緋弾のアリア その武偵……龍が如く   作:ユウジン

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龍達の決戦 辰と不倒の将

『ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!』

 

辰正と楽刄の戦いは恐らく一年の中と限定すれば最も激しい戦いだろう。

 

楽刄のメリケンサックを着けた拳を辰正はいなして反撃……だがそれを楽刄もギリギリで避けてカウンター……それをいなして……と凄まじい速さで攻防が入れ替わりホンの僅かな隙でさえ命取りとなる乱打戦……だが二人には無駄な緊張も無ければ歓喜も悲しみも恐怖もない。ただひたすらにいなして反撃に転じ更にその反撃を返して行くと言う状態だ。

 

「前とは違う……ね!」

「かも……ね!」

 

辰正はいなすとショートアッパー……

 

「くっ!」

 

それを楽刄は躱して辰正の顔面めがけて右ストレート……

 

「この!」

 

それを下から叩くようにして弾くと辰正の脇腹を狙ったフック……

 

「ちぃ!」

 

それをバックステップで躱すと一旦二人は距離をとる。

 

「流石に前みたいにはいかないか……」

 

軽くその場で跳んでリズムをとる楽刄を見ながら辰正は拳を握る。

 

「まぁね……こっちも色々背負ってるから……」

「色々……ねぇ」

 

そしてリズムをとるのを辞めた楽刄は再度突進……

 

「オラ!」

「ちぃ!」

 

迫る拳を辰正はいなしながら下がる。

 

「まだまだ!」

「こんの!」

 

更に迫る拳を体を回転させながら避けた辰正は拳を握ってぶん殴った。

 

「ぶふ!」

 

遠心力一杯の拳をモロに喰らって楽刄は後ずさる。

 

「今のは効いたぁ……」

 

プッと口を切ったのか血を吐き捨てた楽刄は辰正を睨み付ける。

 

「まるで別人だね」

「変わってないよ。俺は今もあの時も変わらない。ずっと谷田 辰正って男さ」

「そういう意味じゃないよ。何て言うか……精神的に別人みたい」

「はは……そっちは腹を据えてここにいるからね。キンジ先輩みたく誰あんたみたいな変化は流石に無理だし」

 

そう言いながら辰正は再度腰を落として構え直す。

 

辰正はこの戦いに向けてやったことと言えば自分の意思で深紅のオーラ(レッドヒート)を発動させられるようにしたくらいである。それ以外はなにもしていない。そりゃあ筋トレとか身体能力向上のための訓練はしてきたがあかりのような隠し玉はないし志乃みたく剣術を向上させた訳でもなく陽菜のように武器術を上げてもいない。文字通りこの身一つでここに立っている。

 

「でも僕だって考えてきたんだよ。負けられない理由ってやつをさ……」

 

元々自分は武偵と言うのになったのはあかりが行くから着いてきたようなものだった。故に特に理由はなく戦ってきたし改めて考えても実は全く思い付かなかった。

 

何度考えても何度悩んでも何度思案しても……脳裏によぎるのはあかりのことだった。

 

そして笑ってしまった。結局自分は世界の犯罪の増加を防ぐとか誰も傷つかないようにとか誰かの涙を止めるためとか……そういう風に戦うことができないのだ。結局辰正の中にあるのはあかりと一緒にいてあかりが傷つかないようにしてあかりが泣かなくて良いようにする……と言うのが限界であった。漫画やアニメのような英雄やヒーローに自分はなることができない。

 

一毅やキンジはきっと自分が想像もしない形でいろんな人を助けてたりしていくのだろう。あの二人はそういうタイプだ。あかりだってきっとそう。自分はそんな三人のような英雄やヒーロー気質の人間とは違う。

 

だけどそれでも戦いをやめれない。なぜか?決まっている。あかりがいるからだ。結局自分はあかりが好きだから。無論異性として大好きだ。惚れてる。何故かあかり以外にはバレててよくクラスの男子から何であんなチビが好きなのか聞かれる。というかいつの間にかロリコン説とかチビ専説とか根も葉もない噂が立っているくらいだ。無論違うと口では言うが内心では考えることもある。

 

確かにあかりは可愛いが美人と言うタイプじゃない。背は低いし胸もペッタンコで童顔だし鼻からうどん垂らすしドジだし要領も悪いし同姓限定でキンジの事言えない位にはタラシだし寝坊して起こそうとすると顔蹴るし……他にも挙げていけばキリがないがとにかくあかりはそういった意味では確かに惚れる要素は一見ない。

 

