「ほらこれで詰みだ」
「ちぇ!」
カラオケから帰宅した夜……キンジと一毅は縁側で将棋を打っていた。
かなめに連敗中の身空である一毅はキンジ相手に実力の向上を狙っているらしい。
人工とは言え天才相手に将棋で勝つためにここまでやるとはその努力を是非勉強に向けてほしい。まあそれを言うとすごく嫌そうな顔をするため言わないが……
因みに将棋の腕はキンジと一毅はほぼ互角だ。
「少し一息いれようぜ」
「そうだな」
二人はうーんと背を伸ばすと庭の隅でGⅢがなにかやっているのが見えた。将棋に夢中で気づかなかったらしい。
「なにやってるんだ金三」
「だからその呼び方やめろって言ってるだろ……」
眉を寄せてしかめっ面のGⅢを見るとやはり少しキンジに似ている。
「で?なにやってるんだ」
「これだよ」
そう言って見せたのは最近有名な塩トマトの種?
「これに含まれるリコピンやらカロテンが俺の
「大変だな」
「俺は人間が生きていくのに必要な栄養素がひとつ多いだけだ。大変だと思うなら手伝え」
ほらと言ってGⅢに鍬を渡されたキンジと一毅はザックザックと畑を製作していく。
「それにしても意外だったな。お前爺ちゃんには素直だったぞ」
「ふん。ダイハードには敬意も払うさ」
「映画か?」
「ったく。相変わらず腕は立つくせに脳みそはスポンジみたいにスカスカだな桐生 一毅。
「そんなに有名だったのか」
キンジは改めて感嘆する。
「おめぇ知らねえのかよ。戦争の時の活躍なんか未だに伝説だぜ?」
「じいちゃんはあまり話さないからな」
「仕方ねぇな。教えてやるよ」
GⅢは少し手を止める。
「戦時中にアメリカを震え上がらせた男が二人いる。片方は俺と兄貴の祖父である遠山 鐡……もう一人はおめぇの祖父である桐生 一心だ」
「ああ」
「それぞれ武勇伝は多数あるが一番有名なのはやはり沖縄防衛戦とその後のアイオワ沈没だな」
「確かアイオワってアメリカの戦艦だったか?」
「ああ、まあ一般的には残ってるってことになってるがな。実際は違う。本当はたった一人の日本人にその他の船と共に太平洋にて沈められちまったのさ」
『え?』
キンジと一毅は困惑した。
「まずうちらの爺さんは沖縄でたった一人でアメリカ兵を止めるっつう暴挙をやらかした。たまたま不時着したらしいがそれでも300人をぶちのめしたらしい」
『…………』
そう言えば怪我して戦争の最後の辺りはベットの上だったと言っていたが……そんな裏事情があったとは……
「それにアメリカは大慌てさ。何てったってたった一人に作戦狂わされたんだからな。だから今度はアイオワとその他数積の戦艦で日本に攻撃を仕掛けに来た。だが今度は太平洋で引き返すことになった」
「まさか……」
一毅が恐る恐る聞くとGⅢはうなずく。
「お前の爺さんだよ。太平洋のど真ん中でアイオワに一心は突然乗り込んできたのさ。レーダーにも写らなかったらしい。そりゃそうだな。何せ発見されないように日本の東京湾からひたすら泳いで来たんだからよ」
「す、スケールでかい遠泳だな」
キンジはあきれた。
「全くだ。だがアメリカもそこは一流の海兵だ。すぐに排除にかかった……が」
『が?』
「数日後戻ってきたのは戦艦アイオワだけでしかも立派な
『……………』
つまり一人でぶっ潰したと?
