緋弾のアリア その武偵……龍が如く   作:ユウジン

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金へのご褒美

『いづつ……』

 

品川での戦いから次の日の二時間目の休み時間……一毅とキンジは歩きながら顔をしかめる。

無論戦いの一時的な後遺症だ。一毅は流石にあそこまでの大暴れとレッドヒートの使用……更に腹を刺されてる。そしてキンジはヒステリアモード(しかも今回は亜種だったらしい)にレッドヒートと桜花と絶牢にGⅢとの殴り合いと5連チャンだ。二人とも全身バキバキである。

 

「だけどお前腹の怪我は大丈夫なのか?」

「あ~……元々あんまり深くは刺さってなかったしな……肉食って寝たら粗方治った」

「どういう回復力してんだよ……」

 

キンジに呆れられた。だがこいつの頑丈さやアリアにボコボコにされてからの復活の早さだって大概だ。

 

「しかしまあ今回は快勝って感じか?」

「まあアリアはたん瘤で白雪は打撲、理子は鼻血でレキは無傷と来てるしなぁ」

 

まあジーサードリーグの面々はGⅢとかなめ以外は無傷だったが怪我の総量だけ考えれば問題はないだろう。

 

「で?ライカの方はどうなんだ?」

「あいつも打ち身があるけど深刻な怪我はない」

「辰正と志乃も少し焦げていたが別に大丈夫だしなあ。あかりが一応あの中では重症か?」

「とは言えデコを少し切っただけだぜ?」

 

一毅が言うとキンジが確かにと肩を竦める。

 

「で?GⅢはどうなったんだ?」

「知らん。土下座のあとアンガスって人さんが連れてったのまでは一緒に見てたろ?そのあとまではわからねえよ」

「だよなぁ」

 

二人はため息をつく。その後のGⅢ行方はまあ知らないがどちらにせよ死んじゃいないだろう。再戦希望とか言って喧嘩売りに来ないことだけ祈ろう。

 

因みにかなめは普通に学校に戻っている。今日のかなめは無駄にくっついて来ることもなかった。だがその目は「好きになってしまった異性はお兄ちゃんだ……どうしよう……」みたいな感じだ。キンジにはどうしようもないので放置することにしている。

「しっかしいってぇな~」

 

一毅は時々ピキッと体を言わせては飛び上がっている。

本当はこんな日は教室でゆっくりしているのに限るのだが残念なことにお呼びがかかった。

しかも相手は校長・緑松(みどりまつ) (たける)……特徴は……知らない。と言うかわからない。

男であること……と言うのは分かるが兎に角平凡過ぎる男なのだ。故に近付かれても反応ができない……相手が来ていると感づけないから勝負に備えることもできない。身構えることも身を守ることも出来ない……だからあの蘭豹ですら逆らわない武偵高校内に置いて恐らく最強――もとい、最凶の教師だ。

 

そんな校長が呼んでるとオカマで教師の一人であるチャン・ウーから連絡が来たときは少し背筋が凍ったものだ。

 

さてそんなことをしていると校長室につく。

コンコンとノックすると……

 

「はいどうぞ」

『失礼します』

 

二人は中にはいる……そこには……普通の男がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうぞお茶です」

「あ、どうも」

 

校長にお茶を出される。

 

「さて、君たちとは一度こうやって話してみたかったんだよ」

「は、はぁ……」

「あまり声を大にして言えないが君達の活躍は今や武偵業界でもかなり有名になりつつあるからね」

「そ、そうなんですか?」

 

キンジが聞く。

 

「ああ、そりゃあ君達の若さでSADランキング100位を切った上に遠山君はRランク武偵を倒している。そんな君達をマークしないのは二流以下だろうね」

『……え?』

 

今なんと言いまして? と二人は固まった。

 

「ん?まさか君達知らなかったのかい?遠山君は93位、桐生くんは91位だ。いやぁ……君達のような武偵は早死にするものだけどどうなんだろうね」

 

ニコニコしながら言うものじゃないのは分かる。

 

「まあそんな世間話だけしたくて来て貰ったわけはないんだけどね」

 

まあそうだろうキンジと一毅は思った。どう考えてもこの学校の長である彼が呼び出す理由が世間話とは到底思えなかったからだ。

 

「君達に一つ依頼があるんだ」

『っ!』

 

二人は顔を引き締める。たまに教務科(マスターズ)から直接依頼が来ると言うのはそこまで珍しいことではない。だが一毅のようにSランクならともかくEランクで素の状態ではお世辞にも高い能力とは言えない(とはいえこの数ヵ月の間でキンジも素の状態であったとしてもかなり実力をつけている)キンジにまで直接とは……

 

「驚いてるね。だが言っておくが君達は既にランクどうこうで決められる武偵じゃないことは周知の事実だ」

「そう……ですか」

 

ホンの僅かだけ滲ませた校長の覇気……それにより二人は無意識に臨戦態勢をとりそうになる。

 

「ふふ、恐ろしい二人だね。大概の人間はまず僕のオーラに気づかない。気づけても動けない……僕を認識できないからね。今はあえて認識させている部分はあるが君達はその上でも戦いに備えるように行動を体が選択した……少し自信喪失だね」

