IS〜異端の者〜   作:剣舞士

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意外と早く更新することができた!




第30話 思い出巡り

「さあ、とことん遊び倒すわよぉー!」

 

「お、おう……」

 

 

現在一夏と鈴の二人は、海沿いにあるIS学園から離れ、内陸の都市部に来ていた。

今日は日曜日。

学園は休みであり、学園で過ごす生徒たちも休みを思い思いに過ごしている。

勉学に勤しむ者もいれば、部活動に汗を流す者。本格的にISの操縦技術の向上を目指して、朝から訓練に参加している者。

そして、遊びに行く者。

 

 

「ほらぁ、元気出しなさいよ」

 

「ああ……」

 

「…………相当堪えてるわね」

 

「当たり前だ……あんな公開処刑(ファッションショー)を受けたんだ……まともに学園生活をおくれるかよ……」

 

「あはは……」

 

 

 

げっそりとした表情で、肩を落としている一夏。

その原因は、言わずも知れたファッションショーという名の公開処刑だ。

昼休みは丸々着替えさせられ、放課後も二時間以上も着替えさせられ、写真を撮られ、愛でられた。

元々が少女のような顔立ちと姿であるため、わからなくもないが、そんな苦労人の一夏の様子に、苦笑いを浮かべる鈴。

 

 

 

「ほんと勘弁してほしいぜ……。これじゃあ俺の男としての威厳が……」

 

「威厳なんてあったの?」

 

「あったよ!?」

 

 

 

一夏は男として生きたいと思っているのだが、周りがそうさせてくれない。

特に姉が……。愛玩動物と勘違いしているのではないだろうか?

 

 

 

「まぁ、そんな事はどうでもいいじゃない」

 

「どうでもよくはない!」

 

「もう! せっかくのデートなんだから、シャキッとしなさいよね!」

 

「わ、わかってるよ……」

 

 

 

 

鈴にしては珍しく、ミニスカートを履いてきていた。

その上は、ジーンズ生地のジャケットに、鈴の印象に合うオレンジのシャツ。

今時の女子高生らしいラフであり、可愛らしい格好をしている。一夏の中での鈴は、小学生の頃で止まっている為、成長した幼馴染の姿に、思わずドキッとしてしまった。

 

 

 

「なによ、赤くなっちゃって……」

 

「赤くなんかなってねぇよ……」

 

「なってんじゃないのよ……。なに? もしかして惚れた?」

 

「バァ〜カ。そんなんじゃねぇよ」

 

「なによぉ〜!」

 

 

 

トレードマークのツインテールが逆立って見える。

こう言うところは、幼い頃の印象のままだ。だからこそ、鈴だと確信できる。

こうしていると、昔を思い出して、自然と笑みがこぼれる。

 

 

「にしても、あんたも中々様になってるじゃない」

 

 

 

そう言って、鈴は一夏の服装を見る。

ジーンズに白いシャツ。その上から黒い七分袖の黒いジャケットを羽織った一夏。細身の体にジーンズがよく似合うし、薄桜色の長い髪と、黒のジャケットが程よいくらいにマッチしている。

 

 

「そうか? ならよかったけど……」

 

「でも、やっぱりその長い髪がねぇ……」

 

「やっぱり、女に見えるか?」

 

「そうねぇ〜。まぁ、声は男だし、普通に話していればいいでしょう。ほら、行くわよ! 時間は有限なんだから」

 

「ああ……そうだな」

 

 

 

こうして、二人のデートが始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

「まずはどこに行くんだ?」

 

「そうねぇ……ちょっと、思い出に浸っていい?」

 

「思い出?」

 

「そう。あんたにも、いろいろと見せたいって思ってたから……」

 

「そうか。いいぜ、今日はお前に付き合うって決めたんだ……どこにでも行くさ」

 

「いい心がけね。じゃあ、行くわよ」

 

 

 

二人で手をつなぐ。

これも小学生以来だ。昔はよく、鈴が一夏の手を引いて、いろんな所に連れ出された記憶がある。

他の女の子達よりも活発で、男勝りな鈴だった。

いろんな所へと足を運んでは、日が暮れるまで遊んだと、一夏は昔を振り返った。

そうなって、鈴に手を引かれて数十分。

とある場所に来た。

 

