緋弾のアリア その武偵……龍が如く   作:ユウジン

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龍達の決戦 無才能と多剣の将

藍幇城は幾つかの階と部屋に別れており一年生が戦い始めた頃……二階では白雪と理子が其々相対していた。

 

そして理子は、

 

「ウラァ!」

「おっとぉ!」

 

周岑のククリ刀を回避しながら両手には銃、ゾワゾワと動く髪にはナイフを握った双剣双銃(カドラ)で闘う。

 

「はぁ~……キー君苦戦させた相手と戦わなくちゃいけないとか不味いなぁ……まあユキちゃんよりマシかな……」

「さっきからブツブツ何言っているんだ?」

「こっちの話~」

 

そう言って理子は笑う。

 

殆ど覚えていないが父から教わった教えの一つ……【危機の時こそ笑って余裕の心を持つべし】だ。

 

「ま、取り合えずやりますか……!」

 

そうして理子は飛び掛かる。それを見た周岑も両手にもったククリ刀で迎撃する。次々来るナイフと銃弾……それを全て周岑は弾いていく。恐ろしい反射神経と胆力だ。更にそこから反撃も混ぜている。

 

「くっ!」

 

理子は元々腕力に特化していたわけでもなく桁外れな武才があるわけでもない。手先の器用さと身軽さ位が高いと言えるくらいでそれ以外は所謂特化したものがないし何か集中して身に付けたものはない。色んな人間から色んな技術を習ったり盗んだりして身に付けたものはあるがその道の求道者には及ばないだろう。

 

無論銃やナイフの扱いは結構うまいとは言えないわけでもないが別段並外れたものではない。と言うか多分バスカービルの中で近接戦闘は狙撃手であるレキを除き最弱だと言う自信があった。よくお前は強いと言われるがアレは髪とか他にも色んな技術やハッタリを用いて何とか戦ってるのに過ぎない。

 

「テリャ!!」

 

髪が動きナイフが周岑を襲う。

 

「フン!」

 

だが周岑はそれを弾くと一気に間合いを詰めてククリ刀を突き上げる……

 

「っ!」

 

それをギリギリで回避する……だが気付いた。空中に大量のククリ刀が跳んでることに……

 

「んな……」

「行くぞ!」

 

降ってくるククリ刀を振り……そしてジャグリングを織り交ぜながら周岑の斬撃が理子を襲う。

 

「くぅ……」

 

回避と防御を行うが間に合わない。様々な防御方を用いて防ぐが理子の技量では到底間に合わない。

 

とは言え別に好きでこういう風にした訳じゃない。はっきり言って才能がなかったのだ。元々何か一つくらい突出したものがあるだろうと色んなものに手をつけたが面白いくらい基本的なことは身に付くがその先にいくことができない……なんだこれはあり得ないだろうとその時は思ったし、ここまで才能がなく産んだ今は亡き母に無意味な上に逆恨みに近い感情を抱いたのを僅かに覚えている。

 

その性でブラドに監禁されたことはトラウマになっているし普段なんでもないような顔をしているが夢に思い出すことなんて10回20回じゃ何処にも足りない。

イ・ウーにいてもそうだった。何処かで人生を諦めてどうせ自分なんてと腐った時期があった。

 

そして教授(プロフェシオン)……と言うかシャーロックに言われるままに武偵高校に進んだ。

 

そして出会った。今でこそ自分達のリーダーであるがその当時は金一の弟の癖に素だと弱いんだなぁと思った。でもその当時から何故か一部の面々からは注目されてたし一毅との仲なんか良すぎだったし……

 

 

「この!」

 

理子の銃撃……だがククリ刀で弾かれた。

 

「おら!」

「がっ!」

 

理子の腹の決まる周岑の蹴り……胃から何かが競り上がる感覚の中で理子は髪を動かし周岑を狙う。

だがその間をすり抜け降ってきたククリ刀で理子に斬撃を放った。

 

「ちぃ!」

 

それを体を捻って回避した理子の銃撃……それは周岑に当たるが防弾処理を済まされているらしく顔を若干歪めて後ろに下がっただけだ。

 

