IS〜異端の者〜   作:剣舞士

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ええ〜 タグを増やしたんでわかると思いますが、あの人が出ます。


第32話 蜃気楼

「…………」

 

「どうしたの? 固まっちゃって……」

 

「その名前は本名か? もしそうなら、ふざけてるにもほどがあるがな……」

 

 

 

現在、デパート内で遭遇した白髪の千秋と一夏。その中で、一夏は彼の名前を聞き出した。

だが、その名が……

 

 

ーーーー “イチカ” だよ!

 

 

 

馬鹿げた話だ。

彼の名付け親は、相当趣味が悪いと見える。

 

 

 

「ホント、ふざけた話だよねぇ〜。他にも候補はあったろうに……なのに、なんで『イチカ』なんだろうって……僕もホントそう思うよ」

 

 

あまりにも戯けた様な態度で、少々イラッと来てしまったが、今は詮索する暇がない。

 

 

 

「まぁいい……。それで? どうしてお前がここにいる?」

 

「ああ! そうそう、兄さんに言っておこうと思っててさぁ!」

 

「なんだ……」

 

「すでに組織は動き出しているよ…………!」

 

「っ!? どういう意味だ!」

 

「そのままの意味さ。今頃準備を整えてるだろうさ……フフフッ」

 

「はっ……! まさか……お前っ!」

 

 

 

一夏が一気に殺気立ってイチカに詰め寄る。

ここで人払いの結界を張っているイチカが居て、ここから離れた鈴も含めたデパート内にいる一般の人達は……。

 

 

 

「お前ら、一体何を考えている……」

 

「さぁね。それはあの金髪おばさんに聞いてよ……ただ、おばさん達は戦いを起こそうとしてるみたいだよ」

 

「戦い……?」

 

「そう、戦い……。それも、『魔法戦争』って言う馬鹿げた戦争らしいーーーーッ!」

 

「魔法……戦争……っ……」

 

 

魔法戦争……読んで字のごとく魔法による戦争という事だろう。

だが、この世に魔法使い、及び魔法師などと呼ばれる存在は数少ないはず……戦争と呼ばれるものは、そんな少数の人間でできるものではない。それならば、『抗争』や『対立』……大袈裟に言っても『乱戦』までだろう……。

ならば何故『戦争』と言ったのか……?

 

 

 

「でも、まだまだ人手が足りないみたいでね。おばさん達は、どうにか即戦力になる様な人たちを集めるのに必死みたい」

 

「っ!? まさかお前らーーッ!」

 

「そう……人工的に魔法師を作ることには成功した……その成功例が兄さんだ……。

そして、その魔法師から新たに魔法師を作るのは簡単だよね?」

 

「…………俺たちみたいな魔法使いの魔法攻撃を受けさせる。またその人が若い人間でなくてはならない」

 

「そうだね。正確には20代までだけどね……だから、その中でもおばさん達は、有能な若者を集めて魔法師部隊でも作るみたいだよ」

 

「ッ!!!!!」

 

 

 

やはりそう言う事だった。

大体の事は把握したが、しかし何故そんな規模でやる必要があるのか……。

 

 

「何が目的だ……」

 

「さあ? 僕はただの実行役にすぎないからね。正確な理由は、おばさんに直接聞いてみてよ」

 

 

 

そう言うと、イチカはそのまま後ろを振り向き、歩き去ろうとする。

 

 

「逃げるのか」

 

「はぁ? 逃げる……勘違いしないでよ兄さん。このデパートを僕の結界に閉じ込めた時点で……僕の勝ちなんだよ?

