IS〜異端の者〜   作:剣舞士

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いやぁ〜やっと終わった!
でも今後の展開をどうしようかと悩みます。
少し更新が遅れるかもしれませんが、平にご容赦を……!




第29話 終戦

その日、IS学園にほど近い貿易港で、凄まじい大爆破が起きた。

一面を覆う閃光と、辺りにあったものをいとも簡単に吹き飛ばすほどの爆風。そして爆破かおさまった後に出来た、クレーターの存在が、爆破の規模を示していた。

爆発の起こった中心付近にいた一夏たちは、その爆破の跡を呆然と眺めている事しか出来なかった。

 

 

 

「なん、だったんだよ……今のは……!」

 

「あれほどの爆発にしては、あまり被害が出ていないようにも見えるが……」

 

 

 

爆破の一番近くにいた一夏とラウラですら、爆風によって吹き飛ばされた程度で済んだが、もし、もっとバーサーカーの近くにいたら、確実に吹き飛ばされていただろう。

 

 

 

「一夏!」

 

「大丈夫?!」

 

「二人ともぉ〜、くたばってないかぁ〜?」

 

 

と、そこへ刀奈達が走って駆け寄ってくる。

一応怪我がないか、確認をしてもらい、一夏達は立ち上がった。

 

 

 

「にしても、一体何だったんだ……?」

 

「あれほどの攻撃……ISでも出来ないものだろう」

 

「って、事は……」

 

 

 

考えられる事はただ一つ。

自分達と同じ魔法使いの仕業だ。

 

 

「だけどさ、どこからその魔法を撃ったんだよ? ここは完全に封鎖されてるし、簪も簡単な結界くらいは放ってたんだろ?」

 

「うん……。でも、その結界を壊して、あの光弾が飛んできた様にも見えた……」

 

「なら、このフィールド内から放たれたものじゃなくて、外からの攻撃だったのかしら……」

 

「それが一番濃厚だな。だけど、これでようやく仕留めれただろうさ……」

 

 

 

一夏が視線をクレーターの方に向ける。

バーサーカーの姿は、そこにはなかった。

おそらく、先ほどの爆発で霧散した……そう考えるのが一番妥当だと思った。

だが、その考えを、一夏は心の何処かで否定していた。

 

 

 

(だが、あれくらいの事で、奴が死ぬのか……? 俺たちの攻撃をまともに受けたのに、ピンピンしていた奴が……)

 

 

マドカのイリュージョン・ブレードを全身に浴び、至近距離から放たれた一夏の一撃必殺の魔法剣を受けた……。

が、バーサーカーはそれでも立ち上がり、強烈な戦意を見せた……。

それを成し得たのが、奴が使っていた魔法……《特異魔法》の存在だ。

通常の統一魔法やそれぞれが持つ属性魔法とは異なる、その人物しか持ち得ない特殊な魔法。

それをバーサーカーは持っていた。

それも、魔法というにはあまりに優し過ぎる、呪いと言ってもいい様な魔法。

傷を癒すなどと言うものではなく、時間そのものを巻き戻した様な感じであった。

 

 

 

(もしも……あの魔法で受けた傷ですら、治せるとした…………!)

 

 

 

嫌な予感がした。

ストライク・ビジョンは発動していない。

だが、戦闘での直感が、そう警告を鳴らしていた。

 

 

 

 

「ヌゥウウ……」

 

「「「「「っ!!!!!?」」」」」

 

 

 

ガコッとクレーターの中心部が盛り上がる。

すると、そこから巨体の主が現れた。

 

 

「そ、そんな……!」

 

「あれを食らって、まだ……!」

 

「一体、あいつはどうやったら死ぬんだよ!」

 

「くっ! 化け物め……っ!」

 

 

 

仇であるバーサーカーの不死とも思える生命力を感じ、ラウラは憎らしくバーサーカーを睨む。

 

 

 

「…………」

 

「っ!」

 

 

 

ちらっとこちらを見たバーサーカー。

咄嗟に、一夏がトワイライトを握りしめるが、バーサーカーはそれを無視して、体を反転させた。

 

 

「なっ!? 待て、逃すか!」

 

 

 