 

 

「ここ、覚えてる?」

 

「ここって確か……!」

 

 

 

目の前には、小高い丘が見える。

そこには石造りの階段があって、大きな鳥居が見受けられる。

そう、神社があったのだ。

周りは住宅街になっており、都心であるのにどこかのどかで、静かな場所だったというのが第一印象であった。

昔、鈴がいいところを見つけたと言って、一夏を連れてきた場所だ。

 

 

 

「懐かしいな……。まだ残っていたのか」

 

「うん。あたしも、この間ここの近くを通った時に思い出してね。懐かしいなって思って……」

 

「登ってみるか?」

 

「そうね」

 

 

 

 

二人は、ゆっくりと石段を登って行った。

当時は小学生で、今登っている石段を登るのに苦労していたが、今ではそれもない。

互いに成長したのだと、改めて思った。

 

 

 

「おお……っ!」

 

 

石段を登りきった後、そこにある社を見つけた。

その社も、あの頃から変わっていなかった。歴史を感じる木の柱に、過ごして壊れかけの賽銭箱。錆びて青銅色になっている鈴も、それを揺らす為の手綱のボロボロ感も、何もかもが懐かしい。

 

 

 

「よくここで遊んだよな……」

 

「うん。あの頃は、楽しかったなぁ」

 

「確か、この裏に、ちょっとした祠があったよな?」

 

「そうそう! 肝試しって言って、夏祭りに二人でいたわよね!」

 

 

 

そうだ、よく覚えている。

辛い思い出しかなかった自分の過去の中にも、ちゃんと楽しいと思えるものがあったのだ。

今、自分を取り巻く環境が、思いの外変わりすぎてしまって、こんな事を思い出す余裕もなかった。

 

 

 

「そういえば、おみくじもまだ売ってるらしいわよ?」

 

「へぇ〜。試しに引いてみるか?」

 

「そうね」

 

 

 

無人のおみくじ売り場に行き、そこでお金を払い、二人しておみくじを引く。

 

 

 

「わぁ! やったわよ、大吉!」

 

「マジか……! 俺は……んん……」

 

「何よ? どれどれ……」

 

 

 

鈴は微妙な表情でおみくじを見ている一夏の隣から、覗き込むようにして一夏のおみくじを見た。

 

 

 

「末吉……」

 

「ププッ! す、すすす……末吉って……!」

 

「悪かったな……」

 

「プッフフフ……ッ! び、微妙……っ!」

 

「うるせぇな!」

 

「あっははは‼︎ ご、ごめんごめん……!」

 

 

 

大笑いの鈴と、頬を赤く染めて渋々自分のおみくじを見る一夏。

 

 

 

「あ〜……笑った笑った♪」

 

「あっ……そういえばさ」

 

「ん? 何よ?」

 

「ここのおみくじってよ……なんか、結構当たるって有名じゃなかったか?」

 

「そうだったっけ?」

 

 

 

そうだ。確かにそんな噂があったのだ。

それで、小さい頃には多くの参拝客が来ていたはず。

夏祭りはもちろん、大晦日・元旦は長蛇の列ができるほどに……。

今がどうなっているのかはわからないが、それでも信じてしまう。

 

 

 

(まぁ、こんなオカルトに近い物を信じる側じゃなかったんだが……)

 

 

 

一夏は苦笑いをしながら、自分の髪をいじる。

 

 

 

(魔法なんて言う一番オカルトっぽい物を、一番最初に使った俺が言える立場じゃねぇな……)

 

 

 

おみくじを馬鹿にした因果応報なのではないかと、少しばかり怖くなった一夏であった。

そして、肝心なおみくじのそれぞれの運勢を見る。

すると、ある気になる所に注目した。

 

 

 

(《恋愛》……恋人が危機、注意すべし……なんだ?)

 

 

 

こんな事が書かれていたのだ。

恋人……はいないし、危機というのはどの程度の危機なのだろうか?