まぁ、兄さん一人ぐらいなら、破るのは容易いだろうけどねぇ……それに、ここで兄さんを倒すのも勿体無いじゃない。

僕たちが戦うのは、もっと先の楽しみに取っておくよ」

 

「チッ……」

 

 

 

どこか食えない表情に、一夏も流石に動けなかった。

やがてイチカはそのまま来た道を歩いて去った。それと同時に彼が覆っていた結界は消え、周りには人の気配を感じる。

一夏は急いでトワイライトをISの拡張領域に収納して、急いで鈴を探しに行く。

 

 

 

「鈴……頼む、無事でいてくれ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと、お店お店……あっ、あった!」

 

 

 

デパートに結界が張られる前。

鈴は、あるお店向かっていた。そこは、女性専門に作られたアクセサリー関係の店。

そこには女性客専用に作られた店であるため、女性客に受けのいいアクセサリーを多く取り揃えている。

 

 

 

「うーん悩むわねぇ……あいつに合う奴あるかな……」

 

 

 

鈴は今、一夏に贈るプレゼントを買いに来ていた。

鈴とて女の子。お洒落に興味があるし、最新のファッション情報を得るために、ルームメイトやモデル業をやってるセシリアなどからファッション雑誌を見せてもらったり……。

色々と勉強はしているのだ。

 

 

 

「えっと……一夏には、これがいいかな!」

 

 

 

お店に入ってから、あまり時間を掛けずして、鈴は即座に一夏に贈るプレゼントを選び取った。

鈴曰く、直感で選んだ方が色々悩まないので気楽なんだそうだ……。

 

 

 

「ついでに私もなんか買って行こうかなぁ〜」

 

 

再び店内を歩く。

そしてまた直感を信じて、自分が買いたいものを即決で買う。

 

 

「よしよし!」

 

「あのぉ〜、お嬢ちゃん?」

 

「はい?」

 

 

 

急いで一夏のところへと戻ろうと思っていると、突然後ろから声をかけられる。

何事かと思って後ろを振り向くと、そこには皺だらけの顔に、曲がりに曲がった腰を杖で支えているいかにも老婆と思しき人が立っていた。

 

 

「は、はい……何か用、おばあちゃん?」

 

「あい……そのぉ〜、お嬢ちゃん、ここにはどうやって行けばいいのかねぇ……?」

 

「ん?」

 

 

 

そう言うと、老婆は鈴に対してデパート内のお店情報が載っているパンフレットを差し出し、目的地となるお店を指差す。

 

 

 

「あー、これならさっき通りかかったところだわ。案内してあげようか?」

 

「おお……っ、本当かい? ありがとうお嬢ちゃん」

 

「いいっていいって。あ、ちょっと会計終わらせてくるから、少し待ってて!」

 

「あい……ゆっくりでいいからねぇ〜」

 

 

 

 

ゆっくりでいいからと言われたが、そんなに時間がかかることも無いので、鈴は急いで会計を済ませた。

そして約束通り、店の前で待つ老婆を連れ、老婆が行きたいと言った場所まで一緒に歩いた。

 

 

 

「ありがとねぇ〜。ホントお嬢ちゃんみたいな親切な人を見つけられて良かった……!」

 

「大袈裟ねぇ……。他にだっていっぱいいるでしょうに」

 

「いやいや、お嬢ちゃんじゃなきゃダメなんだよぉ」

 

「そ、そう……? まぁ、そう言ってもらえると、嬉しくなくも無いけど……」

 

 

 

 

若干照れながら、鈴は快調に目的地まで誘導する。

すると、目的地の近くまで来て、もう一度地図と参照しながら歩く。

 

 

 

「ええっと、確か……ここを左に……」

 

 

 

地図の場所と今自分達がいる場所を照らし合わせ、ようやく近くまで来た様だ。

そして、左に曲がれば、ようやく目的地にたどり着く……そう思った。

だが……

 

 

「あ、あれ?」

 

 

 

目の前にあるのは、ただの壁だった。

 

 

 

「あ、あれぇ?!」

 

 

 

鈴は目を疑った。

そうだ……さっきまで、老婆が指さした場所があったはずなのだ。パンフレットの地図にもそう書いてある……。

確かに自分達は、この場所……目的地の目の前にいるはずなのだ……そう思ったのだが……。

 

 

 

「え、ええ?! なんで?」

 

 

 