その場を後にしようとしたバーサーカーに、ラウラは氷柱を生成し、バーサーカーに対して投げつける。

が、バーサーカーはそれをISブレードで全てを弾き返す。

 

 

「くそっ……くそおぉぉぉぉっ!!!!!」

 

「やめろラウラ!」

 

「離せ! 私は、奴を倒すためにーーっ!!!」

 

「今は攻撃するな! 今回は撤退だ!」

 

「ふざけるな‼︎ 今奴を倒さなければ、私は何のためにーー!」

 

 

 

必死にバーサーカーに対して攻撃的な発言をしていたが、一夏はそんなラウラを止める。が、ラウラはそれでも止まらない。

しかし、その間にもバーサーカーはその場を離れていく。

 

 

 

「あっ、待て!」

 

「よせ、ラウラ! もうこれ以上はーー」

 

「バァーサァーカァーーー!!!!」

 

 

 

羽交締めをしてでもラウラを止める一夏。

ラウラ、標的を仕留め損なった事を悔やみ、標的の名を叫んだ。

が、当の標的は、そんな叫びを気にすることなく、闇夜に消えていった。

 

 

 

「くそっ……‼︎」

 

「ラウラ……すまん」

 

「謝るな……! お前は、悪くない」

 

 

 

顔は見えないが、それでも発せられる声からは、その悔しさがどれほど大きいものなのかが伝わってきた。

 

 

 

「…………帰ろう、ラウラ。せめて、奴に傷を負わせてやったって、お前の部隊の仲間に知らせてやろう……」

 

「ああ……。そうだな……」

 

 

 

涙ぐんだ顔を見て取れた。

隊長として、部下の命と責任を背負っていたラウラ。

こんなに小柄な体で、とてつもなく大きなものを背負っていたのだと、今更ながらに痛感した。

そう思っていたら、一夏は自然とラウラの頭に手を置いた。

 

 

「な、なんだ!?」

 

「ああ、いや! 悪い……ついな……」

 

「ん……べ、別に構わん」

 

「そうか?」

 

 

 

突然頭を撫でられたのと、涙目になっていたところを見られたためか、ラウラの顔は朱に染まっていた。

が、それでもいつものラウラの様に、腕を組み、胸を張って堂々と立っていた。

 

 

 

「ふっ……。帰ろうか」

 

「…………ああ」

 

 

 

その後、現場は完全封鎖となった。

戦闘のあった地域には規制線な張られて、関係者以外の立ち入りを強く拒絶した。

一夏たちもまた、更識家が用意した専用車両に乗り込み、IS学園に向けて発車した。

みんな緊張の糸が切れたのか、スヤスヤと眠りについた。マドカは簪の肩にもたれかかる様にして寝息を立てて、そのマドカの頭に自身の頭を乗せる様にして、簪が寝息を立てる。

こちらでは、一夏が真ん中に座り、両サイドを刀奈とラウラが座って、一夏の両肩に刀奈とラウラの頭が乗っかっている。

 

 

 

「ん………これは……」

 

 

 

正直こんなので眠れるわけない……。と言いたいが、一夏にも戦闘の疲労感が襲ってくる。

少し目を閉じた瞬間、眠気が一気に襲ってくる。

 

 

「スー……スー……」

 

 

 

一夏の周りはスヤスヤと寝息を立てていた。

 

 

 

(ああ……そんな寝息立てられたら、俺まで……眠く……)

 

 

意識が遠のいて、完全に絶った。

気づけば、全員スヤスヤと眠っていた。

一夜にして起こった魔法戦は、こうして幕を引いたのであった。

 

 

 

 

 

 

「くっ! あれでも倒せないなんて……!」

 

 

 

一方、最後の一撃を見舞った張本人は、狙撃地点から悔しさをあらわにしていた。

 

 

「Aランク相当の破壊力がある魔法を、三度も受けたっていうのに……。

ボーデヴィッヒさんや一夏の頑張りも、結局無になっちゃったかな……」

 

 

狙撃銃を肩に担ぎながら、少年……いや、少女は言った。

シャルル・デュノア……学園ではそう名乗っているが、本名をシャルロット・デュノア。デュノア社の “ご子息” ではなく“ご息女” と言うべきだ。

彼女は自分のアスペクトに魔力を通すと、銃は黄色に輝き、やがて形状を変えた。狙撃銃の様な細長いシルエットが消え、もっと小さい、拳銃ほどの大きさに変わった。

シャルロットはそれを握りしめ、悲痛な表情を浮かべたあと、その銃をホルスターに納めた。

 

