緋弾のアリア その武偵……龍が如く   作:ユウジン

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龍達の決戦 瑠璃の巫女と武神の狙撃手

『っ!』

 

レキのドラグノフから放たれた銃弾と貂蘭のVSS狙撃銃から放たれた銃弾がぶつかり合い弾き会う……だが更に銃弾を放って弾きあった銃弾を弾いて狙う……だがそれもぶつかって弾き会う……千日手にも似たそれを延々と二人は繰り返しあっていた……似たような状況では前にキンジ達がシャーロックと戦ったときの冪状弾幕戦に似ている。無論規模は人数が少ない上に場所が狭い分小さいがその分密度がある。気が緩めば危険なのも変わりない。

 

「流石……ね!」

「そちらこそ!」

 

一気に間合いを詰めたレキの銃剣による突き……近接戦闘ははっきり言って弱い。だが銃剣による戦闘であればそこそこできるのだ。

 

それに対して迷わずナイフを抜いて止めた貂蘭はVSS狙撃銃をレキに向ける……

 

「くっ!」

 

レキは体を横に倒してギリギリ躱すとそこから銃撃……だが貂蘭も同じように躱すと一旦距離をとる……そして後ろに下がりながら銃を撃っていく……全て互いに捌きながらもプレッシャーを与え続けていく。

 

「強いですね……」

「ありがと……」

 

マガジンを交換しながら一度休憩と言わんばかりに攻撃をやめる。

 

「今頃屋上でも戦ってるんでしょうね」

 

一毅達のことを貂蘭が言っている事は直ぐに分かったのでレキは頷く。

 

「そうでしょうね」

「心配じゃないの?」

「そちらは?」

「あいつが負けると思えないわ……で?そっちは心配じゃないの?」

 

レキは少し笑った……そして、

 

「心配ですよ」

 

そう答えた……別に負けることではない。普通に怪我しないだろうかとか……後遺症が残ったりしないだろうかとか……何よりも……

 

「戦いのあとに一毅さんはいるのかとか……ですかね……」

「…………」

 

その言葉の意味は貂蘭にも容易に理解できた。

 

「思うときあるんです。私は一毅さんをバスカービルに……もしくは武偵高校と言う場所に縛りつける鎖の一つでしかないんじゃないかって……」

 

一毅が戦う度に思う……勝つか負けるかじゃない。一毅の強さの延び幅は既に成長とか進化とかそういう次元じゃなくなってる。だがそれと共に一毅は根っこで戦いを求めていてその感情も強くなっていっている……故にその本能は時として力となり……同時に一毅を一毅じゃなくしていく。いつかその感情に呑まれて戦いの場を求めて自分の前から姿を消してしまうんじゃないだろうか……その不安はレキにあったしライカも何となく理解していた。

 

シャーロック戦以降キンジも強くなろうとしていたのもそう言ったことを感じ取ったからだろう。一毅に頼れば一毅はいずれ戦いに狂いだしていく……だから少しでもそれを軽くできるように……戦わせないと言うのは武偵と言う立場上できないし一毅の実力が許さない。だから少しでも……そうキンジも思ったのだろう。

 

そして正直に言おう……それができて羨ましいと思った……自分はライカやキンジのように一毅を追うことができない。どんなに鍛えようが模索しようが自分には戦闘では狙撃以外の才はない。いや、理子から見ればそれでも羨ましいのかもしれないし援護ができるだろうと言われるかもしれないがそれは結局一毅の露払いしかできないと言うことなのだ。

 

同じ戦場にいても自分は離れた場所にしかいれない……一毅が傷つくのを見ることしかできない……それが本当は悔しくて……そんなことしかできない自分に腹が立って……でもどうしようもない現実に沈んで……どうしようもないくらい理解していても納得はできない。

 

「分かるよ……」

 

貂蘭は呟いた。

 

貂蘭も同じだ。彼女がどれだけ呂布に心を向けようと呂布には理解できない。しようともしない。何故ならそれを彼はどうすれば良いのかわからないのだから……

 