たった数分で店そのものが消えることなんて、どう考えてもおかしな話だ。

自分の見間違い? いや、それは無い。何故ならその店を数分前に横切っている……この目で見ている。その場にいた店員の声も、お客さんの声も聞こえていた。

だが、今はただの壁。あるのが不自然だと思うくらいにそり立った壁しかない。

 

 

 

「何がどうなってのよ……あ、そうだ……隣の店の人に聞けば!」

 

 

 

我ながら名案だと思った鈴は、すぐに隣接しているお店に入って、店員に話を聞こうと思った。

だがそこでも、鈴は驚くべき光景を見た。

 

 

 

「あの! すいませぇ……ん……え?」

 

 

 

中に、誰もいなかったのだ。

もぬけの殻、無人の店内。

 

 

「え、ええ!? な、何何! なんなのよぉ〜!」

 

 

何かのドッキリか……。にしては派手過ぎる仕掛けだ。

おかしいと思い、鈴は周りを見渡した。

そこには薄くかかった霧と、無人の店舗が立ち並ぶだけ……。

 

 

 

「は、はあ? 何が、どうなって……」

 

「お嬢ちゃん」

 

「ヒィッ! ってなんだおばあちゃんかぁ〜……びっくりした」

 

「うふふ、ごめんなさい」

 

「それよりおばあちゃん、今すぐここから離れないと!」

 

「あら? それは何故?」

 

「なんか嫌な感じがする……おばあちゃんも一緒に逃げよう」

 

「うふふ……大丈夫。そんな事しても、何も起きないわ」

 

「は、はあ? 何を根拠に?」

 

「だって、これはお嬢ちゃんの為にしたものなんだもんーーーー」

 

「へぇ? ーーーーぐうっ!?」

 

 

 

突如、弓なりに体を曲げる鈴。

その原因は、老婆が持っていた杖が、腹部に思いっきり捻込まれていたからだ。

 

 

「がっはあ!!?」

 

「いや〜ごめんごめん……ちょっと強くやり過ぎたかなぁ?」

 

「くっ……!」

 

 

 

腹部を抑え、なんとか顔だけでも見ておこうと、鈴は顔を動かし、横目に老婆の姿を見た。

だが、そこにいたのは老婆ではなく、派手な髪色をした青年だった。

 

 

 

「へ……? あんた、一体……」

 

「おっと、あんまり喋んなよ? 大声出すと切れちまうから……」

 

「何言って……あっ……うう……」

 

 

 

相手の意図がわからず、立ち上がろうとしていた鈴に対して、青年は鈴の首に手を置いた。

そして何をしたのかわからないが、急激に意識が飛ぶのを鈴は感じた。

 

 

「い、一……夏……っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ! 鈴?」

 

 

 

 

呼ばれた様な気がした。

何かのテレパシー……そんな物を信じてはいないが、魔法がある時点で、そんな物を信じる自分もいた。

今のは間違いなく鈴の思念だろう……。

そうであってもらいたい。だが、今のは結界が消えた直後というよりも、時間差を置いてからの物の様に思えた。

 

 

 

「ん…………微かに魔力の残滓を感じる……こっちか!」

 

 

 

魔力を感じたということは、十中八九魔法使いが関わっている。

しかし今回は不特定多数の一般人や、企業や研究施設ではなく、鈴一人を捉える為に動いていた様だ。

そのためだけに行動する意図が読めないが、それでも鈴の救出が先だった。

外は暗くなり始め、人も大分減りつつはあるが、それでもまだデパートのモール内には大勢の人がいる。

もしも人質として鈴が攫われたというのなら、その監禁場所としてデパート内にするのはまずないだろう……。

人が多く、派手に動けない上に、お得意の魔法をあまり部外者に見せるわけにもいかない……ならば、別の場所へ移動したと考えた方が現実味はある。

 

 

 

 

「魔力の残滓があるなら、可能な限り追っていけば……っ!」

 

 

 

 