しかしよくよく考えてみれば何でこんな酷い目に遭わなきゃならんのだろうか……もうクリスマスだ。本当だったらこんな辛いことせずに日本でのんびりできたはずだ。しかも戦ってる相手は格上と来てる。

 

当り前のようにここに来たが別に白旗あげても良いんじゃないだろうか?結構頑張った方だと思うし元々嘘をつくのが息をするのと同義といっても過言じゃない位だ。まあ一種の裏切り行為かもしれないが別に今さらだろう。所詮は利害が一致してそのままダラダラとここにいただけだ。

 

それが良い。このまま降参しよう。

 

元々勝てる戦いじゃない。

 

もしくは逃げちゃおう。逃げ足だけには自信がある。

 

終わったころにひょっこり顔を出しちゃおう。怒られはするだろうがきっと許してくれる……

 

自分がいないくらいで負けるチームじゃないんだ。スタミナが尽きるまで走って走って走りまくろう。

 

生まれたときから逃げ続けた人生……今回もそうなるだけである。

 

(それじゃあ……)

 

理子は両足に力を込める……

 

Lady……

 

「GOだ」

 

そう呟き理子は()()()()()()()走り出した。

 

「オォ!」

 

理子は飛び上がるが攻撃が入る前に周岑のカウンター気味の拳撃で吹っ飛ばされた。

 

「あが……」

 

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い……痛いのは大嫌いだ。苦しいのだって大嫌いだ。逃げたい……せめてこのまま寝転がったままでいたい。別にこのまま負けたって良いじゃないか。負けるのはいつものことだ。何処かで詰めを誤って失敗するのだっていつものことだ。今さらなんで根性を出す?無駄なことだ。無意味だ。じゃあなぜだ?そんなの決まってるだろう。

 

「大好きなんだよ……」

 

ここで逃げたってあの男は……と言うかキンジは何だかんだで許してはくれるだろう。だがそれで生き残っても会う資格がなくなる。ここで踏ん張らなかったやつに笑って会う資格なんかない。

 

だから闘う。理子は弱い。だがそれでも大好きな男に笑って会う資格のために重い体を引き摺る精神は持っていた。いつだって自分の危機に笑って助けてくれた男に胸を張れるように……何時も支えてくれた彼に今度は自分が力を貸す番だ。

 

「だから……負けられるか……」

「……」

 

周岑の頬を冷や汗が通る。理子の持つ不気味な雰囲気に周岑は無意識に後ずさる。

 

「ちっ!」

 

周岑はククリ刀を振り上げる。

 

「ガァ!」

 

理子はそれを迎撃していくが降ってくるククリ刀も含め髪を使ってもまだ足りない……だから……

 

「棲む場所を提供してるんだ……」

 

理子は呟く……自分は何度でも言うが弱い……だから……卑怯でもなんでも足りない分を借りればいい。一対一?そんなのクソ食らえ……反則上等悪手上等……どんな手でも勝てば良かろうなのだ。

 

「いい加減力を貸せ……ボケ吸血鬼(ヒ ル ダ)

「っ!」

 

次の瞬間周岑に降る雷光……全身を痛め付ける。

 

「がは……」

 

吐息を漏らし周岑はククリ刀を落としそうになり空に跳んでいたククリ刀は落ちる。

 

「呼んだかしらぁ?理子」

 

理子の影からヒルダが顔を出す。

 

「ふん。私がこんなになったってのに何してんだよ」

「だって呼ばれなかったんだもの。あなた自分だけで戦うって聞かなかったでしょう?こっちは遠山 かなめや遠山 金三の時だって力を貸すと言っていた筈よ?」

 

ヒルダに指摘され理子は舌打ちする。

 

「でも恥じなくて良いわ。あなたは弱いけどプライドだけはいっちょ前で私が大嫌い。今更のことよ。だけど……」

 

ヒルダが理子の隣にたつ。

 

「ああ、私は弱いしちっぽけな存在の癖にプライドばっか高くてお前なんて大っ嫌いだしお前なんか絶対に頼りたくなかった……だが……」

 

隣にたったヒルダを見て理子は笑う。

 