彼は戦いにのみ自らの感情を向けたいと考える……いや、向ける対象がそれしかわからない。向けられた感情にどう答えれば良いのか分からない。呂布はいつだって独りぼっちで感情は自分からの一方通行しかなかった……でも孤独の方がいいと考える。その方が武力を磨くのに都合がいいと考える……だが、

 

「本当は寂しがり屋の癖にさ……」

 

口や態度でどれだけ示そうと孤独なゆえに呂布は光をどこかで求めている。何処かで一人より二人の方がいいと考える……だがそれを甘えと考え断じる……本当はそれこそ強がりの癖に彼はそれを認めない。認めたくない。強くなることでしか自分を見せる術を知らないがゆえに孤独を選ぶ。いや、選ぶしかない。

 

だが貂蘭はわかっていた……彼は誰よりも自分を認めて欲しがってる……自分は人間の仲間だと思って欲しがってる……だが同時にそれに対してどう返せばいいのかも知らない……孤独を選びつつも孤独を嫌い……でも誰かが手を出してもその手を払うことしか知らない……それゆえに同種と呼べる一毅に対してはまるで子供のような表情を浮かべる……

 

「そうですね……」

 

一毅だってそうだ。恐らく一毅の顔に似合わず面倒見がいいのはそこにあるのだろう。独りぼっちが嫌いで皆と笑って泣いたりがしたい……でも同時に一毅はバスカービルの中でも本人が知ってか知らずか分からないが何処かで線を引いている……自らが化け物になっていくのが分かるがゆえに怖がられて避けられたとしても傷つかないようにバスカービルに体は置いてるが精神は置いていない。段々戦いに呑まれていく自分が独りになっても悲しくないように何処かで皆と一線を引いている。その証拠に一毅は自分の弱音を他人に殆ど見せないし甘えない。悩みを吐露される事はあっても自分は吐露しない……愛されて甘えられても自分から愛して甘えない……誰かから来たら答えるが……自分から行かない……呂布との戦いに対する悩みを漏らしたがあれは一毅も呂布と同様に同種と出会うことで精神的に不安定になってたのが理由だろう。

 

「私やライカさんが好意を示せば答えてくれますよ?でもあの人から好意を見せませんしロキだって気づきません。恐らく相手からの好意に気づくのを本能的にストップをかけてるんでしょうね……幾らなんでも可笑しいですし」

 

そう言いながら戦闘再開だと言わんばかりにドラグノフを構えた。それを見た貂蘭もVSS狙撃銃を構えた。

 

「まだマシよ。こっちなんてずっと一途にしてんのに全く気づこうともしない。腹も立つけどそれでもあいつがいいのよね……」

「よくわかりますよ」

 

そう言ってレキと貂蘭の銃が発光し弾丸を射出する。

 

『っ!』

 

次々弾丸を発射しながら二人の視線は交差する。

 

「ひとつ聞かせて、どうやって付き合ったの?」

「夕焼けが照らす屋上で銃口突き付けて告白しました。あの手のタイプは逃げられない状況でやれば大丈夫ですよ?」

「全く参考にならない方法をありがとね。ルウにやったら返り討ちに会うわ」

「でしょうね」

 

銃を向けた時点で絶対に手加減しなさそうだ。

 

「では私からも一つ」

「何?」

「何故貴女と静幻さんだけは呂布さんをルウと呼ぶんですか?普通ならば呂布(ルウフ)と呼ぶと思うのですが?」

「ああ……一つだけ言っておくとルウは唯一英雄の子孫じゃないわよ?」

「え?」

「呂布に子孫はいないわ、だって可笑しいと思わなかったの?ただ一人だけ偉人の名前がそのままって……」

「そういえばそうでしたね……」

レキが頷くと発砲しながら貂蘭は口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

元々呂布……いや、名無しのバラガキだった彼は物心ついたときから親の記憶がない。気が付いたときには近くに廃棄されたごみの山と工業廃棄物が垂れ流しにされる汚染された川が見えて常に空は工場の煙で薄暗い世界で生きてきたいわゆる捨て子だった。

 

ゴミ山にはいろんなものは捨てられる。腐った肉、カビの生えた包子、蛆虫が沸いた野菜……他にも色々あった。普通の感性

なら手をつけないが食えるものがあるだけマシとその当事まだ6歳ちょっとの子供であったと言うのにそんな考えをしていた。

 