だけど何というか……深く付き合っていくと癖になると言うか気付くと引き付けられていた。昔からずっと一緒にいた。それも物心が着いたころにはあかりと一緒にいた記憶がある。ある意味では一種の刷り込みのように一緒にいるのが当たり前……だからある意味確定事項のようにあかりを異性として見るようになった。

確かそうなったのは……そう、まだ小さかった頃……見せてくれた太陽のような笑顔だった。可愛いとか綺麗だとかドキドキしたとか色々言い方はあったと思うけど……何も言えなくなった。呆然と……漫然と……ただ視覚を引き付けられた。そんな一瞬の後に心臓が早鐘を打って頬が熱くなってまともに目が見れなくなって……何か話したような気がするけど覚えてない。

 

だがそれから特に一緒にいるようになった気がする。いつも一緒に一セットだった。でも里が襲撃を受けてあかりとその妹であるののかと逃げ出して……その時に思った。この子はこれから自分が守ろうって……

 

「惚れた女……助けるためだよ」

 

つまるところ辰正はあかりを……いや、惚れた女を守るために戦うのが性に合ってて惚れた女と一緒にいるのが大切で惚れた女の夢を一緒に見ることが生き甲斐な……そんな男だった。

 

小さいとでもなんとでも言うと良いと辰正は笑う。

 

「いや、今少しカッコいいとか思ったよ。一途なんだねぇ」

「そりゃもう十年近く思い寄せ続けてるんでね。全く脈ないけど」

 

そうかなぁと内心呟きながら楽刄も腰を落とす。

 

「ま、そろそろ決着つけますか」

「望むところだよ……」

 

辰正の体から深紅のオーラ(レッドヒート)が溢れる。

 

『ウォオオオオオオオラァアアアアア!!!!!!!!!!』

 

ガツッ!と互いの拳が交差する。

 

『ぐぅ……オオオオオオオオ!!!!!!!!!!』

 

次々と互いの拳が交差して相手の打ちのめす。

 

 

 

 

メリケンサックの拳が辰正の体を叩く……骨が軋むがその分は深紅のオーラ(レッドヒート)がカバーしてくれる。

 

 

 

 

 

辰正の深紅のオーラ(レッドヒート)で強化された拳が楽刄を打ちのめす……一発一発があり得ない破壊力で意識が飛んでしまいそうだ。だがそれを繋ぎ止めたのは意地であった……

 

 

 

 

『アアアアアアアアアア!!!!!!!!!!』

 

既に互いに防御をやめていた。先程は防御をしまくったのだ。今度は本当の乱打戦で決着をつけると互いが何となく理解しあっていた。

 

「くぁ……」

 

叩き込まれた辰正の拳に息を漏らす楽刄……それが大きな隙となった。

 

「オォオオオオオオ!!!!!!!!!!」

 

その隙に叩き込まれる辰正の拳の弾幕……

 

「が……はぁ……」

 

後ろに後ずさるがまだ倒れない。まだ倒れない。砕けない……倒れないことが楽刄の強さでありどんな打撃を喰らっても折れないその精神こそが武器である。故に楽刄は拳を握る。

 

「谷田……辰正ぁ!」

 

楽刄の残りの体力全てを賭けた拳……それを辰正は顔面に受ける……

 

「どう……だぁ!!!!!」

 

ポタリ……と額から血が滴る……だが辰正の目は死んでいない。まだ……終わらない!!!!!

 

「俺流……」

 

辰正は最後の大勝負とばかりに腰を低くすると足に力を込め疾走……そのまま楽刄の腰に体当たりをかます。

 

「流星タックル!!!!!」

 

そしてそのまま一気に楽刄を持ち上げて爆走……そのまま壁に叩きつける……

 

「が……」

「オォオオラァアアアア!!!!!」

 

そして止めとばかりに飛び上がると重力と体重に従って落下……結果、ジャーマンスープレックスの要領で地面に渾身の力で叩きつけた……

 

「ふぅ……」

 

楽刄は立ち上がろうと力を込める……だが脳は揺れ視界はボヤける……

 

「こりゃ……駄目だ……」

 

そう言って意識を手放した……

 

「うっしゃあ!」

 

辰正は手を天に向けて突き出す。

 

 

 

 

―――――勝者・谷田 辰正――――




敢えて今回は辰正に関節技を使わせない戦いかたをさせてみました。多分一番血を流す一年は辰正ですね。綺麗な勝ちかたなんてできない。泥臭くてみっともない勝ちかたしかできない……そんな男です。

さて、次回最後にライカをやって一年生達はお仕舞いで二年生達の戦いに入ります。

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