 

 

 

「鈴、お前のはなんて書いてあったんだ?」

 

「ん? まぁ、概ね大吉にはありがちなもんが書いてあるだけね……あっ、でも……」

 

「なんだ?」

 

「ここなんだけどさ……」

 

 

 

鈴は、自分の引いたおみくじを、一夏に見せる。

確かに鈴の言った通り、おおよそ大吉を引いた人が誰しも見た事のある事が書かれており、普通と変わらないと思っていたが、鈴が指さしたところだけが、なんだか違和感を感じた。

 

 

 

「《旅行》……長居は無用、早々に帰るべし……なんだ、これ?」

 

「日帰り旅行なら、いいって事かな?」

 

「そう言うものなのか?」

 

「わかんないわよ。でもまぁ、旅行に行く予定もないし、ましてやただのおみくじだしね」

 

「馬鹿にしてると、天罰が下るぞ」

 

「ハッ、そんなもの、落とせるものなら落としてみなさいっての」

 

 

 

そう言って、二人は来た道を帰る。

まだ夏には早いが、少し暑さを感じるようにはなってきた。

夏になれば、またいろいろと忙しくなる。

臨海学校では、新武装のテスト稼働をしなくてはならないし、一度実家に戻って両親の顔を見に行くのも忘れてはならない。

 

 

 

 

「それで、次はどこに行くんだ?」

 

「えっとねぇ〜……。こっちよ!」

 

 

 

 

再び鈴が一夏の手を引っ張って、次の目的地まで移動する。

歩いて移動している途中、幾度となく住宅街の中を通り抜けてきた。

その時、その住宅街に住んでいるであろう子供たち会う。

今日が日曜日という事もあって、外に遊びに行く子たちが多い。

その光景を眺めていると、子供達の方から手を振ってきた。一夏も自然と手を振り返した。

子供達は笑顔で走っていき、やがて見えなくなる。

 

 

 

「ここよ」

 

「ん?」

 

 

 

 

歩いて数分。

目の前にあったのは、学校だった。

 

 

 

「なんで学校? しかも、ここ中学じゃないか」

 

「そう! ここが私の通ってた中学校なのよ!」

 

「何?! そうだったのか……!」

 

 

市立の中学校。

遠目から見た限りでは、割と綺麗な校舎だ。

しかし、これでもかなりの歴史を誇る学校なんだとか……。

近隣の小学校か四つもある為か、ここの中学校に通ってくる子供達も多いらしく、一学年に200人以上の生徒がいるらしい。

 

 

 

「ここがお前の母校って事か……」

 

「うん。まぁ、私は中二で中国に帰っちゃったから、ここを卒業してないんだけどね……」

 

「でも、なんで中学校なんか見せたんだ?」

 

「だって、ここはあんたも通うはずだった中学だからよ……」

 

「っ! そ、そうか……」

 

 

 

遠い目で、鈴が学校の校舎を見つめていた。

そうだ……本来なら、一夏もここに入学して、鈴と一緒に過ごしていたはずの予定だった。

おそらく小学校の頃からいた、千秋を取り巻く輩の相手を、ここでもしなくてはいけなかったのだろうが、それでも、鈴と一緒だったなら、それでも楽しい学校生活を送っていたと思う。

 

 

 

「って事は、千秋もここの出身じゃないのか?」

 

「あーうん……。そうよ、あいつも一緒。まぁ、今とほとんど変わらないわよ。あの傲慢かつ上から目線で、腹立つ態度だったし……。

でも、クラスは一緒になった事はないわね。だから、クラスマッチとかで球技をやった時なんかは、けちょんけちょんにしてやったけどね♪」

 

「はははっ! 目に浮かぶな、それ!」

 

 

 

ほんと、目に浮かぶようだ。

運動神経が抜群にいい鈴は、そう言った体育会系の行事では、最強と言ってよかった。

これは小学生の時の話だが、運動会の時も鈴所属していた団が、数多の競技を勝ち進み、過去最多数得点を挙げ、団の優勝に貢献した事を覚えている。

鈴の性格上、人との関わり方を鈴は知っている……というより、周りから鈴の方へとやってくる。

そして鈴もまた、自分の想いに正直な性格であるため、時折衝突もするが、最後には仲良くなっている。

おそらく、それが団の気持ちを一つにし、一致団結という言葉通りの状況を作り上げたのだろう。

 