『《お前と》《貴女で》ならこいつには負けない』

 

虐待して虐待されて……抵抗して抵抗されて……反撃されて反撃して……歩み寄って拒絶して……頼らせようとして頼らず……常に対岸の岸にいて……絶対に交わらず交わろうともせず……眼すら会わさなかった。影にいることは知っていたが特に指摘しなかった……と言うか無視を突き通した。だからと言って声をかけるような事もしなかった……そんな二人が……遂に手を組んだ。

 

「確か……元は眷族(クレナダ)のやつだな?」

「ええ、今は魔臓を撃ち抜かれてぶん殴られてぶった切られた挙げ句に力を殆ど失った吸血鬼の成れの果てよ。まあ理子と一緒なら貴女を倒すことができるくらいの力はあるから安心しなさい」

「全く安心できないんだが……」

 

そう言いつつ周岑は体の不調がないか見る。大丈夫だ。特に動かない部分はない。

 

「それじゃあまずは……私がやるわ理子」

「何いってんだ。あれは私の獲物だ。お前は援護しろ」

 

バチバチと二人は火花を散らす。

 

「そういえば理子……貴女ベットの下に面白い写真集を秘蔵してたわねぇ」

「んな!何時の間に!」

「あら私はずっと貴女の影にいたのよ?貴女の秘密なんかお見通し。毎夜毎夜こっそり見て飽きないわねぇ……遠山キンジの写真」

「やっぱお前殺す!」

「ほほほ!やれるならやってみなさい!」

 

既に喧嘩腰の二人を周岑は半眼で見る。どうせだからこのまま同士討ちでもしないかなぁとか内心祈っているのは内緒だ。

 

「って言うかそれ桐生一毅にバレてるわよ」

「え?」

「貴女お菓子とか置きっぱなしにしとくから桐生一毅が片付けたのよ。その時に見つけていたわ」

「なな!」

「因みに見つけたときに言ってたわよ?「エロ本隠す中学生かよ……」ってね」

「なななぁ!」

 

理子は頭を抱えた。そう言えばこの前妙に生暖かい目で見られた気がしたがそれでか……

 

「もうお嫁行けない……」

「なら私とずっと一緒に居ましょうよ」

「絶対に断る!」

 

理子はそこはきっちり断って周岑を見る。

 

「さっさと終わらせるぞ」

「そうねぇ」

 

周岑はククリ刀をジャグリングし始める。

 

現在理子はボロボロだしヒルダは魔臓を殆ど機能させられないため無限再生はできず精々回復能力が並外れ程度であるし電撃能力も弱体化している。だが油断できる取り合わせではないことはわかっていた。

 

「行くぞ!」

「ええ!」

 

理子が疾走……それを援護するように電気の球体が周岑を襲う。

 

「っ!」

 

だが速度がない。まあそりゃそうだろう。先程のようなでかい一撃が今のヒルダは何度も打てない。と言うか全快だったら周岑を一撃で戦闘不能にできたはずだ。それが出来ないのだからヒルダが現在どれだけ弱体したか簡単に推測できる。

 

「オォ!」

 

それを回避すると理子が髪の毛を操りナイフを放つ。

 

「フン!」

 

それを弾くと銃が発砲される。

 

「甘い!」

 

それを更に弾いた周岑は理子を蹴っ飛ばす。

 

「がっ!」

 

理子は後方に吹っ飛ぶが立ち上がり再度疾走……

 

「オォオオオ!!!!」

 

再度銃を乱射しながら髪を操る。それを横に跳んで避けながら周岑は跳躍……ククリ刀を振り上げた。

 

「っ!」

 

理子はバックステップで躱すが脇腹にカスッたのか血が滲む。

 

「ちぃ!」

 

まだだと理子は銃撃……それを周岑はまだ弾く……

 

ガチン!と撃鉄が鳴る……弾が切れた合図だが既に替え弾はない。

 

「この!」

「ちっ!」

 

破れかぶれか銃を理子は投げつける。

だが周岑は首を少し曲げて躱す。そこに理子のナイフが迫る。

 

「おっらぁ!」

 