正直魔力を感知すると言っても、一夏は回避魔法の能力であって、そういった解析が得意な魔法使いではない。

せいぜい感じ取れるのは、魔法を使った痕跡くらいだろう。

 

 

 

「どうする……このままじゃ鈴が……!」

 

 

 

考えたくない。

自分が攫われ、改造されたのは我慢できたし、どうとでもなれと思っていた部分があったが、自分ではなく他の大切な人が、そういう事に陥っていると考えると……胸が張り裂けそうだった。

 

 

 

「くっ……鈴は、こんな苦しみを、三年間も味わってたのかよ!」

 

 

 

今ならわかるかもしれない……鈴が受けていた苦痛が、辛さが……。

 

 

 

「ここで一旦魔法を使ったみたいだな……」

 

 

 

一夏は微かに捉えられる魔力の残滓を辿っていき、鈴が襲われ拉致された場所まで来ることができた。

だが、そこに来て、魔力の残滓を感じられなくなった。つまり、一夏に追跡できるのは、ここまでと言っていい。

 

 

「くそっ! 他に……他に何かないのか……!」

 

 

 

一夏が必死で周りを見渡していると、そこにある人物が目に入った。

金髪の髪を後ろで束ねた最近転校してきたばかりの優等生。

 

 

 

「あれは……シャルルか?」

 

 

長袖のズボンにポロシャツと、好青年っぽい格好のシャルルを見つけ、一夏は急いでシャルルのものに向かった。

 

 

「シャルル!」

 

「ん? あれ、一夏! どうしたの、そんなに慌てて」

 

「なぁ、シャルル……鈴を見かけなかったか?」

 

「鈴? いや、見てないけど?」

 

「そうか……悪りぃ、それだけ聞きに来たんだけなんだ。シャルルは、買い物か?」

 

「う、うん、まぁね……! でも、大丈夫? 鈴と連絡つかないの?」

 

「あ、ああ……たぶん、携帯が繋がらないだけだとは思うが……まぁ、きっと大丈夫だろう。俺も、もう少し探してみるし……」

 

「そ、そう? ならいいけど……」

 

 

 

そう言うと、一夏はまた振り向き、走り出す。

 

 

 

 

「それじゃあ、俺はこれで! ショッピング楽しんでな!」

 

「あっ! ちょっと、一夏待っーーーー」

 

 

 

シャルルは手を伸ばしたものの、その声が一夏の耳に届くことはなかった。

まるで電光石火の如く、足早に客の合間を縫って走り去る一夏の背中を、シャルルは黙って見ていた。

 

 

 

「全く……僕も一緒に探すくらい手伝うよ……」

 

 

 

シャルルはそう呟き、ショッピングモールの外に出た。階段を登り、屋上の駐車場に登ると、監視カメラの死角になる部分に素早く入る。

 

 

 

「リベレイトーーーーッ!」

 

 

 

その言葉の発生後、シャルルの周りを黄色の魔法粒子と、神速の魔法陣が形成し、取り込んだ。

 

 

 

「索敵を開始……範囲10キロ圏内……!」

 

 

 

 

 

 

 

その頃一夏は、外が暗くなり、あたりで人通りが少なそうな場所を探していた。

一応、姉である刀奈にはメールで連絡した。

メールの返信は待たない。その間にも、鈴を探しに走り回る。

 

 

 

(どこに連れて行く……人気のないとこ……だがこの近くでそんな所あったか?)