 

「どうする? 中、見ていくか?」

 

「入って大丈夫なの? 一応日曜だから、部活もあるでしょ?」

 

「お前、部活とかは入ってなかったのか?」

 

「うん。あたし帰宅部だったし」

 

「それなら、中のいい先生とかいなかったのか?」

 

「居たは居たけど……でも、その先生も、今この学校にいるとは限らないし……」

 

「まぁ、それもそうか……」

 

 

 

帰ろうとしたその瞬間、背後から声をかけられる。

 

 

「あら? もしかして、鈴ちゃん?」

 

「ん? あっ、メグっち!?」

 

「メ、メグっち?」

 

「久しぶりぃ〜〜!」

 

「わあっ!? ほ、ほんとに鈴ちゃんなんですね?! お久しぶりですー!」

 

 

 

鈴と、鈴の知り合いと思しき女性は、ぴったり抱き合った後、互いの両手を掴み、ブンブンと上下に激しく振る。

 

 

 

 

「え、えっと……鈴? その方は……?」

 

「あーごめんごめん。この人は、中学時代担任。栗林 めぐみ先生!」

 

「どうも初めまして、栗林です。よろしくお願いします」

 

「あ、どうも。俺は、更識 一夏って言います」

 

「一夏さんね? よし、覚えたわ!」

 

「あ、はい……どうも……」

 

 

 

目の前にいる鈴の元担任。

髪は日本人らしく黒髪で、肩までの長さまで伸ばしており、ピンクの縁のメガネをかけている女性だ。

その姿に、うちの副担任の顔を重ねてしまった。

どことなく雰囲気も似ている。きっと二人が出会ったら、すぐに意気投合していそうな感じだ。

 

 

 

「それにしてもどうしたんですか? それより! 日本に戻ってきてくれていたなら、連絡くらいしてくれてもよかったじゃないですかぁ〜!」

 

「あー……その、帰ってきてからも、いろいろあって……あはは」

 

 

 

若干涙目ながらに鈴に詰め寄る栗林先生。

うん、やっぱり似ているな、うちの副担任と。

メガネだし、背は割と低い方だし、胸は……うん、似てると思う。

 

 

 

「ちょっと……何を考えてたの……?」

 

「えっ?! い、いや、なんでも?」

 

「なんで疑問形なのよ?」

 

 

 

 

鋭い目つきで睨んでくる鈴。

あれ? 心の声が聞こえていたのかな?

と、その間にも、鈴と栗林先生はそのまま互いの近況報告をしていた。

そもそも、鈴と栗林先生が会ったのは、中学一年の頃からだそうだ。

一夏がいなくなり、落ち込んでいた鈴を、幾度となく励ましてくれたのが、この栗林先生だそうだ。

栗林先生自身も、この中学校の卒業式のようで、大学の教習過程をクリアし、新任教師として、この中学に入ったばっかりだった。

バスケをやっていてらしく、着任と同時にバスケ部の副顧問に抜擢されいたようで、当時から運動神経のよかった鈴も、幾度となく勧誘したらしい。

 

 

 

 

「でも、本当に懐かしいですねぇ〜。いきなり中国に帰るって聞いたときは、思わず椅子から転げ落ちましたよ……」

 

「ええ〜……それ、先生の失態じゃん?」

 

「だって、なんの前触れもなくですから。でも、また会えてよかったです!」

 

「私も! あっ、そう言えば、メグっちはまだここで先生やってるの?」

 

「はい。今も二年生のクラスの担任をやってます」

 

「へぇ〜。メグっち真面目だしね」

 

「当たり前じゃないですか! 私先生ですよ?」

 

 

 

胸を張り、腰に両手を当て、ドドンと言い切る栗林先生。

 

 

 

「あっ、それより、お出かけの最中なんじゃ……」

 

