IS〜異端の者〜   作:剣舞士

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ええ、今回はラウラとのバトル後の話になります。
まぁ、バトルとかは無いので、あまり面白く無いかもですが、よろしくです。




第27話 戦前のひととき

「「「「…………」」」」

 

 

一通りラウラの話を聞いていた一同。実際にその現場を見たわけではないのだが、それでも、ラウラ見たという絶望的なその光景が今にも目の前に見える様で、とても息苦しい思いだった。

 

 

「隊員たちはISを展開していた為か、重傷こそ負いはしたが、命は繋いだ……。だが、同行していた研究チームの人間は全滅だった。

正直、自分の力の無さを痛感した事件だった。私はISも持っていて、どんな奴にも負ける気はしないと思っていた……だが……」

 

 

 

歯嚙みするラウラ。

拳は今にも血が出るのではないかと思うほどに強く握りしめられており、見ただけで悔しさが滲み出ていた。

 

 

 

 

「私は部下をあんな目に遭わせた挙句、多くの者を守れなかった……そして、何より許せんのは、奴と “同じこの力” を宿してしまったことだ……!」

 

 

 

再び手にはめた手袋。

そこから魔粒子が溢れる。だが、ラウラはその光を見ると、より一層落ち込んでしまう。

 

 

 

「他の隊員たちにはこの症状は見られず、私だけが魔法を扱えるようになっていた。

それからは、軍の上層部にこの事が伝わってな……。すぐに奴についての情報も集め、その正体と、奴の使っていた『魔法』という力の存在も判明した。

そこで上層部は、私に奴を……『バーサーカー』の情報収集、あるいは討伐の命令を下して、IS学園への編入に踏み切ったんだ」

 

「ちょっと待ってくれ」

 

 

 

そこで待ったをかけたのは、一夏だった。

 

 

 

「ドイツ軍の幹部さん達がそう言う判断を下したのはわかるが、なんでわざわざIS学園なんだよ?」

 

「何かと都合がいいからだろう……。IS学園は、知っての通りどの国家、組織、企業にも属さない徹底した治外法権だ。つまり、ドイツ軍での任務遂行よりも、スムーズに任務を遂行しやすいのだ。

あと、お前達の存在もあるからだろうな……」

 

「と言うと?」

「もともとトレイラーのアジトは、ドイツの国土にあったもの。そして、一夏、お前がいるからだ」

 

「俺が?」

 

 

 

再び話を振られる。

 

 

 

「先ほども言っただろう。我がドイツ軍は、教官の依頼でお前がトレイラーのアジトにいた事についての情報を入手していたんだ。

そしてお前は、世界で二人しかいないIS操縦者として世界各地に知られた。それに加え、我々が転入する以前に、お前達はイスラエルで、戦闘を行っていただろう……。我々の諜報部隊が偵察していたのでな、そこでやっと、お前が魔法使いであることを知る事が出来た」

 

「なるほど、IS学園へ入ることで自由意志の下で捜索、討伐行動がとれると同時に、私たちの協力を得られる……と言うことかしら?」

 

「あぁ、その通りだ」

 

「それと、私たちの魔法についての詳細データの収集も言われてんじゃないか?」

 

 

刀奈の解釈に納得し、肯定すると、マドカから尋ねられる。

今度は黙ったまま目を閉じるが、どうやらこれも肯定のようだった。

 

 

「だが安心してくれ。私もだが、軍も未だに魔法と言うものをよく知らないし、元より信じていない者の方が多い……。

なので、お前たちに危害が加わる事は、まずないだろう……。それで、どうだろうか……私の依頼、引き受けてもらえないだろうか…!」

 

 

 

 

深く頭をさげる。

そこには一切の媚び諂いのない真っ直ぐ、真摯な姿勢を一夏たちは見た。

 

 

 

「わかった。その依頼、受けるよ」

 

「ほ、本当かっ!?」

 

