第3話です。どうぞ!
「着いたぞ! ここが我が家だ!」
「…………マジで?」
あれから楯無さんに連れられ、俺は更識家の養子になった。だから、俺はもう『織斑 一夏』ではなく、『更識 一夏』なのだ。そして、飛行機を乗り継ぎ、日本に久々に帰ってきた…たった数ヶ月離れていただけなのにひどく懐かしい。それで、今俺は、これから自分の家になる更識の家の前に楯無さんと一緒に立っているのだが……
「こ、これが…家なのか?」
「あぁ、そうだぞ? なんかおかしいか?」
「いや、そうじゃないけど…デカくないか?」
そう、半端なくデカいのだ。家が! 一応四人家族で、お手伝いをしている一族の家系も一緒に住んでいると言う事だからでかくて当たり前なのかもしれないが。
「トレイラーのアジト並みのデカさだぞ?! これ!」
「あっはっはっは!!!! そう褒めるな! 照れるだろ?」
「いや、別に褒めてないが…まぁいいや。それで、俺は楯無さんの事をなんて呼べばいいんだ? 『当主様』? それとも、『楯無様』って呼べばいいのか?」
「別に何でも構わんよ。お前の好きにするといい」
「そうか? なら、『楯無さん』で」
「そのまんまかい……そこは『お父さん』とか、『親父』とか、『父上』だろ…」
「最後のは絶対違うな…それに、いきなり俺があんたの事を親父とか、お父さんなんて呼んでたら、元々いる家族はびっくりするだろ…」
いくら、養子になったとはいえ、今日初めて更識家の家族に会うのだ…なのにいきなり俺が『お父さん』だとか、『親父』とか言ってたら、楯無さんはともかく俺まで白い目で見られちゃうからな。
「大丈夫だ! その辺は手をうってある。ちゃんと家の奴らには連絡しておいたからな…今日お前を紹介すると言う事も伝えている」
「なら…いいんだが…」
そう言う会話をして、家の門をくぐり、玄関へと向かう。一応言っておくが、一夏と楯無が会話をしている場所は更識家専用のリムジンの中で…だ。そして、その家は、流石は名家だけあって豪邸。門から玄関までかなりの距離がある。
「さて、久しぶりの我が家だ…お前も自分の家だと思ってゆっくりするといい」
「そうは言うがな…」
やがて、玄関へと着き、玄関の扉を開く。そこの中は見事に装飾された家財道具やら、大きなシャンデリアやら、大理石の床などなど…とても世界観が自分とは合わないと思う一夏であった。
「あなた、お帰りなさい。その子が?」
「あぁ、ただいま香奈恵。そうだ、こいつが話していた…一夏だ」
「は、初めまして…一夏です…。これからよろしくお願いします」
「どうもご丁寧に。私は香奈恵と言います。あなたのお母さんです♪ ウフフッ」
とても穏和で優しそうな女性。水色の髪がとても似合う。これが楯無さんの奥さんの香奈恵さん…何だか楯無さんには勿体無いくらいだ。
「娘達にも、紹介するわね。多分、ちょうど今道場の方で、二人で稽古していると思うから…そこによってみて」
「あ、はい!」
「道場へは、俺が案内してやろう…こっちだ」
楯無さんの後を追いかけ、二人でで道場へと向かう。
やがて、道場が見えてきて、中から声が聞こえる。
「やあぁぁぁぁ!!!!」
「ふうっ! はあぁっ!!」
二人とも、木製の長物を持って打ち合いをしている。二人とも同じ水色の髪の色をしていて、槍を持った方の少女は髪が外側にはねており、背も少し大きい。とてもスタイルがよく、槍捌きも見事なものだ。そして、もう一人の少女は先ほどの少女と違って、髪が内側に曲がり、眼鏡をかけている。背は数センチだが低く、手持ちの武器は薙刀だ。槍の少女に負けず劣らず、中々の薙刀術を持っている。
「これで…もらった…ッ!」
「甘いわよ! 簪ちゃん!」
薙刀の子が切っ先で槍の子を突こうしたが、槍の子がこれを読んでいたのか、槍の穂先を滑らせるように薙刀に合わせ、カウンターの一撃を薙刀の子の腹部に叩き込んだ。
「勝負あり…ね♪」
「うう〜…参りました…」
「刀奈! 簪!」
「あっ! お父さん!」
「おかえり…お父さん」
