緋弾のアリア その武偵……龍が如く   作:ユウジン

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金の勉強

「一毅……俺は今まで色んな奴を見てきた……」

「ああ……」

「シャーロック・ホームズの曾孫とかアルセーヌ・ルパンの曾孫とか源義経の子孫とか吸血鬼とか鬼とかそりゃあ色んな奴見たよ」

「ああ……」

「だけどさぁ……」

 

キンジは頭を抱えた。

 

「勉強して知恵熱出した奴は初めてだよ!」

「俺も初めての経験だ……」

 

一毅は氷嚢を頭に乗せながら布団の中で言った。

 

何故こんな状況なのかと言うと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「明日の土曜日に望月が勉強を教えてくれるってよ」

「そうか。いってらっしゃい……いって!」

 

キンジの自室で漫画を読んでいた一毅の頭をキンジは叩いた。

 

「お前もだよ!」

「俺もぉ!?」

 

一毅は漫画から顔を起こした。数日前の調査時にキンジがそういう約束をしていたのは知っている。だが恐らく思われるに望月はキンジとお近づきになるために言ったと思われるのだが……しかもクラスの連中はこの数日で望月がキンジに半ば一目惚れしたのは知っていると言うか気づいている。

 

どう考えても自分はお邪魔である。

と言うか勉強を教えると言うのが口実であることくらい気付け馬鹿と言ってやりたい。

 

「つうわけでお前を一から教えていたら明日だけじゃ終わらないから少し予習していくぞ」

「いや……俺は戦闘要員だし別に勉強できなくても良いし……」

「うるせぇ。とにかくやるんだよ」

 

テキストを広げキンジは一毅と一緒に勉強を教え始めた……結果次の日、

 

 

「うーん……」

「つうか知恵熱って漫画じゃねえんだから出すなよ。それでも高校生か!」

「まあそんな日もあるさ……」

「仕方ねぇ……俺だけでいってくるぞ」

「行ってらっはい……」

 

一毅は震える手でキンジを見送った……

 

思わぬ形で望月の思いが叶った形となる……ある意味一毅の頭が役に立ったと言うかアリアたちから見れば役に立たなかったと言うべきか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、遠山くん」

「悪い遅れた」

 

その後待ち合わせの場所にいくと望月が待っていた。

マフラー巻いているが……随分薄着だ……しかも随分スカートが短い。寒くないんだろうか?しかし望月の足は白くてむっちりしている……武偵高校では皆さん筋肉が程よく着いていて綺麗な奴が多い(特にライカ何かはその筆頭だ)が皮下脂肪が違うのか良い意味で肉付きが良い……これがこれで当たらし趣が……って!

 

(何考えてんだ俺は!)

 

キンジは自己嫌悪した……そんなキンジの内心も知らず望月は汚れの一辺もない笑顔を浮かべると、

 

「ううん。大丈夫、私寒さには強いし今来たばかりだから」

 

そういわれキンジは首をかしげる。望月はいま来たといっているが鼻も赤いし少し震えている。絶対嘘だろう。そんな前から待たなくても良いだろうに……

 

「あれ?桐生くんは?」

「知恵ねげふん!少し具合を悪くしてな。今日は休ませた」

「そ、そうなんだ」

 

流石に知恵熱でとは言えなかったが望月は何故か「神は居た……神様ありがとう!」みたいな顔をした。一体どうしたんだ?

 

「取り敢えず行こうぜ。お前すごく寒そうだぞ」

「そ、そんなことないよ?」

「あるだろ……そんな冷たそうな手までしてるし……」

 

キンジはそう言って望月の手を取った。

何時も理子に冷たくなった手をいきなり背中に入れられると言う悪戯を喰らうため手が冷たくなられたらその前に手を暖めてやるのが既に癖になっていた。

 

「~~っ!」

 

望月の顔がミルミル赤くなっていく。何かそう言えば理子も似たような反応をするんだよなぁとキンジはぼんやり考えながら少し暖めると手を離す。

 

「少しマシになっただろ?行かないか?」

「………はっ!う、うん!」

 

一瞬望月の時間が止まっていたが再起動して案内を始めた。

 

(何か望月の様子が可笑しいな……)

 

おかしくした張本人は首をかしげた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?桐生一毅どうしたの?」

 

最近出入りしてる将棋クラブから帰宅したかなめが顔を出す。

 

「少し具合悪くてな」

「ふぅん。で?お兄ちゃんは?」

「知り合いに勉強教えて貰いにいった」

「……何て言う人?」

「え?望月 も……っ!」

 

一毅の目の前に般若?いや、悪鬼羅刹が降臨した……

 