「あぁ、ラウラの気持ちはわかってる。それに、そんなやつがもし今、日本に潜伏しているのなら、見過ごすわけにはいかないからな……」

 

「そうか……。ありがとう、一夏。私は、お前たちにどうお礼をしていいか……!」

 

「まぁ、お礼はその任務を成功させてからにしようぜ。とりあえず、まずは情報収集だな……。

それと、ラウラは一通りの基本的な魔法は使えるみたいだが、それでもまだ伸びしろはあるだろう。だから、バーサーカーの情報が入り、対策を練るまでの間、俺たちと一緒に魔法の鍛錬をしよう。

ラウラの使う『破壊魔法』は、すべての魔法の中でも最もコントロールするのが難しい魔法だからな」

 

「そ、そうだったのか……」

 

「ああ……。むしろ、さっきのはよくあそこまで使えてたものだなって感心してたぜ」

 

 

 

ラウラと、イスラエルで出会った亡国の魔法使い、オータムという名の女性も、破壊魔法を使っていた。

ラウラはまだ使い始めて間もないにしては、中々うまい具合にコントロールしているみたいだが、それも威力や範囲拡大型の広域魔法を放つ時には、コントロールを失い、暴発する可能性がある。

オータムの場合は、過重の加算による一撃必殺の豪剣型。

ラウラのように自然干渉系統の魔法ではないためか、かなり使い込んでいたような印象があった。

 

 

 

「はいはい! 情報収集の方は、うちの人たちに頼んでおくわ。それと、ラウラちゃんの特訓については、IS学園の地下施設の一部を貸し切ってやりましょう……ISの特訓ってことにしておけば、なんとか誤魔化せるでしょうし。

みんな、それでいいわね? よし! 解散!」

 

 

 

パンパンッ! と二回手を叩き、纏めた刀奈。

もちろん他のメンバーに異論はなかったので、素直に席から立ち上がり、教室から出ようとしたその時……

 

 

 

 

「あっ!」

 

「ん? どうしたの一夏」

 

「い、今って、授業中……だよな」

 

「「「あっ……」」」

 

 

 

完全に忘れていた。

一夏につられてマドカ、簪、ラウラが一緒に声を上げる。

しかも一夏とラウラの担任は……。

 

 

 

「い、いかんぞ、一夏! 教官の授業をサボるなどと……もはや鉄拳制裁は確実だぞ!」

 

「マジかよぉ〜……冗談抜きで痛えんだぞあれ……」

 

「あぁ……うちらの先生優しい人で良かったぁ〜」

 

「そ、そうだね。でも、怒られるのは確定だね……」

 

 

 

生徒会長である刀奈と、その補佐である虚はまだ猶予はあるだろうが、一夏たちにはそれがない。

少し期待の念を込めて刀奈に視線を向ける。

刀奈ならば、少しくらい事情を説明してくれるだろう……そう願って。

ニコッと笑ってみせる刀奈。全員がホッと一息ついたところで。

 

 

 

「ごめんねぇ。あまりみんなを甘やかすなって、この間織斑先生に言われたばかりで……」

 

 

 

目の前で両手を合わせてテヘペロ……。

おちゃらける刀奈に全員が落胆した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほう? では、ボーデヴィッヒか道に迷ってたので、いろいろと紹介しながら教室まで案内をしていたと?」

 

「「はい……」」

 

「では、なぜこんな時間になるまで、お前たちは歩き回っていたんだ?」

 

「「……」」

 

「チャイムの音くらいは聞こえるだろうに……」

 

「「ご、ごもっともです……」」

 

 

 

 

現在廊下にて正座アンド説教中。

目の前にいる千冬は、一夏とラウラを射殺す様な睨みで見下ろし、対して一夏達は、そんな千冬と視線を合わせることが出来ず、ずっと俯いたままだ。

急いで教室に戻り、一通りの説明をしたのだが、公私の区別をはっきりとしている千冬は、そんな事では許さない。

二人して耳を引っ張られ、廊下にて出されたと思いきや、いきなり正座だ。

そして説教に入る。

どうやら今は真耶の授業だったらしく、中からは真耶の声と、楽しく授業を受けている生徒達の声で溢れていた。

 

