを考えれば陽菜が適任だった。理子にも同じことが言えるが高くつくし何を頼まれるか分かったもんじゃない。
「中は相当数の警備がつけられているでござる……しかもアリア殿が入院されてる階は完全閉鎖状態……蟻一匹の入る隙間はないでござろう」
「マジかよ……」
一毅は頭をかく……だが陽菜は首を振った。
「しかし古来より攻めるものより守る者の方が疲労しやすいもの……」
「確かにな……」
キンジは頷く。何故なら守る側に気が休まる瞬間はないのだ。休めた瞬間それが隙になる……そうなると……
「潜入しかないな」
キンジの言葉に陽菜や他の面子は頷いた。防御が硬いなら近くで見ておき隙を作るのを待つしかない……そうなると……
「じゃあキンジ先輩医者にでも化けますか?」
「いや辰正……キンジ先輩じゃ医者は医者でも目付き的に闇医者だよ」
「お前ら……一毅がやるよりいいと思うぞ」
キンジが眉を寄せながら言うと辰正とあかりは一毅を見る……そして、
「一毅先輩じゃ医者って言うより死神ですよね」
「入院患者がお迎えが来たのかと思ってビビりますよね」
「おい!大概お前らも失礼だな!」
一毅も眉を寄せて突っ込んでおく……
「ナースは論外だしな……」
とキンジが言うと他の面子も頷く……すると、
「大丈夫でござる。ちゃんと中で師匠が働ける場所を見てきたでござる」
「なに?」
キンジがそう言った陽菜を見る……そして聞いた。
「なんだそれは……」
「ああ言った病院にはきちんとあるのでござる……それは……」
それは……と皆は唾を飲んで聞く……そして陽菜は言った……
「売店の店員でござる」
『……へ?』
皆はポカンとして聞いた……
(そして今に至る……と)
真面目アイテムとも呼べる眼鏡を掛けたキンジは病院の売店のレジに立っていた……他の面子は?と聞かれるかもしれないがそれは簡単だ。あかりと辰正は自宅通学であかりの妹と一緒に住んでおり夜中に家を旅行じゃないので毎日空ける訳に行かない。そもそもあかりや陽菜は女だ。女を昼間は学校に通う身空では夜勤にバイトに入るしかないため危ない……そして一毅だが……あいつのことだ。ポロってなんかの拍子に言っちゃならんことをいいそうだしバイトとか絶対あいつには無理だろうと言う話になった。だから外で待機してる。レキたちには適当にごまかしてきたらしい……だがあの男のごまかしはごまかしになってないときがあるので心配だ……なんて考えていたときである……
「おいバイト!品出ししろ!」
「あ、すいません……」
と、店長に怒られた。ここに来て早くも数日たつのだがすっかり舐められてる状態だ。まぁ、他人とのコミュニケーションがお世辞にも得意とは言えないキンジである……しかも、このバイト先には店長とキンジ以外女子しか居ないのだ。しかも派手な化粧はしているがそこそこ可愛い……間違いなく店長の趣味だ。そもそもこのバイトだって最近辞めた男性バイトの穴埋めのためだった。まぁ……こんな状況じゃやめるよな……何て言ったって女子たちも店長が味方だからか態度がでかい。そして女子相手となると更にシドロモドロする傍目から見れば気の弱い眼鏡の男と来ればコキ使われるのも当然だった……女子と店長は裏でゲームしたりしてるし王様気分だ……いいご身分とはこの事だな。
(しかも……情報は芳しくないしな……)
キンジはため息を我慢しつつ品出しを行い考える……
キンジも時間の隙間を見てアリアが入院してる階まで近付いてきたが厳重も厳重……超厳重な警備にキンジも感心しそうになった……ここまでやるかと思ったくらいの警備の人数を前にして早々に撤退してきた。
「おいバイト!なにボーッとしてんだ!まだ仕事あんだぞ!」
「あ、すいません……」
とキンジは頭を下げながら店長に指示される仕事をやる。
