「ち、千冬…姉?!」
その顔を見て、一夏は驚愕した…。
なぜなら、その顔は自分の元姉である織斑 千冬にそっくりだったのだから…。
「…………?」
俺の言葉に耳を傾けていたのだろう、少女は俺の顔を見る。
(どういう事だよ? なんで千冬姉がここに⁈ でも、どう見ても俺と同じくらいの歳だよな…)
少女は静かに俺を見ている。その手には血のついた小太刀が握られていた。
「楯無さん! この子は、一体…?!」
「それがなぁ〜、いきなり現れてはこの有様なんだよなぁ〜。俺も訳がわからんぞ」
どうやら任務を終え、撤退作業に入っていた時に襲われたみたいだった。
「おい! お前は一体何者だ!」
「…………」
「答えろ! お前は何の目的があってこの人たちを襲った? それなりの理由があるはずだ…」
「…………」
俺の問いかけにも答えない。その代わりといってはなんだが、右手に持っている小太刀の切っ先を俺に向ける。
「俺とやり合うってか?」
「……お前は……私と似ている…」
「えっ? 似ている?」
「うん……。世界に歪められて、異端な力を身につけた者……」
「…ッ!?」
淡々としゃべる少女。そして、なにより驚いたのは、俺の力を知っているようだった。この力を身につけているのは自分だけだと思っていたからだ。
「お前……まさか…」
「リベレイト……!」
キーン! と言う甲高い音が聞こえ、それと同時に少女の周りを藍色の魔法陣が包む。
「ッ! やはり、魔法使いか…ッ⁈」
「さぁ、お前もリベレイトしてくれ…。そして、私と戦ってくれないか?」
「何故だ? お前と戦う理由がないッ!」
「そうだな…。強いて言うなら確認の為だよ」
「確認? 一体何を確認するのさ?」
少女は俺の問いかけに応答しながらも、徐々に魔力を練り上げていく。
「ドライブ! ……そんなの決まっている…ッ! 私たちの存在する意味をさッ‼」
突如、少女は俺の方へ駆け出し、小太刀を振るう。俺もそれに対抗して、トワイライトを構え、相手の攻撃をいなしていく。しかし、かなりの実戦をやってきたのか、時々ヒヤヒヤする攻撃が何度かあった。
「くっ! ちょっと待て‼ 俺はお前と戦う気はない!」
「お前に無くとも、私には必要な事なんだよ!」
そういって少女は一度離れると小太刀に魔力を集める。
そして、右足を引き、小太刀を腰にためる。
「眠りを解け その手に剣を 我は夢想の剣鬼ーーーー」
途端に動きを止め、呪文を唱える。
「詠唱?!」
「我が敵を 斬り裂き 穿ち 射殺せ!!! 幻想刀〈イリュージョンブレード〉!!!!!!」
その瞬間、少女は溜めていた小太刀を俺に向かって突き出す様に腰を回転させる。
(…………なんだ……? はッ⁈)
かなりの距離が空いていたのにも関わらず、俺のストライク・ビジョンが反応し、咄嗟にトワイライトを前に突き出す。その瞬間、トワイライト越しに腕に伝わってくる衝撃に驚いた。
そう、少女の攻撃が俺に当たったのだ。
「な、なんだ!?」
「へえー、すごいなぁ〜! 私のイリュージョンブレードを初撃で止めたのは、お前が初めてだよ!!!」
いきなり来た衝撃に戸惑う一夏。全く見えない斬撃、不可視の剣によっての攻撃だった。
「さっきの魔法陣は…『幻術魔法』だな? と言う事は、幻術による不可視の剣を作ってるって感じか?」
「ヘェ〜、なるほど。よく見てるね。そういうお前は『回避魔法』だな」
「あぁ、だからお前の攻撃は俺には当たらねぇよ…。だから、もう終わりにしないか?」
「さっきも言ったよね? これは私にとって必要な事なんだ。せっかく会えた同じ力を持つ者同志…こんな機会は二度とないと思うしねッ!」
何度となく、説得を試みるも相手の考えを変える事はできず、相手の猛攻をひたすら躱し、いなし、受ける。
「はぁ、つまらないなぁ〜。どうしたらお前は本気になるんだ?」
「……戦う気はないとさっきから言ってるだろ?」
「ふぅーん、これは本気にさせなきゃいけないな」
ふと、少女は小太刀を横に構える。何をしているのかわからないが、少女の魔法は不可視の剣による斬撃…気を引き締めておかなければたちまちその斬撃の餌食になってしまう。
「インビジブルフィールド…」
「……?」
また新たな言葉を発し、少女は横に構えていた小太刀をそのまま俺へ向けて横に振るう。それに合わせて俺もトワイライトを構えるが…
ザシュッ!!!
