「風穴ぁ!」
「っ!」
アリアの2丁拳銃が火を吹く。それを姜煌は全て回避していき腕を振ってチェーンウィップを袖から出してアリアに向かって飛ぶ。
「くっ!」
何度目かの視認だがやはり反応しにくく何とか勘で横に跳んで避ける。そして転がりながら回避しきるとそのまま銃撃……
「ちっ!」
だがそれも躱された。別に姜煌は身体能力が低いわけではなくむしろ高い方だ。だがそれよりも厄介なのはこちらの動きを先読みしてくるのだ。
だがそれでもアリアは接近すると密着しながらガン=カタで肉薄する。
「オォ!」
「チィ!」
だがそれに対して姜煌は体術で応対する。純粋な体術も姜煌は中々高いようだ。しかも基本はしっかりと守られて隙が少ない。
「面倒ね……」
「いやこっちが論理立てて先読みしても勘で躱されるってすごく傷つくんですけど?」
そんな軽口を聞きながらアリアは銃を仕舞って抜刀……小太刀を振るうが袖にしまったチェーンウィップを籠手代わりにして姜煌は防ぐ。そして、
「ウラァ!」
「っ!」
姜煌は後ろ回し蹴り……それに対してアリアは伏せて躱すとバックステップで距離を取り小太刀を仕舞って銃を再度撃つ。
「しゅ!」
それを回避しながらチェーンウィップ放つとアリアの腕に絡み付ける。
「オオオオラァアアアア!!」
「っ!」
そこからアリアをぶん投げる……遠心力をたっぷりと利用したその投げに対して咄嗟にホバースカートで体勢を戻し着地した。
そしてチェーンウィップを戻すと姜煌はブラリと腕をだらしなく垂らす独特の構え方をしてアリアを見る。
「流石はシャーロック・ホームズの曾孫と言ったところですかね」
「そうかしら?曾祖父様には今でも勝てる気がしないんだけど?」
「それを言ったら私だってそうですよ?私も静幻先生に勝てるかと聞かれたら戦いたくないって答えます」
「あんなヒョロイのに?あんたも筋肉質って訳じゃないけどね」
「あの人昔は凄いムキムキだったんですよ?桐生一毅みたいな体型の人でした。ここ最近やつれ気味ですけどね」
「…………へ?」
アリアは唖然とした。あれが?一毅くらいのムキムキ男?いやいやとアリアは首を降る。一度ついた筋肉を落とすのは相当無理がいる。薬とか使えば落ちやすくなるが一毅のように筋肉の鎧と言っても良いクラスでのとなれば……
「病気なの?」
「ええ、しかももう長くないみたいでしてね。ですから遠山キンジを頭に置きたいんでしょう。藍幇のこれからのために」
「キンジを?」
「なにもしてないのに事件がやって来てしかもその際に仲間を増やしていく一種の人間ホイホイみたいな能力に高いリーダーシップ……しかもよってくる人間は一癖も二癖もあるがその分実力は折り紙付きと大きな組織からみると実は喉から手が出るほど欲しいタイプなんですよ?」
「そんなもんかしらね。あんな女誑し」
「英雄色を好むって言いますからね。彼や桐生一毅もその典型でしょう」
「そう言えば一毅は?一毅は欲しくならないの?純粋な強さだったらうちで頭三つ以上は抜けてるわよ?」
「いやぁあれは……少々ヤバイんですよねぇ……欲しいんですけど……単独でこられたくないと言うか……」
それを聞いたアリアは首をかしげる。確かに顔はおっかないし脳みそ筋肉ではあるが今は別にヤバイと言うほどではない。
「いやいや、あれは遠山キンジと彼女がいるから抑えてますけどね?根っこは呂布と同じ化け物ですよあれは……」
「化け物?」
「ええ、戦いが大好きで……血を常に求めようとしている化け物ですよ」
アリアにも思い当たる節があった……時々一毅は戦いの時に笑う……戦いの時にすごく楽しそうだ。顔は笑わずとも心が踊っている……キンジもレキも白雪も理子もライカも気付いてるし他の一年生たちもそれに薄々感づいてる……
「だから呂布は今は静幻先生が居るから抑えていますがアレだってストッパー消えたら自分の本能に呑まれるかもしれないって内心戦々恐々してるんですよ?」
遠回しに……桐生一毅だってそうかもしれないと言ってるのはアリアでもわかった。
実は昨日の酒宴の席で一つ疑問を覚えていた。