「あわわわ……」

「ふぅん……ほんとお兄ちゃんはモテルナァ……アハハハハハ……」

「か、かなめさん?」

 

一毅は知恵熱が下がってそのまま寒気までしてきた気がした。

 

「チョットデカケテクルネ」

「あ、はい。行ってらっしゃい」

 

次の瞬間かなめが砂塵をあげながら猛ダッシュしていった。

 

「おい、いまかなめがものすごい形相で走っていったけど何だったんだ?」

「キンジがな……」

 

顔を出した金三に答えながら一毅は布団に体を入れ直す。

 

「また兄貴どっかの女引っ掻けたのかよ……」

 

金三も半ば呆れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃恐怖のかなめさんが家から出動したのを知らないキンジは望月宅に着いたところだった。

 

「どうぞ」

「ああ」

 

キンジは靴を脱ぎながら入っていく。

 

「親御さんは?」

「あ、うん……今旅行にいってて……」

「………」

 

それは不味くないだろうかとキンジは眉を寄せた。

寮では女子に囲まれて暮らしているが逆に男女二人きりと言うのは非常にいただけないのは流石に何となく分かっている。しかも両親は旅行中と言うことは完全に二人きりではないか……ヤバい……

 

「あ、私の部屋は此処だから先に入ってて、一応軽く摘まめるの作っておいたから持っていくね」

「悪いな」

 

キンジは若干望月が居ないのに入るのを躊躇うが覚悟を決めて入る。

 

(う……)

 

キンジは回れ右をしたくなった。何故ならそこに広がる香りは間違いなく女子の匂い……クラクラして眼が回りそうだ。元々嗅覚は祖父の鐡から遺伝して鋭くバスカービルの女子達を匂いで判断できる(因みに一毅は聴覚が鋭い)ほどだ。

 

「どうしたの?遠山くん」

「あ、いや……」

 

とは言え望月が戻ってきてしまい退路は断たれた。仕方ない……腹を括ろう。

 

「さ、やろうか」

「そうだな」

 

キンジはテキストを広げた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結論から言って望月は本当に頭は良かった。いや、別に疑っていた訳じゃないのだが望月の教養は高く要領がお世辞にも良いとは言えないキンジへすさまじい速度で手際よく教えていった。だが……ちょいと近すぎじゃないですかね望月さん。

 

「それでね遠山くんここは……」

「ああ……うん」

 

キンジはヒステリアモードの血流と戦いを繰り広げながら必死に知識を詰め込んでいく。

 

(素数を数え……ながら勉強は無理だし仕方ねぇ!南無阿弥陀仏!南無妙法蓮華経!アーメン!)

 

何か色々おかしい言葉を脳内にられつしていく。

 

「はい。こんなところだね」

「あ、ああ」

「じゃあお茶いれるから」

「あ、いやお構い無く……」

「良いから良いから」

 

そう言って降りていった。

本当はこのまま退散したかった……が、ダメだった。くそぅ……

 

このままではヒステリアモードになってしまうのも時間の問題だ。そしてなってしまえばあの手この手で望月を宥めて空かしてその後どんな状況になるか想像だってしたくない……確かに望月はどうも自分にたいして悪い印象は無いだろう。それくらいは分かる。

だがそれがLOVEの意味での好意であることはないとキンジは断言していた。そこまで自分は愚かで馬鹿ではないと……

しかもそんなことになれば任務どころではないし何より……武偵高校の方角からピンクの悪魔が飛んできて自分をブチのめすだろう。彼女との関係が未だはっきりしない上でのこんな狼藉は腹切ものであるのはキンジも理解している。故に望月とは少し仲が良いクラスメイトで居るべきだ。彼女もそう望んでいるだろうしキンジもそれを望んでいる。

 

しかし……

 

「……後何時までそのクローゼットに隠れている気だ?えーと……咲さんだったか?」

「何でわかったの!?」

 

望月がいなくなったのを見計らって声を掛けると中から少し小さくなっておっとりした部分を取った感じの望月が出てきた。

 

「しかも名前まで……」

「門のところにかいてあったからな」

「へぇ~。じゃあ改めて初めまして。望月 萌の妹の望月 咲でーす」

 

パチンウィンク一つした咲と名乗った少女はキンジを値踏みするように見る。

 

「ちょっとネクラそうだけど意外とイケメンだね」

「ネクラそうで悪かったな」

 

キンジは眉を寄せた。初対面に向かって随分ないい草である。

 

「あ、そういう意味じゃなくて……お姉ちゃんが何か今日はウキウキしてたし私を家から出そうとしてくるから何かかと思ってたけどそうかぁ~彼氏を連れ込もうとしてたんだね~。寒がりのくせしてあんな短いスカートとかしてるし~」

「いや……彼氏とかじゃ……」

 