 

口でそんなことを言っているがキンジと一毅は冷や汗が流れた。

もし戦ったら……勝てるのだろうか?体格も体重もこちらが上だ。でも相手を認識できないと言う力……【見える透明人間】と言われた男に本気で掛かってこられたら……心眼や万象の眼が使えれば別の話かもだがそれでもその力が発動していたとしてこの男に効果を発揮するのかわからない。

 

「やはり面白いね。教師と言うのは……君達のような子達をみれる」

 

最初と同じような笑顔を見せながら校長は言葉を紡ぐ。

 

「君達には少し調べてほしいんだ。最近とあるヤクザの組が海外のマフィアと繋がりを見せ始めている。それが結構大きな組織でね……あまり無視が出来ない」

「ですが……」

「まあ君達には少々難しいね」

 

そう、ヤクザへの潜入捜査(スリップ)は効果を基本的に専門武偵がやる。それくらい危険で難しいのだ。

 

「だが安心していい。別に潜入してくれと言う訳じゃない。その組の下っ端が近くの公立高校に通っている。その下っ端を経由してその組を検挙するのが目的だ。強襲命令は君達に一任する」

「あの……一ついいですか?」

「なんだい?遠山君」

「話聞いてると余計に分からないんですが……なぜそんな重役が俺たちに?」

「そのとある組と言うのが君達に関係していてね。君達なら警戒心も薄れると読んだんだ。それに海外マフィアも君達とは無関係じゃない」

『え?』

 

次の瞬間校長の口から聞いた言葉に二人は耳を疑った。

 

「組の名前は鏡高組……海外のマフィアは藍幇と言うんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

昼休み……キンジは自分の席でぐったりしていた。

 

鏡高……主に一毅よりキンジの方が印象深くと言うか恨み骨髄といった感じだ。

 

この姓のやつは一人だけしか知らない。恐らく校長もそれを知っている。名は菊代……鏡高 菊代……

神奈川武偵中学時代に散々ヒステリアモードの自分を利用した出来れば会いたくない女の一人だ。

その女のお陰で中学校生活は黒歴史の宝庫みたいなものだ。しかも同調して他の女まで自分を利用しだす始末。

 

そのため自分達をエロイ目でみる教師に仕置きとか自分達に生意気な男子の仕置きとかetc.etc……しかもヒスってると女子に逆らえんのだ……

それを知った一毅は無論怒り狂って女子に文句を言いにいったのだが寄りによって一毅撃退に使われたのもヒステリアモードにされたキンジだったのだから皮肉だ。

その時にお互いボロボロになるまで喧嘩してその後は一毅が発見次第止めるようになったが女子と言うのはどうも周到な生き物で一毅に見つからないようにキンジを利用し続けた。まあお陰でキンジはそいつらがいない東京武偵高校に来て結果としてアリア達に出会ったのだからこれもまた皮肉だ。

 

(しかしあいつに会う可能性があんのかよ……)

 

だが菊代は途中からキンジを利用しなくなった。と言うかキンジの視界に入らなくなった。まあ柱の影とかから自分をみていたのは気付いていたが少なくとも直接接することは極端に減った。無論他の女子が利用しまくったお陰で絶賛女嫌いでヒステリアモード嫌いのままだが菊代は途中からキンジを本当に絶対に利用しなくなったため実は菊代自体は顔を見たらぶん殴りたくなるような対象ではない(そう思うようなやつもいる)がキンジの体質を知る一人だ。会えばどんな手を使われるか分かったもんじゃない。だから会いたいかと聞かれれば絶対にNOだ。

 

「はぁ……」

「知ってる?ため息は幸せを逃がすのよ?」

「っ!」

 

キンジは椅子から転げ落ちた。

 

「なにバカなことしてんのよ」

「あ、アリアか……」

 

女子のことを考えていたときにアリアである。何故かキンジは後ろめたい気持ちになった。

何故かは自分でも分からない。

 

「で?どうしたんだよ」

 

声が上ずりそうなのを何とか耐えながらキンジは聞く。

 

「あんたがずっと暗いから気になったのよ。だから皆がいなくなるのを待っていたわ」

「あぁ……」

 

そう言えばもう皆いない。クラスにはキンジとアリアだけだ。

 

「何かあったの?」

「まぁ……少し一毅と依頼(クエスト)行くことになってな。行き先で少し会いたくない奴と会うかもしれないんだ」

「そんなに会いたくないの?」

「まあそれなりにな」

 

キンジは椅子を直しながら座り直す。こうするとアリアと同じ視線なのだ。一度見下ろす形になりながら立って話したら、

 

「なに自慢してるのよ!」

 

と完全に八つ当たりを受けてしまいそれ以降は極力座って話すようにしている。

 

「どんな男よそいつは」

「いや、女だが?」

 

と言ってキンジはしまったと空を仰いだ。案の定アリアのこめかみにピキピキとDの形の青筋が入る。体の何処かに恐らくIとEの青筋も入りDIEになっているだろう。

 