よく腹も下したし変な幻覚を見たがその理由がその食事と飲料水が廃棄物垂れ流しの川の水である。寧ろ生きていたのは奇跡……いや、その当事から彼の生命力と自己治癒能力は桁外れだったのだろう。だがそんなある日だ……偶然彼を見つけた男がいた。別段何かあったわけじゃない。ただ単にその日上司と意見が食い違いムシャクシャしていたこと以外何時もと変わらなかった。元々エリートと呼ばれたこの男はゴミ山の周辺にすむ言わばこの国の底辺にすむ人間を見下して悦に浸ってストレスを解消した帰りだった。その時にゴミ山から姿を見せた彼に目をつけた。この男は特にムシャクシャしてた日で何かに八つ当たりしたかった。だが仕返しされるのを怖がる程度の小心者だった。故に最近噂で聞いていたゴミ山に一人ですむただの子供で親兄弟はいない人物……何よりも死んだとしても誰も困らない。ゴミ山に死体が一つ増えるだけ……

 

そう思い男は彼に近づいた……声をかけ拳を振りかぶる……そして次の瞬間ゴキャッと音がした……何が起きたか分からない……首が通常鳴る筈のない音をしたのはわかった……血の泡が口からでた……死んだ。

 

彼にとって初めてじゃない。こういう輩は結構いる……そしてこういったやつは何かいいものを持っていると死体をまさぐって良いものを見つける……

 

彼はこの当事から既に成人男性を上回る膂力と反射神経……何よりも心眼を使えていた。無論心眼は不完全だったし今と比べれば弱い。だがこの極限状態で過ごし続けるなかで彼の体は適応するため進化するための極限修練となっていた。

 

 

 

 

そんな生活続けていると彼の前に現れた……このときはまだ病に犯される前で今よりずっとムキムキだった静幻……彼を見るなり静幻はいったらしい……

 

「私についてこないか?そうしたら温かいご飯と寝床を用意しよう。その代わり君には強くなってもらいたい。誰よりも……何よりも……僕の力になってほしい」

何を言っているのかわからなかったが……何を言いたいのかは何となくわかった……だから言うことを聞くことにした。そして彼は名前をもらった……《犬っころ》《野良犬》《野獣》何て意味を込められているが彼にとって初めての固有名詞《(ルウ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「成程、どうりで呂布さんは静幻さんにだけはなついたわけですか……――!」

「そう言うことよ。呂布と言うのは云わば藍幇の中でも最強の武力を誇るものに付けられる称号よ――!」

 

銃弾が交差する。そして一旦止まった。睨み会う……すると貂蘭が笑う。

 

「さぁ……そろそろ決着といきましょう!」

「……そうですね」

 

レキと貂蘭は瞬時にリロードすると相手に向ける。

 

「オォ!」

「っ!」

 

銃撃はレキを狙う……だがそれを狙撃して弾く。

 

「ハァ!」

「く!」

 

そこに来たのは貂蘭のナイフ……それをバックステップで躱す。

 

「ダァ!」

「ちっ!」

 

離れたところを狙われ素早くレキは横にとんで避ける。それから走って柱の影に隠れると直ぐ様飛び出しながら銃撃……だがそれを貂蘭は銃撃でまた弾く。どんどん弾いてどんどん撃っていく……

 

「でもお互いああいうやつを好きになると苦労が絶えないわね!」

「ええ、本当ですね……こっちの気苦労なんて全然考えてくれない。少し位頼ってほしいのに頼ってくれない。自分の悩みは自分だけに抱え込んで寧ろそっちの方が心配になるのに周りに心配かけないためとか言って口に出そうともしない……」

 

でも……いや、だからこそレキは決めたのだ。

 

「だから、ああいうのは端から見たら鬱陶しいくらい勝手に心配し続けるしかないんです……だから」

 

勝手に心配して勝手に着いてって……勝手にやるしかないのだ。

 