 

 

周りを見渡したが、それらしい建物は見受けられない。

ならば、もっと遠い所だろうか……。

 

 

 

(…………待てよ……この近くだったら……)

 

 

 

一夏はある望みをかけて、ある地に向かって走り去る。

高速で突っ走り、時折路地裏に入っては、ビルの隙間を飛び上がって、屋上と屋上を飛び越えながら走り抜ける。

 

 

 

「あそこは……」

 

 

 

走りすぎて数分後……。

一夏はある場所にたどり着いた。

そこはすでに、ある種の要塞の様になっていた。

 

 

 

「結界か……」

 

 

その場の近くには、たった一本の階段しか道がない。

魔力を感じるのは、その階段を上った先……ならば登ればいいのだが、どうやら “階段以外の他の場所から登ることができなくなっているのだ” 。

 

 

「ちっ……ってことは、目の前の階段を登るしかねぇってことかよ……しかも……」

 

 

 

今日一番に一夏の顔が鋭くなった。

 

 

 

「なんだってこの場所なんだよ……っ!」

 

 

 

そう言って、一夏はその足で、“懐かしい石段を走り抜ける” ……懐かしの場所……『篠ノ之神社』の石段を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……んんっ……」

 

「おや? お目覚めかい、お嬢ちゃん?」

 

「ん……ぁあ……ここは……?」

 

 

 

畳の匂いがする。

それと同時に、どこか古臭いタンスのような匂いも……。

その時、鈴の意識は覚醒した。まず確認したのは、体がどうなっているか。

どうやら拘束されている様だった。両手を固く縛られ、近くにある柱に縛られている様で、ちょうど万歳をしている状態だ。

脚は自由がきくが、手が縛られているのではどうしようもない。

そして次に、ISの待機状態。右手首につけていたブレスレット型の待機状態。視線を上に向け、そのブレスレットがある事を確認し、一安心する。

 

 

 

「あーIS? 大丈夫だよ、別に俺っちそんなの興味ないからさぁ〜」

 

「…………で? あんた何者よ」

 

「およ? 以外と冷静だね……。まぁ、君たち代表候補生? は軍の訓練も受けるんだっけ……なら納得だね」

 

「まだあたしの質問に答えてもらってないんだけど? あんたがさっきの……お婆さんなの?」

 

「フッ……いい読みしてるさぁ〜……!」

 

 

 

目の前の青年は、まず見た目がやばい。

オレンジに近い髪色に、顔には変な刺青が……左目の周りに、アルファベットのDの様な形の黒い刺青だ。

そして話し方。日本語は割と流暢なのだが、どこかバカにした様な話し方だ。

そんな彼が、少し鈴に近づいて来る。

鈴は何も出来ないが、反射的に体に力を入れた。すると、彼は腰から二本の蛮刀……『ククリ刀』と呼ばれる物を取り出すと、途端に体から青紫色の光が溢れ出す。

 

 

 

「な、なに……?」

 

「《オーバーレイ》ーーーー!!!」

 

「へぇ……!?」

 

 

 

その光の粒子が青年を包み込み、やがて光が明ける。

そこには、鈴が先ほどまで相手をしていた老婆の姿をしていた。

 

 

「え? はぁ……? な、なに、どうやって……!」

 

「驚いたかいぃ? お嬢ちゃん……」

 

「な、何なのよ……これ……!」

 

 

驚いている……鈴は今、自身の目の前で起こっていることに、ただただ驚くだけだった。

なぜなら、背丈や声はもちろん、その体の肉付きやシワ……その体の一部分だけを見ても、それが本物の人間の肌や質感だったからだ。

そんな鈴の表情を見て、青年はケラケラと笑うと、再び光の粒子を纏って変身して見せた。

 

 

 

「あっははは! これやるとみんなそんな顔になるのよさぁ〜! ビックリした?」

 

「な、何なのよ今の!?」

 

「君たちが知っている物だけが、世界の全てじゃないってわけさぁ〜」

 

「はぁ……?」

 

「今の俺っちは、ISみたいな科学的な装置も力も一切使ってないよ……」

 

「じ、じゃあ、どうやって……!」

 

「さぁ〜何でしょう?」

 

「っ………………」

 

 

 

どこか戯けた様な姿に苛立ちを覚えたが、ここで彼の機嫌を損なうのは得策ではないと判断し、そのまま押し黙る。

 

 

「答えは……魔法でしたぁ〜!」

 

「…………はぁ?」

 