 

 

「授業の終了まで残り20分弱……それまではそのまま反省していろ、いいな」

 

「は、はい……」

 

「りょ、了解であります!」

 

 

 

そう言うと千冬は教室に戻っていった。

最後に「今度の放課後に補習だからな」と付け加えて。

 

 

 

 

「すまんな一夏。私のせいでこの様な事に……」

 

「まぁ、気にすんなって。あと20分弱、頑張ろうぜ」

 

「あぁ、そうだな」

 

 

 

そうやって20分が経過し、授業終了のチャイムが鳴る。

その間、一夏とラウラはただひたすらに正座をしていた。

それに付け加えて、目を瞑り、一言も話さないままで過ごした。

瞑想というやつだ。

これはラウラの発案で、心を落ち着かせるのにいいと、自分が隊長として所属していた部隊の副隊長さんから教えてもらったらしい。

なんでも、「瞑想は、弱き己を見直し、強敵に立ち向かう為に強者が常に行っているもの」と言われたらしい。

…………言ってた事が少し厨二っぽいが、今は忘れよう。

 

 

 

(『バーサーカー』……か)

 

 

 

瞑想をしている途中で、ふと思い出した。

バーサーカーとは、北欧神話に出てくる狂戦士の事だ。普段は穏和で優しい人間が、戦いや血を見ると興奮し、豹変したかの様に強くなるという人物。

ラウラの話によると、見た目は筋肉隆々の大男。

手にはIS専用のブレードを持ち、それを難なく振り回したとか……。

いくら筋肉隆々の大男とはいえ、IS専用のブレードは通常の刀剣の倍以上の重さがある。

それを振りまわせるという事は、それこそバーサーカーの特性なのだろうか……。

魔法は精神干渉系統の魔法……。脳をハッキングして、身体中の神経を強化し、その神経を伝って筋肉を強化……と言った具合だろうか。

 

 

 

 

(俺のいたトレイラーのアジトには、そんな大それた奴は居なかったと思うが……そいつも亡国の関係者か? スコール、オータム、バーサーカー……少なくとも警戒すべき相手は三人。いやーー)

 

 

 

そこで一夏は思考を止めた。

厄介な魔法使いが、まだ亡国機業にはいたのだ。

研究所を破壊したサイクロップスを空間そのもので包み込み、圧殺したほどの魔法の持ち主。

 

 

 

(白髪の千秋……。闇黒魔法の使い手、魔法は空間に作用するもので、重力を操作する簪の《ガイア・グラビティ》とは全く異なる “空間干渉の能力” 一番面倒なのは、奴かもしれないな……)

 

 

 

そこまで考えていた時だ、授業終了を伝えるチャイムが鳴った。

教室は号令をし、授業を取り仕切っていた真耶と、一緒に授業を見ていた千冬が出てきて、真耶からは今日やった授業内容のプリントをもらい、千冬からは軽めだったが、出席簿アタックをもらった。

軽めでも痛いものは痛い。

時間は正午を回っていた……つまり昼休みという事になる。

 

 

 

 

「あんたたち、何やってんの?」

 

「おう、鈴か……」

 

 

 

するとそこに隣の二組の教室から、鈴が現れ、廊下で正座させられている二人の姿を捉える。

一夏の髪型がポニーテールになっているところを見て、一瞬顔が緩んでしまうが、その後に、一夏の隣に同じ様に座っている銀髪の美少女へと視線が向けられる。

 

 

 

「って、あんたまで一緒って……」

 

「ああ……中国代表の……。私はドイツの代表候補、ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

「凰 鈴音よ、鈴でいいわ。それで? あんたたちはなんでこんな状況になってんのよ」

 

「えっと……だなぁ……」

 

 

 

 

 