「お、おい何でそこで殺気を出すんだよ!」

「大方その女にも手を出したんでしょう!」

「まるで出会った女に片っ端から手を出す鬼畜野郎扱いしてんじゃねえよ!」

「キスしたくせに……」

「《ドギク……》」

 

ドキン!とギクリが合体した最近よくキンジの心臓が奏でる反応音が心臓で響く……

 

「他にも白雪……」

「いや、あの……その……」

「理子……」

「いやあの……」

「かなめ……」

「いや……」

 

全部キスしたお方たちである……

 

「ほんっとあんたって良くモテることね!」

「あ、あのなぁ……」

「そうせあんたアタシが知らないだけで風魔ともしたんでしょ!」

「く、口ではしてねえよ!」

 

そう言ってキンジは自分の失言に気づく……

 

「ふぅううううん……()ではしてないのね?あぁそうなの」

 

グゴゴゴゴゴとアリアから殺気が溢れ出す。

 

「お、落ち着けアリア……どうどう」

「アタシは暴れ馬じゃないわよ!」

(暴れ馬の方が穏やかそうだが……)

 

まあそんなこと言ったら三秒でこの世からさよならしなくてはいかなきゃいけなくなるので黙っておく。失言は一つでも少ない方がいい。

 

「って、そんな話をしに来たんじゃなかったわ。今の話は後でタップリ話しましょう」

(そのまま忘れてくれねえかな……)

 

キンジは死刑を言い渡された囚人の気分を味わいながら肩を落とす。

 

「で?何のようだ」

「取り合えず今回の戦いはお疲れさま」

 

アリアは少し姿勢を直す。それをみてキンジもシリアスモードだ。

 

「まあ今回の一件でキンジと一毅だけじゃない。アタシたちも実力の底上げが必要だと思うわ」

「まあそうだな」

「ま、あんたたちみたいに人間を卒業はしないけどね」

 

ほっとけとキンジは内心突っ込む。

 

「でも良く頑張ったわ。何せ相手はRランクだもの」

「病人だぜあいつは」

「それでもあんたは正面から受けてそして倒した。相手が病人だったとかそんなのは評価の対象にならないわ。欧米なんかじゃ病人になる方が馬鹿者扱いよ」

「日本では余り分からない感性だ」

 

それであっても良く勝ったと思う。

少なくともまたやり合いたい相手じゃない。

 

「そこで考えたのよ。頑張った人間にはご褒美が必要よね?何がいい?」

「はぁ?」

 

何だ一体藪から棒にとキンジは唖然とした。

 

「言っとくけど金銭系統はダメよ」

「んなことは分かってる」

 

だがいきなり言われてもと言うのが本音だ。ご褒美ねぇ……

 

「ほら、早く言いなさいよ」

「…………」

 

なぜ頬を赤くしてモジモジしだすのだ?とキンジは首を捻る……だがそんなアリアが目の前にいるとこっちまで照れ臭いと言うかなんとも言えない空気になる。

 

多分……ただのご褒美じゃないんだろうと言うのは分かる。夏休み最終日の雰囲気と良く似ているから多分間違いない。だけど……このあとどうすればいいのだ?

 

(全く分からん……)

 

キンジはしどろもどろになる。

それをみたアリアは大きくため息をついた。

 

「忘れてたわ。あんた素だと全く雰囲気を読むとか出来ないんだってこと……」

「す、すまん……」

 

キンジは謝るしかない。

 

「もういいわよ……」

 

そういうとアリアはキンジの頬を両手で挟み目を閉じる。

 

(ああ……こう言うときはこうするのか……)

 

キンジも瞳を閉じた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ~……何だって俺は他人の恋愛手助けしてんだろ」

 

天井裏で一毅は胡座をかきながらため息を一つ吐く。

 

「むー!むー!」

「はいはいかなめ~今日は静かにしてような~」

 

一毅が宥めたのはロープでグルグル巻きにされて猿轡を噛まされているかなめである。

本来ならキスの直前にかなめの乱入が起きるはずだったがその前に一毅に捕縛されたたのだ。

 

「体もいてぇし嫌になるぜ」

 

一毅は大きな欠伸を一つしながら言うがどこか嬉しそうだ。

 

「ま、キンジも今回は頑張ったしな……此れくらいの褒美はあってもいいか……――っ!」

 

すると刀が脈を打ったような感覚がする……

 

(これは……)

 

今でも覚えている。これはパトラの時にも感じた感覚……

 

(何だこれ……)

 

すると脈動は収まる……

 

(……何だったんだ……?)

 

一毅は今の一瞬の出来事が分からず首をかしげる。

とは言え気にしても分からないのでまあいいかと楽観視した。

 

「………………」

 

だがかなめは見逃さなかったし見えていた……一瞬だが一毅の――が――――に……

だがかなめも気のせいかと忘れることにした……それが後に意味のある出来事だったと言うことをまだ二人は知らない……




最後のは敢えての伏せです。なにげにこの小説では初の試みです。
まだここは秘密ですがまあ勘の良い方なら分かったかもしれませんが(別に分からなくたって良いと言うかそっちの方が嬉しいです)後々にね。


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