 

 

「次こそは、必ずーーーー!!!!」

 

 

 

殺意のこもったその瞳を、未だ爪痕が残る爆心地のクレーターに向けた。

 

 

 

 

 

翌朝、一夏達は学園の部屋ではなく、ホテルの一室で目を覚ました。

あのまま学園に帰るわけにも行かず、都内でも更識の域がかかった施設を借り、一晩過ごしたのだ。

現在午前5時半。今からチェックアウトを済ませ、学園に戻る手はずを整えている。

服装は、もちろん綺麗な学園の制服に身を包んでだ。

昨夜の事は、今朝からニュースの話題になっていた。警察消防が駆けつけ、形だけでも、その場で何かがあって、その収集をしているという印象を持たせるためだ。

現場に居合わせた……と言うより、昨夜の当事者であるから、現場の事は嫌でも知っているが、一応ニュースを見てみる。

昨夜、国籍不明のテロリスト達の侵入が発覚し、自衛隊のIS部隊が出動……。ちょっとした混戦がったものの、侵入者達は逃走したとのことだ。

それによる被害も少なく、現在では、現場の復興作業が着実に進められているとのことだった。

 

 

 

「流石に、魔法使い同士が戦ってました……なんて言えないよな」

 

「当たり前よ。魔法なんて非科学的なものを信じる人の方が少ないわ。ましてや、ISと言う科学兵器の最新機があるこの世の中なら、尚更よ」

 

 

 

制服に着替え、優雅に朝のコーヒーを飲む一夏と刀奈。

昨日の戦闘で疲れてはいるが、こればかりは仕方ない。学生の本分は勉強。そして今日も学校だ。

サボると担任の鬼先生による出席簿アタックが炸裂する為、正直な話、休みたいが攻撃されたくは無い。

 

 

 

「にしても、あのバーサーカーって一体何者だ? 俺たちが束になって戦っても仕留めきれなかった奴なんて、あいつだけだぞ?」

 

「そうね……。それに、相当な実力者だと言っても良いくらいには、強かった。

私と一夏が剣戟で圧倒されるなんて、そうそう無いと思いたいところだったけど……」

 

「ISのブレードを生身で振り回す様な化け物じゃあ、いたと思っても不思議じゃねぇか……」

 

 

 

結果、その後のバーサーカーの行方は掴めていない。

と言うより、何処に消えたのかも不明だ。

あれほどの巨体が、すぐさま消えるとは思えないが、魔力を察知出来ず、周辺を見て回ったが、その様な人影は見ていないとのことだった。

その後、ラウラは再び通信端末を開き、ドイツで自分が率いてた部隊の副官に連絡をしていた。

その声は何処か申し訳なさそうであり、とても悔しそうだった。

そしてその力になれなかったと、一夏も悲痛な思いを抱いた。

 

 

「ラウラ」

 

「ん、一夏か? なんだ、どうかしたのか」

 

「いや、どうもしないんだけど……その……」

 

「同情ならいらんぞ」

 

「いや、そう言うつもりじゃ……」

 

「ふふっ、わかっている。お前はそういう奴ではないとな……。だがまぁ、その、すまんな」

 

「……なんでラウラが謝るんだよ?」

 

「私の為にお前達を危険にさらした……しかもそれで任務を失敗したのだから……当然だろう」

 

「そんな事ない。俺たちは更識家として、正式に黒うさぎ部隊の依頼を受けたんだ。

それに、あんな魔法使いがいたという事自体、看過出来ない事態だったんだから……」

 

「ああ……。しかし、奴は一体何者なんだ?」

 

「…………分からない。ただ、奴の魔法が特異魔法なのはわかった。その能力もな」

 

「特異魔法?」

 

「俺たちが使う魔法は、基本的なアクションを実行する『基本魔法』と、それぞれのタイプに合わせて発動する『系統魔法』とがある。これは知っているよな?」

 

「ああ……生物、回避、神速、闇黒、破壊、幻術……この六種だったか……」

 

「そう。だが、特異魔法っていうのは、その六系統に一切含まれない魔法の事を言うだ。

そして奴のは、不死の呪いの様な魔法だろう」

 

「なんだと?! では、奴は不死身という事か?」

 

「いや、死はあるんだろう……。だが、一回や二回殺した程度じゃあ、あいつは死なないと思うぞ?