「お前なぁ、やる気ないんなら辞めて良いんだぞ?俺がパパにいっておくしさ」
「……以後気を付けます……」
一言そう言って仕事にかかる……因みにこいつのパパとはこの病院の院長だ。遅くに生まれた子供らしくこのバカ息子は甘やかされたらしくこの売店の店長やって女囲ってと王様気分だ……とは言えまともに取り合うとぶん殴りたくなるので適当に頭を下げて終わる……
しかし一般人と言うのは大変なんだな……こんなやつがいたって自分の上司なら頭を下げなきゃならん……そんでバイト料をピン跳ねされてても文句いえば首が飛ぶからな……
(あぁ、疲れる……)
キンジはペコペコしつつ
更に数日……最近はバイトにも慣れてきて怒られる回数が減った……とは言え舐められてるのには変わりない……休憩中に弁当食っててもまだ時間があるのに弁当を蹴っ飛ばされて中止させられるし……流石にこのときはアッパーを喰らわせたくなったがガマンガマン……
ついでだがレジに立ってると裏での店長たちの会話が聞こえる(声がでかいのもある)のだがどうもこっちは何時もボッチで女に縁もない寂しい奴と言う認定らしい……いや、友人は一毅とか辰正いるし女の縁なんてありすぎてマジで困ってんだけど!しかも全員狂暴と言うね!そう思えば店長の周りでキャピキャピしてる女子たちなんて可愛いもんだ。例え怒っても銃とか刀とかを引っ張り出さないんだからな。なんて安全な女子たちだろう。そんなときである……
「ん?」
一人の女の子が入ってきた……彼女は通称・なっちゃん……彼女は所謂万引きの常習犯でしかも上手い。カメラに映らないように盗るため捕まえられたことがない……そもそも裏にいる店長たちなんかはキンジに対応を任せると言う名の押し付けをしているので出てきやしない……一応裏のカメラを見ているようではあるのだが……
まぁ確かに金髪でポッケにいれた折り畳みナイフをパチンパチンと鳴らしながら歩く姿は不良と言われるかもしれないが……ナイフは多分ネット通販の奴だし金髪って言ってもてっぺんの部分が黒になりはじめててプリンみたいだし……うちんところの女子に比べれば大人しい子だとキンジは内心苦笑いしつつモップ片手に床を拭くふりしながら、なっちゃんの万引きを妨害する……すると、
「てめぇさっきからうざいんだよ!」
案の定キレた……まぁキンジは取り敢えずペコペコしておく……だがそんな態度が余計に勘に障ったらしい……
「お前心のなかじゃどうでもいいってのがみえみえだぞ!」
こいつエスパーかよ……とキンジが内心思っていると彼女の自慢が始まった。何でも自分は暴走族のリーダーの彼氏とかヤクザに知り合いとかなんとか……まぁ怖いですねぇ……とキンジが言うと彼女は気分がよくなったらしい……とは言えだ……表にはヤクザ顔負けの人相の悪さを誇る一毅とか元やくざの知り合いとか下手するとヤクザよりタチがわるい仲間達である……
しかも彼女……前に彼氏の作り方って言う雑誌を携帯でメモしながら読んでいた記憶がある……
「つうかこの腕だって抗争でやられた傷なんだぞ!」
「そ、そうですか……」
思うにこの傷自転車で転んだりしたときの若木骨折かなんかじゃないだろうか……もう殆ど治ってるし武偵高校だったらもう訓練に出されてるぞ……
「つうわけでこれに懲りたら生意気すんじゃねぇぞ!」
そう吐き捨て(序でにガムもホントに吐き捨てて)なっちゃんは店から出ていった……
(……一般人ってのは平和だなぁ……)
キンジはぼんやりそう思いながら床に吐き捨てられたガム片付け床の拭き掃除を終わらせた……因みに、この一件でキンジはあんな年下の子供にもペコペコする情けない奴と言う評価を頂いた……
裏から出てこない奴が何を言ってんだか……
バスカービル日記
ネタが思い付かなかったので休みです。