「まあその後桐生 一心は命令違反って事で軍を辞めたらしいけどな」
「違反?」
キンジが首をかしげた。
「本当は出撃命令出てないのに行ったんだとよ。理由は知らないがな」
「儂の仇討ちじゃよ」
『え?』
三人が振り替えると鐡が縁側から出てくるところだった。
「沖縄での戦いの直後儂は死んだと思われていたらしくてな。それにキレた一心が海を越えて意趣返しに言ったんじゃ」
「でも結局生きてたわけだな」
「ま、そう言うことじゃな。お陰であやつは【オーガドラゴン】何て呼ばれるようになったんだぞ?」
三人が首をかしげた。なんだその二つ名は……
「ただ単に漢字でどう書くかわからなかったから辞書を片手に桐生を当て字で記したんじゃよ」
そう言って地面にカリカリと【鬼龍】と書く。
「これもでも【きりゅう】とよめるじゃろ?」
『あ~』
だからオーガドラゴンだったのかと三人は手を叩く。まあ戦うときの姿も鬼だったんだろうなぁと思う。
「それにしてもあやつとは色々バカもやったわい」
「あはは……」
国ひとつ敵に回したりとか? それは馬鹿やったレベルじゃないが……
「他にも一緒に色街で女を引っ掻けたりとかな」
「うちの爺さんもやってたんですか?」
「うむ。よくどっちがかわいい女の子をナンパできるか勝負したわい」
(なにやってんだようちの方の爺さんも)
「まあその後セツやカグヤさんにぶちのめされるんじゃがな。あ、カグヤは一毅の婆ちゃんの名前じゃが分かるか?」
「名前くらいは……」
「ま、それもそうか。お前が生まれるよりも前に死んだんじゃからな」
鐡は星空を見上げる。
「お前達は今を大事にするんだぞ……儂位になったときにその大切さがよくわかるようになる」
『…………』
一毅、キンジ、GⅢは黙って鐡の言葉に頷いた……
さてそんな事があった次の日……学校は休みだったが一毅とキンジは別々に行動していた。
まあ鏡高組について情報収集しているのだがいざ出てみるとどこに情報収集を行えば良いのか全く考えずに出てきてしまった。
そして途方にくれたキンジは公園のベンチで空の雲の数を数えると言う一人遊びをする。
(久々だなこんな静かなの……)
部屋ではアリアたちが大騒ぎだし一毅と一緒だと基本的に静かな日常はない。
楽しいことは楽しいがのんびりできるのもこう言うときくらいだろう。
「平和なのは良いことだぜ……」
何とも爺臭い事を言っていると犬が走ってきた。
「ん?」
「ビアンカ止まって~!……え?」
「よう望月」
「と、遠山くん!?」
望月が「奇跡が起きた!」みたいな表情をした。
「飼い犬の散歩か?」
「う、うん」
聞くが何故か顔を逸らされる。何故だ?なんか顔も赤いし……熱っぽいのか?
「遠山くんこの近くなの?」
「ああ。望月もか?」
「うん」
そう言いながらキンジが座っていたベンチの隣に座っていた。
「あ、あの遠山くん」
「ん?」
キンジは不自然にならない程度にベンチの端まで寄って望月から距離を取る。ヒス的に危険なのだこの子は……可愛いし良い匂いもして更に優しげな風貌……何より性格が穏やか(ここ特に重要)……危険すぎるのだ。罷り間違ってもヒステリアモードに成ったりでもしたら……アリアにぶっ殺される。絶対嫌だ。
「昨日言いたかったんだけど皆もいたから言えなくて……」
「あ、ああ」
「この前助けてくれてありがとう」
あの時のかとキンジは納得する。別段対したこともなかったので忘れていたが望月には随分印象深い出来事だったようだ。
「別に大したことはない。気にすんな」
若干ぶっきらぼうだったかと思ったが何か望月は上気した頬をウルウルした瞳とセットでキンジに向ける。何か感激されている?