「あっ、うん。まぁね……。ちょっと、こいつにいろいろと見せてあげようかと思って」

 

「そうだったんですね。一夏さんは、どこの出身なんですか?」

 

「えっと、一応小さい頃は、ここの周辺に住んでいたんです……鈴とは幼馴染で、中学に上がる前に引っ越したものですから……」

 

「そうだったんですね。鈴ちゃんにもこんな “綺麗な女の子” の幼馴染がいたんですね♪ 初めて知りましたよ」

 

 

 

栗林先生の一言に、鈴は苦笑いを浮かべ、一夏の表情は沈んだ。

 

 

 

「あ、あれ? どうしました?」

 

「メグっち……その、言いづらいんだけどさ……こいつ、男なの」

 

「おと……ええっ!? えっ、ちょっと待ってください?! り、鈴ちゃん、そんな冗談は……」

 

「これが冗談じゃないんだなぁ〜」

 

「…………えっと、本当に?」

 

 

すると、鈴が答える前に、一夏が前に出てきて……

 

 

「んっんん! 改めまして、更識 一夏。男です。この髪は……その、ちょっとした体質でして……よく間違われるんですが……」

 

「わわっ!? ご、ごめんなさい! つい、魅力的な女性だと思って……」

 

「あはは……これはどうも……」

 

 

 

彼女に悪気は一切ないのだが、そこまで言われてしまうと逆に余計傷つく。

 

 

 

「あ、そうだ! どうせなら、中に入っていったら? バスケ部の後輩たちに会っていかない?」

 

「えっ、いいの? でも練習中じゃあ……」

 

「ちょうど今は小休憩の時間だったから、大丈夫よ。鈴ちゃんと仲の良かった後輩たちの顔も見たいでしょう?」

 

「そうねぇ。じゃあお邪魔しようかな……一夏はいい?」

 

「ああ……。問題ない、行こうぜ」

 

「じゃあお邪魔するね、メグっち」

 

「はい、案内しますね」

 

 

 

二人は栗林先生に連れられ、体育館の方へと向かった。

一度事務室に立ち寄り、学校訪問者として申請し、首にその証である証明書をかけ、改めて体育館へと向かう。

グラウンドの方にも、日曜の午前中から汗水を流し、練習に勤しんでいる生徒たちが大勢いた。

野球部にサッカー部、ラグビーや陸上、ソフトボール。そしてそのまた別の場所ではテニス部。武道場まであり、そこには剣道部や柔道部などがある。

体育館の中からも、元気な声が聞こえてくる。

バスケ部以外にも他に体育館を使っている部活があるようだ。

 

 

 

「すごいな……! こんなに部活動が盛んなのか?」

 

「まぁね。結構強豪校らしいわよ?」

 

「そうなんです! バスケ部だって、県大会の常連で、全国クラスの大会に出ることだってあるんですから!」

 

 

 

胸を張って誇らしげにいう栗林先生。

 

 

 

「メグっちはバスケの顧問なんでしょう? 最近の成績はどんな感じなの?」

 

「昨年は県大会ベスト4でした……!」

 

「へぇ〜! やるじゃない!」

 

「なんの! 今年こそは全国に行きますよ!」

 

 

 

こういう先生は、周りからの信頼を得やすいのだろうと、一夏は改めて思い知った。

こんな先生と巡り合えていたのなら、自分もいろいろと変われていたのかもしれない。

と、そんな風に物思いにふけっていると、体育館の入り口まで来ていた。

夏にはまだ早いが、熱気を感じさせる今日の天気。体育館の扉を全開にしているため、中にいた生徒たちの姿を見て取れた。

 

 

 

「みんな〜〜、ちゅうもーく‼︎」

 

 

栗林先生がバスケ部員に向け大声を出した。

バスケ部員たちは当然のように、何事かといった表情で先生を見る。

 

 

 

「今日は先生の教え子が来てくれました! 多分、三年生は知っている人たちと思うよ?」

 

「誰ですか?」

 

「バスケの先輩かな?」

 

 

 