キンジがそこはきっちり否定しようとした次の瞬間、

 

「さ、咲!?」

 

部屋に入ってきた望月がお茶を落としそうになった。

 

「やっほー」

「な、何でここに!?」

「やだなぁお姉ちゃん。あんな不可思議な行動してれば分かるよ。この名探偵を舐めない方がいいよ?」

 

意外とこの妹さんは武偵の素質があるかもなぁとキンジは思うが姉の方はそうもいかない。

 

「あ、あれほど出掛けてって言ったでしょ」

「はいはい。すぐに出るからさ」

 

そう言って近づくと……

 

「そう言えばお姉ちゃん下着上下珍しく可愛い奴だったよね?何時も寒がりで毛糸の奴ばっかりの癖に~。やる気だね~」

「~~っ!」

 

望月(姉)の顔がレッドヒートだ。

しかしやる気……とは一体なんだ?……勉強だろうか?だが下着は関係ないだろう。

 

(謎ばっかだぜ……)

 

そんなことを考えている間に望月(妹)を無事?追い出した望月(姉)はキンジの所に来た。

 

「ゴメンね。変なこといってなかった」

「いや何も」

 

実際は最初から最後まで謎の言動が見られたがそれは自分の知識不足があるのを何となく察していたため何もないと言うことにした。

 

そしてキンジは望月お手製のサンドウィッチを食べる。

 

「お、美味しい?」

「ああ、普通に美味しい」

 

望月がガッツポーズした。だが本当に美味しい。

 

「私家庭科部に入ってるの。遠山くんもどう? 」

「いや……俺はいい」

 

調査が未だに遅々として進まない今の状態では部活に入っている暇はない。

 

「そ、そうだよね」

残念そうな顔だ。すると何か思い付いたように望月は顔をあげると棚からアルバムらしき物を出した。

 

「?」

「ねぇねぇ見てみて」

 

そう言って体を寄せてきた……試練の再来である。

 

「このときにね……」

(マジかよ……)

 

キンジは再度理性との戦いを起こす。その内理性がプッツンするぞ……この少女は警戒心と言うものがないのだろうか……

 

「……ねぇ遠山くん」

「……なんだ?」

 

キンジは自分の血流を必死に押さえて望月を見る。

 

「私ってそんなに魅力ないかな……」

「え?」

 

切なそうな目をした望月を前にドクン!っと血流が強まる……

 

「なん……で?」

「だって遠山くん私に興味ないみたいだし……」

 

ドックン!!!とキンジの血流がさらに強くなる……

 

「私じゃ……ダメ?」

「っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴメンよ……本当に()()()は女心に疎すぎる……すぐに女性を傷つけるんだから放って置けないね。

 

「そんなことはないよ萌……」

「え?」

 

悪いが女性を傷つけたままには出来ないからここは一つフォローしておこう……とヒステリアモードキンジ(略してヒスキン)は優しく望月に話しかけた。

 

「君は可愛い女性だよ……ただまだ会ったばかりだからね……まだ別に焦る必要はないだけだよ……その証拠に俺はここに来てからずっとドキドキしていた……」

「遠山くん……」

「今日はもう帰るけど明日もある……ゆっくりお互いを知っていけばいいだろう?」

「うん……」

 

これでいいな……実際もうちょっと優しくしてあげたいけどこれ以上やるとそこの窓から歯軋りしながら今にも殴り込んできそうな顔で覗き込んでいる可愛い妹が科学剣片手来ちゃうからね。

 

「待たね。萌」

「うん……また明日……」

 

すっかり腰が抜けちゃったらしい望月を優しく撫でてやりながらキンジは外に出ていった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かなめ、まさか妹に覗き見の趣味があったなんてお兄ちゃんは悲しいよ」

「違うよ!」

 

望月宅から少し離れたところで声を掛けるとかなめが出てきた。

 

「なんでお兄ちゃんはそう何時も何時も……私と言う可愛い妹がいながら」

「可愛いだけならいいけど妹がついちゃうからね……」

「ヒスっててもそういう辺りはちゃんとしてるんだね」

 

ヒスってても流石に倫理観念はそのままだ。

 

「さて……気づいてるか?」

「当たり前でしょ?まあ相手も気づかれるの承知の上みたいだけどね」

 

二人がそういった瞬間近くに黒い車が止まった。テンプレみたいな……ヤクザ御用達の車……

 

「君だったのか……」

「久し振りだね……遠山」

 

明るい髪色の少しキツメの美少女……身に包んだ和服は彼女の美しさを際立たせた。

 

「菊代……」

 

鏡高組の関係者でありキンジにとって色んな意味で印象深い少女は車の中で笑みを浮かべた……


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