「まぁまぁまぁそんな反応だよなぁ〜。でも実際に魔法は存在するのよさぁ〜。

なんせ、お嬢ちゃんの近くにもいるんだぜ? 魔法使い達は……」

 

「はぁ? なに言ってのよあんた。そんな奴いるなら直に見てみたいわね……」

 

「だから見てるんだって……さっきも、ずっと一緒にいたじゃない」

 

「……え?」

 

 

 

さっきまで一緒にいた人物。

目の前にいるこの青年……いや、彼より前、ずっと一緒にいた人物……それは……。

 

 

「そ、そんな……馬鹿なこと言わないでよ! いくら何でも、一夏が魔法使いって……!」

 

「じゃあ何であいつはいきなり変わったんだ?」

 

「…………」

 

「あいつは双子だったよね……そう、あの織斑 千秋との……」

 

「あいつなんかと一夏を一緒にしないでっ!!」

 

「うおっ?! オーケーオーケー、ごめんごめん。話を戻すぜ? そして織斑 一夏……今は更識 一夏って名乗ってるだっけか……。

お嬢ちゃんはいつ、その一夏くんが変わったのか……もう分かってるだろう?」

 

「そ、それは…………」

 

 

 

可能性として考えられるとしたら、小6に上がる前……突然一夏が消えた時だろう。

そして再会するまでに三年間……その間に、あんなに変わってしまった。

 

 

「あんた達の所為なの……っ!?」

 

 

 

鈴は強く睨んだ。

たとえ殺されそうになろうが構わない。ただ、一夏の身に何かしたのなら、とてもじゃないが許せないと思った。

 

 

 

「生憎だけど、俺っち達はなにもしてないよ? つーか、その研究者達も、覚醒した一夏くんが殺しちゃったらしいけどねぇ」

 

「……それで? ここどこ」

 

「ん? 近くにあった神社の中。えっと、なんて名前だっけ……俺っち漢字苦手なんだわ……えっとこう書いてあったんだけど……」

 

 

 

そう言うと、青年は近くにあった紙になれない手つきで文字を書く。

 

 

 

「これ……篠ノ、之?」

 

「そうそう、それだ! シノノノ神社だ!」

 

「何でこんな所に!」

 

「結界張るのに便利な場所にあったからさ。さて、もうそろそろ来るんじゃないかな?」

 

「来るって……まさか、一夏!?」

 

 

外に耳を傾ける。

すると微かだが、鉄と鉄……いや、もっと硬い鋼と鋼が激しくぶつかり合う様な……剣戟の音が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んっ!?」

 

 

 

石段を登っていた一夏。戦闘に備えて、ISの拡張領域から胸当てとトワイライトを取り出し、リベレイトして構えていた。

だが、その途中で、行く先に人影を見つける。

見たところ和装で、手には刀が、背中にはそれを納める鞘だろうか……。

 

 

 

(太刀……いや、もっと長い。トワイライトの刀身変化でも、あんな長いのは見た事がないな……)

 

 

 

目測で4……いや、5メートルはあるだろうか……鋒から柄頭までの長さが異様に長い刀。

そしてそれを握り、上から悠々とした表情で一夏を見る時代錯誤の様な侍。

 

 

 

「……何者だ」

 

「亡国機業の魔法師……佐々木 小次郎」

 

「っ!?」

 

 

 

それは本名だろう……。しかし、それは問題ではない。まさか名前だけではなく、はっきりと自分の所属を言ったのだ。

それも敵対している組織『亡国機業』という名を……。

そして、『佐々木 小次郎』という名は……

 

 

「…………そっちが名乗ったのなら、こっちも名乗らないとな。その上でそこをどいてもらうぞ、佐々木殿。俺の名はーーーー」

 

「よい」

 

「っ……?」

 

 

名乗ろうとした時、小次郎はそれ止めた。

やがて上からゆっくりと降りてくると、その長い刀……『物干し竿』と蔑称される刀を、正眼に構えた。

 

 

 

「相手を知るのに言葉はいらん……互いに剣士、ならば語るには…… “コレ” 一つで充分であろう?」

 