栗林先生が担当しているのは女子バスケ部。ゆえに、中には女子生徒たちが大勢いた。

特に三年生は、誰だろうと若干の興味を惹かれる。

 

 

 

「ジャジャーン! この人です!」

 

「ちょっ!? メグっち、普通に紹介してってば! 知らない子の方が多いんだし……」

 

「あっ!」

「えっ? 誰ですか、先輩?」

 

「鈴先輩だ!」

 

「ええっ?! うそ、マジ?!」

 

 

三年生たちはこぞって鈴の周り集まってきて、取り残された二年生と一年生は、ぽかんとしていた。

 

 

「お久しぶりです先輩!」

 

「いつ日本に帰ってきたんですか!?」

 

「高校、どこですか!? 今度行ってもいいですか!?」

 

「だあああぁぁぁ!!!! いっぺんに喋るな! 聞こえないじゃない!」

 

 

 

元気いっぱいな中学生たちに押され気味の鈴に、一夏も栗林先生も自然と微笑んでいた。

こうして見ると、鈴は本当に人気者だったのだなぁと痛感させれらる。

 

 

 

「あれ? 先輩、この人は?」

 

「ああ……あたしの幼馴染の……」

 

「更識 一夏だ。よろしくな」

 

 

 

爽やかな笑顔で挨拶をする一夏。

すると途端に、全身を硬直させて、その場で固まる部員たち。

 

 

「い、いい……!」

 

「だめ……直視できない……!」

 

「美しい……!」

 

「あ……はあぁ〜〜……」

 

「あ、えっと……どうしたの?」

 

 

 

一夏からしてみれば何もしていないのだが、生徒たちからみれば、今目の前に美しい女神が舞い降りたかのような出来事に感じている。

 

 

 

「あんたが挨拶しただけでこれだしねぇ……ほんと、あんたって、なんか凄いわ」

 

「それ褒めてんのか?」

 

「あっ、あの!」

 

「ん? なんだ?」

 

 

 

 

勇気を振り絞った生徒の一人が、思い切って聞いてみた。

 

 

 

 

「その綺麗な髪は……地毛、なんですか?」

 

「え? ああ、まぁな。ちょっとした体質でね。変かな?」

 

「いえ! そんなことありません! むしろ綺麗です! 可愛いです! 美しいです!」

 

「そ、そうか……ありがとう……」

 

 

 

もう何度になるかわからない微妙なお礼。

だが、こんな事を言ってくるという事は、この子達も一夏の事を女性だと思っている筈なので、そこはしっかりと教えとかなければならないだろう。

 

 

 

「あ、あの……髪、触ってもいいですか?」

 

「あ、ああ……どうぞ」

 

 

 

すると、瞬く間に女子生徒たちに囲まれる。前から後ろから、左右から。一夏の髪に手を伸ばし、指や手のひらで触っていく。

 

 

 

「うわっ……! すごくなめらか……!」

 

「ううっ……同じ女子として、負けた気がする……」

 

「シャンプーは何を使ってるんですか? やっぱり、髪のケアーなんかもしっかりやってるとか?」

 

 

 

次々と質問されるが、ちょうどいいので、ここで言っておこう。

 

 

 

「あの……悪いけど、俺、男だよ?」

 

「「「「………………」」」」

 

 

 

バスケ部員たちが凍りついた。

三年生たちだけではなく、二年生も、一年生も全員だ。

 

 

 

「「「「ええええっ!!!!?」」」」

 

「うそっ! 男?!」

 

「絶対嘘だ! 男でこんな綺麗な……」

 

「美少女じゃなくて、美少年だったってこと?!」

 

 

 

ある程度予測していた返答が帰ってきたので、ここはさほど驚かなかった。

 

 

「えっ? じゃあ、更識さんは、鈴先輩の彼氏?!」

 

「ブフッ!? な、なんでそうなんのよ!」

 

「えっ? 違うんですか?」

 

「べ、べべべ、別に、私と一夏はそんなんじゃ……」

 

「あれ? でも鈴ちゃん、さっき手をつないでなかったっけ?」

 

「メグっち?! それ言っちゃダメだからぁ〜〜っ!!!」

 

