緋弾のアリア その武偵……龍が如く   作:ユウジン

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龍達の決戦 蝙蝠と偃月の将

ライカはグローブを着けながら関羅を睨み付ける。

 

「さて……こっちも決着つけようか」

 

そう言ってライカは腰を落としながら拳を握る。

 

「ああ……そうだな。決着をつけよう」

 

関羅も頷くと青龍偃月刀を切っ先をライカに向けながら構える……そして、

 

「………………ハァ!」

ライカは飛びだす。とは言え初手でいきなり奥の手である【脱力】は使わない。故に最初は拳を握って突き出す。拳撃においてもっとも基本的な一撃だ。一毅に会う前から知っていた打撃技である。

 

足を固定し腰を捻りながら拳を突き出す。当てる場所は人体急所のひとつ、鳩尾……だがそこは関羅も喰らってやるほどお人好しではなくそれを掴んで止めると青龍偃月刀を薙ぐ……

 

「くっ!」

 

それを跳んで躱すと飛び回し蹴り……それをコメカミに叩き込もうとする……しかしライカを掴んでいた手を離してそれを防いだ。そして自由にバックステップ……

 

「流石に強いな……」

 

ライカは息を吐く……全身の力を抜いて抜ききる……一分の力みもあってはならない……完全に抜ききると……完全に力を込めきった。

 

「オォ!」

 

ドン!っと地面に踏みしめ爆走……その速さは関羅の視覚では捉えきれない……そして放つ煉獄掌は関羅の胸を狙う。寸分違わないその狙いは真っ直ぐに距離を詰めていく……だが、

 

「ふん!」

「っ!」

 

ほぼ同時に関羅は突進した。それと共に振り下ろされる斬撃……それはライカに目掛けて振り下ろされる。

 

「ちぃ!」

 

ライカは咄嗟に両手を用いた真剣白羽取り……キンジのような片手でしかも指ではないが充分たいした反射神経だった。

 

「対したものだ……」

 

関羅が口を開く。

 

「中国四千年の中でそこまでの領域にまで高めた【脱力】は殆ど居ないし俺は見たのははじめてだ。重ね重ね詫びよう。だが悲しいことにお前はまだその技術を完成の領域にまでは高めていない。いや、時間を掛ければ行けるだろうがそれは年単位の時間がいる」

 

ライカは青龍偃月刀刃を押し返しながら関羅を見る。

 

関羅のいう通りだ。まだこの【脱力】は未発達だ。あくまでライカが行えるのは基礎中の基礎である。もし完全に使いこなせれば敵の攻撃を回避しつつ瞬間的に【脱力】して反撃するのも可能なはずだ。

 

だがライカは予備動作と時間が現在はいる。つまり敵に対して今から【脱力】を用いた攻撃をすると知らせているようなものだ。更にこの技……攻撃に移ると一直線にしか跳べないのだ。

 

どんなに速くても一直線にしか来なければ今のように後はタイミング次第で交差法の一撃を放たれてしまう。

未だ使用して2度目だと言うのに関羅は特性をきちんと理解していた。

 

「なら!」

 

ライカは関羅の青龍偃月刀を強引に弾き返す。更に弾きの動作と相手の顔面への裏拳を同時に決めた。これは二天一流の技でその名も、

 

「二天一流 拳技・弾き返し!」

「くっ!」

 

威力はないが怯ませるには充分。その隙にライカは腰を落とす。

 

「オラァ!」

「っ!」

 

怯んだ隙に飛び膝蹴り放つ。

 

「くっ!」

 

それを関羅はギリギリで躱す。しかし更に素早く着地したライカは拳を握る。その際にライカの拳は中指の第2関節だけ突き出したような特殊な握りかた……その拳で放った拳は関羅の顔面……しかも更に部位は限定され人中と言う唇と鼻の間にある窪んだ部分を穿った……

 

「ぐぉ!」

 

その激痛に関羅は顔を歪め後ろに下がって距離をとる。

 

「随分えげつない技を使いやがる……」

「こんな技でも使えないと着いていけないんだ」

 

ライカは一毅に会ってから強くなったと思う。そして何より変わったと思う。

 

元々身体能力は高かった。男だろうが女だろうが負けなかった。お陰で男女(おとこおんな)とか言われたが負け犬の遠吠えだとか言って笑っていた。無論心は泣いていたけど……

 

思えばきっと周りに女だと思われたいっていう心が合ったんだろう。お陰で人形とか可愛い服とか興味持ってしまったし今だってそういうのは好きだ。まあそういう服は悔しいがレキの方が似合うしどちらかというと活動的な服の方が着ることが多い。

 

まあそんなこんなで鬱屈していた。見た目と内心のギャップが重くて辛くて……誰もそう見てくれとは頼んでいないのに男女(おとこおんな)って言われて……自分でも柄じゃないと言い訳して着飾るのを諦めてたが……