「ぐっ……あ…。な、なんだ?!」
「フフッ。流石に死角からの攻撃は、お得意の回避魔法が発動しないか……」
突然、背中から途轍もない痛みが襲ってくる。なにが起こったのか分からず、背中に目を向けると俺の背中は、俺の赤い潜血で染まっていた。
そう、斬られたのだ。今この時、先ほどのアクションで。
「ぐっ……ッ! お前…一体、何をした?」
「簡単な事だよ。イリュージョンブレードの効果範囲を広くしただけどの話さ…」
「なに?!」
不敵に笑う少女。その姿に俺は少し悪寒を感じた。
「インビジブルフィールドの能力は、私の半径50mの範囲内なら私のイリュージョンブレードを使える様にする絶対領域……つまり、今この瞬間お前は逃げ場を失ったと言う事だ…」
デタラメ過ぎるこの魔法。俺のストライク・ビジョンでも捉えきれない広範囲の攻撃をどう凌いだらいいのか…。そして、ここには俺以外の人たちもいる。楯無さんに刀奈さん、簪に香奈恵さんもいる。下手に動いてみんなが刃の餌食になりでもしたら……。
(どうする…? このスペースは完全にあいつの領域になった。いくらストライク・ビジョンで躱してもまた別の攻撃が来る…! かと言ってこのままでもいい的だ…ッ! くそッ‼どうすれば…)
色々考えてはみるものの、これと言って解決案が見つかるわけでもなく…ただひたすら捉えられる攻撃だけを必死に躱し続けていく。何とか急所だけは防いでいるが、それでも全身切り傷だらけだ。
「はぁ……はぁ……はぁ…」
「おいおい、もう終わるのか? 案外呆気ないなぁ」
「チィッ!」
「これで終わらせよう…」
少女はそう言うと、小太刀を真上に構え、俺を見下ろす。
その刃が俺に振り下ろされると思った時だった。
「させないわ!!!」
「絶対に止める!」
刀奈さんと簪が俺の横を通り過ぎ、少女に向かって駆け出す。二人の手には刀と薙刀が握られており、一気に肉薄する。
「チィッ‼ 邪魔をするなぁッ!!!」
少女は叫びと共に、小太刀を振り下ろし、二人は手にした得物で不可視の剣を受け止める。が…、振り下ろされた一撃の威力と重さに耐えきれず、そのまま吹き飛ばされてしまった。
「「きゃあぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」」
「刀奈さんッ‼ 簪ッ‼」
今の攻撃によって二人は気絶し、刀奈さんら右手を、簪は左肩を負傷した。
「てめえ!!!」
「フッ、やる気になってくれたか?」
なおも笑っている少女に怒りを覚えた。今すぐにでもその首をはね、心臓を突き刺したいと思ってしまう程に。
「一夏ッ!」
「ッ?!」
「怒りに飲まれるな! それじゃあ、勝てるものも勝てんぞ!!」
いきなり響き渡った楯無さんの怒号に一瞬で我に帰った。
「楯無さん……」
「お前ならこの状況ですら乗り越える力があるはずだ! 怒りに身を任せるな! こういう時ほど冷静に相手をみろ!」
「……そう、だな。悪い、助かったよ楯無さん」
楯無さんに一言礼を言って俺は再び少女と向き合う。
「はぁ、どうしてもまだやらなきゃいけないのか?」
「あぁ、私は知りたいんだよ。自分が生まれた意味、こんな力を持ってしまった意味、何の為に生きるのか、をな…」
至極当然な事だ。この少女も俺と同じ目的、あるいは別の目的でこの力を身につけさせられた者。そして、俺とは違い、一人で彷徨い、戦う果てにこんな感情を抱いてしまったのだろう。もし、俺が楯無さんと出会ってなければ…俺もこいつの様になっていたかもしれない。
(だったら、俺が向き合ってやらねぇとな…)
俺は覚悟を決め、正眼の構えをとり、少女と向き合う。
「一ついいか?」
「なんだ?」
「名前…」
「……は?」
「名前だよ。お前の。それくらい聞いたっていいだろ?」
「………マドカだ。苗字は知らん…」
「マドカ…か。俺は更識 一夏ッ!」
「イチカ…覚えておくよ。もういいか? そろそろ決着をつけよう…」
「あぁ、そうだな」
互いに構え、意識を集中させる。
「光無き闇より時は巡る 船は出たーーーー」
「……詠唱…フフッ!」
「今こそ道を示せ! ーーーー」
「イリュージョンブレード!!!」
「目覚めろ! シグナルドリーム!!!」
藍色と濃紫色の魔力の波動がその場を覆い尽くす。
「はああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「うおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
二つの刃がぶつかり合い、激しい剣戟の音と火花が散る。
その場にいた誰しもが、その光景に驚嘆した。
えぇー、決着と和解は次回に持ち込みます。
それと、刀奈と簪の魔法も大方決まりました。
お楽しみに!
感想待ってマース!!