呂布は藍幇側の人間として立っていた。だが呂布は微妙にそこからも離れていた。何と言うか精神的に?別にハブられているとかじゃなくて互いに無意識に境界線を作ってる感じだった。事実呂布が会話したのは昨日は一毅だけだった……静幻とか貂蘭は違ったが他は大なり小なりそんな感じだった。酒を持ってきた女中までそうだった……そりゃそうだ。藍幇は呂布を恐れてるんだ……呂布は今は静幻が居るから言うことを聞いている状態なのだろう。恐らく静幻と呂布の間には何かしらあると分かる。だから今は藍幇の保護下にある。だが同時に静幻がいなくなったときに呂布がどうなるのかわからない。もしかしたら静幻のいない藍幇に別れを告げてどこかにいくかもしれない。下手すれば藍幇に刃を向ける可能性もないとは言えない。何故なら自分と他人の強さを比べるのが大好きで武力の向上を好むやつだ。だがべつに呂布疑ってるとか……敵視してるとかじゃない。しかし信用もできないし仲間とも言えない……お互いに歩み寄れず……近寄れず……
「だからキンジが余計に欲しかったのね……」
何故キンジに拘ったのか……簡単だ。呂布と同種の一毅をきちんと自分の下につけてる。少なくとも周りにはそう見えてる。そしてキンジは本来手を結ばない者同士を纏める天性の才能がある。静幻は賭けたのだろう。キンジの実績と才能に……呂布と言う不協和音を藍幇に馴染ませる事ができると……そしてここから先は勘だが姜煌は静幻の本当の思いには意識のが気づいていない。それに静幻は気づいているが時間がないと無視して今回に至らせたのだろう。
「あんたは頭は良いわ……」
「はぁ……」
姜煌は曖昧に頷く。突然のアリアの言葉に少し驚いたようだ。
「でもね……大馬鹿だわ……バカの金メダルよ」
「……?」
言葉の意味を理解できてない。
「あんた歳は?」
「今年で15ですよ?」
「なら仕方ないとも言えるかもね……でもあんたは何も分かっていない。諸葛静幻は別にキンジに呂布を従えて欲しいとか考えてないわ」
「え?」
姜煌は声を漏らした。
だがアリアは自分の考えは恐らく間違っていないことを勘で理解した。そしてアリアは銃を向けた。
「良いわ諸葛静幻……あんたの思惑に乗ってあげる……あたしは少し過激にいくわ」
「っ!」
そこから来たアリアはホバースカートで加速して姜煌に飛び掛かる。
「一つ教えとくわ、静幻はきちんと理解した上だろうけどあんたに理解できてないだろうからね。キンジと一毅はリーダーと部下とか上司と部下とかそんな間柄じゃないわ……」
「はい?」
じゃあなんだと言うのだろうか……思考張り巡らせながら姜煌のチェーンウィップとアリアの飛び上がり様に抜いた小太刀がぶつかって火花を散らす。
「アレはね……親友って言うのよ。いざってときは一毅はキンジを立てるわ。でもそれでもあの二人は親友なのよ。だから一毅はバスカービルに居るのよ。レキだけだったら別のチーム作ってそこのリーダーでもやっていたでしょうね。でもそうしなかったのは一毅は
アリアのホバースカートで加速した飛び蹴り……それを姜煌は横に跳んで躱しそこからチェーンウィップを振るう。だがアリアはそれを銃撃して弾く。
そして聞くわ……とアリアは続けた。
「あんた達はきちんと呂布を見たの?」
「っ!」
アリアの一言に姜煌は動揺した。そりゃそうであろう。少なくとも自分は……いや、恐らくこの藍幇のなかでも呂布をきちんと見るのは貂蘭と静幻くらいだ。他は呂布に会えば話もするし挨拶もする。でも踏み込まない。いや、踏み込めないのだ。
そこにアリアの小太刀が一閃……それを伏せて躱すと姜煌の蹴り上げ……を、アリアは腕を交差させて防いだ。
「別に責める気はないわ。私だって一毅は怖かったもの」
押し合いながらもアリアは続ける。姜煌もその中であっても大人しく聞いた。
見た目じゃない。今でこそ、その内面をある程度理解しているが初めて一毅の戦うときの表情は内心心が冷めていったものだった。
過ぎたものは一恐怖感を覚えさせると聞いたが一毅のまさにそうだろうと思う。一毅のような常人を遥かに凌駕した武力は怖く感じた。きっと藍幇でも呂布がそうだったんだろう。
無論……その過ぎたものに感動を覚えるものもいて一毅であればレキやライカ……呂布で言えば貂蘭と言う風にそれに惹かれるものもいる。そして、
「でもね……キンジは一毅を親友と何時だって呼ぶわ」
例え一毅がどんな化け物になっていってもキンジは無意識に一毅を桐生 一毅と言う一人の男として扱う行動をとる。レキは一人の大切な男性として見る。その行動を見るから他の皆もそう言う扱いを無意識してしまうしそんな雰囲気があるからこそ一毅は気付けばバスカービルの中に居たんだろうとアリアは思う。
いつぞやアリアは一度キンジに聞いたことがある。「一毅の強さが怖くなるときはないのか?」と……そしてキンジは答えた……「どんなときでもあいつはあいつだろ?」と……
だが呂布は異常性は藍幇では目立ったのだろう。静幻がどれだけ男として扱っても……貂蘭がどんなに大切な男性として扱っても……キンジのようなカリスマ性やレキのように相手と愛し合ってない状態では無意味に近かったのだろう……