現に奴は、マドカの攻撃と、俺の攻撃で二回は殺したし……最期の、大爆破を起こした魔法攻撃でも死ななかった。

おそらく、いくつもの命のストックか何かがあるとみて間違いないと思う」

 

「そうか……」

 

 

 

全くもって気狂いにもほどがある。

あれだけ殺し尽くしても削りきれない命のなんて、チートも良いところだ。

と、長々とラウラ二人で話し込んでしまい、気づけばもう出発の時間になっていた。

そして、ちょうどそのタイミングを見計らっていたかの様に、マドカからのお呼びがかかる。

 

 

 

「おーい! そろそろ行くぞぉ〜!」

 

「ああ! 今いくよ!」

 

 

 

全員荷物を纏め終わっており、いつでも出られる態勢だ。

一夏とラウラと自分の荷物を持ってマドカ達に合流する。

 

 

 

「ま、とりあえず、今生きている事を喜ぼう。死なない限り、またチャンスはやってくる。

今は、学園に戻ろう……ラウラ」

 

「ああ……そうだな」

 

 

 

しおらしいのはここで終わり。

五人は朝日が昇るより早く、ホテルを出立し、IS学園へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

「おかえり一夏ぁぁぁ〜〜!!!!」

 

「どわあっ!?」

 

 

学園に帰り、手続きを終わらせて学園内に戻ってきた面々。

しかし、面々が帰ってきた時間帯では、まだ誰も起きていないので、時間までゆっくりしていた。

二度寝をする者もいれば、そのまま起きてDVDを鑑賞したり、誰も見られていない事を良い事に、魔法の鍛錬をしたりなどなど。

そして、午前6時半を回ったあたりから、生徒達の目覚めは始まる。それに合わせ、一夏たちも何事もなかったかの様に振る舞う。

いつも通りの朝を迎え、学園に通う学生の様に。

と、その時だった。

登校途中、後方から走ってくる生徒を発見したのだ。

ものすごい勢いで一夏に向かって走ってきたのは、茶髪の髪を揺らし、まるで猫の様な敏捷さを彷彿とさせる幼馴染。

鈴の姿が、そこにはあった。

 

 

 

「何よぉ〜、言ってた割に早く帰ってきたじゃない!」

 

「お、おう……意外と早く終わってな。って、それより降りろよ!」

 

「ええ〜、良いじゃん別に。あたしとあんたとの仲なんだし……」

 

「どういう仲だったら、いきなり肩車をするんだよ?!」

 

「え? だから、あんたとあたし?」

 

「疑問系で返してくるなよ……!」

 

 

 

真面目に猫かと思いたくなる様なすばしっこさ。

そしてぴょんぴょんと跳ねる様にして一夏の肩に乗っかると。そのまま一夏の頭をロックして、意地でも降りないと示す鈴。

 

 

 

「あのなぁ……ここ学校だぞ。それもこんな人目のあるところで……」

 

「別に良いじゃない。周りがどう思っていようと、あたしはあたしのままだし」

 

「少しは恥ずかしがるとかしろよな……」

 

「面倒くさいわねぇ〜」

 

「織斑先生に見つかったら、えらい目にあうぞ」

 

「……はぁ……もうわかったわよ」

 

 

 

千冬の名前を出すと、途端に肩から下りる鈴。

やはり、今でも千冬に対する恐怖心があるのだろう……。

よし、今度から使おう。

 

 

 

 

「それでさ、いつ行く?」

 

「はぁ? どこにだよ……」

 

「何よ……あんた忘れたの? 遊びに行くって、前に言ったじゃん!」

 

「あ、ああ……そうだったな……」

 

「ふんっ……その様子じゃ、綺麗サッパリ忘れてたわね」

 

「そんな事はっ…………無くもないけど……」

 

「忘れてんじゃないのよ!」

 

 