 

そんなときにあったのが一毅だった。訓練中にフラりと現れて(後で聞いたら蘭豹の差し金だった)自分を軽く捻った……負けたとかそんなのを思う間もないくらいあっさりとやられた。体格に差があったとか経験の差とか色々あったけどライカは何となく感じ取っていた。次元というか人種?いや、生き物として既に違っていたというかそんな感じだった。

 

その後何度か話して……気づけば惹かれてた。強いんだけど何処か抜けてて彼女(レキ)に頭が上がんなくて……ちょっと……いや、かなりバカだけど色んな事に一所懸命で何より自分を女として扱う優しい所に……まあ最初の時は完全に後輩か弟子って感じだったが……それが今では彼女の一人……冷静に考えれば彼女の一人と言う形容の仕方は周りから聞いたら変に聞こえるかもしれないが別に当人たちは気にしてないのでほっといてほしい。

 

だけどそうやって考えたとき……自分は一毅の何なんだろう。いや、彼女の一人なのは良いしわかっているが……自分は一毅の支えになれているのだろうか……と言うことだ。

 

勿論普段は好きあってる。だが有事の際にであればレキは狙撃による援護ができる。じゃあ自分は一毅と一緒に前線に?それは不可能だ。どうやっても足を引っ張ってしまう。自分は強くなったとは言え一毅となんか比べ物にならない。一毅と肩を並べて戦えるものなんて多分自分達の中ではキンジだけだろう。一毅の化け物じみた成長と言うか進化についていけるのは彼くらいだ。

 

結局自分は守られてしまう存在なのだろうか……と心の何処かで考えてしまった。でも……同時にそれを否定する自分がいた。それで良いのかと……それに甘んじて良いのかと……じゃあどうするのか?そんなのは決まっていた。追いかけ続けるのだ。ずっと遥か遠くの背中しか見えないかもしれない。いや、もしかしたら背中すら見えないかもしれない。恐らくそっちの方が可能性がある。でも……それでも走り続けたい。一毅と一緒にいたいから……後輩とか弟子とか彼女とか……そういうのは取っ払って一毅といたいと思うから……大好きな先輩と居られる強さをライカは欲かった。

 

「愛されてるんだな。あの男は」

「はは、まあな……お陰でライバルはキンジ先輩ほどじゃないけど多いんだよ……」

 

それでも充分だが……

 

「さて……」

 

ライカは一度構えを解く。そして深呼吸した。

 

「ここで最後の奥の手を見せてやるよ」

「なに?」

 

関羅は眉を寄せた。

 

「まさか脱力(アレ)だけな分けないだろ?ちゃんとあるよ。実戦用の奥の手をな……」

 

そう言ってライカのとった行動は……足踏み?

「it′s Show Time」

 

綺麗な英語と共にライカは跳躍……

 

「ハァ!」

「っ!」

 

それを関羅はバックステップで避ける。だがそれを追うようにライカは距離を詰める。そこから地面に手を付き逆立ちしながら回転……所謂ヘッドスピンと言う奴だ。

 

「くっ!」

 

膝を蹴られ関羅は口を噛む。だがそこから青龍偃月刀を振り下ろした。

 

「っ!」

 

だがライカはそこから素早く足を地面につけると体を回転させながら瞬時に関羅の視覚から外れながら回避……

 

「なに……」

「ファントムターン……」

 

まるで幽霊のようにライカは関羅の背中に張り付く。

 

「ちぃ!」

「はぁ!」

 

関羅の横の薙ぎ払い……それをライカは伏せて躱しながらウィンドミル……関羅の足を払うと関羅は仰向けに転んだ。

 

「二天一流 喧嘩技 追い討ちの極み」

「っ!」

 

転んだ関羅にライカはバック転をして遠心力を味方に膝を関羅に落とす。

 

「がっ!」

 

この極みは結構バリエーションがある。一毅は倒した相手の顔に足を落として拳を落とした後に飛び上がって肘を落とすなんていう凄まじい連撃を決めるしキンジは相手の頭をサッカーボールのように蹴って独楽のように回転させて一回転した相手の頭を掴んで逆立ちして膝を落とす。

 

どちらも一毅であれば腕力と体重が必要だしキンジのは脚力が必須だ。だがライカにはどれも欠けている。だからこそ遠心力などの勢いが必要になってくる。自らが持つ力とは別の力を使う。それを使うために編み出したライカの新たな戦闘法……

 

「ごほっ!」

 

関羅は立ち上がりながらライカを見る。

 

「元の動きはブレイクダンスか……」

「ああ、アタシは隠し芸でダンスとか結構得意なんだよ」

 

お祭り騒ぎが好きなライカに似合う隠し芸だ。

 