事の次第を鈴に説明する。

聞いていて鈴は、徐々に馬鹿らしくなったのか半目で一夏たちを見ていた。

 

 

 

「あんたら……まぁ、罰は受けてんだから、いいとしましょうか……。にしても……」

 

「ん? どうしたんだ、鈴?」

 

 

 

一旦言葉を区切って、考え込む鈴。

 

 

 

「いやさぁ……千冬さんの鉄拳制裁がそんなに軽いもんだとはね。なんだか意外ね」

 

「ん〜……そうか?」

 

「ま、私の気のせいかもしんないけどね。ほら、あんたも昼飯食べに行くんでしょう? さっさと行くわよ。ラウラ、あんたも一緒にどう?」

 

「ん? いやすまない。私は少し用事があってだな……申し訳ないが、またの機会に誘ってくれ」

 

「そう……残念ね。なら一夏、さっさと食べに行くわよ」

 

「おう」

 

 

 

鈴に引っ張られる感じで、一夏は立ち上がっとのだが、ラウラは何故かそのまま動こうとしなかった。

 

 

 

「ん? どうしたラウラ」

 

「い、いや……! な、なんでもない! 気にするな」

 

「…………はは〜ん♪」

 

 

 

何かに気づいた鈴が、悪戯な笑みを浮かべ、ラウラの真横へと移動し、腰をかがめる。

 

 

 

「な、なんだ……」

 

「あんた、実は正座苦手でしょ?」

 

「……」

 

「図星ね」

 

 

 

 

そう、正座は日本独自の文化で生まれた礼儀作法の一つ。

ゆえに、正座とは日本以外には全くないため、外国人であるラウラには慣れないものだ。

鈴も元々中国人であるために、初めの頃は正座をすれば必ず足が痺れて起き上がれなかったこともしばしば……。

その都度一夏が助けていた様な気がする。

 

 

 

「ふっふ〜ん♪」

 

「お、おい! なんだ、ふあっ?!」

 

 

 

可愛い声が聞こえ、ラウラがそのまま横に崩れる様にして座る。

いわゆる『女の子座り』というやつだ。

まぁ、とどのつまり鈴が正座で痺れたラウラの足を指でちょんちょんと触りまくっているという状況だ。

 

 

 

「き、貴様! 何をする!」

 

「え? 正座の後はこれをして楽しむものよ?」

 

「な、なに?! そ、そうなのか一夏?」

 

「いや……そんな文化は日本にはないぞ……」

 

「な?! 鈴、貴様ーーあうっ!」

 

 

再び触る鈴。そして変に女の子っぽい声が上がるラウラ。

意外と敏感肌なのか……?

 

 

 

「お、おい! も、もうよせ! 私の負けだ! 許してくれ!」

 

「ええ〜……もうちょっと頑張んなさいよぉ〜」

 

「遊ぶなよ鈴。ラウラが可哀想だ」

 

「はいはい。でももうそろそろ慣れてきたでしょ? 私は一夏とランチ行ってくるから! それじゃあ!」

 

「お、おい! 鈴、引っ張るなって!」

 

「おのれぇ……鈴、覚えていろぉぉぉ……‼︎」

 

 

 

 

ラウラの恨み声を背に、一夏と鈴は廊下を走り去っていった。

 

 

 

「あいつ、面白いわねぇ〜!」

 

「全く……。鈴だって最初は正座ダメだったろ?」

 

「まぁね。ほんと、日本って面倒な事が好きよね」

 

「正座には正座の意味があるんだよ……」

 

「どう言う意味があんのよ?」

 

「正座は、座るという特殊な環境の中で、敵に襲われないようにするために作られた礼儀だ。

座っている時、どうしても数秒くらい反応が遅れる。そんな時に命を狙われる事がよくあったんだ。それを防ぐために、正座というものが生まれたとされている」

 

「へぇ〜」

 

「まぁ、今の時代じゃ、そんなこと無いけどな……」

 