コツっと鈴に小突かれる。

しかし、ある意味忘れてはいない。今の一夏にとって、鈴や家族といるこの学園生活そのものが、幸せなひと時だと感じる唯一の時間だからだ。

 

 

「そうだなぁ……来週あたりから、またイベントがあったよな?」

 

「ああ……えっと確か、学年別タッグマッチトーナメントだっけ?」

 

「そうそれ」

 

 

 

一学期最期の学年合同イベント。『学年別タッグマッチトーナメント』

これは、先のクラス対抗代表戦同様、各自のISの操縦技術向上を目指したイベントだ。

先のクラス代表戦では、各クラスの代表者がトーナメント形式で戦い、覇を競い合うというものだったが、今回はタッグマッチ式。

二対二で戦う事になる。そのため、一人では出来なかった戦術的な戦闘が繰り出される事になる。また、それぞれタッグに必要となってくる信頼関係や役割分担などなど……。

今後、ISを扱うにつれ、必要となってくる技術を身につけると言う目的もある。

 

 

 

「そのイベントが終わったら、一年はすぐに臨海学校があるし……そうそうゆっくりもしていられないかもな」

 

「じゃあ、今週でどう? あたしなら予定空いてるけど……」

 

「そうだな。俺も予定は空けておくよ、確認して、オッケーだったら連絡する」

 

「わかった。じゃあ、楽しみにしておくわねぇ〜♪」

 

 

 

颯爽と駆け出した鈴。

鈴は二組に在籍しているため、一夏とはクラスが全く違う。

走って行った鈴の後ろ姿を見ながら、一夏はフッと微笑んだ。

こんなに穏やかな気持ちになったのは、いつぶりだろうと。

鈴と二人でいると、どうしても昔の事を思い出してしまう……。嫌な事、辛かった事、耐え苦しんだ事……でも、鈴といた時は、そんな事なかった。鈴と一緒に遊んだり、勉強したり、料理したり、楽しい事もたくさんあった。

一時的に別れがあって、魔法使いにさせられて、悲しんでいる余裕もなかったが、また会えた。

こんなにも再会が嬉しいと思ったのは、初めてだった。箒との再会も驚いたが、鈴の場合、自分からやってきたのだからもっと驚いた。

だが、それが嬉しいとも思えた。

 

 

 

 

「さてと、俺もいろいろ準備しとかなきゃ……だな」

 

「…………随分と楽しそうねぇ……」

 

「うおっ!?」

 

 

 

突如、背後から殺気にも似た何かを感じ取った。

後ろを振り向くと、そこには憎悪に匹敵するような感情の炎を灯した眼で睨んでいる姉がいた。

そう、刀奈だった。

刀奈の気迫に押され、少々後ずさりをしてしまった一夏。その瞬間、刀奈が一夏の首に腕を回して、ヘッドロックを極めた。

 

 

 

「ちょっ?! 何をーー!」

 

「何よ! 鈴ちゃんとイチャイチャイチャイチャ! ちょっとはお姉ちゃんとのスキンシップに時間を割いたらどうなのよ!」

 

「スキンシップならいつも毎朝やってるじゃないか!?」

 

「あんなもので足りるかぁーーっ!!!!」

 

「なんだよそれ!?」

 

「姉弟のスキンシップは、あんなものでは事足りない物なの‼︎ わかった!?」

 

「悪かったって! 今度埋め合わせするから……」

 

「…………ニヒヒッ!」

 

「あ……」

 

 

 

言ってしまって後悔したような声を上げる一夏。

大抵この様な笑い方をする時は、刀奈のやる事は決まっている。

それは……

 

 

 

「何着てもらっおっかなぁ〜〜♪」

 

「…………あぁ……」

 

 

 

誰にでもわかるくらいに、落胆の表情の一夏と、逆に頬を緩めて笑う刀奈。

まぁ、皆まで言わなくてもわかるが、コスプ……ファッションショーが始まるのだ。

 

 

 

 

「それじゃあ、楽しみにしてるねぇ〜♪」

 

「ああ……うん……」

 

 

 

