あの最悪の邂逅から三週間。俺は楯無さんを怒鳴りつけ、続いて、刀奈と簪が登場し、お説教。流石の楯無さんも娘二人に怒られたとあって反省してくれたらしい。
だが、あれから二人とはギクシャクしている。正確には、俺は誤解をはらそうとしているのだが、刀奈さんは俺をガン無視。簪は一応話を聞いてはくれたのだが、元々人見知りがある為なのかそうでないのか定かではないが、よそよそしい…
「はぁ…。どうにかしないとなぁ〜」
現在朝の5時ジャスト。俺は道場である訓練をしている。
それは、もちろん俺の身につけた魔法の訓練だ。
二人は早く起きても6時ぐらいなので、俺の魔法が見られる心配はない。一応油断禁物なので、周囲は気にしているのだが。
あれから、俺は楯無さんが持ち帰ったトレイラーのアジトに残されていた研究資料を読破し、魔法の性質や能力などを頭の中にたたき込んだ。
「さてと、そんじゃあ…いつもの始めますか! ……〈リベレイト〉!!」
その声と共に、全身を薄い紫色の膜が覆う。
〈リベレイト〉
魔法を使用する際に唱える呪文で、魔法を使い続けて疲れないように魔力を解放する呪文だと研究資料に書いてあった。
「よし…! 続いて、〈ドライブ〉!!」
二つ目に唱えた呪文で、集中力が高まり、防御と強化を同時にあげる呪文。
そして、足元には紫色で何やら三角形の魔法陣が俺を中心にして、回っている。
それを長時間持続、安定化させる為に毎朝俺は訓練をしている。
流石に三週間もこれを続けていれば少しずつではあるが、持続時間が長くなって、安定的に魔力を使えるようになった。
「はぁ…はぁ…はぁ…。今日は今までで最長だったな…。後は、俺の能力をどう使うかだな…」
ドライブを止め、持っている剣を見る。
楯無さんに渡された剣で、トレイラーのアジトから押収した物らしい。何でも俺専用に打たれた剣だとか…
長さは竹刀くらいで、見た目の割に軽く、片刃の長剣。柄の所に俺がドライブで出した時と同じ魔法陣の模様が刻まれており、その下には、カートリッジと握りの部分には引き金がある。
この剣は『ガンソード』と呼ばれる剣で、弾は三発。何でも自分以外の者の力を弾に込めてガンソードに組み込む事でその力を上乗せして使えるらしい。
そして、これが肝心。この剣の名は……〈トワイライト〉と言う。黄昏と言う意味を持った剣だ。
「俺の能力は未来を読み取る事だったな…と言う事は俺の魔法は『回避魔法』って事になるのか…」
トレイラーの科学者達はどうやら複数の魔法を作りだそうとしていたらしい。その数は全部で七種。
回避魔法、破壊魔法、幻術魔法、神速魔法、闇黒魔法、生物魔法……そして、この六つの魔法に属さない特異魔法の計七種。そして、俺の魔法はその中の回避魔法なのだ。
攻撃や危険が迫った時、それを未来視して、回避する事に特化した魔法だ。
「なるほど…それであの時、撃ってくる銃弾の軌道が読み取れたってわけか……」
もし、これをマスターすればどんな攻撃をも予測し、対処できると言うわけだ。さらには、基本的な魔法…ドライブなんかを取り入れる事で戦闘の幅は更に広がるだろう。
「ふぅ、今日はここまでにするか…早くシャワー浴びておかないとまた二人と鉢合わせてしまう…」
それから、俺は袴道着を着替えてトワイライトをしまい、シャワーを浴びて朝食の準備の手伝いをしに行く。ここへ来てからは毎日この手伝いをやっている。なんせ今までは俺一人でやっていたのだ…みんなで料理する楽しさを知ってしまった。そのおかげで料理のレパートリーがだいぶ増えた。
「おはようございます。一夏さん」
「あ、おはようございます虚さん。……また、本音の所ですか?」
「ええ、まったく。ホント朝が弱いんですよねぇ〜あの子…」
この人は更識家に代々仕えている家の長女、布仏 虚さん。すらっとした姿勢で眼鏡をかけていて、とてもしっかり者だ。そして、刀奈さんの専属のメイドでもある…。その妹は名前を布仏 本音と言う。こっちは姉と違いいつものほほんとした性格。ダボダボの服をよく着ており、一挙手一投足が遅い。とてもマイペースなのだが、彼女の雰囲気でいつもみんなが癒される事が多々ある。