 

 

栗林先生の発言に、思わず悲鳴が上がるバスケ部員。この年頃になると、このような恋愛話には目がない。

頬を赤くし、両手で頬を押さえ、体をくねくねさせている。

 

 

 

「あーいやその、俺と鈴はな……」

 

「鈴だって! 愛称で呼ぶ仲!?」

 

「先輩も一夏って呼んでたし!」

 

「先輩、どこまで行ったんです!? チューしました?!」

 

「バッ!? するわけ無いでしょう!」

 

「チューって、キスですよ、キス?」

 

「わあぁぁぁとるわぁぁぁ!!!!」

 

 

 

普段見られない鈴の慌てっぷりに、一夏は腹を抱えて笑った。

まぁ、その後に鈴から執拗以上に殴られたが……。

 

 

 

「ほら! 休憩終わりでしょう!? さっさと練習に戻りなさいよ!」

 

「「「「はぁーい!!!!」」」」

 

 

 

本当に元気のいい生徒たちだった。

その後、鈴は少しの間、先生と話した後、後輩たちに激励の言葉を残してその場を去った。

鈴が伝えた後輩たちの目標……『全国制覇』

そのデカ過ぎる目標に向かって、後輩たちは元気にコートを駆け回っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「にしても、いい先生も後輩たちだったな……」

 

「そうねぇ〜。あんまり変わってなかったけど……」

 

「二年じゃあんまり変わんないだろ」

 

「それもそっか。じゃあ、次はどこに行く?」

 

「そうだなぁ……。まぁ、もうそろそろ昼になるだろう? ここらで飯でも食べていかないか?」

 

「そうね……どこにしようか?」

 

 

 

一旦考えるそぶりを見せるも、鈴はすぐにそれを止める。

そして、「よし!」と決めたとばかりに一夏に向き直る。

 

 

 

「あたしの知り合いの店に行くわよ!」

 

「知り合いの店? もしかして、この近くなのか?」

 

「あら、よくわかったじゃない。そうよ、こっちに帰ってきた時、一応そいつにも電話で連絡入れておいたから、店が潰れてるって心配もないわ」

 

「へぇ〜。鈴も結構その店に行ってたのか?」

 

「まぁね。そいつとも、なんだか腐れ縁っていうか……。よく中学の時には、連んで遊んでたのよ。

ちょうどいいから、あんたにも紹介するわ。それに、そこの店の味も、結構いけるんだから……!」

 

「へぇー! 鈴がそう言うなら、ちょっとは期待していいかな」

 

 

 

鈴も元々実家が中華料理屋を営んでいたので、料理に対しては、少しばかり舌が肥えている。

そんな鈴が、美味いと言っているのだから、少なからず期待を寄せてしまう。

そんな期待を胸に、一夏は鈴の後をついていく。

そのお店も、今二人がいる場所からそう離れていないらしい。

本当に今日は、鈴の思い出巡りの日程になりそうだ。

 

 

 

「えっと……ここを曲がったところを直進して……あっ、あったあった! あそこよ!」

 

 

 

そう言って彼女が指差す先には、いかにも庶民向けと言うか、下町にはありそうな、一般的なちょっとした定食屋さん。

その名も『五反田食堂』……というらしい。

 

 

 

「へぇ〜……ここが?」

 

「そうよ。ここがあたしの知り合いの店」

 

「普通の定食屋さんだな……」

 

「まぁね。でも、味はほんとに保証できるから!」

 

 

そう言って、鈴はお店の扉を開ける。

ガラガラという音を鳴らし、横にスライドする形の扉。中からは野太いおっさん声と、若い青年の声が聞こえた。

 

 

 

「お邪魔しまぁーす」

 

「ん? おおっ! 鈴じゃねぇーか、久しぶりだな!」

 

 

 

扉を開けて、開幕一番に出会った赤髪ロングの少年。

頭には黒いバンダナを巻いていて、前掛けを腰に巻いていることから、どうやら店のお手伝いをしているのだとうかがえる。

 

 

 

「久しぶり、弾。一年ぶりくらいかしらね……」

 