軽い足取りで、もはやステップと言っても差し支えないのではないかと思える足取りをしながら、二年の校舎の方へと向かう刀奈。

一夏はどこか遠い目で空を眺め、また一つ、自分の黒歴史を作ってしまうのかと、その未来に絶望していた。

未来を予知する自分の魔法が、直感回避が聞いて呆れる……。

だがまぁ、それも今すぐの話ではない。また然るべきに言われるに違いないと、すぐに頭を切り替えて、一組の教室へと向かって行った。

一組の教室に入ると、皆が一斉に一夏の方へと振り向いた。元々が目立つ髪色に、女の子と見紛う容姿をしているのだから、ある意味仕方ないと、諦めるしかなかった。

 

 

 

「やあ、おはよう一夏!」

 

 

ややお疲れ気味の一夏に対し、初めに声をかけてきたのは、一夏と同じ希少な男子。

一夏の元弟である千秋だった。

 

 

 

「おう……。おはよう、千秋」

 

「どうしたの、なんだか疲れてるね?」

 

「まぁ、昨日ちょっと家の事情でな……。流石にくたくたっていうか……なんと言うか……」

 

「ああ……。そう言えば、昨日は休んでたもんね」

 

「そうなんだよ……ふあぁ〜〜」

 

 

 

可愛らしいあくびをする一夏に、千秋は苦笑いを浮かべ、そのまま席に戻って行った。千秋の席には、クラスの女の子たちが集まってきており、今朝流れていたニュースの話題で盛り上がっていた。

 

 

 

(昨日の今日でもう話題になってるんだなぁ……。まぁ、あれだけの爪跡を残しておけば、そうなるか……)

 

 

 

当事者である一夏は、そのまま机に顔をつけ、横目で千秋たちを眺めていた。

何も知らない同級生たち。

でも、それが本来の日常であるのだから、それを守りたいとも思うのだ。

 

 

 

「おはよう、一夏」

 

「ん?」

 

 

 

今度は、反対側の席から声をかけられる。

するとそこには、爽やかな笑顔で座っているシャルルがいた。

 

 

 

「おう。おはよう、シャルル」

 

「うん、おはよう。それにしても眠そうだね、夜更かしでもしてたの?」

 

「まぁ、ちょっと色々あってな……」

 

 

 

そう言いながら、一夏はシャルルの顔をまじまじと見た。昨日戦闘での最期、テレビのニュースに取り上げられた巨大なクレーターを作り出したあの大爆破魔法。

あれも魔法による攻撃ならば、どこかに魔法使いがいたと思ってもおかしくはない。

しかも、今目の前にいるのは、何かと疑惑の念が湧いている少年。

同じ時期に転校してきたラウラと同じ欧州の出身である事から、バーサーカーによる被害も受けているのではないかと考えた。

が、未だ何も証拠は掴めてはいない……。

しかし、彼の正体は、未だに怪しいと思われる。

会社の事や、転校してきた時期もそうだが、最近わかったISの適正値の高さなども、千秋よりも高いAランクだった。

ちなみに一夏もAランクなのだが……。

 

 

 

「ど、どうしたの? 僕の顔に、何かついてる?」

 

「いや……。なんでもない」

 

「そ、そう? それならよかった……」

 

 

 

 

どこか安心したような表情でニコッと笑うシャルル。

だが、その目の奥に怪しい光を宿していたのを、一夏は見逃さなかった。

 

 

 

(俺の勘違い……ならいいんだけどな)

 

 

 

 

そう思いながら、顔を正面に向けた。

丁度朝のSHRの時間を知らせる予鈴が鳴り、生徒たち全員が席に着く。

すると数分後には、担任である千冬と、副担任の真耶がやって来て、真耶が朝の出席の確認をする。

その後、千冬から来週あるタッグマッチトーナメントの概要を説明された。

対象となるのは、全学年の全生徒たち。

パートナーを決めるのは個人たちの自由であるが、既定の日時以内にパートナーの申請書を提出しなかった場合、トーナメント開催当日に抽選で決められるとのことだった。

この場合、先にパートナー申請をしておいた方が有利なのは明らかだろう。

そして、試合はトーナメント式で、その対戦相手も当日に機械が自動抽選で決めるらしい。

これで、誰がどのタッグと当たるからわからない。

ついでに、今大会も、専用機持ち達は出場しなくてはならない。

ある意味、専用機持ちと一般生徒たちとでは、決定的な差があるかもしれないが、時折起こす番狂わせに、熱狂するいう噂もチラホラ……。

今年の一年生は専用機持ちが多いために、優勝候補が大勢いる。

 