「それじゃあ、俺は調理の手伝いがあるので…これで」
「ええ、いつもありがとうございますね一夏さん」
「いえいえ。俺がやりたいんで…すごく楽しいし!」
「それは良かったです。では、私も頑張って起こして来ますね♪」
「アハハハ……」
本音は寝るとなかなか起きない。普段あまり動いてないのだからそこまで熟睡する事があまりないはずなのだが……まぁ、人の睡眠時間は人それぞれだ。
「おはようございます!」
「おぉ、一坊! おはようさん! 今日も頼めるかい?」
「えぇ、そのつもりで来てますから!」
この人は、ここの料理長をやっている人で、みんなからは『おやっさん』と呼ばれている。
「しっかし、お前さんはホント器用だなぁ! 覚えるのも早いし…」
「まぁ、以前は俺が一人で家の家事全般をやっていたので…」
「将来はいい旦那候補に入り込むなこりゃ…ッ!」
「旦那候補って……俺まだ12だけど?」
「早いうちから手を付けとかねぇと! 今の世の中、男が後進的だからな…お前さんのようなやつは今時珍しいと思うぞ?」
「そうですか? まぁ、そうなるように頑張りますよ」
そんな会話をしながらも、料理を作っていく。メニューは特製のサンドイッチにコーンスープ。自家製のサラダとスクランブルエッグだ…一見普通だか、これがプロが作るとまた格別な味になるのだからすごい!
「おぉ、おはよう一夏……ふあぁぁ〜〜…」
「おはようございます。楯無さん」
「お、おはよう…一夏…」
「あぁ、おはよう簪」
「…………おはよう…」
「お、おはよう…ございます…刀奈さん……」
朝からご機嫌ななめの刀奈さん。それを見て楯無さんが「まだ、引きずってるのか?」と言うものだから、「「あんたのせいだろ!!!!」」っと朝から二人でツッコミを入れなければならなかった。
そこから香奈恵さんが居間に登場し、みんなで食事を摂る。すると、楯無さんがいきなり…
「刀奈。今度の任務なんだが、一夏も連れて行く」
「えっ!? ほ、本気で言ってるの? お父さん!」
「ああ、本気だとも…。今回の任務で一夏の力を見る。というよりお前達に見せておいた方がいいと思ってな」
「任務?」
楯無さんの提案に刀奈が食いつく。一夏はなんの事を言っているのかさっぱりわからない為、楯無さんに聞く。
「今回の任務は、麻薬の密売を行ってる組織の拠点制圧だ。いつものように簪が電子戦で撹乱! 刀奈率いる制圧部隊で奴らを拘束する! そして、一夏は逃げ仰せる連中を片っ端から捉える!こんなところか?」
「『こんなところか?』じゃないわよ!! いくらなんでもいきなり実戦は危険過ぎるわ! こいつがどんな実力を持っていたとしてももう少し遅らせるべきだわ!」
「私も…お姉ちゃんの意見に賛成…ッ! もし、実戦に参加させるとしても私と同じ後方支援で参加した方が…いいと思う…」
「簪ちゃんの言うとおりだわ! ましてや12歳の子を戦場に立たせるなんて非人道的よ!」
刀奈や簪も対暗部用暗部の家で生まれている為、将来はその仕事を二人で継ごうと思っている。電子戦に強い簪と優れた戦術眼と身体能力を兼ね備えた刀奈。共に何度も実戦を経験している。だからこそわかるのだ…実戦の恐ろしさを。
「お前達の言いたい事も言っていることが理にかなってるのも承知の上だ…しかし、心配はいらん! 一夏もかなりの実戦は積んでいるし、毎日稽古は欠かさずやってるみたいだし…なあ? 一夏」
「えっ? ま、まぁね…」
誰にも見られていないと思っていたのに、いつ見ていたのかいつもはだらけているくせに、ここぞと言うところはしっかり見ている。ホントつかみ所がわからない人だ。
「これはもう決めたことだ! 部隊のメンバーにも詳細は伝えている…異論はあるか?」
「う、うん…お父さんがそう決めたなら別に構わないけど…」
「私も…お姉ちゃんに賛同」
「俺も異論なしだ…」
「よし、では三日後に作戦を開始する! 準備を怠るなよ?」
感想待ってマース^_^