「くっ……」

 

「では始めようか……ここを通りたければ、押し通れ……少年」

 

「…………いいぜ、後悔すんなよ‼︎」

 

 

 

一気に一夏が駆ける。

その瞬間に、トワイライトのトリガーを引いた。

藍色の魔法粒子が刀身を覆い、やがて刀身の姿が見えなくなる。

《ユニオン・イリュージョンブレード》

マドカの魔法を閉じ込めていた弾丸を撃ち、トワイライトは姿を変え、太刀の形へと変貌し、さらには幻術魔法を用いて刀身そのものを透明化させた。

トワイライトの刀身が変わり、姿を隠した剣。少しばかり卑怯だとは思ったものの、今はそんな事を気にしている場合ではない。

 

 

 

「はあああっ!」

 

「ふっ…………むんっ!」

 

 

 

小次郎が一夏の上段からの一撃を受け止め、まるで時計回りの要領で交錯した両刀を動かす。

一夏のや体勢が少し崩れたところに、すかさず横薙ぎ一閃。

一夏の首めがけて放たれた刃を、一夏は素早くトワイライトをねじ込んで、その一撃を防ぐ。

だが、小次郎が側面に周り、より一層横薙ぎに力を入れる。

このままではやばいと思った一夏は、物干し竿の刀身を流し、一旦距離をとる。

しかし、物干し竿の長さはゆうに5メートルはある。

流された剣を、小次郎はそのまま上段に持って行き、それを振り下ろす。

間髪入れずに右薙に一閃。この二つの斬撃を、一夏はかろうじて避けた。

だが、どれもこれもギリギリで躱したもので、小次郎の剣が振るわれる度に、一夏はより一層の警戒心をあらわにする。

 

 

 

 

(どうなっている……? 重さ、威力、速度……全部俺の方が上回っているのに……!)

 

 

 

小次郎から少し離れた位置から見上げていた一夏。

数度剣を合わせただけで、この『佐々木 小次郎』という男の技量に驚嘆させられた。

その小次郎はこれまた悠々とこちらを試すような表情でこちらを見ている。

その涼しげな顔を崩してやろうと、一夏は再び駆け出す。

 

 

 

「てえやあああっ!!!!!」

 

 

 

上段からの一撃。そこから数回の乱撃を放つ。

だが、これも小次郎の刀で阻まれる。そして今度は逆に、一夏の剣戟を弾き、向こうから反撃の一撃を放つ。

これは一夏も反応し、トワイライトで受け止め、剣戟の勢いを利用して再び後退する。

 

 

 

「くっ……!」

 

「いやお見事。その首、七度は落としたつもりでいたが、未だについているとはな……。

その若さでここまでの剣技……感服するほかないな」

 

「そちらこそ、そんな扱い辛そうな刀振っているのに、結構見応えがあるな……まぁ、小細工だけは達者のようだ」

 

「応さ! “力” を “気合” もそちらが上……ならばこちらの見せ場は “上手さ” だけよ。

その見えぬ剣にも時期なれる頃合いだ……!」

 

「んっ……!」

 

 

 

 

皮肉を皮肉で返したつもりでいたが……どうにも調子が狂う。

それに、見えていない今のトワイライトの刀身を、目の前にいる小次郎はすでに把握し始めている。

驚異的な剣の才に、流石の一夏も認めるしかなかった。

 

 

 

(この男、剣技にかけては俺よりも遥かに上か……!)

 

 

 

認めたくはなかったが、その事実は揺らがない。何故なら、それを今身をもって体感しているのだから。

 

 

 

「では続きと行こう。いよいよ加減のやめ時だぞ、少年?」

 

 

八相に構え、鋒を小次郎に向ける一夏。

その視線は、小次郎より後ろ……篠ノ之神社の鳥居に向けられていた。

 

 

(頼む鈴……無事でいてくれーーーー!!!!)