「だから静幻はキンジに託そうとした……」
「くっ!」
押し返したアリアは至近距離から銃を撃った……防弾処理を施してあっても衝撃は来る。
「静幻は
「なっ……」
アリアの言葉に姜煌は耳を疑った。だがアリアはそうだと思っている。自分では呂布に居場所を作ることはできない。でもキンジならもしかしたら……と思ったのだろう。だからキンジに藍幇を渡そうとしたのだ。
無論藍幇のこれからのためにと言うのは前提にある。呂布を欠けさせれば藍幇の損失であるのもあるだろう。だがそれだけのために態々敵であるキンジにしたのは……死ぬ前に呂布縛り付けるとかではなく……自然と居たいと思えるような場所を作りたかったのだろう。
そうやって考えるとこの戦い自体……
「推理力は無いけど今回は自信がある推理よ……何か反論はある?」
アリアは聞くが姜煌は答えなかった。恐らく姜煌も今の心構えでイケないことくらいは分かっていた。だが理解することと行動できることは違う。少なくとも15の男に出来る事ではなかった。だが改めてアリアに指摘され論破されて……静幻の思いを理解できなかったことを知ってしまいこの戦いの真の意味も分かったがどうすれば良いのか分からないのだろう。
「頭の中グチャグチャよね?でもこれが事実よ……」
「……………………」
するとアリアは大きなため息をついた。
「で?これで終わり?その程度なの?」
「っ!」
姜煌はアリアを見た。
「この程度で戦意喪失?師匠の静幻の考えを見抜けなかった位でもう自分はダメとか考えてんの?ばっかじゃない?それだったらアタシだって曾祖父様掌の上で踊らされっぱなしよ……アタシ達は結局年の功で上行かれるオチなのよ。ならその上でどうするのかでしょ?」
踊らされても……関係ない。どう成すのかであるとアリアは言う。それを聞いて姜煌は少し笑った。
「かもしれませんね……なら……」
「なら?」
「今はとにかく暴れたい気分です……」
姜煌は腕を上に上げる。攻撃の合図だ……敢えてそうしている……
「そう。そんな気分のときもあるわよね。ならアタシが胸を貸して上げるわ」
「貸すほどないでしょ」
「ぶち殺す!」
アリアは銃撃……それを躱して姜煌はアリアに肉薄する。それに対してアリアは銃を仕舞って小太刀だけを構えると振るう……
「オォ……!!!」
「ルァ……!!!」
ギンギンと音を立て火花を散らしぶつかる。
「貴女は怖くないんですか!」
「何が!」
「桐生一毅がです!」
それに対して怖くない……と答えるわけがない。
「怖いわよ?」
あっさりと答えた。
「普通の感性してたら一毅は普通に怖いわよ……でもね……それ以前に一毅は……私のチームバスカービルの最強のフロントにしてアタシの相談を親身に聞いてくれる男よ?差し引いたってお釣りが来るくらいの良い奴よ。異性としてじゃなくて一人の人間としてだけどね」
そう聞いて姜煌は頬尻を上げる。
「良いですね……そう言う風に考えれて……そう言う風に一緒にいられて……」
「まだ間に合うわよ……」
「そうでしょうか?」
「ええ、この戦いが終われば孫だって呂布だってうちの二枚看板が打ちのめしたあとに決まってるわ……」
だから……とアリアは小太刀を振りかぶる。
「この戦いが終わったらお疲れって言って上げれば良いのよ……まずはそうやって歩み寄らなきゃダメね」
アリアはそう言いつつ一気に小太刀を降り下ろす……
「がっ……」
アリアの渾身の大斬撃に姜煌は後ずさる……
「そんな程度でいいんですか?」
「ええ、そんな程度でいいのよ」
「そう……ですか……」
そうして姜煌は地面に倒れ伏した……
――勝者・神崎 H アリア――
今回は今までとは少し毛色が違いましたね。これまではキンジのヒロインは基本的にキンジへの感情を書いてきましたが敢えて正ヒロインのアリアは別のことを書きました。これが真のヒロインの余裕と言うやつです!
だけど姜煌や他の面子の呂布に対する感情は多分普通です。別に変じゃないと思います。
寧ろキンジみたく受け入れちゃうのが変なんだと思います。強さに限らず過ぎた物は人を離れさせていく……同時に惹き付けもする……凄いがゆえに弊害があって故に孤独を感じるし人の繋がりを大切にも思うんだと思います。
だから藍幇を責めないで上げてください。
だが今回アリアがイケメン過ぎました……ダレダオマエ……
次回はレキです。それやったらやっとバスカービルの二枚看板……もう少しでこれも終わりです。