「あったらたまったもんじゃないわよ……。それで、どこで食べる? やっぱり屋上?」

 

「うん……いいんじゃないか? 確か、千秋たちも屋上に行くとか言ってたし、一緒にーー」

 

「はい! 中庭に行こう!」

 

「お、おい!?」

 

 

 

 

屋上に向かおうと階段へと方向転換していた一夏の襟首を掴み、反対側へと引きずる。

 

 

「お、おい鈴って! どうしたんだよ?!」

 

「あんた馬鹿なの? なんであいつらと一緒に飯なんか食ってんのよ」

 

「は? いや、飯くらいいいんじゃーー」

 

「あたしは嫌」

 

「鈴?」

 

 

 

 

断固拒否の鈴。

主に千秋と一緒に……と言うところでそうなったので、理由は言わずもがなそういうことだ。

 

 

 

「はあぁ〜……ねぇ一夏、あんたが千秋にどれだけ馬鹿にされてきたのか、ちゃんと理解してる?」

 

「……まぁ、それはもちろん」

 

「なのに、なんであいつと一緒に居ようとすんのよ。私だったら絶対に嫌ね! あんな奴の隣でご飯なんて食べられないわよ……!」

 

「とは言っても、あいつは俺の事に気づいてないみたいだぞ? そりゃあ、初めて会った時は名前が同じだったから気になってはいたみたいだが……今じゃもうそんな事もないしな」

 

「……はぁ〜。あんたもあんただけど、あいつもあいつね。なんで12年も一緒にいた兄弟の顔を忘れる事が出来るわけ? ほんと信じられない……!」

 

「あいつにとって、俺はそう言う存在だったんだよ……。最後にあいつと話したの、「日直で早めに学校に行く」って言っただけだったからな……。あの時もお互い顔もみてなかったよ。二人して顔を向けてすらいなかったんだから……あいつが俺の顔なんて覚えてないだろう……」

 

「…………」

 

 

改めて聞くと殺伐とした家族環境だ。

双子の兄弟の間で、これだけの深い溝があるのだから、人間なんてものは、とても面倒な生き物だと感じてしまう。

鈴の両親も愛し合って、結婚して、鈴を産んだ。でも結局その後に喧嘩をして、離婚をした。

理想とも言えた、仲の良かった夫婦ですら、その様に一度拗れてしまえば別れてしまう。

それほどまでに人間というのは脆い生き物なのだと痛感してしまった。

 

 

 

「まぁ、俺は大丈夫だから、気にしなくてよし! 早く飯食おうぜ……腹が減った」

 

「あっ、ちょっと待ちなさいよ……!」

 

 

 

 

一夏の後を追って、鈴は一夏と一緒に木陰のあるベンチに座る。

鈴が弁当箱を持ち出して、その場に広げる。

 

 

 

「あっ」

 

 

そこでふと思い出した一夏。

 

 

 

「なぁ鈴、俺弁当持ってきてないんだけど……」

 

「え? なんでよ」

 

「いや、食堂で済ませようと思ってたからさ……うーん、どうしよう。購買でなんか買ってくるか……」

 

「……て、あげる……」

 

「え? 今、なんて?」

 

「分けて、あげる……って言ったの」

 

 

 

 

そう言いながら、なぜか二膳ある箸の片方を一夏に差し出す。

 

 

 

 

「えっ、でも鈴の弁当だし、悪いって」

 

「いいのよ! 私もそのつもりで作って来たんだし……」

 

「そ、そうか……」

 

 

 

頬を赤らめて明後日の方向を向く鈴。

そんな鈴を見ていて、一夏も一夏でなんだか気恥ずかしくなり、顔を赤くする。

 

 

 

「じゃ、じゃあ……いただきます」

 

「ど、どうぞ……」

 

 

 

 

鈴が自分の手で弁当箱をあける。

意外と大きな弁当箱の中からは、とても食欲をそそる匂いが立ち込めていた。

甘酸っぱい様な匂いと、ゴロゴロと具だくさんな食材。

それを包む様な綺麗な餡かけがなんとも美味しそうだった。

 