それを弾いて走り出す。

 

「おぉ!」

 

そしてククリ刀を振り上げた周岑理子は見た……

 

(一度だけで良い……たった一度だけで良い……)

 

理子は構える……

 

『オォオオオオオオオオ!!!!』

 

周岑のククリ刀は理子の頭蓋を狙う……そして……

 

「っ!」

 

理子は周岑のククリ刀……を握っている手首を掴んだ。真剣白羽取りに比べれば難易度は若干下がるがそれでも中々難しいのだ。

 

「おぉ!」

 

そこから懐に入ると腰を落とし一本背負い……これは元々一毅がアリアに使った【二天一流 拳技・無刀転生】だ。だが理子の体格とパワーでは相手を地面にコロン……と転がすことしたできない……しかもそこまでやって理子はそのままフラフラと後ろに行って壁に凭れてへたり混んでしまった。体力の限界……ここまで来るのに大部殴られて蹴られている……

 

「ちっ……」

 

イキナリ何をしたのか分からないが取り合えず立ち上がって周岑はヒルダの方を見た。理子が倒れたからといって終わりではない。

 

するとヒルダは笑っていた。

 

「何がおかしい」

「おかしいわ……あれだけ私を嫌っていた女が私に譲ってくれたんですもの」

「譲った……?どういうこ――っ!」

 

次の瞬間電気が体を流れた……

 

「あ……ぐぅ!」

 

何が起こったのかわからなかった……何で電気が流れたのだ?

 

「よく体見てみなさいよ……」

「っ!」

 

よく見てみると体に絡み付く幾つもの糸……その糸はヒルダの手に繋がっている。

 

「カーボンナノチューブ……と言うやつらしいわ。通電性抜群でしかも頑丈」

 

確かに周岑は引っ張るが全く千切れない。しかもククリ刀でも中々切れないと来ている。

 

「さて、終わらせるわよ」

「させるかぁ!」

 

周岑は電気を食らう覚悟でヒルダに向かって走り出す……が、

 

「うご!」

 

足を何かに引っ張られ転けた……

 

「なっ!」

「へへ……【必殺・死んだ振り】ってね」

 

理子は髪の毛を周岑の足に引っかけ転ばすと……

 

「やれヒルダ」

「命令しないで……よね!」

 

そう言いつつヒルダの残りの電力を全て一気に解放……発電できる最大電力を周岑に流す……

 

「あががががががががががががががががががががががががががががががががががががが!!!!!!!!!!!!」

 

周岑の髪の毛は逆上がり白眼を剥き泡を吹く……一毅ではないのでこれだけの電力を流されれば当然……

 

「か……はふ……」

 

そのまま周岑はゆっくり後ろに倒れた……

 

「はぁ……はぁ……完全に電力使いきっちゃったわ……充電がしたいわ……」

「私は寝たい……」

 

そう呟くとそのまま理子は意識を失ってしまう……

 

「……全く」

 

それを見たヒルダは理子を引きずって近くの布を掛ける。

 

「それにしても……何だってこの子も遠山キンジなのかしらねぇ……もっとイケメンだったらたくさんいるでしょうに……母親に似て女好きの変わり物好きなのかしら……」

 

そんなことを呟きながらヒルダは理子の影にはいって姿を消した。

 

 

 

――――――勝者・峰 理子(とヒルダ)――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因みにその頃、

 

「ハックション!」

「ちょっとキンジ!うるさいわよ!」

「すまん……」

「なんだ風邪か?」

「いや……まさかイキナリ風邪引くなんてことはないと思うが……」

 

そんなキンジとアリアと一毅のやり取りがされたのは余談である。




取り合えずまず二年生は理子でした。基本的に理子は一人ではどんな相手であっても勝ち切ることはできないキャラだと思うんですよ(一時的に優勢に持っていくことはできても)

故に理子は誰かと一緒に闘うことでしか勝てない。自分には何も出来ないからこそそういう戦いしか出来ない。
弱いからこそその道しか選べない。ある意味ではバスカービルの中では異端児です。

まあそんな子でも受け入れちゃうのが遠山キンジなんですけどね。

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