だが元々ダンスに限らず日本の舞等は武術を研く為反復練習兼その身を鍛えるために作られたのだ。逆に言えばライカのブレイクダンスを基にしたこの戦闘方は本来の姿に戻っただけだ。

 

こっちもまだ改良の余地はあるがこっちはライカに性があっているのか関羅に対してアドバンテージを得ている。

 

「まあ一毅先輩に初めて見せたら烈火のごとく怒って「これからそれを使うときはスパッツなり何なり穿いてからやれよ!」って怒られたぜ」

「それはそうだろうな」

 

それはそうだ。ダンスでしかも動きが激しい部類に入るブレイクダンスが源流だ。きちんと今は穿いているが初めて一毅は見たときスカートの奥にある布地に目がいって避け損なった挙げ句に顔面にライカの遠心力たっぷりの蹴りが直撃したのは墓場までの秘密だ。

 

「かなり特殊だな……しかも回転などを多く用いることで腕力の無さをカバーしている」

 

しかも回避を回転と共に行うため回転の隙がない。

 

一毅のような腕力勝負ではない。回避と身軽さを用いたライカ版の二天一流……一毅では無理だ。ライカだからこそ出来る踊るように闘う戦闘法……それをついにライカは見つけていた。

 

一毅ではない。ライカだからこそ出来る方法だ。

 

「文字通り【舞踏】ならぬ【舞闘】と言うやつか」

「そう言うことだ……で?まだやるか?」

「ああ、それもまだ改良の余地がいるようだ。その証拠に肩が上がっているぞ?」

「ちっ……」

 

確かにこの戦闘法は動きが激しいため疲労が凄まじいのだ。スタミナをもっと着けなければ長期の戦闘は不可能だ。

 

「ならばもう少しやれば自滅だろう!」

「っ!」

 

関羅が間合いを詰める。それを構え直して回避……次々と振るわれる青龍偃月刀と全て躱す。ユラユラと体の中心線を揺らすことで相手から見るとまるで陽炎のように見える。まるで幽霊だ。だがこれも疲れる……

 

「ふん!」

「くぅ!」

 

クルッと回転して振り上げを回避……それを利用し飛び回転蹴り……それを関羅は腕で防ぐと青龍偃月刀を振る。

 

「あぶねっ!」

 

それをギリギリで体を空中で捻って避けるとバックステップで離れる。

 

「オォ!」

 

だがそれを追って関羅が青龍偃月刀で突く……

 

(こうなったら……!)

 

横に避ける?それとも後ろ?どちらでもない!向かうのは……前だ!

 

「ラァ!」

「っ!」

 

紙一重でライカは青龍偃月刀を躱しながら回転……足を踏み鳴らし肘を思い切り突き上げた。

 

「ぐっ!」

 

ガッ!っと強烈な衝撃が入り思わず意識が飛びそうになり関羅は後ずさり武器を落とす。

 

「ヒュー……ヒュー……」

 

ライカは自分でも呼吸音が可笑しいことに気付く。スタミナが尽き掛けてる……だがもう少しだけ動けば良い……

 

「ハァ……ふぅぅうううう……」

 

ライカは全身の力を抜いていく……このチャンスに全てをかけよう……目を開ける。

 

「させるかぁ!」

 

関羅が突き出す拳……無手も基本的な部分は押さえているんだろう。それがわかる。そしてこの一撃をまともに喰らったら意識が飛ぶだろう……だが敢えて脱力を完成させた。

 

「っ!」

 

次の瞬間関羅の腹にライカの拳が突き刺さった。

 

「座して待ち……虎の牙刺さる刹那に己の全霊を打ち込むべし……」

 

これはこの技の極意だと聞いた……敢えて虎の前にその身を晒しその牙が刺さると虎が油断した瞬間全霊を打ち込めば虎であろうと一溜まりもないと言う意味を込めたらしい。まあ一毅いわく、虎に素手で挑むとか正気の沙汰じゃないよと笑っていた。狼に素手で挑んだ人の言葉ではないと内心笑ったのは内緒だ。

 

「が……は……」

 

そしてその技を脱力の撃速も上乗せして放った……ライカの全てをかけて放った全身全霊の一撃に関羅はゆっくりと膝をおっていく……意識が完全に飛んでるのは端から見ても丸分かりだった。

 

「二天一流 拳技……」

 

手を離してライカは手を上にあげた。

 

「虎落とし【石火】」

 

 

――――勝者・火野 ライカ――――




最初ライカは脱力だけだったんですか書いてみたらさりげに地味になってしまいもっと後で出すつもりだったダンスが元になっている戦闘法です。

基本回避の後にその回避の際の力を同時に攻撃の力に添加するのが基本です。これも元は龍が如くのから持ってきています。詳しく知りたいかたは【龍が如く0】をプレイしてみましょう。

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