 

 

「おおっ! これは、酢豚か!」

 

「そうよ! 家の自家製酢豚!」

 

「流石は鈴だな……。それにして中華を食べるのも久しぶりだなぁ〜!」

 

「ほら、熱いうち食べてよ。せっかく保温機能のある弁当箱に入れてきたんだから」

 

「おお! いただきます!」

 

 

 

 

箸で酢豚の肉と野菜を一掴み。

垂れる餡を落とさない様に慎重に口に運ぶ。

そしてそれをよく吟味して味わう。

 

 

 

「んんっ!」

 

 

 

口に中に広がる肉のジューシーさと香ばしさ。野菜も程よいシャキシャキ感を失っておらず、野菜本来の甘みも出ている。そしてそれを包みこむ甘酢のタレ。

そう、一言で言うなら……美味かった。

 

 

 

「うおぉ……美味いじゃん、これ! 鈴、腕上げたな!」

 

「ほんと?! 嘘じゃない?」

 

「嘘じゃないって。ほんとに美味しいから……。それに、なんか懐かしい味だな……!」

 

 

おそらく鈴の実家、中華料理店『鈴音』の味だからだ。

昔の事はあまり覚えていなかったが、それでも、美味しい物を食べた時の感動は忘れてない。鈴の実家では、時々鈴に招かれてご馳走になった時があった。

鈴の家族はとても暖かくて、まるで本当の家族の様に接してくれていた。それが嬉しくもあり、悲しくもあった。

何故なら、自分の家族では、絶対に出来ない事だと思ったからだ。

 

 

 

「それでさ、一夏。いつ遊びに行く?」

 

「ん? あぁ……」

 

 

 

思い出したとばかりの声を上げる一夏に、鈴からのキツイ視線が浴びせられる。

 

 

 

「あんたは……。まぁ、いいわよ。それで、いつ行くの? 私は予定空けとくけど」

 

「うーんそうだなぁ……」

 

 

 

鈴の方は予定をいつでも決めれると言うことだったのだが、一夏はそうはいかない。もとより、未だにバーサーカーの問題が残っているこの状況では、常に警戒し、奴らの情報に耳を傾けておかなくてはならない。

 

 

 

「えっとだな……なぁ、鈴。聞いてもらえるか?」

 

 

 

一夏は真剣な面持ちで、鈴に向き直る。

一夏のその表情から、どうやらただ事ではないと思った鈴もまた、真剣な面持ちで一夏の話に耳を傾ける。

 

 

 

「今ちょっと、俺の実家の方で、また任務があるんだ……その任務が終わるまでは、ちょっと予定を組めない」

 

「任務……もしかして、危険なものなの?」

 

 

鈴も軍に所属していたことから、任務の危険性というのは知っている。

ましてや表舞台に出ない裏の事件、暗部の任務ともなればそれはそれでかなりのリスクを負うことだろう。

 

 

 

「あぁ……。戦闘にならなければ、まだいいんだけどな。でも、もしかしたら、戦闘は避けられないかもしれない。そんな時になったら、俺は最前線に立つ。でも大丈夫だ! 俺は死なないし、必ず鈴との約束は必ず守るからよ!」

 

 

 

 

そんな確証は持っていなかった。

相手はISを装備した軍の特殊部隊をも生身で倒した相手……それも魔法使い。

一夏の知らない所で広がっていく魔法の拡散。そしてその能力は使う者によって異なる。

つまり、いくら一夏であっても必ず勝てる保証はない。

 

 

「ねぇ、一夏……」

 

「ん? なんだ、鈴」

 

「無茶だけは……しないでよ」

 

「…………」

 

「私は、一夏が無事なら、それでいいの。あんただけは……傷つけたくないのよ……私は」

 

「鈴……」

 