 

 

 

 

 

 

 

「おうおう、どうやら一夏くんは押されてるみたいだねぇ〜」

 

「はぁ? 何でそんなことわかんのよ」

 

「そりゃあまぁ……その一夏くんとやりあってる剣士は、凄腕だからねぇ〜」

 

「っ……それでも、一夏は負けないわよ!」

 

「はっはぁ〜! そうだね。さぁ〜て、勝つのはどっちか……」

 

 

 

ニヤリと不気味な笑みを浮かべながら、青年は窓の外で今まさに斬り合っている一夏たちを見ていた。

 

 

 

「おっと……そう言えば、まだ名乗っていなかったね」

 

「え?」

 

「俺っちの名前……俺っちの名は『ハイヤ』さぁ。まぁ、覚えてもらわなくてもいいけどさぁ〜」

 

「ハイヤ……」

 

「まぁ、なんだ。お嬢ちゃんを連れてきた事は悪いとは思ってるよ? けどさぁ〜これも仕事だから……もう少し大人しくしておいてくれよ」

 

「大人しくもなにも、あんた達は一体何をしようってのよ……」

 

「ん? まぁ、今回の任務は、更識 一夏を抹殺してこいって話だったんだけど……」

 

「何ですって!?」

 

「まぁ上も色々と警戒してるんじゃない? 自分たちの計画を潰される可能性が高い者を排除しておきたいのさぁ」

 

 

 

 

一体その計画とやらが何なのか、鈴にはどうでもよかったのだが、まず懸念すべきは一夏の抹殺をどうやって防ぐかだ。

目の前の青年……ハイヤの言っていることが本当なら、今一夏と戦っているのはとんでもない化け物剣士と言う事だ。

近接戦では、一夏は無敗と言ってもいいと思う。未だかつて、IS学園の模擬戦、行事における公式戦でも、負けた事がない。

そんな一夏とまともにやりあえる人間はそういないと思っていたが……。

 

 

 

(一夏……無事よね? あんたが、あんたがこんなところで負けるなんてありえないわよね……!)

 

 

 

届くとは思えない願いを、鈴は必死に祈った。

一夏が死なないために……一夏を死なせないために……。

 

 

 

「あーしっかし暇だわぁ〜……。とっとと終わって、俺っちとも戦わせろって感じなんだけど……!」

 

 

 

少しばかりイライラした様な口調で言うハイヤ。

ドカッとタンスを軽く蹴ったり、外の様子をチラチラ見たりと、少しばかり落ち着きがない。

やはり、たとえ今の剣士を倒したところで、このハイヤが一夏に立ちはだかろうというのだ。

 

 

 

(このままじゃ、一夏が……っ! 誰か、誰でもいい……! 一夏を助けて!)

 

 

 

その誰かに向けて放たれた願い……。

だが今度は、それがしっかりと届いた……。

 

 

 

「そんなに退屈してるなら……僕が相手をしてあげようか?」

 

「あぁ?」

 

 

声のして方向へと視線を向ける鈴とハイヤ。

そこに立っていたのは……

 

 

 

「僕でよければ、相手してやってもいいよ?」

 

「誰だよ……お前……!」

 

 

 

殺気立った目つきでそこに立っている少年を睨む。

金髪の髪を後ろで一本に結び、ジーンズにジャケット……カジュアルな服装とその髪が、驚くほどマッチしていた。

そして両手には、少年の雰囲気とはあまりにも不釣り合いな、黒い拳銃が二丁……。

 

 

 

「こんばんは、シャルル・デュノアって言います。さてーーーー」

 

 

 

先ほどの普段と変わらないシャルルの声色が、一気に変わり、こちらも殺伐とした、敵を射殺す様な殺気を飛ばすような声を発した。

 

 

 

「鈴を返してもらおうか、テロリストーーーーッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 





ええ、バーサーカーに引き続き、アサシンも登場!
もう他に出てくる人はいないと思うけど……まぁ、また出てくるかもしれないと思ってください……(汗)

感想よろしくお願いします(⌒▽⌒)


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