「凄いんだね遠山くん。体育にときも見たけど運動神経も良いし……」
「見てたのか?」
対した意味はなく望月が自分を見ていたことに対する驚きの方が強かったが望月はボン!っと言う効果音が付きそうな勢いで顔を真っ赤にした。
「あ、あのね!ほら!凄い動きしてたし……何か部活やってたの?」
「いや?全然していなかったが」
普段のアリアからの襲撃から逃げていたら自然と鍛え上げられただけだ。だが望月は知らないことなので純粋に尊敬の眼差しを向けてきた。
「あ、それでね遠山くん。なにかお礼したいんだけど……」
「お礼?別に良いよ。そんな対したもんじゃない」
「いいの。ほら……何かない?」
「何かと言われてもな……」
急に言われても困るのが実情……武偵流儀の金額換算にしたら端金も良いところな出来事だ。となれば……
「そこの自販機のジュース一本で良い」
そうキンジが言うと望月がガックシと肩を落とした。
「?」
キンジは首をかしげた。なんだろうかこの想像してたのと違うと言う感じの雰囲気……デジャブだ……
すると望月はハッと顔を上げた。なにか衝撃のことを思い出したみたいな顔だ。
「ひとつ聞きたいんだけど……」
「あ?」
「……もしかして遠山くんと桐生くんって……」
「ん?ああ……そうなんだ。昔からの腐れ縁でな。幼馴染みって奴だ」
「…………なーんだ。そうだったんだ」
「え?」
なんだと思われたんだ?
「女子の皆がいっていたんだもん。遠山くんと桐生くんってオホモダチだって……」
「ぶっ!」
キンジは盛大に吹いた。
そう言えば何か風の噂では武偵校内ではカズ×キンなる一部の女子が購入する特殊な書物があるときいたがそっち系か……確かに一毅とは仲が良いとは思っている。付き合いも長いし気心も知れてて親友だと思っている。だが決してそういう間柄ではない。大切なことだからもう一度言うがそんな間柄ではない。それに、
「つうか一毅は彼女持ちだぞ」
「ええ!」
望月が飛び上がった。そんなに意外そうな顔をするなよ望月……確かに一部の嫉妬心を持った男子からは美女と野獣何て呼ばれてはいるが……
「か、かわいいの?」
「ん?まあ確かに可愛いな。皆」
「皆?」
望月が首をかしげた。
「あ、いや今のは忘れてくれ」
それを見たキンジはしまったと口を塞ぐ。何か最近感覚が麻痺してたせいか全く疑問を持たなかったが彼女が複数いると言う状況は結構普通じゃない。
と言うかあいつ人の事を女誑しとか言うがあいつもあいつで結構女誑しだよなぁとかキンジは思っている。まあキンジ自身も全く人のことは言えないが……
「遠山くんは居ないの?」
「俺は……」
キンジは居ないと答えようとすると脳裏に一瞬アリアが浮かんだ。
(何で俺の脳裏にまで出没すんだよ!)
ブンブン頭を振って振り払うと、
「居ない。女っけはゼロだ」
武偵校の寮に帰ると寧ろ女っけしかない状況になってしまうのだが……
「そうなんだ」
望月は良かったと言う感じの顔をする。
「そう言えば学校には慣れた?」
「ん?まあクラスの居心地も悪くないしな……あ、でも勉強がな……」
「じゃ、じゃあ教えてあげようか?私この前模試で結構点数良かったんだよ?」
「良いのか?じゃあ教えて貰えるか?一毅と一緒に」
「え?あ……うん……そうだね……」
「?」
何故そんなにショックを受けた顔をしたんだろうか……キンジにはそんなに望月を傷つける事を言った記憶はない。
「と、取り敢えずメアド交換しない?」
「分かった。じゃあ予定が分かったら連絡する」
「うん。ありがと」
そう言って二人はメアドを交換した……
一方その頃一毅は……
「てめぇいまガン垂れただろ!」
「嘗めてんのかぁおい!」
(何で俺はいく先々でワルに絡まれなきゃならんのだ……)
あっちこっちで不良に生まれつきの目付きのワルさで絡まれる一毅はため息をつきつつも……
(まあキンジも今ごろ情報収集頑張ってるんだかs俺もがんばんねぇとな)
と、新たにキンジがフラグを構築していることを露程にも知らない一毅は、後でキンジに話を聞いたときにぶちギレたのはまた別の話である……