「何度も見てきた。あんたが傷つくのを……私は、あんたにとって少しでも心の余裕になれば……なんて、思ってたのよ。

でも、それすら出来なかったんだって……昔思ったこともあった……あんたが居なくなってから」

 

「…………」

 

「ねぇ一夏……」

 

 

 

鈴はその眼に、しっかりと、今の一夏の顔を収める。

 

 

 

「もう、どこにも行ったり、しないのよね?」

 

「っ!」

 

 

 

鈴の心からの気持ち。

あの日、突然自分の目の前から消えた一夏。

取り戻したいと思い続けた……。でも、何もできなかった。そして、偶然とはいえ、再び再会することが出来た……だからこそ、もう二度と離れたくない。

 

 

 

 

「……ありがとな、鈴」

 

「ふぇ? うわぁっ!?」

 

 

 

不意を突かれた感じで、鈴の頭を撫でる一夏。

突然のことに頭が混乱してしまう。

 

 

「な、何よ!?」

 

「いや、なんでもねぇよ……。だけど、そうだな……鈴」

 

 

 

一夏は右手を出し、小指以外の指全てを握った形……つまり、指切りの形で鈴の前に突き出す。

 

 

「約束するよ、鈴。必ず戻ってくる……ちゃんと、生きて鈴の所へ戻ってくるよ……!」

 

「一夏……! うん、わかった。ちゃんと指切りするんだから、約束守んなさいよ?」

 

「あぁ。誓うよ……! 必ず、帰ってくるーーッ!」

 

 

 

また一つ、約束をした。

今度は破らない……。何が何でも必ず守る。

一夏と鈴は、互いの小指を絡め、約束の誓いを交わしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「む〜〜っ!」

 

「お嬢様、そんなに殺気立っては、一夏さんに気づかれますよ?」

 

「気づくようにやってるのよ……!」

 

「また悪趣味な……」

 

「なぁ〜んか二人ともいい雰囲気になってるような……!」

 

「一夏さんのことを、自分の事のように想っている凰さんの事ですからね……」

 

「むむ〜〜〜〜ッ!!!!!」

 

「はぁ……お嬢様、私達にはバーサーカー氏の情報収集と追跡をしなくてはならないんですよ? こんな所でサボってないで、働いてください?」

 

「今はそれどころじゃないのよ! 一夏に付く悪い虫には、早々にご退場願いたいわねぇーーッ!」

 

「はいはい。行きますよ」

 

「わっ! ちょっと虚ちゃん! 放してってばぁ!? 」

 

「一夏さんの事を思っているなら、今は静観するのが先輩としての行動だと思いますよ」

 

「そ、それは……ああああっ!? 今、あーんやってた! 何してるのよ一夏ぁぁぁ!!!!」

 

「それならお嬢様もやってるじゃないですか。なら大丈夫ですよ……ほら、行きますよ」

 

「離してよ虚ちゃ〜〜んッ!!!!」

 

 

 

 

とある場所から一夏と鈴の事を見ていた生徒会長と会計の会話であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(一夏達も誘えばよかっただろうか……)

 

 

 

 

屋上で千秋達と昼食を取っていた箒は、柵の向こう側を見ながら思っていた。

今この場には、千秋と箒。その他にもシャルルとセシリアの二人がいる。

だが、その場に一夏の姿はない。それと二組の鈴も。

一夏が家の事情(任務)から帰ってきてから、あまり話していなかった。だから、せめて昼食の時にでもと思い、声をかけようと思っていたのだ。しかし、当の一夏は授業中はずっとラウラと正座させられていたので、話す機会もないし、授業が終わって声をかけようと思っていたら、鈴に連れ出された後だった。

 

 

 

「どうしたの箒? 箸が進んでないけど……」

 

「えっ? あぁいや、なんでもない。ちょっと考え事をしてただけだ」

 

「そう? よかった。気分でも悪いのかと思ったよ」

 

「あぁ、心配させてすまないな」

 