「勝手に私は一毅さんをずっと見ていようって決めたんです。勝手にどこかに消えても見つけようって……何処かで疲れ果てたら一番最初に見つけて皆で一毅さんのところに行くんです。無論、一番最初に会うのは私です。そこはライカさんにもキンジさんでも譲りません。そして言うんです。《大丈夫ですか?》って……」

 

傷ついてたら手当てしよう……落ち込んだらそっと抱き締めよう……道を外したら戻してあげよう……落っこちたら引き上げよう……

 

「惚れた女のしつこさを男は甘く見てますからね……とことんやってあげようと思うんですよ」

「それは参考になるわね……その案は私も使いたいわ!」

 

次々弾丸を発射してぶつけ合いながら二人は互いに間合いを図る。そしてレキの目が細まった……

 

「いきますよ……」

「っ!」

 

次の瞬間放たれた銃弾は銃弾の中をくぐり抜け貂蘭の腹に刺さった……無論防弾処理を施してあるが痛い。

 

「それは……」

「一毅さんのジェリコ941です……ある意味これも二丁拳銃……あ、こっちは狙撃銃ですね……」

 

そう言って二丁とも貂蘭に向ける。

 

「こう言うときはこう言うんですよね……風穴開けるわよ」

「くっ!」

 

放たれる先程より増えた銃弾に貂蘭は狙撃で対抗する。

 

基本的に撃つのはジェリコの方だ。そっちは片手でも充分に狙えるので普通に撃ってくる……そして隙さえあれば狙撃銃に持ち替え止めを狙ってくる。

 

「面倒ね……!」

「っ!」

 

だがそれでも貂蘭は引かない。これでも呂布と一緒にいるために修練を積んでいる。だからこそ……この引かなさこそがレキにとって勝機となった。

 

「終わりです……」

「え?」

 

ジェリコ941から放たれた銃弾……それは貂蘭に迫っていく……全てに銃弾の隙間をすり抜ける……だがそれを貂蘭は驚異的な反応速度で狙い撃った……そして次の瞬間……世界が歪んだ……

 

「はぇ……」

 

間の抜けた声が出た……だがレキは耳を抑えながら近づいた……

 

「武偵弾・音響弾(カノン)……着弾した瞬間に爆発的な音を出す特殊弾です……そして音とは空気の振動……桁外れの爆音はそれに応じて振動も大きい……そしてその爆音は耳を痛め付けその奥の三半規管すら狂わせる……まあ今のあなたに言っても聞こえないでしょうし恐らく私が近づいてることすら分からないでしょうね」

「あ……ぐ……」

 

そしてレキは構える。前に一毅一緒にいったバッティングセンターで習った構え……

 

(肩幅に足を開き脇を閉め足を固定……そして思いきって振る!!!)

 

「ごがっ!」

 

ガゴン!っとレキのドラグノフのフルスイングは貂蘭をブッ飛ばし……意識は忘却の世界へと消えていった。

 

「私の勝ちですね」

 

レキは勝利宣言をした……

 

 

 

 

――――勝者・レキ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

するとそこに他にメンバーが入ってきた。

 

「あ、先輩ここにいたんですか?」

 

あかりの言葉に頷くと白雪におんぶされた理子が顔をあげた。

 

「とりあえずキー君とカズッチのところに行こうか」

 

全員その提案にうなずき上を目指す。屋上の扉は直ぐに見えてくる。

 

恐らくこの扉の先には一毅とキンジがボロボロになりながらも立っているのだろう。皆で勝って日本に帰るのだ。

 

そんな思いで扉は開けられた……その先には……

 

 

床にキンジが血を吐きながら倒れていた……

 

一毅は何かを投げたような格好……そして

 

「がはっ……」

 

血飛沫をあげて自らの血の中に沈んだ……

 

『え?』

 

皆は呆然とした……だが分かったことがある……あの二人は……所謂絶体絶命というやつだった……




次回予告

遂に藍幇の構成員達を撃破したバスカービルと一年生たち……だが屋上に着いたときに見たには血反吐に倒れるキンジと血飛沫で作り出し自らの血溜まりにしずんだ一毅だった。

いったいどんな戦いが行われたのか……そして二人の命は……更に勝負の行方は!

次回、その勝負が明かされる。

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