 

 

「なので、パートナー申請は今週までに出しておけ。出していなかったも者は、否応なしに抽選で決めるからな。いいな!」

 

「「「「はい!!!!」」」」

 

「よろしい……クラス長、号令」

 

「起立、礼!」

 

 

 

千秋の号令で、朝のSHRが終わる。

今日は午前中ずっとISの実習だ。最初の一、二限目では、反復したISの起動、操縦などの基本訓練。

後の三、四限目は、実際ISを使っての戦闘訓練。

専用機持ち達はもちろん、一般生達も一対一で、時間内決闘の形式で勝負する。

 

 

 

「さてと、一夏、シャルル! 早く行こう」

 

「ああ」

「うん」

 

 

 

女子高であるであるIS学園では、男子は限られた更衣室で着替えなければならないため、毎回移動するのが大変だ。

ましてや、今はまだ落ち着いた方だが、その行く手を早く阻む者たちの存在が未だにある。

 

 

 

「織斑くん発見ッ!!!!」

 

「デュノアくん! 一枚撮らせてぇー!!!!」

 

 

 

新聞部だ。

毎回毎回いいネタはないかと男子たちの日常を観察し、写真を撮る。そしてそれを校内で秘密裏にオークションを開いては、それを買い漁る生徒たちがいるとか、いないとか……。

部長である黛先輩曰く、これも部費を稼ぐ重要な行為らしいが……。

だが、最近では、また新たな刺客まで現れた。

そのターゲットは、主に一夏なのだが……。

 

 

 

 

「更識くーん‼︎ これ着てみてよぉ〜♪」

 

「断固として断る‼︎ っていうか来るな!」

 

 

一人の女生徒が掲げているのは、お手製のメイド服だろうか。

その他にも、ゴスロリ衣装や、民族衣装、各職業ごとにそれぞれの作業服を手に持つ生徒たちもチラホラ。

この生徒たちは手芸部だ。

つまり、自分たちが作った衣装を一夏に着させ、今後の服飾活動の参考にしようとしているようだ。

それならばまだいい……。だが、その裏では、新聞部との繋がりもあるという噂を一夏は耳にしているため、安易にその依頼を受けると、また新たな黒歴史を作り上げてしまうのだ。

 

 

 

「大丈夫! サイズはぴったりだから!」

 

「そこの心配はしてないよ!! っていうか、なんで俺のスリーサイズ知ってんの!?」

 

「それは言えない! 情報提供者の個人情報は保護されている! あえていうなら、『T・S』氏……とでも言ってこう!」

 

「お前か『ブルータス(楯無)』っ!!!!!」

 

 

 

こんな事をする人物は一人しかいない。各部との交流もあって、何より新聞部との繋がりが一番強い人物だ。

今朝言っていた『楽しみにしている』とは、この事だったのかと、額に冷や汗をかきながら全力疾走でその場を逃げ惑う一夏であった。

 

 

 

「待ってえぇぇぇ!!!!」

 

「絶対待たない! 絶対に逃げ切ってやるっ!!!!!」

 

 

 

 

千秋とシャルルをそっちのけで、一夏は更衣室のあるアリーナの方へと消えていった。

 

 

 

 

「………なんか、一夏もいろいろと大変だよね……」

 

「そ、そうだね。僕たちの方が、まだ楽なのかな?」

 

 

 

手芸部と新聞部の一部を引き連れ、先にいった一夏を見ながら、呆れている千秋とシャルル。

自身の後ろにも、新聞部はいるが、それでも一夏に比べたらマシだと思ってしまった。

その後、三人は無事更衣室にたどり着く事ができ、その後の授業を受けられはしたが、昼休み、放課後と、一夏を追いかけ回す一団は、増え続けて、最終的に姉である刀奈に捕まってしまったため、手芸部の部室にて、ファッションショー(公開処刑)が行われたそうだ……。

 

 

 

 

 

 

 






今後は……どうしようかな。
シャルルの秘密を暴くのと、鈴の魔法師化を進めようかな?


感想、よろしくお願いします( ̄▽ ̄)



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