「ううん、別に僕は平気だよ。あっ、箒、唐揚げちょうだい!」

 

「ん? あぁ、いいぞ」

 

 

 

無邪気に話す千秋。

箒は内心、千秋のことがあまり好きではない。無論嫌いでもないのだが、昔から得意ではなかった。

それでも話しかけてくる千秋には悪いと、そう言うわけにもいかず、そのまま話を合わせるしかなかった。

 

 

 

「本当に二人は仲がいいんだね」

 

「えっ?」

「んっ?」

 

 

 

ふとシャルルからの言われて、箒と千秋は二人して首を捻る。

 

 

 

「いやさ、一夏の時も思ったんだけど、それ以上に二人は仲がいいんだなぁ〜って思ったの」

 

「いや、そう言うわけではーー」

 

「うん! だって僕たちは幼馴染だし!」

 

 

箒が断りを入れようとしたのだが、千秋の声にかき消されてしまった。

そして誤解が解けないまま、話は進んでいく。

 

 

 

「へぇー! 二人は幼馴染だったんだ!」

 

「うん。小学校の一年生の頃からの知り合いだよ。それから四年生までは一緒だったんだけどね。

小四の時に、箒の姉さんの束さんがIS作っちゃってね……。それで箒は引っ越しちゃったんだよ」

 

「そうだったんだね……」

 

「そして、それと入れ替わるように転校してきたのが、鈴なんだ」

 

「え? 鈴って、二組の凰さん? 凰さんとも知り合いだったんだ」

 

「うん。さっき言ったように、箒と入れ替わるようにして転校してきてね。だから箒はファースト幼馴染。鈴はセカンド幼馴染ってわけ」

 

「世間って狭いね♪」

 

「だねぇ♪」

 

 

 

その話を聞きながら、箒は自分で作った弁当を、セシリアは購買でかったサンドウィッチを食す。

 

 

 

「箒さんは、お姉さん……篠ノ之博士の事はご存知ないのですか?」

 

「ん……。それはどういう……」

 

「えっと、どこにいるのか、とか今はどうしているのか、とか……」

 

「…………わからない」

 

「そうですの……」

 

「六年前に家族がばらばらになって以来、姉さんと会うことはなかったからな……それに、探そうとしても無駄だ。あの人はツチノコと同じレベルの人だからな」

 

「ツチノコ? キノコか何かですか?」

 

「ちがう。まぁ、簡単に言うと、未確認生物……UMAだ。世界的に言うなら……ビッグフットやチュパカブラみたいなものだ」

 

「博士は……人間ですわよね?」

 

「あぁ……。ちゃんとした日本人だと思うんだかな……。あの人は文字通り『神出鬼没』……何処かに消えては、いきなり現れる。そんな人だ」

 

「いろいろと大変そうですわね」

 

「あぁ、全くだ」

 

「ですが……家族とは、少しでも連絡を取っていた方がよろしいですわ……。急にいなくなると、どれだけ大切だったのか、それが身にしみてわかります」

 

「っ……そうだな。まぁ、父と母とは定期的に連絡は取っているから大丈夫だ。姉さんくらいだ、連絡が無いのは」

 

「うふふ♪ ならばよろしいですわね。どうです箒さん……このあとIS訓練に付き合ってもらえませんか?」

 

「ん? 私がか? 言っておくが、私は銃はからきしダメだぞ?」

 

「いいえ。私も近接型の方との対戦をもう少し経験してみたいので……。いつか一夏さんにでも勝てるくらいに……!」

 

「っ! …………そうだな。わかった、私でよければ付き合おう。未熟者だが、よろしく頼む」

 

「ええ♪」

 

 

 

その後、箒は専用機の貸し借りをし、セシリアとの訓練に励むのであった。

お互いタイプの違う二人同士。

何かと得るものがあったようで、終わった頃には互いに普段より仲良くなれたようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 






次回は、バーサーカー戦でもやろうかと思います。

感想よろしくお願いします^o^


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