楯無さんは二人を呼び、二人がみだれた袴道着を直しながらこちらへ近づいてくる。どうやらさっき勝った槍の子が『刀奈』で、薙刀の子が『簪』と言う名前らしい。
「ただいま、二人とも。今日も欠かさず稽古頑張ってるみたいだな」
「それは、当然よ! ね、簪ちゃん?」
「うん…私たちもお父さんみたいになりたいから…」
「あっはっは!! そうかそうか! お父さんは誇らしいぞ!」
そう言うと楯無さんは二人の頭を撫でる。ちゃんと父親をやっているようだ。そう思うと、本当に俺は家族に恵まれて無いなと思ってしまう…もし、両親がいたなら、姉弟が仲が良かったらって何度も思ってしまう。だが、それはたぶん叶えられそうにない願いなんだと。
「あれ? その子は?」
「ああぁ、こいつがお前達の新しい姉弟になる一夏だ。年は簪…お前と一緒だ」
「ど、どうも初めまして。『一夏』って言います。一応念のために言っておきますが…男です…」
「へぇー。男の子なんだぁ〜…って! 男?! ほほ、本当に?」
「女の子かと思った…!」
「ええ、まぁ…。何と言うか…ちょっと事情があってこんな成りになってしまいまして…」
やはり、皆さん同じ反応だ。しかも日本人離れしたこの髪といい、目といい…
「まぁ、いいわ。私は更識 刀奈よ! よろしくね」
「さ、更識 簪…です…。よ、よろしくお願いします…」
これで更識家の自己紹介が終わり、二人は稽古で汗をかいたので、風呂に行くと言い、その場を後にした。
「一夏、お前も風呂にいったらどうだ? 何日も風呂に入ってなかったろ?」
「まぁ、そうだけど…水浴びくらいはしてたから汚れてはいないぞ?」
「水浴びと風呂は別物だ。いいから入ってこい! 大丈夫だ風呂は男湯と女湯…ちゃんと分けてある」
「家に男湯と女湯が分かれてるのもすげぇけどな…なら、ありがたくもらうよ。さっき教えてもらったところでいいんだよな?」
「あぁ! そこが男湯だ! ゆっくりしていけ!」
そう言って、俺は道場を出て、風呂に向かった。ただ、後ろでおっさんがニヤニヤとしている事に気が付かず…だ。
「ここだったか?」
俺は男湯だと教えてもらった所へ行き、扉を開けて中へ入る。そして、服を脱いで風呂場へと向かう。
「おおぉぉぉ……中々に広いな」
中はよくある旅館の風呂のような作りになっていてとてもこれが一家庭の風呂には見えない。とても贅沢だ。
そして、俺は髪と体を洗い、湯船に浸かる。
(まったく…この長い髪が厄介だよなぁ。切ってもすぐに伸びるし。何やってもこの長さになっちまう)
その事を思っていると、脱衣所の方から声が聞こえてきた。どうやら二人だけのようで、おそらくはお手伝いさん達だろうと考えた。
「はあ〜、今日も疲れたぁ〜。簪ちゃん早く!」
「ま、待って! お姉ちゃん!」
(なるほど…姉妹で仲良く入りに来たのか…仲が良いのは良い事だ! ……って! ええぇぇぇ!!!!? 何で!? 何であの二人が入ってくるんだよ?!……はぁっ! あのクソジジイ! 嵌めやがったなぁ!!)
俺は盛大に慌てた。それもそのはず、男湯だと聞いて入っているのだ女の子二人が入ってこれる訳がないのに何故かあの二人が入って来たのだから。
「あら? 先客がいるみたい…虚ちゃん?」
「本音…かも…」
どうあがいても逃げ場がない。肝心の俺の魔法も何故か発動しない為、万事休すだ。
そして、俺たちは鉢合わせてしまった…
「虚ちゃん? って…え?」
「お姉ちゃん? あっ……」
「…………ど、どうも…お先にいただいてます……」
固まる三人。そして、風呂場は冷たい空気が流れる。
「「き、きぃ……」」
「ひ、ひぃ…」
「「きゃあぁぁぁぁぁ!!!!!!」」
「ふごぉっ!!」
二人の投げた洗面器が見事に俺の顔面に命中した。それから二人とも俺に一発ずつ平手打ちをかまし、俺は耐えられず、風呂場を出て、服を着て楯無さんのところへ真っ先に向かった。
IS学園入学まで少し長くなりそうですが、頑張って書きますので、よろしくお願いします。
感想よろしくお願いします。