 

 

赤髪ロングの少年……名前を五反田 弾。

鈴の中学時代の同級生にして、よく連んでいた腐れ縁の仲らしい。

 

 

 

「にしてもなんだよ、いきなり。来るなら来るで連絡よこせばいいだろうに……」

 

「しょうがないじゃない、ここに来るの急遽決まったんだし! それで、二人空いてる?」

 

「ああ……えぇ〜と……悪りぃ、カウンター席でいいか? 今結構忙しい時間帯だからよ……」

 

 

 

そう言うと、一夏達も店内を見渡す。

なるほど、確かにほとんどの席が埋まっていた。

まだ満席とはいかないまでも、この様子だとすぐにでも満席になって、待ち時間を覚悟しなくてはいけなくなるだろう。

 

 

 

「まぁ、しょうがないわね。一夏もカウンターでいい?」

 

「ああ。こればっかりは仕方ない。飯が食えるだけでも、ありがたいしな」

 

「一夏? 誰だその……子……」

 

 

 

鈴が後ろを振り向き、一夏に確認を取っていると、鈴の真正面にいた弾の視線は、自然と一夏へと注がれる。

そして弾は固まってしまった。

一夏から溢れる、いや、溢れんばかり絶対的にオーラに当てられて。

 

 

 

「…………」

 

「ちょっと? どうしたのよ、何ラグってんの?」

 

 

 

口を開けたまま立ち尽くす弾に、鈴が顔の前で手のひらを振る。

だが、しばらく反応を見せない。

だが、次の瞬間。いきなり弾は頭を下げ、右手を差し出す。

その突然の行動に、鈴も一夏も、素早く身構えてしまった。

 

 

 

「ご、五反田 弾! 15歳! 恋人募集ちゅーーーごほぉっ!!!!?」

 

 

 

その言葉は最後まで言い切れなかった。

何故なら、それは弾の腹に食い込んだ、鈴の拳のせいだろう。

多分、年齢を言った辺りからだろうか……。

鈴の左足がしっかりと踏み込まれ、そこから腰の捻転が発生。勢いと力が乗った状態で、右手が下から上へと放たれた。

拳は真っ直ぐ弾の鳩尾付近を捉え、まるで肉を抉るような音が聞こえ、弾の体はまるで弓のようにしなった。

 

 

 

「ぶべらあぁぁぁっ!!!?」

 

 

おそらく1メートルは飛んだのではないだろうか?

腹部のアッパーで、そこまで飛ばせれば、プロのボクサーも目じゃないだろう。

ただ無言のまま、鈴はアッパーを放った状態で止まっていた。

一方、弾はそのまま仰向けに倒れ、ピクピクと体を震わせていた。

息はあるようなので、死んではいないだろうが……それでも、ものすごく痛そうだった。

 

 

 

「何久しぶり再会したと思ったら、わけわかんないことやってんのよあんたは……っ!」

 

「お、落ち着け鈴! このままやったら絶対死ぬから! お前の友達死んじゃうから!」

 

「大丈夫よ、これくらい。中学の時はこっからもう二発は行ってたから」

 

「マジかよ!? ある意味こっちが凄いのか?」

 

 

 

一夏はまじまじと倒れた弾の事を見る。

先ほどのダメージが、少しずつ癒えてきているのか、今度は身を起こし始めている。

凄い耐久性能だ。

 

 

 

 

「んじゃあ、カウンターに座るわね。ほら、行くわよ一夏」

 

「え? 放っておいていいのか?」

 

「ああ大丈夫大丈夫、もうすぐ起きるわよ。ほら、こっちよ」

 

「あ、ああ……」

 

 

 

 

素っ気ない態度の鈴の後を、ついていく一夏。

すると鈴の言う通り、もうすでに起き上がっていた。

五反田 弾……その耐久性に、つい最近戦った、バーサーカーの面影が重なってしまった一夏であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






次回は思い出巡り後編。

しかし、その後に起こる悲劇。
一夏と鈴の運命は…………!


感想、よろしくお願いします( ̄▽ ̄)


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